韓国海軍艦艇のレーダー照射事件について思うこと!

日韓レーダー照射問題で対立

現在、「P1哨戒機が火器管制レーダー照射による威嚇を受けた」とする日本側の主張に対して、日韓両国が真っ向から対立しています。

わが国の見識者は、「事実関係の解明が重要だ」としています。しかし、韓国側が完全否定している以上、事実関係を対外的に明らかにするためには決定的な証拠を公開して第三者の公的判断を仰ぐ以外にはありません。

つまり、P1哨戒機が解析しているであろう、『異常かつ不明』な電磁波信号を公開する必要があります。しかし、これは、自らの技術を明かし、そうでなくても先行きが不透明な韓国軍に火器管制レーダーの改良を促し、そうした情報が他の第三国に流れる懸念もあります。

こんなことは到底不可能です。その足元を見透かすかのように、韓国は逆に、「哨戒機が威嚇的低空飛行をしてきた」などと反論し、日本に対して謝罪を要求しています。他方、韓国は実務協議で問題解決を図る姿勢をちらつかせていますが、これはP1哨戒機が収集した電波情報の共同分析の提案という“魔の一手”(要は、日本側の電波情報だけが提示される)になる可能性があります。

思い起こされる大韓航空機007便撃墜事件

1983年9月に発生した「大韓航空機007撃墜事件」では、あくまでも事実を否認するソ連に対し、米国は国連の場において陸上幕僚監部調査部別室(当時)が行なった傍受交信の記録テープを証拠に「ソ連軍機が007便を撃墜した」と発表しました。

このテープの公開については、当時の中曽根総理や後藤田官房長官は当初、了承していなかったといいいます。

米国はわが国のインテリジェンスを利用することで、ソ連による航空機撃墜の事実を証明しました。しかし、わが国が長年かけて蓄積した、対ソ連のシギント収集のための指向周波数が公表され、ソ連はそれまで使用していた通信暗号を全面的に変更した。

その結果、わが国の傍受器材や傍受要領が通用しなくなり、シギント基盤は大打撃をこうむり、その再構築には多大な経費と時間を要したといいいます。

つまり、今回のような事案では、わが国は韓国に決定的な証拠を突きつけることは困難なのです。結局は事実関係の対外的公表はできないことになります。

国内向けに宣伝戦を続ける両国

日本は懸命に韓国側の危険行為の事実と、韓国側の主張の正当性のなさを主張しています。しかし、上述のように決定的な証拠が出せないのですから、あまり対外的な効果はありません。

国民に対して、粛々たる対応姿勢をアピールすることが狙いかもしれませんが、その国民からは「韓国側に明確な抗議を示せ」「具体的な措置を取れ」といった厳しい意見も多いようです。

韓国は完全に開き直って、韓国政府の立場をまとめた日本語を含む計6カ国語の動画を追加公開して、自国の立場を国際社会にアピールしています。

これに対して、日本では、「ほとんどは日本側の映像だ」とか、「こんな根拠のない主張は国際的には認めらないし、宣伝は効果はない」と、高をくくっていますが、はたしてそうでしょうか?

世界にとって日韓問題は極東アジアの些末な問題であり、どうでもよいことなのでしょう。たくさん目にしたもの、耳にしたものを批判なく信じ、利益を与えてくれるものに味方し、世論が少しづつ形成されて、固定観念になっていきます。それは、慰安婦問題などの歴史問題をみればよくわかります。

つまり、事実が正しいかどうかではなく、なりふり構わないロビー活動などにしてやられているのが現状です。

情報分析して何をするのか?

この問題については自衛官OBも含めて専門家などがコメントされています。主な意見は次のように整理できます。

◇現場サイドによる恣意的な判断でレーダーを照射したのであろう。

◇謝罪すれば済む話であった。ただし国防部は、南北関係の重視と歴史問題で支持率維持を狙う文在寅政権に対する忖度によって謝罪に応じられなくなっている。

◇日韓の軍事関係は以前として良好である。韓国海軍は実務協議で問題解決のメッセージを送ってきている。

つまり、現在の日韓関係のほとんどの問題は、文政権という不正常な一時的な状態に起因しているという見解です。

それにしても、事実関係の解明だとか、韓国側の意図だとか、情報分析ばかりしているような気がします。

筆者に言わせれば、「事実は日本側の主張どおり。でも、そんなことはもういい。それよりも、何ゆえに韓国側の意図を分析しようしているのか、情報分析の結果をどのような戦略・戦術に反映するのか、明確なスタンスを持ってほしい」ということです。

韓国はほんとうに友好国なのか?

