武器になる状況判断力(3)

新連載:武器になる「状況判断力」(3)

状況判断の役割──指揮の核心「決心」を準備する

□はじめに

「武器になる状況判断力」の3回目です。前回「東京にはスカイビルや東京タワーなどの高い電波塔があるが、大阪にはなぜないのか?」という謎かけをしました。この答えは、「平坦な関東平野では、テレビやラジオの電波を広範囲に送信するために高い電波塔が必要。関西には生駒山などの山が点在し、その山頂に塔を設ければいいため、平地に高い電波塔を建てる必要がない」とのことです。

 このような同時期における類似事象を比較し、異なる特徴を浮き彫りにし、その理由などを探る思考法を〝ヨコの思考法〟と言います。これは歴史や経年変化などに着目する〝タテの思考法〟とともに物事の現状を深く見るための手法です。

 今回の謎かけは「千葉県の松戸駅と京成津田沼駅を結ぶ全長は26.5Kmの新京成線は山も谷もないのに不自然なカーブが連続する。直線で結ぶと15.8Kmであるが、なぜ10Km近くも余計に走っているのか?」です。なお、この線路は明治初期に施設されたようです。

 さて、静岡県熱海市伊豆山(いずさん)の土石流災害では、多数の方の尊い人命が失われました。熱海とはいえば、衰退したイメージの観光地でしたが、街おこしで2017年頃からV字復活を成し遂げました。18年には20代から30代の若者で大いに賑わい、「熱海の奇跡」とも称せられました。

しかし、コロナ禍の影響を受けて観光業は再び苦境に直面し、今回の土石流災害では宿泊キャンセルが増加しているようです。

ただし、被災エリアは市内のごく一部であることを認識し、はたして自然災害か人災かを判断する必要があります。

 熱海には、V字復活を成し遂げた地域活力やノウハウもあります。きっと今回もまた苦難を乗り越え、もっと強い魅力ある都市となり、地方都市の目標になると考えます。それを私は祈ります。

前回は「状況判断」の意義、決心との関係性について解説しましたが、今回は状況判断が作戦指揮においてどのような役割を担っているかについて解説します。

▼状況判断は統率および指揮の要素

状況判断は統率および指揮の要素です。では統率とは何か、指揮とは何かを押えておきましょう。

統率とは、指揮官が任務を達成するために指揮下部隊を統(す)べ、率いる行為です。統率は指揮、統御および管理に分けられます。つまり、統率は指揮や統御の上位概念です。

統御は、組織内の各個人に、持てる全能力を発揮し、進んで指揮されたいと思わせる心理工作です。指揮官は良好な統御を基盤として指揮を行ないます。

一方の指揮は、統御によって湧き立てたエネルギーを総合して、組織全体の目標に適時適切に集中させるものです。

管理は組織が活動する上での必要な規則や諸制度を整えることで、適切な人事管理やコンプライアンスの維持などが該当します。

要するに、指揮官は統御と管理によって組織を健全な状態に保ち、適時適切な指揮によって任務を達成することになります。

▼状況判断は決心の準備作業

指揮とは指揮官が指揮権に基づき部隊や個人を自らの意志に従わせることです。指揮権は指揮官だけに与えられた固有の権限であり、他人に委任したからといって、指揮から生じた損害に対する責任は免れません。個人問題に関しては、その個人が指揮官であり、意思決定の責任者です。失敗したからといって他人に責任を負いかぶせることはできません。

指揮官は、作戦・戦闘上の任務を達成するために、指揮権に基づいて作戦、情報、兵站、人事、その他の幕僚(スタッフ)を総合的に運用します。

統御は心理工作なので指揮官の個性、人格、人間的な魅力などの要素が統御の良否を左右します。統御には一定の形式はなく、テクニック(技術)は通用しません。

他方、指揮には一定の定式があります。それは、(1)状況判断、(2)決心、(3)命令、(4)監督の4つの手順によって行なわれます。

指揮の中では決心が最も重要です。決心は指揮の核心ともいうべきものです。『統帥参考』では「指揮官の決心は実に統帥の根源である」、『作戦要務令』では「指揮の基礎をなすものは実に指揮官の決心なり」と規定されています。

