武器になる「状況判断力」(19)

敵の可能行動を妥当性から考察する

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

前回の謎かけは、「なぜ、無料ロッカーの鍵は100円玉が必要なのか?」です。娘に質問したら、100円を使用させるため、一度100円を使ったらジュースなどに使用したくなるから、という応答でした。
でも、この問いかけをしたテレビでは、「顧客に対しロッカーの使用を1つに限定する」ためだと言っていました。

100円玉の無料ロッカーは銭湯などに設置されていますが、もし100円玉方式でなければ、一人でいくつものロッカーを使用する人がいるのだそうです。

実は私も、某所の「日帰り温泉施設」に行く時には、ゆっくりと時間を過ごすために、PCや本をもって行くのでロッカーを2つ使用します(そこは100円玉のいらない無料ロッカーです)。

しかし、100円玉方式の入浴施設では、100円玉をいくつも用意するのが面倒なので、1つのロッカーに荷物を詰め込んで済ませます。

テレビで「なぜ、無料ロッカーの鍵は100円玉が必要なのか?」と改めて問われ、それに対する回答を聞いて、自分の行動を振り返り、思わず「なるほど!」と唸ったのです。

無意識に行なっている行動の意味をなぜかと考えることは、人の行動特性などが認識でき、さまざまな問題解決のためのアイデアを生むかもしれません。

今回の謎かけは、「太平洋戦争末期、敗色濃厚の日本に対し、アメリカはなぜ徹底的な日本本土への空爆を行なったのか?」です。これは、ある著書からの出題ですが、そこには人間と組織の性が潜んでいることを思い知らされます。少し難易度は高いと思います。

さて、前回は敵の可能行動を兆候から考察することについて述べましたが、今回は妥当性から考察することについて解説します。

▼敵の可能行動を妥当性で考察

敵の可能行動は兆候に加えて妥当性で考察します。妥当性は情報の正確性を評価する際に「そんなことがあり得るか?」という尺度です。

また、妥当性は「戦術的妥当性」「戦略的妥当性」という複合語でよく用いられ、彼我の行動の是非を判断する尺度でもあります。「その戦略や戦術が目的に合致しているか?」「その戦略・戦術が可能か?」といった具合です。

妥当性という尺度で敵の可能行動を考察することは、兆候のあるなしにかかわらず、地域環境の特性、相手側の慣用戦略・戦術、最近の特異な動向、国民性、指導者・指揮官の性格、法律制度なども考慮して判断するということです。

妥当性は、不可視である自己の内面の思考に基づく判断であり、兆候のように実際に目や耳で探知できる明確な根拠ではありません。

能力判断と意図判断でも言及したように不可視なものに基づく判断には先入主観が入り込みやすいのです。だから能力ベースに基づいて意図を判断することが基本であるように、まず兆候で判断して、その後に妥当性という尺度でその判断を見直すことが原則となります。

つまり、「兆候上はこのような可能性がある」とはっきり述べて、その上でそれを反駁する情報がどの程度有力であるかを検証します。

作戦レベルでは、敵指揮官の性格や慣用戦法などは、結局のところ衝突するまでは不明です。だから、実際に目に見える兆候がより重要です。しかも兆候と重大な行動との因果関係が密であり、兆候は重要な指標(インディケーター)になります。

よって、まず兆候で敵の可能行動を立証し、兆候上から採用公算の順位を判断(判定)します。その後、戦術的妥当性の観点から採用公算の順位を見直すことになります。

▼妥当性を考慮重要することの理由

兆候は次なる重大な行動を予測するための指標ですが、その兆候があまりも少ない場合には妥当性の判断に委ねるほかありません。

また、兆候ばかりの判断では「木を見て森を見ず」の視野狭窄に陥いて大局判断を誤ることになります。
一方向ばかりの兆候が出現し、相手側の秘密保全により重点正面の兆候が発見できずに全般判断を誤る、あるいは相手側の偽情報に踊らされて誤判断に陥ることになりかねません。

さまざまな兆候から、相手側の戦略・戦術が推量されても、著しく妥当性を欠く場合があります。この場合、その兆候は偽情報、すなわち欺瞞として処理する必要がでてきます。

たとえば攻撃開始を示す事前の兆候があったとしても、その攻撃が著しく戦術的な妥当性を欠く場合、その兆候は陽動として処理します。これが妥当性の尺度を用いる意義です。

▼妥当性の誤り

情報分析の実務においては、妥当性の判断を誤るケースが多々あります。第四次中東戦争において、イスラエルは多くの兆候をつかんでいましたが、エジプトによる軍事侵攻の可能性を否定しました。

イスラエルの軍事常識ではまず航空優勢を確保した後に軍事侵攻を行なうのが原則です。だから当然「エジプトもそうであろう!」と考えました。つまり「エジプトは航空優勢を確保するために攻撃機とスカッドミサイルをソ連から輸入しようとしている。
それが輸入され、配備されない状況での侵攻はない」と判断しました。

しかし、エジプトのサダト大統領はスエズ運河沿いの防空網の外に部隊を進出させない限定的な作戦を実行しました。つまりスカッドミサイルや攻撃機に頼らない作戦を選択したのです。

人は誰でも「常識」という判断尺度をもっています。専門家や知識レベルの高い人になればなるほど「常識」を振りかざします。すなわち「妥当性」という判断尺度を過信して、重要な兆候を見逃してしまうことがあります。

そのため各国情報機関などは対策を考え、今日では妥当性を検証する分析手法として代替分析やリンチピン分析などが案出されています。

▼妥当性の判断が奏功したケース

前述のとおり、兆候と妥当性の判断が異なった場合は兆候を優先するのが原則ですが、妥当性の判断によって兆候とは異なる、正しい結論を導き出した事例も多々あります。

1962年のキューバ危機では、ソ連はキューバに核ミサイル基地を建設していました。当時、ソ連は米国に対して核攻撃をする能力を有しており、米国もそのことを知っていました。つまり、ミサイル基地は核攻撃の明確な兆候となり、核攻撃もソ連の可能行動の1つとして取り上げられました。

当時のケネディ政権は次のように考えました。「ソ連が採用する可能行動の第一は、中距離核ミサイルの配置による米国への政治牽制であろう。核攻撃を行なえば、米国から核による反撃を受けることをソ連は知っているはずである。
だから、キューバにミサイル基地を設置しても、ソ連が核攻撃を行なえば、米国を政治牽制するというソ連の当初の目的は達成できない。ソ連が核攻撃を行なう意図はない」と判断し、ソ連による核攻撃という可能行動は排除しました。

太平洋戦争中の大本営参謀の堀栄三少佐は、米軍によるフィリピンへの上陸地点の予測を命じられました。彼は「リンガエン湾、ラモン湾、バンダガスの3か所の上陸地点を考察し、まず兆候上から「リンガエン湾とラモン湾に上陸する蓋然性が高い、とくにラモン湾の蓋然性が高い」と判断しました。

しかし、堀少佐はマッカーサー司令官になったつもりで再検討しました。つまり、(1)米軍がフィリピン島で何を一番に求めているか(絶対条件)(2)それを有利に遂行するにはどんな方法があるか(有利条件) (3)それを妨害しているものは何であるか(妨害条件) (4)従来の自分の戦法と現在の能力で可能なものは何か(可能条件)の4つの条件に当てはめて再考したのです。

その結果、堀少佐は当初の判断を訂正して、「リンガエン湾への上陸の蓋然性大」との最終判断を下し、米軍の行動を見事に的中させました。

堀少佐は、妥当性を絶対条件、有利条件、妨害条件、可能条件といった基準に分解し、妥当性の判断を行ないました。

よく妥当性の判断の基準としては、整合性(適合性)、可能性、受容性の3つが用いられます。これは我が行動方針を選択する際の基準でもあります。

次回は我の行動方針の列挙および彼我の行動方針の比較などについて解説します。

(つづく)

武器になる「状況判断力」(18)

敵の可能行動を兆候から考察する

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

前回の問いは、「中国では漢民族の王朝である明を満州族が倒して清王朝を樹立(1616年)したが、どうして、少数民族の満州族が大多数の漢民族を統治し、300年弱の安定政権を維持できたのか?」です。

歴史では、「これが確実で決定的な理由だ」と断定的に述べることは禁物ですが、一つの見解を紹介します。

清王朝の繁栄システムを作ったのは康熙帝です。ふつうは征服した民族が征服された民族を同化させようとするものですが、彼は満州族を漢民族に同化させる政策を採用しました。宮廷でも満州語や満州文字ではなく漢字や漢語を使用しました。

また歴史的な官僚システムである科挙も採用しました。この試験は漢文で出題される試験であったために、満州族の合格者はほとんどおらず、漢民族で占められました。よって満州族は中級公務員試験を受け、官僚としての満州族は漢民族の下位に位置付けられました。

軍事は「発旗」と呼ばれる満州族の軍隊が中核を占めましたが、生活水準は中流であり、規模も数万人程度であり、大人口を抱える中国では大軍ではありませんでした。

結果として、征服王朝でありながら満州族は漢民族の強い恨みを買うこともなく、このことが漢民族も納得できる政治形態を作り上げたのです。(以上は川島博之『極東アジアの地政学』を参照)

さて、日本による朝鮮、満州、支那の統治はどうだったのでしょうか。詳細は割愛しますが、現地民族から反発が生じました。これが満州事変から泥沼の日中戦争へと向かった原因であるとみられます。

前回の問いが少し難しかったので、今回はテレビで偶然知った「なぜ、無料ロッカーの鍵は100円玉が必要なのか?」です。この答えを聞いて、私は自分の行動を照らし、思わず「なるほど」と唸りました。皆様も自分を見つめ直し、この問いを考えてみてください。

▼敵の可能行動の分析

敵の可能行動を列挙したら、次は敵の可能行動の分析です。分析を行なうことにより、結論として、「敵がどの可能行動を採用するか蓋然性(採用公算)が高いか」、「我の任務に重大な影響を与える可能行動はどれか(敵の強み)」、「我が乗じ得る敵の弱点は何か(敵の弱み)」などを明らかにします。

敵が同時期に採用する可能行動を明らかにするには「採用公算の順位」を判定(判断)します。たとえば、「敵はどの方向から攻撃するか?」という問い(情報要求)に対し、「敵はA方向から攻撃する公算が最も高い、次いでC方向、次いでB方向の順」といった具合に判断します。この採用公算の順位は敵情判断のキモであり、我が行動方針の列挙・分析へと導くものです。

採用公算の順位は「兆候」と「妥当性」の両面から考察、判断します。まず兆候上から採用公算の順位を考察し、次いで戦術的妥当性の観点から順位を考察し、最後に総合的に順位を判断します。

▼兆候とは何か?