上述のような専門家のコメントには隠れた前提があります。つまり、「日韓関係は基本的に変化がなく、韓国は依然としてわが国の友好国である。だから、昨今の北朝鮮情勢や中国情勢を踏まえた場合、韓国との緊密な軍事関係を維持する必要があるのだ」というものです。

これでは、いくら情報分析しても戦略・戦術は変わりません。すなわち、戦略・戦術にインテリジェンスを反映できません。

しかし、本当にこの前提が本当に正しいのか、一度考え直す時期に来ていると筆者は考えます。

中・韓・北VS日・米という地殻変動はすでに起きているのではないか?その背景には地政学的な力学のほかに地経学的な力学が働いているのではないか?日韓の軍事関係は良好であったのは過去、あるいは一部の高級幹部に限られているのであって、韓国軍の中堅幹部は反日・親中に傾斜しているのではないか?

これらのことを慎重に判断して、韓国との軍事関係のスタンスを見直すことが重要なのではないでしょうか。

筆者は日・米・韓の軍事関係がどの程度変化しているのかはわかりません。また、韓国の指導層にもさまざまな意見や派閥が存在することは間違いないでしょう。

ただし、インテリジェンスの視点からは「日・米・韓が協力して中国の台頭や北朝鮮の突発行動に対処すべき」との前提論に固執しすぎると、情報分析を誤りかねない、このことを申し上げておきます。

この点、有村香氏は相手の意図を分析することに終始して対応が遅れることの問題点を指摘されています。まことに拝聴の価値があります。

韓国と中国の相似性

それにしても、このような問題をめぐる韓国と中国の相似性には驚くべきものがあります。これは儒教文化など歴史的にも起因するのでしょうが、中国、北朝鮮、韓国はまさに双生児といってもよいかもしれません。

ここにはまったく日本的な禅譲、謙虚、誠実といった文化はありません。それでも、新聞等をみますと、文大統領が日本に対して“謙虚”になれ、といっているようですが、これはおそらく翻訳の誤りでしょう。中国や韓国に謙虚という言葉があるとは思えません。

第七計「無中生有」(むちゅうしょうゆう)―捏造 される領有権 問題

以下は、筆者の2016年に出版した『中国戦略悪の教科書』からの抜粋です。

― 「でっちあげ」の計略 -

「無中生有」は「無の中から有を生ず」と読む。語源は「万物は無から生ずる」との『老子』からの引用であるとされる。 本来はなかった物をあるようにみせ、その間に着実に実態を整える計略である。いわゆる「でっちあげ」「はったり」の計略である。

「無中生有」は中国の常套手段だ

二〇一二年九月、わが国による尖閣諸島国有化の以降、日中間の軋轢が急上昇した。中国国内での反日デモはまもなく収まったが、「海監」および「漁政」などの法執行船による尖閣諸島領海内への侵犯が常態化した。

二〇一三年一月一三日、尖閣諸島北方の東シナ海公海上で、中国海軍のフリゲート艦が海上自衛隊護衛艦に対し、約三キロ離れた所から、約三分にわたって射撃管制用レーダー(FCレーダー)を照射した。

わが国が中国側に対し二月五日、中国側がFCレーダーを使用したことを公表して、「危険きわまりない」と抗議した。 翌二月六日、中国外交部(外務省に相当)の定例記者会見で華春瑩(女性)・副報道局長は「外交部は日本から抗議されるまで知らなかったのか」との質問に対し、「そう理解してもよい」と返答した。

二月八日、国防部は「照射したのは監視レーダーだ」とし、FCレーダーの使用を完全否定した。そして副報道局長が「日本側の無中生有だ」と言い放った。 開き直りともいうべき完全否定は、FCレーダーを照射することの重大性を認識できる国際常識は持ち合わせていたことを示すものであろうが、一方、中国指導部は予期しない事態の対応に迫られたことで、「無中生有」だと居直り、完全否定を押し通すしかなかったと推察される。 また、副報道局長の「無中生有」発言は、中国がこの計略を常套手段として、平素から多用している証左であろう。

