2030年の台湾有事の認知戦シミュレーション(第6回)

■認知戦・AI戦争に脆弱な日本

わが国は、中国の台頭以来、北方重視から南西重視の防衛方針への転換を図ってきました。しかし、ウクライナ戦争により、ロシアがわが国の脅威であることが明確となり、防衛関係者の間で北方および日本海への備えの強化が議論されるようになりました。しかし、予算や資源の限られた中では、全面的な対処は難しく、また南西重視方針の変更は容易ではありません。

わが国は、これまで個別の事態を想定した防衛力整備を行ってきましたが、中国、ロシア、北朝鮮による複合的な攻撃や不法行動を想定したものではありませんでした。このため、複合的な事態に対応する能力が不足していました。

さらに、ウクライナ戦争の教訓から、中国は無人機やAI搭載型の自律兵器の開発を急ピッチで進めています。一方、わが国も中国の台湾周辺空域への無人機侵入に対抗すべく、無人機活用の検討を開始しています。しかし、法的な制約により、無人機は兵器未搭載型であるため、有事において十分な対処ができない状況です。

防衛関係者は、中国、ロシア、北朝鮮がサイバー・情報戦や認知戦、AI戦争の準備を進めていることを認識していますが、この脅威認識が国民にはうまく伝わっていませんでした。

また、わが国はウクライナ戦争の教訓を十分に活かすことができませんでした。ウクライナがロシアに対して善戦できたのは、2014年のウクライナ危機以降、官民挙げてファクト・チェック体制の構築、インテリジェンス・リテラシーの強化、サイバー・レジリエンスの向上などに取り組んだ成果があったからです。しかし、わが国はこの教訓を認識しても、結局は省庁間の対立や縄張り争いから、ファクト・チェック体制の構築や国民の啓発教育が進展しなかったのです。

わが国は第一次世界大戦の教訓から総力戦の重要性を認識していましたが、軍官対立によって後れをとりました。同様に、偏狭的な民族的特性が総体的な対策の実行を妨げました。

わが国の社会では、AIの普及によるネガティブな状況が広がっています。日本民族は群れを成し、同調主義に陥りやすいとされ、生成AIの普及により思考や判断を回避する傾向が強まっています。これにより、ソーシャルメディア上のインフルエンサーの意見に同調し、根拠のないデマや儲け話が拡散され、短絡的な暴力行為が増加しています。

日本社会では、右翼・左翼、リベラル・保守の主義や主張、世論の分断が見られ、それが歴史認識や政策をめぐる過激な論争に発展しています。集団自体の意見や価値観を主張し、他者との対話や妥協を困難にする傾向が強くなっています。

■リベラル思想が強まる南西方面

2010年代に入り、中国の南シナ海や東シナ海への積極的な進出が加速しました。この動きにより、沖縄・南西諸島地域では、戦後以来続いてきた反戦・リベラル・左派の立場に対抗する形で、国防・保守・右派の意見が強まり、自衛隊の誘致も進んできました。一方で、米軍撤退論は依然として根強く存在していました。

2020年代後半以降、沖縄本島や南西諸島では、米軍基地の撤去や中国との関係改善を求める声が高まり、これに対し防衛力の強化を求める意見との間で対立が生じています。政府と地域住民が一体となって南西防衛を強化してきましたが、最近ではその流れが停滞している兆候が見られます。

一部のマスメディアやソーシャルメディアでは、「中国を刺激することは危険だ」「政府は沖縄を犠牲にしている」「中国が攻撃しても米軍は守らない」「誘致した陸上自衛隊基地は地域経済に貢献しないばかりか風紀を損なう」などのネガティブな情報が広まっています。

沖縄の地方新聞では、「琉球は独立国であった」といった独立運動を促す特集が組まれています。これに呼応するかのように、小規模な独立運動が起きており、噂では運動参加者に手厚い日当が支給されていると言われています。

2030年現在、沖縄地方での国政選挙や地方選挙では、与党が軒並み敗北しています。野党候補は政権公約に米軍基地の撤去や自衛隊の縮小、中国との経済関係の構築を掲げて支持を集めています。彼らの街頭演説は従来にない盛り上がりを見せています。

(次回に続く)

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