兆候とは物事の前触れであり、「インディケーター」、「シグナル」、「予兆」、「前兆」などとも言います。たとえば、くしゃみは風邪の兆候です。へんな雲が発生する、深海魚やイルカなどが浜に打ち上げられる、ネズミなどの小動物が動き出す、温泉の水質が変わる、これらは大地震の兆候だとされます。

自然現象の兆候を事前に探知することは容易ではありませんが、人為現象では本格行動を起こす前には何らかの準備行動が必要なので、兆候として事前に探知することは自然現象での探知よりも容易です。

『孫子』では戦場で高く舞い上がる砂塵は戦車部隊の来襲の知らせといっています。誘拐事件の事前には、よく無言の不審電話があるといわれますが、これも重大な兆候です。

思いがけない危機が突然訪れた場合、「奇襲」「サプライズ」という形を取りますが、その方向に動くという「兆候」の「シグナル」は常に存在しています。

ところが、奇襲だと感じるのは、相手側の秘密保全と欺瞞的行動に引っかかり、受け手側(我)が兆候の「シグナル」を読み取れない状況(環境)に陥っているか、あるいは「希望的観測」「先入主観」「狼少年症候群」などにより兆候のシグナルを「ノイズ」として排斥しているのに過ぎないのです。

▼兆候を見逃さないために

安全保障の分野に限らず、兆候が何を意味するのかを判断できれば、近未来が予測できます。相手側に先行して我が行動する、あるいは敵に先回りして、敵の行動を妨害するなどして、我が主導権を握ることができます。

兆候は視覚、聴覚で実際に探知できます。しかしながら、可視的なものも意識しなければ見過ごすことが多いものです。たとえば、誘拐事件の兆候とされる、自宅周辺での不審者の徘徊と無言電話による偵察活動なども、誰かの家探しや、単なる間違い電話と処理され、「そう言えば・・・」と後になって気づくことになりがちです。

だから、主動的に想像力を働かせ、相手側に立って、行動の目的は何か、目的を達成するためには何をしようとしているか、そのために必要な事前準備は何か、それらの準備行動は能力的に可能であるかなどを考察して、生起し得る兆候を探し出す必要があります。

旧軍の情報参謀であった堀栄三氏は、缶詰と医薬品の株価が上昇したことで、米軍によるフィリピン島への侵攻を予測しました。堀氏は、敵国の立場に立って、戦争では大量の食糧の携行品が必要となり、傷病者の手当のための医薬品も準備する必要があることを認識したのでしょう。

重要な兆候を見逃さないようにするためには「兆候リスト」の作成が重要です。これは、過去の事象や行動経験からある種のパターンを読み取り、ある重大な行動などにつながる重要な事前行動など(兆候)を一覧表にしたものです。

兆候リストに基づき情報を集め、兆候リストに該当する行動などが実際に起きれば、未来の重大な行動などが近づいていると判断します。

米陸軍のかつての『戦闘インテリジェンス』には、敵が攻撃する場合の兆候に、(1)偵察から隠蔽するための隠蔽手段の建設ないしその強化、(2)敵部隊の前方への移動、(3)敵部隊の前方集合地点への配置、(3)砲兵の最前方への配置、(4)パトロールの強化、(5)敵部隊が縦長になる、(6)援護部隊を強化するか新しい部隊と入れ替える、(7)後方地域での活動の強化、(8)
司令部、補給、傷病者後送施設の前方の配置、(9)敵野砲の我が防衛線内地域への試射、(10)空中偵察の増加、(11)組織的空爆(加藤龍樹『国際情報戦』)が挙げられていました。これらは、現代の戦闘にも通用する兆候リストになるでしょう。

「兆候リスト」に基づく情報収集は効率かつ効果的です。なぜならば、情報集は「問い」(情報要求)や「枠組み」(問いを解明するために知っておくべき事項の種類と範囲)の設定によって行なわれるものです。そして兆候リストとは、問いや「枠組み」をさらにブレークダウンしたものです。すなわち、情報収集の重点方向を明確にするものなのです。

第二次世界大戦時、アメリカの海軍大佐の情報将校のザカリアス大佐はあらゆる航路からの日本商船の引き上げ、無線通信の増加、ハワイ航路における日本潜水艦の出没は日本海軍の奇襲の兆候リストに挙げて、関連情報を収集し、成果を上げました。

▼兆候リストを作成する思考法

兆候リストの作成にはクロノロジーとシナリオ・プラニングの思考法を理解する必要があります。

クロノロジーは、過去に起きた事象や行動を時系列に羅列した一種の年表です。情報分析では解明すべき「問い」や「枠組み」に基づいて、必要な事象などを抽出する作業が必要となります。その際、ある事象が他の事象と関連している、規則性があるなどのことが明らかになれば、それらは、未来の重大な事象の兆候であるかも知れません。創造力を発揮して、クロノロジーを未来に延長することで兆候リストを作成することができるのです。

シナリオは「未来における現在進行形の物語」です。シナリオを作成することをシナリオ・プランニングといいますが、この手法には「バックキャスティング」と「フォアキャスティング」があります。バックキャスティングは未来に起こりそうな事象や望ましい未来像を設定し、それが起こるためにはどのような条件が必要か逆行的に考察します。この際の条件が兆候となり、それを掘り下げることで兆候リストは作成できます。

 かたやフォアキャスティングの手法は、過去や現在に至るトレンドを何らかの形で未来に延長します。

 前述のクロノロジーはフォアキャスティングによるシナリオ・プランングの一つの手法として活用できます。

 国際情報分析ではバックキャスティングとフォアキャスティングを併用した分析が行なわれ、これはフィードバック的思考と呼ばれます。「クロノロジー&タイムライン」はその典型ですが、本ブログで図示できないのが残念です。(拙著『戦略的インテリジェンス入門』、『未来予測入門』参照)

 なお、「クロノロジー&タイムライン」はビジネスにおいても適用できると考えます。「競合他社の合併はいつか? その兆候としてはどのようなことが起こり得るか?」などをテーマ(問い)にしたシナリオに適用できるでしょう。

(つづく)

武器になる「状況判断力」(17)

敵の可能行動の列挙と分析

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□はじめに

前回の問いは、「1979年に折原製作所が開発したトイレの擬音装置「エチケットトーン」の開発はなぜ行なわれたのか?」です。

日本人女性はトイレを使用する際に起こる様々な音が恥ずかしいようです。そのためそれらの音を消すためにトイレの水を出し続けるのだそうです。

擬音装置は節水のために開発されたのことです。実際に擬音装置によってトイレの使用水量は半分以下になったようです。擬音装置の目的は「音を消すため」と言ってしまえばそれまでのことですが、その少し先にある目的を探ることが重要なのです。

今回の問いは、歴史からの出題です。中国では漢民族の王朝である明を満州族のヌルハチが倒し、清王朝を樹立(1616年)します。「どうして、少数民族の満州族が大多数の漢民族を統治し、300年弱の安定政権を維持できたのか?」です。これは「なぜ日本が満州や朝鮮の統治に失敗したのか?」という問いに転換できそうです。

今回は、軍隊式「状況判断」の第二アプローチの「状況及び行動方針」の5回目です。今回は、敵の可能行動をどのように列挙するのかについて解説します。

▼敵の可能行動の列挙

相対的戦力の評価を終えたならば、次は敵の行動方針を列挙します。敵の行動方針は、自衛隊用語では「敵の可能行動」と呼んでいます。

敵の可能行動とは我が任務の達成に影響を及ぼす行動であって、敵が能力的に実行できる行動です。可能行動の列挙は、指揮官の状況判断を適切にし、かつ奇襲防止のために行ないます。そのため、まずは我の任務達成に影響する可能行動を漏れなく列挙することから開始します。

その手順は、最初に我が任務、地域の特性、敵情、我が部隊の状況を踏まえて、敵が能力的に取り得る行動の概要を想像的思考で列挙します。次にその行動が行なわれる場所・時期・戦法などを考察して、可能行動を具体的にしていきます。

次いで、列挙した可能行動から、我が任務にあまり影響を及ぼさない可能行動は排除し、我が任務への影響度の差の少ないものは整理・統合します。

敵の可能行動の列挙は通常、情報幕僚が「幕僚見積(情報見積)」として実施します。情報幕僚は自らの見積の判断結果を指揮官に具申し、指揮官がこれに同意すれば指揮官の状況判断に取り入れられます。
指揮官は情報幕僚の判断をそのまま採用することもあれば、拒否することもあり、さらに敵情の把握と幕僚見積のやり直しを命じることがあります。

▼わが国では能力判断が基本

敵の可能行動の列挙は敵側の立場に立って、意図と能力の両面から考察する必要があります。

まず能力的に実行が可能であって我が任務に影響を及ぼす行動を能力判断で列挙します。その上で行動を行なう意図(意思)があるかの判断(意図判断)を重ねて、列挙した可能行動の実行の可能度などを明らかにし、さらに分析を深めるべき敵の可能行動を絞り込みます(能力判断)。

意図判断と能力判断は状況判断を行なう上で非常に重要なので、ここで詳しく解説します。

我が国の安全保障では「能力判断の優先」を基本としています。まず、相手国の能力を掌握することに焦点を定め「どのような能力を持っているか?」ということを解明します。その後に、相手国が「何をしようとするのか?」という意図を推測、判断します。作戦分野に至っては、意図の解明を追求することに対して極端に否定的な立場さえ提示されてきました。

これは米国による意図判断による失敗を教訓としています。米国は朝鮮戦争において「中国は国内経済優先の折だから中国軍の介入はない」とし、ベトナム戦争では「北ベトナムがいかなるゲリラ的、人民戦争的な能力を保有しているか?」よりも、自らの北爆の効果を過大視して、「北ベトナムが立ち上がる気力は失せた」と判断しました。いずれも能力よりも意図を重視して敵の可能行動の判断を誤ったのです。

他方、能力は可視的であり、急激な変化はありません。能力判断は理論的に計測できる事実に立脚しています。したがって、能力判断は意図判断に比して誤判断が少ないのです。さらに能力判断は奇襲や想定外の最悪ケースにも対応できます。

▼能力過大、過小評価はしない

能力判断では過大評価、過小評価をしないことが重要です。情報が不足している、未知の状況に遭遇する、行動のための準備が不足していれば、誰しもが相手側を過大評価する傾向になります。

クラウゼビッツは、「危機についての情報は、多くは虚偽か誇大である。そしてこれは大海の波のように押し寄せて来て、高くなったと思うとたちまち崩れ、なんの原因もないのにまた高まってくる」と述べています。つまり、戦場での心理的恐怖から過大評価し、状況判断を誤ってはならないと警告しています。

試験会場に行って、周りの人たちが自分より優秀に思えて、実力を発揮できなかったとよく聞きます。
これは情報が不足していることから不安感が大きくなり、自分を過小評価し、周囲を過大評価してしまうのでしょう。

相手に対する過大評価は我を委縮させ、折角のビジネスチャンスを見逃すことにもなりかねません。他方、相手への過小評価によって予期しない事態を招くことも多々あります。「こんなはずではなかった。舐めてかかって痛い目にあった」ということになります。こうした過小評価による状況判断の誤りを回避するためには、その背景を理解する必要があります。

我に時間的余裕があり、さまざま情報が集まり、我の準備が周到に進められると、だんだんと我を過大評価し、相手を過小評価する傾向が強くなります。
1973年の第四次中東戦争の事例を出すまでもなく(イスラエルがエジプトを過小評価したことで奇襲を受けた)、連戦連勝で我に対する驕りと敵への過小評価が原因で国家が危機状況に陥ることが多々あります。

旧日本軍の戦史を回顧すると、戦場から離隔した司令部などでの状況(情勢)判断では、敵に対する過小評価がしばしば起こっています。戦争は勝利を目的・目標とする集団行為であるので、〝必勝の信念〟を醸成するうちに、それが我の過大評価と敵の過小評価を生んだのでしょう。

個性、性別、能力レベルなどによって過大評価、過小評価は起こります。自信家の指揮官は敵軍を過小評価します。男性は自分を過大評価し、女性は過小評価をする傾向が強いとされます。能力の低い人に限って自己を過大評価する(ダニング=クルーガー効果)と言われています。こうした特性を知っておくことが、個人および組織から過大、過小評価を排除することの基本です。

▼能力は変化していることに注意

能力は意図よりも変化しにくいとはいえ、不変ではありません。我の能力向上とともに敵の能力も同時に向上しています。運動選手が自己記録を伸ばし、「これならばライバルに勝てる」と自信をもって試合に臨んだところ、相手が自分以上に能力を伸ばしていてコテンパンにやられることはよくあります。

すなわち、能力は常に変化するものだとの認識を持つ必要があります。現在の能力の進展性のみならず、潜在能力の開発を考慮し、他方で能力の減衰にも留意し、能力データベースを常に刷新することが重要です。

能力にはプラスとマイナスの両面があります。だから能力の構成要素を単に足し算するのではなく、各種の制約要因を考慮して引き算することも重要です。
可能な限り定量的(数量的)な評価に留意し、相手側の能力を総合的に計数化することが必要なのです。