抗議には逆抗議で居直る

二〇一四年五月二四日、中国の戦闘機二機(Su-27)が東シナ海上空で自衛隊の情報収集機(YS-11EB)に約三〇メートまで接近した。同年六月一一日に、オーストラリアの国防相と外務相が来日中に、中国の戦闘機二機がふたたび自衛隊の情報収集機に接近した。

小野寺防衛大臣(当時)が、「こうした危険な飛行を行なわないよう」に外交ルートを通じて抗議した。これに対し六月一二日、中国国防部は「東シナ海の中国の防空識別圏で定期哨戒飛行中のTu-154型機が日本のF-15戦闘機二機に三〇メートルの距離に異常接近された」として、〝証拠〟の動画を公表した。

この動画を分析したわが国の専門家によれば、日中双方の航空機の距離は十分に保たれており、中国側の主張はまったくの捏造であった。 中国国防部は、わが国の抗議に対して居直り、逆に「自衛隊機の異常接近」をでっち上げることで、わが国を逆牽制するとともに、諸外国に対して、自らの正当性をアピールする国際宣伝戦に出たものとみられる。

尖閣諸島の領有権は〝でっちあげ〟

最近の日中間対立の直接原因は尖閣問題にある。これについても、中国側による「無中生有」であることを指摘しておかねばならない。

わが国は一八八五年から尖閣諸島に対する現地調査を開始し、台湾割譲が合意される下関条約の締結以前に、同諸島が占有者のいない土地、すなわち国際法上の無主地であることを確認し、わが国領土に編入した。 これに対し、当時の清国からは、なんらの異議申し立てはなかった。

その後、尖閣諸島は一九五一年の「サンフランシスコ平和条約」で沖縄本島とともに一時的に米国施政下に置かれ、七一年に、「沖縄返還協定」に基づき、沖縄とともに施政権が返還された。

この間、中国は尖閣諸島の領有権を公式に主張したことは一度もない。中国が五八年に発表した「領海声明」においても、尖閣諸島は中国の領土だと主張されていない。

ところが、中国は一九七一年、「尖閣諸島は中国古来の領土である」との領有権主張を開始した。これは、国連アジア極東経済委員会が同海域の海洋調査を実施し、六八年に「同海域には大規模な石油・ガス田が存在する可能性が高い」こと発表したことに対応したものである。

その後、「日中平和友好条約」の締結が大詰めに近づいていた一九七八年四月、中国の武装漁船が同諸島付近に集結し、日中に一挙に緊張が高まった。この際、鄧小平(とうしょうへい)・副主席が「問題を後代に委ねよう」と「棚上げ」を提唱し、尖閣問題は一応の沈静化をみた。 

しかし一九九二年、中国は「領海法」を制定し、南沙諸島などに加え、尖閣諸島の領有権を明記した。つまり、中国はいったん自ら「棚上げ」を提唱しておきながら、一方的にそれを放棄した。 中国は尖閣諸島の領有権を〝でっち上げ〟、そして「棚上げ」論でわが国を油断させ、その間に尖閣諸島が「自らの古来の歴史的領土」であることを正当化する文献の収集と、自国にとって都合の悪い日本側の文献・地図の棄却を行ない、「領海法」という国内法でもって外堀を固めた。

明代に著された書物に釣魚台の文字が記述されてあったとの主張を中心に、領有権の存在を国内外に喧伝していく一方で、尖閣諸島と記述されている『中国地図集』は都合が悪いため、中国政府が躍起になって回収しているといわれている。 まさに「無中生有」の実践が行なわれているのである。(以上、引用終わり)

さいごに

今回のレーダー照射事件はおそらく、今後の日韓関係の未来に起こり得ることの氷山の一角なのでしょう。

事実関係や直接的な原因を追求することも重要ですが、一角の現象はどこから来ているのか?地理、歴史、文化など、さまざな根底要因を洞察することが重要です。そして、大きな変化はとらえることが重要です。

その分析手法を氷山分析といいます。興味のある方は検索してみてください。

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