他方、状況判断については、『作戦要務令』は「指揮官は状況判断に基づき、適時、決心をなさざるべからず」と規定しています。

つまり、指揮とは指揮官が決心し、決心を実行に移す作業です。状況判断は決心を準備する作業であるといえます。すなわち、決心に役立たない状況判断は意味がありません。

『作戦要務令』では、「指揮官はその指揮を適切ならしむるため、たえず状況判断しあるを要す」とあります。つまり、状況判断が不適切であれば、誤った決心をもたらし、適切な指揮が行なえず、任務が達成できないのです。

▼指揮官は幕僚の状況判断には拘束されない

 状況判断は指揮官が行なうことが建前ですが、実際には決心と異なり、多くの幕僚(スタッフ)が状況判断に関与します。

 陸上自衛隊では指揮官が行なう状況判断を「状況判断」と言い、幕僚が行なう状況判断を「幕僚見積」と呼称して区別しています。その幕僚見積には「地域見積」「情報見積」「兵站見積」「作戦見積」などがあります。

幕僚は指揮官の状況判断を幕僚見積によって補佐します。各幕僚は、それぞれが所掌の状況判断(幕僚見積)を行ない、それを総合的に指揮官に具申します。これは、作戦規模や組織が拡大するにつれ、すべてのことを指揮官が判断するには限界があるからです。

各幕僚の状況判断が異なる場合、参謀長(幕僚長)が意見の統一を行ない、指揮官に最良の行動方針(方策)を具申します。ただし、指揮官も幕僚の状況判断を参考にしながら刻々と独自の状況判断を行なっていきます。

幕僚が出した状況判断に指揮官は拘束されません。すなわち同意しても良いし、同意しなくても良いのです。指揮官が幕僚を信頼し、その意見具申を尊重することが良好な組織を確立・維持し、適切な指揮を行なうことの基本です。しかしながら、最終的には指揮官自らの状況判断に基づいて決心が行なわれます。

多数決は民主主義が生んだ優れた原理です。民主主義国家では主権は国民にあるので、多数決による政治決定が行なわれることが多々あります。重要法案の制定は選挙によって選ばれた政治指導者たちによる多数決の意思決定が行なわれ、大阪首都構想のような住民投票による多数決もあります。

意思決定には独裁、多数決、合意による3つの方法があります。この順番に周囲による納得感は上がるものの、状況変化への迅速な対応は困難となります。作戦戦場での戦況は目まぐるしく変化し、迅速な意思決定が必要です。だから、軍事では1つの作戦における指揮官は1人と定められ、その指揮官が総合的に状況判断し、決心をすることが大原則です。なお、筆者が入隊した自衛隊では多数決で意思決定が行なわれたことの記憶はほとんどありません。

一般社会やビジネスではどうでしょうか? 変化が著しい現代社会ではビジネスでもスピードが求められます。然るに、日本企業では意思決定を役員会に委任し、誰かがリスクを背負って迅速に意思決定することができないとの批判も聞きます。

また、リーダーが責任をとらないとの批判もありますが、それは集団での意思決定制度がもたらしているのかもしれません。多数決や合議がリーダーの決断力不足や責任の放棄という負の側面を招いていることには注意が必要です。

ただし、ソフトバンクグループの孫正義氏やユニクロの柳井正氏のような独断専行型の経営者も登場していることは、日本のビジネス界での変化を象徴しているといえます。

リーダーは他人の助言に耳を貸さずに何でも独断で決めて良いということではありませんが、各りーダーが強固な強い意志を持って、周囲の意見や世論などに流されることなく、総合的な状況判断と決断を下していただきたいと思います。最近の政治を見て、そのことをつくづく思います。

(つづく)

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