サイバー・認知戦の勃発の可能性大
■軍事におけるAI技術の趨勢
2030年現在、AIは既にサイバー・情報戦の領域で複数の側面で活用されています。これには、情報収集、分析、戦術的な意思決定などが含まれます。例えば、軍事作戦ではAIが情報収集のターゲットを自動的に絞り、有用な情報を大量に収集し、その中から目的に役立つものを選定し、傾向や過去との関連性を特定し、有用なインテリジェンスを作成し、戦術的な意思決定に役立てています。
また、AIは過去の戦略・戦術を研究し、実戦的なシナリオを想定した訓練を実施したことが新たな戦術や戦略を編み出す契機になっています。電子戦では、AIを活用して攻撃に最適な電波方式や周波数などを自動的に割り出し、敵の通信・電子施設などの妨害・破壊に活用しています。サイバー戦では、ボットを利用した自動的な攻撃を行なうほか、防御システムにAIを組み込むことで敵の攻撃を検出し、自動的に対策を展開するなどを行なっています。また、攻撃者が自立システムの動作やパターン認識機能を意図的に制御・操作し、攻撃者の秘匿性を高める試みが行なわれています。
サイバーセキュリティの分野では、機械学習アルゴリズム(マシンアルゴリズム)を用いてセキュリティイベントやアラートを分析し、潜在的な脅威に対処することが実用化されています。今後は、これらのAI技術がサイバー・情報戦の領域でさらに進化するとともに、認知戦やAI戦争への発展を促すと見られています。
認知戦の戦法では、サイバー空間で情報を取得して、対象となる人間の心理・認知的弱点を見つけ出し、偽情報を拡散するなどにより世論を操作し、これを武器にして真の攻撃対象である国家・軍事指導者の意思決定に影響を与えることになります。専門家は、近い将来には非人間であるAIが人間の心理の介在なしに状況を認知して意思決定を行う、アルゴリズム戦争が主流になると指摘しています。
「智能化戦争」に余念がない中国
米中のAI覇権戦争は2010年代後半から始まりました。当初は、自由・民主主義の旗印のもとで、巨大なテック企業と多数の有能なイノベーターを抱える米国が勝利することは当たり前と考えられていました。しかし、2030年現在、国際社会のAI規制に応じない中国の方がAI大国として優位に立ちつつあります。2017年、AIロボット分野の指導者たちは、国連に致死性自律型兵器の禁止を求める公開請願書に署名しました。当初は、自律型兵器の定義も各国でバラバラで、規制を巡る議論の論点が定まりませんでした。
しかし、2020年以降、ChatGPTが誕生した頃から、西側はAIの脅威を深刻に認識し始めました。G7などの国際会議では、完全自立型のロボット兵器が民間施設を攻撃すれば、その行動に誰が法的責任を有するのか、プログラマー、製造者かといった問題が議論されました。また、人間の生死に関わる決定をマシンに委ねてよいのかという倫理的な問題も提起されました。
このような議論の高まりの中で、米国はAI規制に着手し、中国にも規制に従うよう合意を求めました。これに対し、中国は規制に応じることなく、逆に欧米のテック企業の技術者などを多額の金銭で引き抜き、国営企業に多額の資本を投入して、独自のAI路線を推進しました。
現在、中国は「AIと調和して発展する中国」「無秩序なAIの発展が社会を混乱させる」などの論説が世界で増加しています。AIを使ったソーシャルメディア上の巧妙な偽情報により、民主主義国家のリーダーや国民は徐々にその影響を受け、無意識のうちに権威主義的な価値観に傾斜していくことが懸念されています。国内のソーシャルメディアでは、政権与党の批判や政府高官のスキャンダルの暴露が盛んに行われ、国民の政権批判と政治離れが顕著になっています。
中国はすでに完成したAI指揮意思決定システムを活用し、初期型の自律型兵器を誕生させています。現在、ナノエレクトロニクス、ナノセンサー、ロボットなどの軍事技術を用い、自律型AIが人間の介在なしに状況判断、意思決定、指令を行う機能を整備しているようです。これが2030年代初頭に提起された「智能化戦争」の準備であると言えるでしょう。
米国の研究者は、中台戦争では人間の認知・心理の領域を超えたAI戦争が局部、局面ならば、いつ起きても不思ではないと指摘しています。軍事専門家などが予測するAI戦争の様相は次のようなものであります。「戦場から遠く離れた作戦室では指揮官や幕僚に代わってAI指揮意思決定システムが膨大なビッグデータを処理し、最適の作戦行動を決定して
計画と命令を起案・発令する。戦場空間では、汎用AIを搭載した小型無人機が長時間連続飛行し、自らの判断で相手国の領空に侵攻し、領土の目標を攻撃するなどの状況が生じるでしょう。」
(次回に続く)