情報戦は、国家あるいは戦闘集団の目標を達成するすべての活動と定義した場合、新しい試みではありません。情報戦のルーツは紀元前5世紀の「孫子」の兵法や古代ギリシャの戦争でのトロイの木馬まで遡ることができます。ここでは、スパイによる諜報や心理戦などの様相がみられます。
第一次世界大戦では、各国はスパイを通じて敵側の情報を入手したほか、電波傍受、暗号解読などの技術的手法を駆使した情報戦を展開しました。第二次世界大戦では、英国のダブルクロス委員会がドイツ側のスパイを二重スパイとして活用し、対独戦争の流れを変えたました。こうして、情報戦は偽情報、欺瞞、プロバガンダ、電波情報の収集・伝達・防護といった形で認識されました。
1991年の湾岸戦争は、未来の戦争の様相を変化させる分岐点となりました。つまり、電子技術分野を制する者が戦場を支配するという新たな認識が生まれました。コンピュータとネットワークにより構築され、さまざまな情報が行き交うサイバー空間での情報戦が注目を集めるようになりました。
それに伴い、情報戦(インフォメーション・ウォーフェア)という言葉を頻繁に耳にするようになり、その定義などが試みられるようになりました。1993年にランド社が発行した解説記事「サイバー戦争が来る(Cyberwar is Coming)」では、ネットワーク戦、政治戦、経済戦、指揮統制戦(サイバー戦含む)の4つに区分しています。以下、同記から要点を抽出します。
ここでのネットワーク戦(net warfare、netwar)は、国民が望ましい国家行動を取るよう国民の意識に影響を与えたり、その意識を管理することとされています。ネットワーク化された通信手段によって、社会全体の情報を管理するものと理解されます。
政治戦(political warfare)は、国家指導層の意思決定や政策に影響を及ぼす活動です。
経済戦(economic warfare)も政治戦と同じく国家指導層の意思決定や政策に影響を及ぼすものですが、前者は政治システム、後者は経済システムに目標が指向されます。
指揮統制戦(C2W、comand and control warfare)とは、軍事目的を達成するため、軍事目標に対して行われる軍事作戦で、軍事知識を活用したり、心理戦、欺瞞、および電子戦を仕掛ける行動です。サイバー戦も指揮統制戦に含まれます。
その後1995年、当時の情報戦理論の第一人者のマーティン・リビック(Martin Libicki)は情報戦(IW)を7つのカテゴリーに分類ことを提案しました。これが米国防大学での一般認識となりました。また、情報戦の目的は情報優越(superiority)と理解されました。