能力が可視的といっても不透明な部分や多々あります。相手の主張を否定する明確な根拠がない場合には額面どおりに評価することが必要です。たとえば2017年、北朝鮮が「水爆実験に成功した」と発表した際、それを最初から訝(いぶか)る意見がありましたが、このような感覚的な過小評価は危険です。

▼能力判断の限界

能力判断は目に見えやすいので論理的思考が活用でき、状況判断を誤りにくいとされます。しかしながら、能力ベースでは「これもできる。あれもできる」となり、相手の可能行動の数はどんどん膨れて行き、事後の分析や判断が煩雑になります。

また、すべての事を能力判断に依存することは現実的でありません。たとえば、中国はわが国に対してミサイル攻撃を行なうことや南西諸島に奇襲侵攻する能力を有し、ロシアもわが国道北部への奇襲侵攻の能力を有しています。これら能力的に可能な行動をすべて列挙して、完全な防衛態勢を取ろうとすれば、国家財政はたちまち破綻してしまうであろうし、現実的に不可能です。ここに能力判断の限界と意図判断の活用の必要性が生じます。

▼意図判断の可能性

 そもそも意図は不可視であり、正確な判断は容易ではありません。しかし、意図判断が全く不可能だというわけではありません。環境の制約など全くなしで、国家や企業などの意図が形成されるわけではありません。一党独裁国家であっても、第三国との関係、国内外世論、国際法や国内法を無視した国家戦略の追求は困難です。

通常、我より圧倒的に優越した能力を持つ敵は能力的にはいかなる行動を取ることもできるように見えます。しかし、現実にはさまざま制約要因が存在し、それらが意図の形成に影響を及ぼしています。

たとえば、ある中小企業が垂涎の技術をもっているとして、大企業はその技術を手に入れるために、この中小企業の買収を検討したと仮定します。大企業は原材料のサプライチェーンの断絶、取り引き銀行からの融資の中断などで中小企業の経営を圧迫させて、しかるのちに買収工作を働きかけることは可能でしょう。

しかしながら、こうしたダーティーな工作が公になれば、長年築いてきた企業ブランドを失うことになります。つまり、大企業は自らの行動方針(買収工作)のプラスとマイナスを比較考量した上で、行動方針を決定することになります。

つまり、相手側にどのような制約要因や弱点があるかを考察することで、意図の推測や判断を行なうことは可能です。

また国家や大企業のように対象が大きければ大きいほど意図を実際の行動に移すにはリードタイムと期間が必要となります。たとえば国家が戦争を行なうには国民に対する広報活動や各種の戦争動員が必要となります。よって時系列的な分析を継続し、その変化の兆候を察知し、その意義付けを的確に行なうことで意図の推測も可能となります。

▼意図判断を行う上でのポイント

前述のように、能力判断による、敵の可能行動の数はどんどん膨れて行き、事後の分析や判断が煩雑になります。

だから、ついつい「まさか相手はこんなことはしないよな」といった具合に、相手の意図を最初に推測して、たいした根拠もなしに蓋然性が小さいと思われる可能行動をメンタルチェクして除外してしまうのです。筆者はこれを〝意図判断の誘惑〟と呼称し、思い込みによる意図判断を行なわないよう自戒してきました。

思い込みによる安易な意図判断を回避するためのポイントをまとめてみます。第一に、相手側の置かれている環境調査(分析)をしっかり行なうことが重要です。たとえば、相手国の意図は置かれている環境と大きく関係しています。そのため地理、政治(イデオロギー、法律、主要人物など)、経済、社会(国民性、世論、マスコミなど)、外交、軍事(兵力、装備
、運用ドクトリン)などの要因が相手側の意思形成にいかなる影響を及ぼしているかについて分析する必要があります。さらに彼我の地域を取り巻く歴史的背景、過去に発生した事例および結果などを研究する必要があります。

第二に、相手側の立場で自己分析と環境調査を行なう必要があります。相手側が自己をいかに評価し、自らの弱点をいかに認識し、それをどのように克服しようとしているかについて分析します。このため、我の戦略を構築するための手法であるSWOT分析を相手側の立場で行なうことは有効とされます。

第三に、敵の意図を推量する上では指揮官やリーダーの性格、趣味・嗜好に着目します。太平洋戦争の口火を切った山本五十六連合艦隊司令長官は大変に勝負事の好きな人物であり、ワシントンの武官事務所で当時将棋の相手をしたことがある(株)極洋の法華津孝太会長が、「将棋はどうも攻め一方で、いささか無理筋のきらいがあるように思う」と言っています。そうした性格を総合して、「戦争の始まるまえに、アメリカがもし日本海軍の主将の性格をもう少し突っこんで調べていたら、山本なら海戦の時いきなりハワイを突いて来るかも知れないということは十分察しられただろう」(阿川弘之『山本五十六』)と語っているようです。

第四に相手側の弱点を探し、その改善につながる兆候を探します。相手側は行動方針を決定する前に、弱点に対する対策を全力でとろうとします。たとえば中国が台湾に対して着上陸侵攻を行なう場合、現在の最大の弱点であるとされる揚陸能力を改善する必要があります。つまり、揚陸能力の急激な改善という兆候が出てくれば、中国による対台湾軍事侵攻の意図が高まったと判断することが可能となります。

第五に認識上のバイアスを排除します。意図は不可視的であるので、そこには希望的観測、
先入観などが容易に入り込みます。また意図は個人の気分や国際情勢の急変などによって変化します。自己の尺度で相手側の意図を見積るバイアス(ミラーイメージグ)を排除し、相手側の立場になり切って推察します。認識上のバイアスを回避する、あるいはバイアスに陥っていないかを点検したりするためには、グループ討議や分析手法の活用が有効です。

次回は敵の可能行動の分析について、兆候と妥当性の尺度で考察することについて解説します。

(つづく)

武器になる「状況判断力」(16)

国力や企業力を算定する

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

前回の問いは、「福岡市は人口増大、成長目覚ましい。神戸市は人口減少、衰退の一途。ともに政令指定都市の中堅であった両市は対照的な状況。これはなぜ?」です。

神戸市は大阪市に人口が吸収されてしまう、阪神・淡路大震災のトラウマから高層ビルの建設や利用が進まない。このようなことが神戸市の人口減少などの原因のようです。他方、福岡市は、福岡市に次ぐ九州地方第2位の北九州市とも近く、一体的な活性化が可能ということです。

東京を中心に物事を考えれば、福岡県は遠い地方という印象ですが、北京と東京の距離は2098km、北京と福岡は1453km、上海と東京は1764km、上海と福岡はなんと905kmです。ちなみに福岡と東京は885km。

中国を基点にすれば、福岡よりも東京の方が〝地方〟なのかもしれません。北九州に本社を置く安川電機は、中国へのロボット機器を輸出することを生業としていますが、地の利を活かしていると言えるかもしれません。

今回の問いは、最近の『日経新聞』記事からの出題です。「東京オリンピック2020」で、外国人記者は東京のトイレの音消し(擬音装置)に驚いたようです。本格的な擬音装置が登場したのは1979年に折原製作所が開発した「エチケットトーン」だそうです。

では、折原製作所はなぜ、このような擬音装置を開発したのでしょうか? 少しひねりを利かすと回答は出てきます。

今回は、軍隊式「状況判断」の第2アプローチの「状況及び行動方針」の4回目です。今回は国際情勢やビジネスにおける彼我の相対的戦闘力について考察します。

▼国力評価の基準を考える

作戦地域での相対的戦力をグローバルな国際社会に置き換えれば、無用な衝突や戦争を回避し、国際社会の安定した秩序形成のための国力比較(相対的国力)という思考に至ります。

国際社会では、国力が大きい国は大国として大きな存在感を示し、小国は大国に従うということは自然の摂理のようなものです。

冷戦期には、米国とソ連の二大超大国が勢力均衡で存在し、これに挑戦する国は存在せず、全体として大規模な戦争は回避されていました。つまり、国力が対外的に明示されることで抑止機能が働いていました。

国際社会秩序の形成のための取り組みなどの目的で、国力を算定する試みが国際政治学者などによって行なわれました。著名な国際政治学者ハンチントン教授は、国力の要素を(1)国土の戦略的地勢、(2)人口、(3)産業・経済力、(4)民族の性質、(5)国民の団結・指揮、(6)政権の統治力、(7)外交力、(8)軍事力の八要素に区分しました。

ジョージタウン大学のレイ・クライン教授は、各種要素を数値化し、次のような国力算定の方程式を考案しました。

国力=(〔基本指標:人口+領土面積〕+経済力+軍事力)×(戦略目的+国家意思)

ただし、この数式ではハード面の評価はともかく、ソフト面(戦略目標×国家意思)の評価如何によって積の結果が大きく左右されます。

クライン教授は1980年代に出版した著書『World Power Trends and U.S. Foreign Policy for the 1980s』の中で、同方程式を紹介し、国力比較をしています。日本はソ連、米国、旧西ドイツに次いで4位となっていますが、これは、日本が戦時中に見せた大きな団結力を高く評価した結果です。

現在は、冷戦が崩壊し、世界のグローバル化が深化し、ICT化が発達しています。よって情報力、テクノロジーといった要素が国力に及ぼす影響が大きくなっており、クライン教授の伝統的な方程式には修正すべき点があるとみられます。

▼NICによる『グローバル・トレンド』

米国の国家情報会議(NIC:National IntelligenceCouncil)は米大統領のために中・長期的予測を行なう諮問機関です。NICは1996年以降、4年に一度の大統領選の年に合わせて、15~20年間に及ぶ世界情勢を予測・分析し、「NIC Global Trends」という報告書を発表しています。

米大統領はこの報告書を参考に国家戦略などを練ることになります。その際、世界に影響を及ぼすパワフルな国家・組織(以下、主要国等)の国力を試算して未来をシミュレートしています。

1996年からの旧モデルでは「GDP」、「人口」、「軍事費」、「技術投資」の4点で国力を試算していましたが、2012年の「2030年のグローバル・トレンド」(GT2030)では、旧モデルに加えて「健康」「教育」「統治」の3点を加えた7点方式の新モデルを採用しました。

その結果、旧モデルの国力比較では2032年頃に中国が米国を追い抜くものの、新モデルの国力比較では中国が米国を追い抜く時期は2043年頃にずれると予測が出しました。(『GLOBAL TRENDS 2030;2030年世界はこう変わる』講談社)

なお日本については、旧モデルの国力比較では2012時点ですでにインドに追い抜かれていますが、新モデルの国力比較では2019年頃にインドに追い抜かれると予測しました。

▼相対的国力の算定は戦略構築の原理・原則

NICの国際情勢予測は、主要国の相対的国力が世界のメガトレンドに影響を及ぼすという考え方に基づいており、軍隊式「状況判断」の相対的戦力の応用であるとも言えます。

そもそも、環境(地域)の上に、自国(我が軍)と、戦略を立案する上で重要な対象国(敵軍、第三国軍)を載せて、未来を予測し、その上で戦略(行動方針)を選択するという思考法は『孫子』以来の不変の原理・原則であるといえそうです。

ただし、世界のグローバリズムやテクノロジーの発達レベルに合わせて、国力を試算する構成要素や算定法は修正する必要はあります。

2021年4月、前述のNICは「グローバル・トレンド2040」(GT2040)を発表しまたが、ここでは、「人口」、「環境」、「経済」、「技術」という4点から国力を算定しています。大きな違いは「軍事」を採用しないで、代わりに「環境」を採用している点です。

現在はSDGs(持続可能な開発目標)やESGという言葉を聞かない日はありません。環境が未来の国力の重要な構成要素になることに異論はありませんが、他方で国力における軍事の要素は依然として無視してはならないと筆者は考えています。

▼人口は未来予測のための重要な指標

「GT2030」では、日本は米国、中国、ロシア、インド、EUとともに、世界に影響を及ぼすパワフルな国家・組織の一員とされていましたが、「GT2040」では、日本をそれら国家・組織の一員として加えられていません。

「人口」、「環境」、「経済」、「技術」の中でも、「人口」は最も固定的で信頼できる指標です。日本は人口減少に伴う労働力の減少、柔軟性のない移民政策などによって、低い需要と低経済成長が続き、2040年にはGDPはインドに抜かれ第4位になると、「GT2040」では予測されています。

中国は2030年ごろにはGDPで米国を追い抜く可能性があるが、中国は2010年から人口ボーナスから人口オーナス(少子高齢化の構造がもたらすマイナス影響)に転換しており、今後は一層生産人口の減少に苦しめられるので、そのまま中国が米国の経済力を追い抜く可能性は極めて低いと、多くの政治・経済学者は予測しています。

いずれにせよ、世界の国々の国力をさまざまな指標から評価し、それを基点に国際政治の未来を予測し、各国は国家戦略を構築しているのです。

▼ビジネスでも相対的戦力の算定は企業経営で重要

ビジネスでも相対的戦力の考察・比較は重要です。既述したフレームワーク(「SEPT」、「3C」、「4P」など)を活用して、自社と競合他社の企業力を比較し、競業他社の特性や弱点、我の勝ち目を明らかにすることは企業経営でも珍しくはありません。

企業力の構成要素はさまざまな視点から抽出できます。『孫子』では、敵と我を見るうえで「道、天、地、将、法」という5つのフレームワークを設定していますが、これらはビジネスでは次のように変換できるでしょう。

道……会社のビジョンや経営理念
天……時流、タイミング、災害や事故
地……立地条件、インフラ、市場
将……役員会、管理職
法……社則、社規、組織、制度、コンプライアンス
、保全体制

▼ケイパビリティとコアコンピタンス

ビジネス書では「ケイパビリティ」と「コアコンピタンス」という用語によく接します。それぞれ、前者は「事業において、さまざまな役割を持つ社員が社内外で連携して、一連のビジネスプロセスを実行する総体的な能力。企業全体が持つ組織能力、また企業が得意とする能力」、後者は「事業で重要な役割を果たす製品を設計、加工するために重要な技術」などと訳されています。

「ケイパビリティ」は、軍事でいえば陸・海・空およびサイバーや宇宙空間における物心両面の軍事能力を総合運用する能力に相当します。一方の「コアコンピタンス」は最新鋭の兵器を製造する軍事技術力ということになります。

軍事力を評価する際には、軍事技術と軍事運用能力の両面から評価することが一般的であり、要するに能力評価の本質部分は軍事もビジネスも変わりはないと言えます。

競合他社などの「コアコンピタス」は秘密事項であり、顧客が手にする頃には商品やサービスに形を変えてしまっているので、外からは容易に知り得ることはできません。ただし、秘密裏の諜報活動やM&A(企業の合併・買収)によって入手できる可能性があり、また急速に「コアコンピタンス」を高めることが可能です。他方、「ケイパビリティ」はプロセスであり、機能がお互いにかみ合っている状態なので、外から取ってきてすぐに組み入れることは困難です。

競合他社の「ケイパビリティ」は、顧客サービスなどの現実の流れから、おおよそのところは目に見えます。むしろ、「灯台下暗し」と言ったもので、自社の「ケイパビリティ」は自覚しているようで、自覚していないと言われています。また、環境の変化に対応できずに陳腐化することが指摘されています。

そこで企業経営では、自社の優位性を認識し、持続的な競争優位を確立するために、「ダイナミックケイパビリティ」(※)や「ケイパビリティ戦略」などの概念が提起され、能力をさらにブレークダウンし、自己の能力評価や戦略構築に役立てようとする試みが行なわれています

要するに、軍事、国際政治、ビジネス、個人、いずれの問題においても、自己や敵などの相対的戦力を環境変化の中で適切に評価することが状況判断、すなわち最良の意志決定のための鉄則です。

(※)ダイナミックケイパビリティは以下の3つの要素に分解できる。
(1)環境変化に伴う脅威を感じ取る能力(Sensing:感知)
(2)環境変化を機会と捉えて、既存の資源、業務、知識を応用して再利用する能力(Seizing:捕捉)
(3)新しい競争優位を確立するために組織内外の既存の資源や組織を体系的に再編成し、変革する能力
(Transforming:変革)

(つづく)

武器になる「状況判断力」(15)

相対的戦力を比較する

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□はじめに

前回の問いは、「なぜ日本は左側通行になったのか?」です。これをなかなか難問であり、歴史の蘊蓄(うんちく)がなければ解けません。

左側通行は世界の少数派です。ではなぜ日本がその少数派になったかと言えば、江戸時代に遡ります。当時の日本には狭い道が多く、通行も容易ではありません。武士は左腰に刀を差していたので、右側を歩くと人とすれ違った時に刀がぶつかってしまい、ケンカが絶えなかったようで。だから、お達しで左側通行になったということです。

このように「なぜ、なぜ」を繰り返し、根本的原因に遡るのがトヨタ式「なぜなぜ分析」と言います。根本原因を探り、そこから改善していくという思考法です。

今では刀を差す必要もないし、左側通行は必ずしも意味はありませんが、すでに自動車は右ハンドルになって、信号は向かって青、黄色、赤になっています。今さら左側通行を右側通行に直すのも意味はないですね。

今回の問いは、「福岡市は人口増大、成長目覚ましい。神戸市は人口減少、衰退の一途。ともに政令指定都市の中堅であった両市は対照的な状況。これはなぜ?」です。これは、少し考えればわかるかもしれません。

では本題です。今回は、軍隊式「状況判断」の第2アプローチの「状況および行動方針」の3回目です。

▼相対的戦力で勝利の法則を得る

軍隊式「状況判断」では、「地域」「敵」「我」の状況を認識したならば、その次に相対的戦力を考察、比較します。

相対的戦力といえば、筆者が学んだ陸自の初級戦術では、敵と味方の兵力、戦車、火砲などを定量的に比較し、「我vs敵」は機動力で3:1とか、火力で1:1であるとかという具合に戦力の格差を可視化し、たとえば機動力が優位ということを認識して、その優位性を利用できる行動方針を決定したという記憶があります。

相対的戦力のアプローチでは敵と我を作戦地域という〝土俵〟に置いて、目標を達成するために、敵と我が使う手段を総合的に考察・比較し、敵と我の利(長所)と不利(短所)を明らかします。つまり、「どちらが、どの点(時点、分野、領域)において、どれだけ優れているか」ということを明らかにし、敵や我の行動方針を案出するための基準にします。

相対的戦力を考察、比較する狙いの1つは、我が部分的であれ、敵に有利な態勢を作る、あるいは敵の弱点を捕捉するという点にあります。つまり、相対的戦力が明らかになれば、我は戦力を敵の非重点正面に対して集中する、不必要な戦力は節用することができます。さらには、敵の弱点を突いた奇襲も可能となります。

戦力の集中と使用、および奇襲はいずれも「戦いの9原則」(目的、主動、集中、戦力の節用、機動、統一、奇襲、簡明、保全)の要素です。すなわち、相対的戦力を算定することは勝利の法則を得るために重要なのです。

▼無用な戦いを回避する

相対的戦力の算定において、勝利の法則を得る以上に大切なことがあります。それは、無用の戦いをしない、あるいは敗戦が確実になるとわかれば潔く撤退する、さらには我の優位性を宣伝戦で強調するなどで、つまりは「戦わずして勝つ」ことです。

『孫子』では、「廟朝(作戦会議)して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。しかるをいわんや算なきにおいてをや。我これをもって勝負を知る」とあります。

これは、「戦う前に彼我の国力を算定・比較し、勝算が少なければ負ける。まして勝つ要素が全くないのに戦争をすることは愚かである」という意味です。

そもそも戦争の勝敗は、彼我の戦闘力の優位によって決まります。先の太平洋戦争で、日米の国力や軍事力に関し、児戯(じぎ)に等しい判断がなされ、そのことが敗戦の決定的な要因だと言えます。

ただし当時から、米国の国力が巨大であるとの認識はありました。問題は「米国は自由主義で団結力がなく、戦況が悪くなれば容易に和解に応じるだろう」などの希望的観測に基づいて、米国国民の団結、士気などの精神要素を過小評価したことです。そこには、日中戦争における中国軍(蒋介石軍と中共軍)との戦いで「日本軍は勇敢で団結している、中国軍はバラバラで臆病」などいった過小評価の類似思考があったといいます。こうしたことが、米国や米軍の戦力を過小評価し、無謀な戦争に打って出るという誤判断をもたらしました。

彼我の国力や軍事力を算定し「戦う前に勝敗を知る」、すなわち「無用な戦いを回避する」ことが平時における戦略的情勢判断の大きな目的です。では、その算定はどのように行なうのでしょうか?

▼軍事作戦での相対的戦闘力の算定法

陸上作戦を扱う米軍マニュアルや自衛隊『野外令』に基づけば、相対的戦闘力の算定は、兵力、編組、配置、兵站および最近の注目すべき活動などから、敵と味方の特性や弱点を分析します。ただし、作戦規模の拡大し、広範囲となり総力戦になるにつれ、政治的要因、経済的要因、心理的要因などの軍事的要因以外の比重(一般的要因)が大きくなります。

ここでは米国海軍大学の教科書『サウンド・ミリタリー・デシジョン』(1942年)の翻訳本『SOUND MILITARY DICISION勝つための意思決定』(1991年)を基に、相対的戦力を比較するための要因とその考察要領をみていきましょう。

▼相対的戦闘力の比較・考察要因

同著の状況判断フォームは、以下のような構成になっています

A 与えられた目標の選定

   細部略

 B 相対的戦闘力(目標を達成するための敵・味方が使う手段の比較)

  • 敵・味方の手段の調査
  • 一般的要因
    • 政治的要因、②経済的要因、③心理的要因、④情報活動と対情報活動
  • 軍事に関する事項
    • 艦船と航空機、②陸上部隊と陸上を基地とする航空機、③要員、④資材、⑤後方支援
  • 戦場の環境の調査
  • 水路、(b)地勢、(c)気候、(d)昼と夜の時間、(e)相対的位置と距 

離、(f)輸送路と補給路、(g)施設と固定防備、(h)通信

  • 相対的戦力の結論

1 目標達成の土台づくり─情報の収集

 A  与えられた目標の選定

   (細部略)

 B  相対的戦闘力(目標を達成するための敵・味方が使う手段の比較)

(1)敵・味方の手段の調査

(a)一般的要因

①政治的要因、②経済的要因、③心理的要因、④情報活動と対情報活動

 (b)軍事に関する事項

①艦船と航空機、②陸上部隊と陸上を基地とする航空機、③要員、④資材、⑤後方支援

(2)戦場の環境の調査

(a)水路、(b)地勢、(c)気候、(d)昼と夜の時間、(e)相対的位置と距離、 (f)輸送路と補給路、(g)施設と固定防備、(h)通信

(3)相対的戦力の結論

2 整合性、達成可能性、負担可能性のある方策の決定

 (細部略)

3  敵能力の調査

 (細部略)

4 最善の方策の選定

 (細部略)

5 意思決定

 この状況判断フォーラムは太平洋戦争中の米海軍大学の教科書に掲載されたものであり、当時の戦争と現代戦の様相は異なりますが、全体的なイメージは今日でも十分に通用するものと考えます。

▼相対的戦力の考察要領

相対的戦力について、同著の記述などを踏まえて補足します。

まず、一般的要因を考察、比較した上で、軍事的要因(軍事に関する事項)を考察、比較します。これは「アウトサイド・イン」分析の思考法です。

一般的要因では、政治、経済、心理、情報・対情報の各要因あげていますが、大規模な戦略的決定では政治条件や経済的要因の比較が極めて重要です。国家は政治的な大義に突き動かされる、経済的利益を求めて行動するものだからです。

一般的要因の考察では、目に見えるもの、定量的に算定できるものだけではなく、国家の技術力、国民の意志・感情などの精神要素も重要です。これは、前述の太平洋戦争前における米国国民の士気を過小評価したことが失敗の要因として教訓になります。

経済的要因では、石油の備蓄量や年間総生産量などの物量的な比較だけに留まらず、国民による戦争への支持、軍需生産への協力体制、兵站・補給体制、技術開発力などを考察することが重要です。

  軍事的要因の比較では、兵力や装備の定量的比較だけでなく、敵の指揮官の個性や要員の訓練・士気・熟練度などの不可視要素も重要となります。しかし、敵の士気などは戦うまではわからないのが通常です。よって我と同等と判断するか、もしくは過去の戦闘経験、現在の組織の規律維持の状態などの不可視の周辺にある可視化できる要因を比較します。

また、技術革新などを考慮し、過去情報に基づく既成概念から敵の装備品の到達距離、数量、耐久力、機動力、補給力は過小評価しないことが肝要です。

一般的要因と軍事的要因の比較が終わったならば、これら影響を及ぼす戦場環境を考察し、それを一般的要因と軍事的要因に反映させます。戦場要因は戦争が総力戦になるにつれ、影響を及ぼす地理的要因を幅広く考察します。

以上の過程を終えて、想定的戦力の結論では、項目別に彼我の強みと弱みをまとめて一覧表にします。

ただし、どんな項目を列挙して比較するかは、状況判断のレベル、状況(作戦の性質、時間推移など)によって異なります。一覧表にどのような項目を記入するかは指揮官の判断によります。

たとえば、中台間の戦争を想定すれば、中国の全陸上兵力と台湾の陸上兵力をそのまま比較しても意味はありません。中国はインド、朝鮮、ロシア、国内治安対処のための陸上兵力を拘置しなければならないので、台湾に全てが指向できるわけではありません。さらに双方は200km以上の台湾海峡を隔てていますので、中国から経海、経空による台湾に上陸できる陸上兵力は限定されます。このように作戦や地域に応じて、中国と台湾の現実的な陸上兵力を比較しなければなりません。

一般的に、戦略的な状況判断(戦略情勢判断)よりも、局地的で戦術的な状況判断の方が強み弱みの要因を確定しやすいとされます。というのは、艦戦の速度や航空機の数などが定量比較できるのに対し、敵の後方支援上の問題が自軍と比べてどうであるかなどの比較は困難だからです。

(つづく)

武器になる「状況判断力」(14)

状況の変化を捉える

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

 前回の謎解きは「ここ最近、松屋は値上げ、吉野家は減収、すき家が一人勝ち。その理由は?」でしたね。

 答えは、「この中で、すき屋だけが郊外型だから」です。吉野家も松屋も駅近て通勤者がターゲット、すき屋はマイカーでの家族連れもOKなので、コロナ禍のテレワーク以降は「牛丼を食べるならば、すき屋で」という流れになったようです。

 

前回の本文中でも述べましたが、勝負には「天」と「地」を知ることが重要です。「天」とは時間的、流動的で状況や時機(タイミング)を指し、「地」とは固定的な地理環境、つまりここでは上述のような立地条件を指します。地理環境の有利、不利は状況や情勢によって変わる、地理的な位置関係は変わらずとも、その価値つまり利・不利は不変ではないのです。

今回の謎解きは、「なぜ日本は左側通行になったのか?」です。以前、日本の信号機が向かて左から青、黄色、赤になり、東京など(大阪という例外を除く)のエスカレターでは左側立ちで右側から抜いていくという事例を挙げましたが、そもそも、「日本はなぜ左側通行だったのか?」を考えてみようということです。

さて、前回から、軍隊式「状況判断」の第2アプローチの「状況及び行動方針」に移りましたが、今回はその2回目です。

▼「アウトサイド・イン」思考とは

状況には「地域」、「我」、「敵」の3つがありますが、この思考手順は、地域の特性、敵情、我が状況の順に考察して、最後に相対戦闘力を明らかにします。

しかしながら実際には、おおまかに敵を意識する、次いで我を意識する、そして敵と我を地域という土俵の上に置いて、敵と我の利・不利などを考察して、相対戦闘力を算定するというのが一般的です。

作戦では、地域とは気象と地形に大別できます。これは『孫子』の流動的な天(気象)と固定的な「地」(地形)に相当します。国家安全保障では「気象」は国際情勢に置き換わり、地形は地理的環境となり、ビジネスでは「気象」は経営を取り巻く情勢や時機(タイミング)となり、「地形」は立地条件やサプライチェンーンなどになるでしょう。

気象は流動的であり、地形は固定的ですが、流動的な気象が固定的な地形に影響を及ぼします。たとえば、錯雑地は夜間には機動障害になりますが、日中のそれは隠蔽良好な機道路になります。

このことはビジネスでも同様であり、コロナ禍ではテレワークが主体となったため、これまで駅近型の「吉野家」や「松屋」に先行を許していた郊外型の「すき屋」が売り上げを伸ばし〝独り勝ち〟になったりするのです。

つまり、地形や立地条件という固定的な状況も実は質的な変化を起こしているのであって、状況を認識するとは変化を読み取ることにほかなりません。

安全保障やビジネスでは問題の周辺に位置する環境を幅広く考察する必要があります。グローバル社会では様々な事象が影響を及ぼすため、「網を大きくかける」ことで、状況判断のための重要な要因を見逃さないようにします。そして、前述のとおり、流動的な情勢の変化をとらえ、それが彼我に及ぼす影響を考察します。

▼「アウトサイド・イン」思考

ビジネスを例に、環境を幅広く捉え、変化する情勢を捉えるためのポイントを考えてみましょう。

ビジネスの問題を取り巻く環境は大きく「外部環境」と「内部環境」に分けられます。外部環境は「マクロ環境」ともいい、世界的な潮流ないしは社会全体を指します。つまり、これが軍隊式「状況判断」で言うところの「地域の特性」になります。

これに対して内部環境は、業界内部の環境や自社の環境のことです。ここには軍隊式「状況判断」の敵、我という要素が入ってきます。

最近では、すでに把握している内部要因をもとにする「インサイド・イン」から、外部要因を幅広く考える「アウトサイド・イン」に変えることが推奨されています。これを「アウトサイド・イン思考」もしくは「アウトサイド・イン分析」といいます。まず最も大きな単位である世界について考え、それから少しずつ業界内部や競合他社、自社の能力といった身近な内部環境に着目していき、最後に自社の戦略・戦術などへの影響を考えていく思考法です。

なぜこうした思考法が重要かといえば、外部環境、すなわち世界のメガトレンドが内部環境を変化させることは往々にしてあるのに対して、その逆のパターンというのは、通常は起こりにくいからです。

アウトサイド・イン思考がいかに大事かを示すエピソードに、世界最大の写真用品メーカーであったコダックの例があります。同社は世界で最初にロールフィルムやカラーフィルムを開発したようにアナログフィルムのイメージが強い会社ですが、実は1975年に早くも世界初のデジタルカメラを開発しました。実はデジタル写真に関してもきわめて高い技術力を有するメーカーだったのです。

しかし、コダックの上層部は、自社に巨大な成功をもたらしたアナログ写真の需要を過信するあまり、自社のデジタル技術を市場に売り込む努力を怠りました。つまり、「社会や顧客が急激にペーパレス、デジタル化を求めている」といった外部環境の変化を見落としたため、結果としてコダックはデジタル化の波に乗り遅れ、2012年には倒産してしまったのです。

▼目的の確立は「インサイド・アウト」

 このように「アウトサイド・イン」思考は近年その重要性が重要視されていますが、間違えてはならないことは、「何をなすべきか?」「なぜそれをするのか?」といった目的の確立は「アウトサイド・イン」思考では出てきません。

何をなすべきかは、第1アプローチの「任務分析」により導き出しますが、軍隊式「状況判断」は作戦レベルについて規定するものだから、任務(使命)は上級指揮官から与えられます。だから、自らは上級指揮官の意図を目的として、与えられ任務を分析し、その目的に従い任務を達成するためにはいかなる手段を講じるべきか、すなわち具体的に達成すべき目標を明らかにします。

しかしながら、戦略レベルの状況判断(戦略的情勢判断)では、自らの目的を何に求め、何をなすべきかを自ら問いかけ、思索することから始めなければなりません。すなわち、国家指導者、企業トップあるいは個人は「Policy making」や大綱決定を自分自身で行なわなければなりません。

自己がどうしたいかのか、どうすべきなのかは、それぞれの価値判断に委ねられるものなのです。だから国家指導者、企業トップが自らの目的を定めるのは、「インサイド・アウト」になります。これは個人の問題についても同様です。

▼フレームワーク分析とは?

「アウトサイド・イン」分析とよく併用される分析手法に「フレームワーク」分析があります。フレームワークとは「発想の枠組み」です「アウトサイド・イン」の「アウトサイド」をどこまでも拡大し、彼我の行動に影響する要素をあまりに多岐にアトランダムに抽出すると後で収拾がつかなくなります。また、重要な要素を見落とすことにもなります。

そこで、「アウトサイド・イン」分析と併用してしばしば用いられるのが、「フレームワーク」分析です。

そもそも分析とは「ある何かを、いくつかのより細かい要素に分ける」という作業であり、物事や現象は必ずそれより小さいいくつかの要素から成り立っています。その属性や特性を浮き彫りするために構成要素に分けていくことになります。

しかし、この時にただ闇雲に分けるだけでは意味はありません。分けた後にアイデア(影響要素など)が出しやすくなるように、強制的に発想の枠組み、つまりフレームワークを設ける必要があります。これが強制発想法の1つである「フレームワーク」分析です。また、構成要素を「お互いに重複せず、全体に洩れがない」ように分ける思考法を「MECE」(ミッシー=Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)と言いますが、「フレームワーク」分析は、このミッシーな思考を行なうための体系化された分析手法でもあります。

▼さまざまなフレームワークを知る

さて今日の社会では、さまざまなフレームワークがあります。国家安全保障の領域では、社会(Social)、技術(Technological、環境(Environmental)、軍事(Military)、政治(Political)、法律(Legal)、経済(Economic)、安全(Security)の8つの枠組みを想定する「STAMPLES」や、政治(Political)、軍事(Military)、経済(Economic)、社会(Social)、インフラ(Infrastructure)、情報(Information)の「PMESII」、外交(Diplomatic)、情報(Information)、軍事(Military)、経済(Economic)を想定する「DIME」などが有名です。

ビジネスにおいて外部環境を分析するためのフレームワークが「PEST」です。これは政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をつなげたもので、最近は、社会の中に含まれる環境(Ecology)を分岐させて、語呂がいいように語順を並び替えて「SEPTEmber」と呼ぶことが多くなっています。

他方、内部環境を分析するためのフレームワークには消費者(Customer)、競合相手(Competitor)、会社(Company)の「3C」、さらにこの3Cに集客のための媒体、経路(Channel)を加えた「4C」、そして、製品(Product)、価格(Price)、Place(販路)、販促(Promotion)から成る「4P」などがあります。

「競合分析」(Competitive Intelligence=CI)の創始者であるアメリカの経営学者マイケル・ポーターは、自社を業界のなかに位置づけるために業界内部の環境要因を、「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手交渉力」「売り手交渉力」「既存競合他社」という5つの要素にわけて分析する「5フォース」を提唱しました。なおポーターは、この5つのうち最初の二つの脅威を外的要因、後の3つを内的要因に分類しています。

▼フレームワークの具体的内容を理解する

 こうしたフレームワークの項目を覚えるだけでは大した意味はなく、それぞれのフレームが具体的に何を表しているかもしっかり理解しておく必要があります。たとえば、「PEST」によるビジネス環境の認識では以下のような内容へとさらに細分化できます。ただし、この細部化の方法も画一化できるようなものではなく、自己を取り巻く環境や任務によって、常に内容の部分修正が必要となります。

◇政治(Politics)…国際政治、政府の法規制の強化・緩和、法改正、行政環境の変化、政府

の意向、補助金等による支援など。

◇経済(Economics)…国際経済システム、景気動向、株価・為替・金利、雇用情勢、経済成

長率など。

◇社会(Society)…人口動態、文化、世論、流行、ライフスタイル、自然環境、治安、宗教、言語など。

◇技術(Technology)…技術革新、代替技術、特許など。

▼情勢の変化に敏感になる

状況あるいは情勢は常に変化します。環境を認識するとは状況や情勢の変化を先行的に捉えろということです。これは戦争、ビジネス、個人の問題でも同様です。

ビジネスを例に、「PEST」に基づき、変化する情勢を捉えることの意味を考えてみましょう。

政治では国内の法律に特に注意します。法律が変わると、それまで合法的であったものが非合法になったりします。米国で銃規制などが行なわれると、たちまち銃の商売は上がったりです(規制される前に銃の売り上げは伸びますが)。

国際情勢の影響にも注意が必要です。米中対立により米国の対中包囲網が形成され、同盟国は5G設備で華為技術(ファーウェイ)など中国機器を採用できなくなりました。

経済では景気動向に特に注意する必要があります。景気は後退したり、インフレ気味となったりします。景気動向によって消費者の購入意欲は常に変化しています。

社会では流行に注意が必要です。一時的な流行はすぐに去ります。過去にはミニスカートの流行が終わり、ロングスカートが流行になったりしました。流行の後追いでは利益は上がりません。

また、レコードがCDになり、CDがアイポットになり、すっかりレコードは過去の遺物となった感がありましたが、一部ではレコードへのノスタルジーが起こり、レコードとステレオが高値で取り引きされる状況も生じています。

技術革新は新商品の開発、新規企業の市場参入を促進します。自動車の発明により、馬車は輸送手段の主役の座を失われ、スマホの発明によりデジタルカメラは主役の座を失われつつあります。IBM社は1960年代にコンピュータ部門で圧倒的なシェアを誇っていましたが、1970年代のパソコン(PC)の登場により、アップル社に代表される新規企業のPC市場への進出により、経営危機に陥りました。

このように状況判断を適切に行なうためには状況や情勢の変化を捉えることが重要なのです。

(つづく)

武器になる「状況判断力」(13)

状況の特質を把握する

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□はじめに

 前回の謎かけは「マシュマロ実験」に関するもので、「この研究では、マシュマロを食べるのを長時間我慢できた4歳児は、成長してからの成績が良かった。それはどうしてか?」でした。

この答えは、「自制心の強い子供は、学業成績も高くなるから」ではありません。この2つには「因果関係」はありません。我々は、相関関係を無理繰り因果関係で処理しようとしますが、これは誤解を生じさせます。

この実験を慎重に行なっていくうちに、両方(マシュマロを食べる、のちに成績が良くなる)に関係する要因が1つ特定されました。それは親の社会的地位でした。裕福な家庭の家の子供はマシュマロを食べるのを我慢した。おそらく心身ともに安定し、大人を信頼し、あまり執着が強くなかったのでしょう。

思春期の成績の良さも、親の豊かさが主要な原因となります。つまり、自尊心の強さと成績の良さに因果関係はなく、親が裕福だという別の原因が存在します。(カール・T・ハーグストローム『デタラメ』)

なお、「クーラーの売り上げ上昇」と「アイスクリームの売り上げ上昇」は相関関係にありますが、因果関係ではありません。別の要因、つまり「暑さ、気温の上昇」があります。このように、2つの事象に因果関係がないのに、見えない要因(潜伏変数)によって因果関係があるかのように推測される関係を「疑似相関」と言います。疑似相関に惑わされてはなりません(詳細は拙著『武器になる情報分析力』)

次回の謎解きは最近の巷の話題(某週刊誌に掲載)から出します。「ここ最近、松屋は値上げ、吉野家は減収、すき家が一人勝ち。その理由は?」です。

さて、前回までは任務分析での「目的と目標」について述べましたが、状況判断では目的と目標の明確化が全アプローチの7割の重要度を占めると言っても過言ではありません。なお情報分析では、「問いの設定」が7割の重要度を占めます(『武器になる情報分析力』)。いずれにせよ、最初の方向性を定める、最初の方向性を見誤らないことが肝心です。

今回から、第二アプローチの「状況及び行動方針」に移ります。

▼状況とは地域、我、敵の3つ

軍隊式「状況判断」の第二アプローチは「状況及び行動方針」です。この過程では、地域の特性、我が状況、敵の状況を把握して、彼我の相対戦闘力を算定し、 敵の可能行動(EC)と我が行動方針(OC)を列挙します。

 

任務分析のアプローチが終われば、次は任務に影響する現状を知ることになります。

 現状を知ることは、「現状分析」あるいは「環境調査(認識)」などと呼ばれています。上述のとおり、状況には「地域」と「我」と「敵」の3つがあり、現状分析とは、これら3つの特質を炙(あぶ)り出すことであると言えます。

ただし、状況は任務の種類や大小などに応じて、考察すべき状況の要素が若干違ってきます。たとえば、国家戦略レベルでは、「戦略環境」、「我が国」、「相手国」となり、ビジネスでは「経営環境」、「自社」、「競業他社」などになるでしょう。

▼まずは「敵」を知れ

今しばらく『孫子』を引用して解説しましょう。『孫子』では、「彼(敵)を知り、己を知れば百戦危うからず。」(謀攻編)、「彼を知りて己を知らば、勝ち乃ち殆うかず」(地形編)とあります。

国家安全保障では敵対関係が存在し、ビジネスの世界では熾烈な競争原理が働いています。だから、我にとって敵国や競合他社に対して勝利することが自己繁栄の道であり、そのために相手の戦略や戦術を知ることが基本になります。

敵を知ることや、敵を意識することは現状分析や環境調査の第一の基本です。そのことが我を知ることにもつながります。国際政治学者の中西輝政・京都大学名誉教授は「敵を知ることは、そのまま自分を知ることにつながります。敵をはっきり意識することで、自分の弱さや欠けていること、強い部分や優れていることもはっきりしてきます。」(中西『本質を見抜く「考え方」』)などと述べています。つまり、日本あるいは日本人は「敵」または「他者」を意識することがもっともっと重要であるとの論旨を展開しています。中西教授が強調している「敵を知ることにより自分を知ることができる」は個人や企業においても通用する原理・原則と言えるでしょう。

▼そして我を知る

『孫子』では「敵を知り、己を知らば百戦危うからずや」の後ろに、「彼を知らずして己を知れば、一勝一負す」(謀攻編)と述べています。つまり、自分を知ることで、最低でも引き分けに持ち込めると言っています。

しかしながら、自分のことはいつでも知ることができると錯覚されているためか、このことは軽視されやすい傾向にあります。しかし、実際には自分のことは過大評価したり、過小評価したりで、正確な自己評価は容易ではありません。

先の太平洋戦争では、相手国である米国のことも知らなかったが、それ以上に我の補給・継戦能力、陸軍・海軍双方の戦略・思考などを知らず、「彼を知らず、己を知らざれば、戦う毎に必ず敗れる」(謀攻編)の状況にあった、との戦後なっての反省がなされています。

▼近年は我を知ることの重要性が増大

2001年の9月11日の同時多発テロ以降、国際テロ組織が主たる脅威の対象となりました。テロ組織は何を考えているのか、どのような能力があるのかは不明です。

それがため、米国の安全保障ではで「敵を知る」ことから、「己を知る」とくに「己の弱点を知らなければならない」という流れに変化し、この考え方が派生して、米国では「己の弱点を知る」ためのビジネス・インテリジェンスが活性化したとされます。

不透明な社会において、自分の力量を知ることはさまざまな分野において重要となっています。それが最低限負けない道を確保することです。自分を客観的に評価することは、正しい状況判断の鉄則とも言えましょう。

▼ほぼ全編で地形・気象の重要性を説く

『孫子』でほぼ全編にわたって地形・気象の重要性が説かれています。「兵(戦争の意)は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからず。故に、経(道筋をつけるの意)するに五事をもって計(はか)る。」(始計編)とあります。

五事とは「道」「天」「地」「将」「法」のことですが(※)、その中の「天」が明暗、天候、季節などの気象または時機(タイミング)を、「地」が地形を指します。要するに、戦争は国の重要事項であるので、時機をよくよく考慮し、地形を活用して有利に戦いなさいと言っているのです。

また、「彼を知りて己を知らば、勝ち乃ち殆うかず。地を知り、天を知れば、勝すなわち窮(きわま)らず」(地形編)とあります。これは、まずは我と敵を知り、戦勝の法則を確立したうえで、敵と我を地形の上に乗せてその利・不利を考察せよという意味です。

軍隊式「状況判断」では、地形と気象の特性を合わせて「地域の特性」と呼んでいますが、これは作戦環境という言葉に集約できます。作戦・戦術レベルでは作戦環境が戦いの趨勢に大きく影響します。つまり、緊要地形を制するものが戦いの主導権を握ることが多々あります。

▼国家戦略レベルでは考察すべき対象は広範多岐

他方、国家戦略レベルでは、作戦環境に相当するものが戦略環境です。また、国家戦略レベルでは「状況」(「地域」、「我」、「敵」)のことを一般的に「情勢」と呼びます。

国家戦略レベルでは、様々な環境要因が戦争や戦略の趨勢に影響を及ぼします。だから、「天」と「地」を知るということは「国家の生存繁栄のために、取り巻く戦略環境を幅広く把握せよ」という意味に解釈すべきでしょう。

「天」とは流動的かつ時間的なものであり、国家戦略レベルでは国内外情勢の趨勢に相当します。それには、現在の政治・経済・社会・外交・軍事の情勢などに加えて、安全保障問題を取り巻く歴史的背景、過去に発生した戦争・紛争の原因および結果などが含まれます。

他方、「地」とは固定的かつ空間的であり、地理的環境に該当します。国際情勢を見る上で「地理的環境」に重きを置くのが地政学です。これは「人間集団としての国家の意図は地理的条件を活動の基盤としている」という点を論拠としています。つまり、地理的条件が民族の特性を形成し、国家の活動基盤になると考え方です。

地政学は歴史学と相まって国際情勢などを考察する上で現在も用いられています。地政学をタイトルとする著作は数多くあるし、実際、紛争多くは地域的に偏在する資源、資源の輸送ルート、集中する市場などをめぐる角逐(かくちく)です。また宗教および民族の分布と恣意的な国境線の不適合が多くの紛争を生起させています。

近年は、地政学リスクに加え得て地経学リスクを考慮する必要性が強調されるようになりました。これは、経済的依存度が政治・外交・安全保障上の政策に及ぼす影響と、逆に政治・外交・安全保障の影響が経済性政策や経済活動に及ぼす影響を考察せよというものです。

国家戦略レベルでは地理と歴史のような不変的な要素、さらには民族と宗教のような変えにくい要素が、国家の戦略や外交にどのような影響を及ぼし、それが国家間にいかなる摩擦をもたらすかを考察する必要があります。このため、考察すべき対象や範囲は広範多岐に及ぶことを認識し、知識(インテリジェンス)の蓄積に努力する必要があります。

(※)「道」は国家あるいは君主が、民意を統一して戦争に向かわせる基本方針であり、国家戦略という見方もできる。「将」は、国家指導者や作戦指揮、「法」(組織、制度、指揮法)などと解釈できる。

(つづく)

武器になる情報分析力(12)

□はじめに

前回の謎かけは「1973年のオイルショックではなぜトイレットペーパーが不足したか?」です。

「トイレットペーパーは石油から作られる。第四次中東戦争で中東の石油生産量が低下→石油の輸出価格が高騰→日本の石油の輸入価格が上昇→トイレットペーパーの値段が上昇→トイレットペーパーが不足」

このような論理的思考力を働かせた方はいましたか?でも実は、トイレットペーパーが不足したのは、デマ(誤情報)が大きく影響したのです。

当時、さまざまな製品の主原料となる石油の値上げが、物価の上昇を引き起こすのではないかという人々の不安感が高まっていました。そこに、1973年10月に日本政府が「紙資源節約の呼びかけ」を行なったために、「紙がなくなる」というデマが口コミで流れたのです。そして1カ月後の11月、大阪で、チラシに煽られた主婦が特売に殺到してトイレットペーパーが瞬く間に売り切れるという出来事がおこりました。その情報を聞いた新聞社が「あっという間に値段は2倍」という記事を出しました。このために騒動が大きくなり、全国各地でトイレットペーパー買い占め騒動が起きてしまったのです。

しかし、騒動が起きた当時はトイレットペーパーの品不足は実際にはありませんでした。要するに、マスコミや口コミに踊らされただけでした。今日もマスコミや口コミでたくさんのデマが流されています。注意が必要です。

今回の謎かけは「マシュマロ実験」に関するものです。「マシュマロ実験という社会心理学の研究では、マシュマロを食べるのを長時間我慢できた4歳児は、成長してからの成績が良かった。それはどうしてか?」

さて前回は、ミッドウェー海戦を事例に取り上げ、南雲忠一第一航空艦隊司令長官が山本五十六連合艦隊司令長官の意図(構想)を理解しなかったために、南雲は自らの目的を確立できずに、そこから達成すべき目標にブレークダウンできなかった。これがミドゥエー海戦の〝失敗の本質〟であることを述べました。

今回は、もう少し目的や目標について考察したいと考えます。

▼上級指揮官の意図が目的になる

状況判断の第一アプローチである任務分析における任務の付与は通常、上級指揮官から「達成すべき目標」とその「目的」をもって示されます。

指揮官は任務の分析にあたって、上級指揮官の意図(構想)をよく理解しなければなりません。与えられた任務が、上級指揮官の意図の中で占める地位と役割を明確にして「具体的に達成すべき目標」とその「目的」を明らかにします。

目的とは「上級指揮官の判決において示される意図」(菊池宏『戦略基礎計画』)です。また意図は、一般的には上級指揮官が目標を達成するために選定した手段となります。つまり、上級指揮官が選定した「具体的に達成すべき目標」を部下の指揮官に示すことが意図の伝達になります。

指揮官は上級指揮官の「具体的に達成すべき目標」を確認することにより、自らの任務上の「目的」を明らかにします。その上で上級指揮官から付与された「達成すべき目標」をブレークダウンして、自らの「具体的に達成すべき目標」を明らかにすることになります。

こうして上級指揮官が指揮官に与えた任務の具体化が図れるわけです。

▼社長の意図は部長の目的

上述のことを、会社での社長-部長-課長の指揮系統で解説しましょう。社長には会社の利益やブランド力を向上させる「大目的」があります。そこで社長は「競合他社との販売競争に勝利して利益を拡大する」ことを基本目標とします。これが会社全体から見た場合の社長の「大目標」となります。

社長は状況判断を行ない、いくつかの戦略構想の中から「設備投資に踏み切る」ことを「具体的に達成すべき目標」に選定します。つまり、社長は判決によって「大目標」に対する「大手段」を選定しました。この「大手段」が社長の判決によって示される部長に対する「意図」になります。

社長は複数の部長を呼び、「設備投資に踏み切る」という「意図」を示し、各部長には意図を達成するために振り分けたそれぞれの「達成すべき目標=中間目標」を伝えます。

たとえば、総務部長には「土地と建物の取得、経費の捻出、人員雇用対策」を、生産管理部長には「生産機械の購入と設置」を、営業部長には「新製品の販売計画の作成」を命じます。

「設備投資に踏み切る」という社長の「意図」は生産管理部長にとっての「目的」になります。生産管理部長は「設備投資に踏み切るために(目的)、『生産機械の購入と設置』(中間目標)を実現する」ことを認識します。これが与えられた任務の中で自らが「達成すべき目標=中間目標」を確認する行為になります。

次に生産管理部長は「社長の意図=自らの目的」および「社長から分与された目標=中間目標」、すなわち「生産機械の購入と設置」を踏まえ、任務分析します。そして「中間目標」をブレークダウン(具体化、細分化、特殊化)して「いつまでに、最低これくらいの資金を調達して、このような機械を〇〇台購入する」といった「具体的に達成すべき目標」を定めます。これが生産管理部長の「中間目標」に対する「中間手段」、すなわち生産管理部長が部下である課長に示す意図になります。

生産管理部長は各課長を集めて自らの意図、つまり「具体的に達成すべき目標」を意図として伝えます。同時に各課長に対し、担当すべき業務(任務)と業務目標(末端目標)を分与します。たとえば情報システム課長に「工場内の生産機械の情報システムの設計を〇〇までに行なえ」といった「目標=末端目標」を分与します。

情報システム課長は課に戻り、部長の意図と自分に与えられた末端目標を持ち帰り、それを最適に実施するための最適な手段である「具体的に達成すべき目標」を立てます。これが「末端目標」に対する「末端手段」です。

「末端手段」は課長が部下に与える意図になります。課長は自らの意図を課員に伝え、課員を督励して自らの目標を達成するために課の努力を集中します。

▼目標の分与によって意図が連結される

少し説明が冗長になりましたが、要するに社長の意図が部長の目的、部長の意図が課長の目的となり、課長の意図は課員の目的となるということです。そして、上司から与えられた「達成すべき目標」を任務分析により「具体的に達成すべく目標」にブレークダウンします。それを自らの意図とし、合わせて部下指揮官にそれぞれの「達成すべき目標」の分与を行ないます。この目標の分与によって、各レベル(社長、部長、課長)の意図が連結されることになります。すなわち、社長の意図が組織的、合理的、段階的に最下層に透徹することになります。

▼目標は整合性が図られるべき

目標は個別分断的に存在するのではなく、その先のもっと大きな目標があり、目標の下には具体化された目標があります。これを最終目標から逆行的に考えると、そこには連鎖があります。この連鎖には「時系列的連鎖」と「階層的連鎖」があります。前者は、「一流企業への入社←一流大学の入学←一流高校の入学」という形態となります。後者は、「会社の利益←営業本部の利益←営業課の利益←社員の営業成績」という形態となります。

最も重要なことは上位目標と下位目標には整合性が確保されているということです。言い換えれば、任務分析とは上位目標から整合性のある下位目標を導き出すことです。

▼上位目標との整合性を図る

整合性は厳密には2つあります。第1は上位目標との整合性です。たとえば、生産管理部長が「生産機械の購入と設置」という目標=中間目標を社長から分与された場合、この目標は、その先にある社長が設定した「具体期に達成すべき目標=大手段=意図」である「設備投資に踏み切る」という上位の目標に合理的につながっているかを確認します。

この際、整合性が担保されていなければ社長に意見具申することが必要です。命じられた目標を単にこなすだけでは、社長の意図を体(たい)することにならず、指揮の統一が図れないのです。

前出のミッドウェー作戦では、南雲は、山本から与えられた「ミッドウェー島を攻撃する」という目標が、「空母を誘い出す」という山本の上位目標(南雲にとっては目的)に対して整合性がとれているかを確認する必要がありました。この確認を行なうことで、自分の目標がどのように直属上官の意図の達成につながるかを理解できるのです。

▼下位目標との整合性を図る

第2は下位目標との整合性です。リーダーは上司から与えられた目標に基づいて、この目標を達成するために「具体的に達成すべき目標」を明確にします。

たとえば、生産管理部長は社長から与えられた「生産機の購入と設置する」目標から「具体的に達成すべき目標」を「生産機を○○台購入するため、資金〇〇円を△△までに確保する」とした場合、この両者に整合性があるかどうかを確認します。

こうして指揮系統におけるあらゆる目標間に整合性が確保されることを確認します。目標の整合性を確保されているか否かを判断することは、状況判断あるいは任務分析において非常に重要なことなのです。

(つづく)

【武器になる「状況判断力」(11)

-目的と目標を使い分ける-

□はじめに

前回の謎かけは、「マンホールの蓋はなぜ丸いか?」でしたね。マンホールとは「人(マン)の穴」、つまり中で人が工事や排泄などの作業をします。丸い蓋は穴に落ちない、つまり安全だからです。長方形のホールであれば、ホールの短辺が枠の長辺より短いので落ちてしまいます。正方形も同様です(一辺が対角線よりも短い)。

では、構造的には円と四角はどちらが強いのでしょうか。実は四角形の方が構造的に強いようです。にもかかわらず、電柱はどうして円柱であり角柱ではないのでしょうか。これは、周囲の木が丸いので電柱も円形にしたようで、そこに合理性はないようです。

今回の謎かけは「1973年のオイルショックではなぜトイレットペーパーが不足したか?」です。コロナ禍ではマスクが不足しました。今はトイレの便座が入手できなくなっているようです。危機には、いつも何気なく使っているものが不足するようです。

逆に、「この頃、〇〇の値段が上がっていないか?」と気づくこと、それは世界の変化の兆候を発見することかもしれません。

今回は、任務分析の〝キモ〟というべき目的と目標の確立について解説します。

▼目的と目標との関係

任務分析における「目的」と「目標」との関係について考察しておきましょう。目的は「成し遂げようとする姿」であり、最終地点、すなわちゴールです。

それは「会社を今よりも大きくする」、「安定した暮らしをする」とか抽象的・包括的な表現になります。

一方、目標は通過点や目印であり、「今年の売上高は○○億円以上にする」とか、「国家公務員試験に合格する」とか、具体的な数値か状態で示されます。要するに、目的は抽象的、目標は具体的です。

一連の作戦などにおいて目的は一つですが、目標は複数存在します。たとえば、富士山の山頂がゴールだとすると、まずは5合目、次には7合目、さらに9合目というように、時間的あるいは段階的に先の目標があります。また、登山ルートも複数あるので、5合目の目標も複数あることになります。

軍事における目的は、米軍用語の「Purpose」に相当します。それは「使命(Mission)に示された取るべき行動の理由」(堂下哲郎『作戦司令部の意思決定』)の意味です。

だから、目的は最終目的(ゴール)という意味よりも、「取るべき行動の理由」として捉える方が核心をついています。他方、目標は目的達成のための「手段」として理解すべきでしょう。

そして目的と目標との関係は「~のため」を用いて一体的に捉えることが重要です。たとえば「安定した暮らしをしたいために(目的)、国家公務員試験に合格する(目標)」といった具合です。

目的がなければ目標は生まれません。だから、目的の確立はいかなる時代でも、どんな組織や個人でも最優先事項です。その目的は、個人や組織の人生観や価値観から湧き上がる「なぜ○○をするのか」、すなわちを「why」を意識することで主観的に確立すべきものです。どのように優れたAIであって目的の確立を代替することはできません。

これに対し、目標は目的が決まれば論理的な思考で客観的に導き出すことが可能です。やがて目標の選定はAIの独擅場になる可能性もなきにしもあらずだと考えます。

▼ミッドウェー作戦での目的と目標の混同

上述のように理論上、目的と目標の差異を説明できたとしても、現実には両者の判別は容易ではありません。特に状況が複雑な戦争局面などでは目標と目標がしばしば混同されます。

わが国が対米劣勢へと転じた〝分水嶺〟であるミッドウェー作戦(1942年)を振り返ってみましょう。

この作戦では、「敵機動部隊を撃滅する」、「ミッドウェー島を攻撃・占領する」のいずれが目的であり、目標であったのでしょうか?

太平洋戦争の全局からみれば、「敵機動部隊の撃滅」が目的であり、これを誘い出すための「島の攻撃・占領」が目標であるいえます。他方、ミッドウェー作戦だけを考えれば「島の攻撃・占領」が目的で、この行動を妨害する「敵機動部隊の撃滅」が目標になります。

ミッドウェー作戦では目的が不明確であったため、目的と目標の混同が起きていました。これに関して、名著『失敗の本質』は次のように記述しています。

「ミッドウェー作戦は米空母軍の出撃を誘出するための条件をつり出さなければならなかった。つまり、この作戦の真のねらいは、ミッドウェーの占領そのものではなく、同島の攻略によって米空母群を誘い出し、これ対し主動的に航空決戦を強要し、一挙に捕捉撃滅しようとすることにあった。

ところが、この米空母の誘出作戦の目的と構想を、山本(五十六)は第一機動部隊の南雲(忠一)に十分に理解・認識させる努力をしなかった。ここに、後世に至って作戦目的の二重性が批判される理由がある。」

つまり、一連の作戦に「米空母の誘出作戦」と「ミッドウェーの占領」という二つの目的があったことが失敗の原因であったと指摘しています。

▼山本の構想は南雲には理解されなかった

山本は「強大な国力を有する米国との長期戦は回避しなければならない。しかし、日本近海での『邀撃作戦』を取っていては米軍が主導権を握るので長期戦は回避できない。よって、自主積極的に米空母群への打撃を行い、米国海軍および米国民の戦争士気を喪失させる」といった意図(構想)を持っていました。

しかしながら、南雲はミッドウェー基地への攻撃(第一次攻撃、米空母の誘出作戦)した後も)、米空母群への攻撃に備えるのではなく、ミッドウェー基地に対する第二次攻撃を決心します。つまり、第一次攻撃後も米軍の空爆が止まないという状況に接し、一方で「ミッドウェー攻略中に米空母が出現してくることはあるまい」との希望的判断に依拠して、海軍航空機の装備を米空母の艦艇攻撃用(米空母機動部隊用)から地上攻撃用(ミッドウェー基地用)に切り替えたのです。

ところが、その時、日本海軍の索敵機から「敵ラシキモノ10隻ミユ」との情報が入ります。南雲は「空母を含む米艦隊が近くに存在することが確実だ」と判断し、ミッドウェーに対する第二次攻撃を取りやめ、再び航空機の装備を地上攻撃用から艦艇攻撃用に転換する決心をしました。

さらには帰還する第一攻撃隊を空母に着艦・収容することを、米機動部隊への攻撃よりも優先したため、逆に米軍機による先制爆撃を受けて、日本海軍は4隻の空母を含む主要艦艇を失ったのです。

南雲は上級指揮官である山本の構想を十分に理解していなかったのです。山本の構想は、南雲自身が行動を起こすための目的に相当します。つまり、南雲は山本の構想、すなわち南雲自身の目的を確立していなかったために、それを具体的な目標にブレイクダウンできなかったのです。ここにミッドウェー作戦の〝失敗の本質〟があります。

目的が未確立であったため、米空母が予想以上に早くミッドウェー海域に出現したらどうするかという対策もなく、情報収集の態勢、企図の秘匿や欺瞞の措置は不十分であり、現場での南雲の命令は二転三転してしまったのです。

(つづく)

武器になる状況判断力(10)

-任務分析は状況判断の基礎 -

□はじめに

前回の謎かけは、「大阪ではエスカレーターの右側に立ち、東京では同左側に立つのは、なぜか?」です。大阪の方には当たり前かもしれませんが、広島出身(1960年)の私は東京方式の左立ちに慣れていたので、今から10年前に大阪に行った時に、友人に注意され、少々まごつきました。

そこで、その理由を改めて調べると「1967年に阪急梅田でエスカレーターが設置されたとき、右手で手すりを持つ人が多かったので混雑し、『お歩きになる方のために左側をお空け下さい』とアナエンスした。それが1970年の大阪万博の時の海外の観光客を意識して、当時、『国際標準』の右立ちルールが定着した」などとあります。

私の〝謎(why)〟はここからです。では、「東京人も右利きなのに、なぜ東京では右立ちではないの?」、「そもそも、右利きは荷物を右で持つのだから、左手で手すりを持った方が自然ではないの?」、「国際標準とはいったい何?」「車両の右ハンドル、追い越し車線は右側が定着している日本では歩く際にも右側追い越しが自然では」……その他、疑問が出てきます。

3年前に台湾に行きました。大阪と同じようにエスカレーターが右立ちであったので、台湾も大阪と同じかと思うと同時に、私は「台湾の車両は右側通行だな」(実際そう)と咄嗟に考えました。

今では車両の「国際標準」は右側通行ですが、これは米国製の左ハンドル車の世界的な増加と輸出が影響したようです。そのため、安全性に配慮して(ドライバーが中央で進行方向が見やすい)車両の右側通行が国際標準になりました。左ハンドル車の増産は、右利きの人がブレーキハンドルを引きやすかった(当時は米国車のブレーキはハンドルであった)からといいます。つまり人間の特性に基づき利便性と安全性が配慮されました。

物事は「なぜか、なぜか」を問い詰めると、より論理的な回答を得ることができます。しかし、いくら論理的思考を働かせても解けない疑問もあるという点です。私は、膝の破れたジーパンの価値に合理性を見出すことはできませんが、大阪のエスカレーター右立ちも合理性の観点からは説明しにくいのでは。

迷信、言い伝え、風土、慣習、過去の偶然の所作が現在の事象に影響している場合が多々あります。国際政治も同様です。「なぜ、米国はイラク攻撃をしたのか?」。それを「なぜなぜ」で追求すれば、ひょっとすれば、そこに表面では目に見えない、たとえば米国のディープステートの真実の意図が隠されているかもしれません。逆に、この攻撃は単なる施政者の〝復讐〟〝気まぐれ〟〝人気取り〟〝勘違い〟などであったのかもしれません(喩えばの話)。

要するに、物事はすべて合理で動くわけではないし、そこに必ずしも因果関係があるわけでもないのです。頑迷固陋に〝因果関係論〟に立って、点(事象)と点を無理繰りに結びつけて物事を判断とようとすれば誤ることがあります。

ところで、最近は「エスカレーターでは歩かないでください」というアナウンスがされるようになりました。しかし、依然として東京などでは左立ちであり、右側は開放され、皆さんはどんどんと右側を歩いて追い抜いていきます。

緊急の人は階段を歩けばよいし、体のご不自由な人はエレベーターを利用していただき、その他の人は左右のエスカレーターに並んで乗ればと思うのですが。ただし、歩いてはならないのだからといって、エスカレーターの右側に立つ〝勇気〟は私にはありません。

少々、解説が長くなりましたので、次回は簡単な謎かけにしましょう。「マンホールの蓋は、なぜ丸いか?」です。これは、「マイクロソフト社」の入社試験にもなったという非常に有名な問いです。

さて、これからしばらくは米軍式「状況判断」の思考手順に基づいて論旨を展開します。今回は、軍隊式「状況判断」の第1条、任務分析について解説します。

▼任務分析とは何か?

最初のステップは、任務(mission)、すなわち任務分析です。任務分析は軍隊式「状況判断」の基礎というべきものです。

任務分析とは、指揮官が自らの地位と役割を考察し、「達成すべき目標とその目的を明らかにする」ことです。

もう少しかみ砕いて解説しましょう。筆者が若手自

衛官時代に学んだ戦術教育では、教育開始に先駆けて事前課題が出されました。それは、ほぼ決まって「諸君は〇〇地域の△△を命じられた指揮官である。

指揮官としての任務分析は?」というものでした。つまり、事前に配布された仮想の状況想定(例:作戦地域の概況、敵の進出状況、我が軍の準備状況など)を読み、自らの地位と役割(例:師団の先遣連隊として、当面の敵を撃破して主力の進出を容易にする)を認識した上で、上級部隊指揮官から与えられた任務に基づき、「具体的に達成すべき目標が何か?」を案出します。

たとえば「〇月△日まで、××丘陵のA高地を死守して、主力の□□平地への進出を掩護する」などのことを明らかにします。つまり、任務分析では、自分(あるいは所属組織)が組織の中でどのような地位にあって、組織目標のどの部分を達成すべきであって、そのためには具体的に何をなすべきかを明確にする思考過程です。言い換えれば、自分が設定した具体的な目標を達成しなければ、組織目標の達成はできないことを深刻に認識させる思考過程といえるかもしれません。

▼任務分析は自衛隊の優れたノウハウ

他方、〝転勤族〟である自衛官はさまざまな職場を転々として、それに付随する職務につきます。新たな職場でまずやることが「職務分析」です。任務分析と職務分析の意味合いはやや異なりますが、自分の地位と役割を考察して、具体的に達成すべき目標を明らかにするという点はまったく同じです。

大規模な軍事組織である自衛隊は高度な組織性が求められます。それゆえに、個人の努力を散逸させずに、全体目標に集中発揮する試みが重視されており、それが任務分析や職務分析であるといえます。

筆者は、自衛隊の人材教育が民間に比して優れているなどと申し上げるつもりはありません。大規模な国家組織であるが、鈍重性ゆえに、人材教育は形式主義に陥り、時代ニーズに柔軟に対応できないなど、多くの非効率性が存在します。しかしながら、任務分析と職務分析を重視する点は、「組織で仕事する」がモットーの自衛隊の優れたノウハウであると考えます。

▼地位、役割の考察とは何か

任務分析は、前述のとおり、「指揮官が自らの地位と役割を考察し、達成すべき目標とその目的を明らかにすること」ですが、地位と役割の考察について解説を加えておきます。

小難しい説明はさておき、戦前の総力戦研究所の所長などを歴任した飯村穣中将(※)の次の言を引用しましょう。

「私が兵術研究の道程として選定し、深く掘り下げたものは、通俗的な次の言葉である。一、私は誰でしょう。二、ここはどこでしょう。三、誰が、何が、私をこうした、こうさせたか。(以下略)」(上法快男『現代の防衛と政略』)

筆者は、ここには任務分析の本質が述べられていると考えます。軍隊、企業に限らず、およそ、その組織に所属する個人は、まず自分がどこに所属して、どのような仕事を任せられているのかを認識する必要があります。次に、視野をやや広くして、組織がどこに向かっているのかを認識する必要があります。すなわち、組織の目的やビジョンを理解しなければなりません。さらに関係者の要求(誰)および仕事上のニーズ(何)に対し、自分が行なっていることは整合しているかを考えなければなりません。要するに、「自分の周囲にいる誰が私に何を求めているのか?」、「私がやろうとしていることが誰のためになり、それが組織全体のいかなる目標につながっているか?」、

「どの仕事が緊急かつ重要であるか?」などを考える必要があります。つまり、周囲をよく見渡して連携をはかり、周囲とともに上司の意図を体するという意識を持つことが重要です。

自分の任務と役割を認識することで、周囲の雰囲気に流されない、ブレない信念が確立されます。その信念あるいは自己の価値観を軸にすることで、「自分が組織に対し、いかに貢献できるか、貢献するために達成すべき具体的な目標は何か?」を明確にすることができると考えます。

(※)飯村譲中将は総力戦研究所において、研究生とともに「総力戦机上演習」という、日米開戦となった場合の状況シミュレーションを行ない、日本の敗北という結論を出した。この演習では、船舶の喪失が生産量を上回り、戦争遂行が困難になること、ソ連とアメリカが軍事的に協力することなど実際の太平洋戦争をかなり正確に予測した。しかしながら、研究所という性格もあり、この予測が実際の政治的意思決定に何ら影響を及ぼさなかった。著名な思想家である安岡正篤氏は、「飯村穣将軍は日本現の武人中恐らく唯一の名将というべき人であろう」( 上法快男『現代の防衛と政略』1973年)と述べている。