SNSと民主主義について思う(1)


■サイコグラフィック(心理学的属性)を利用したマーケティング戦略

ソーシャルネット・ワーキング・システム(SNS)がビジネスの世界を席巻しています。

SNSのビジネスモデルには大きく分けて「広告収入モデル」「ユーザー課金モデル」「他サイト誘導・連動モデル」があるとされます。

この中で、最近特に注目されているのが、「他サイト誘導・連動モデル」です。これは、「SNSをユーザーの集客や定着のツールとして捉え、自社・他社問わず他のサイトに誘導、あるいは連動させることにより得られるシナジー効果を期待するモデル」(ウィキペディア)です。

さらには、ビジネスにおいては、「SNSがマーケーティング戦略のプラットフォームになっている」という点が重要です。

マーケティング戦略とは「誰に、どんな価値を、どのように提供するか」を定めることです。この戦略を立てる手順が「STP」です。これはS(セグメンテーション)、T(ターゲティング)、P(ポジショニング)の3つからなります。

つまり、①不特定多数の人々を同じニーズや性質を持つ小さな顧客グループ(セグメント)に分ける(セグメンテーション)。②細分化したグループの中から、どの顧客に狙いを定めるかに決定する(ターゲッティング)。③顧客に対して、競合他社と比較して自社が魅力ある優位な立ち位置を占めるにはどうするかを決定します(ポジショニング)。

情報分析と戦略立案との関係から言えば、情報分析がセグメンテーションに相当します。セグメントメンテーションには、「デモグラフィック」(性別、年齢、収入、独身/既婚など、事実関係)、「ジオグラフィック」(住居あるいは勤務地域)のほかに最近ではサイコグラフィックが注目されています。

サイコグラフィックは、顧客をライフスタイル、行動、信念(宗教)、価値観、個性、購買動機などによって分類します。つまり、購買者の心理的要因(属性)に焦点を当てます。

他のセグメンテーションに比べて、顕在していない潜在する要因であるので把握は困難です。他方、顧客の意思決定をより直接的に左右するので有効なプロモーションが可能になります。デモグラフィックでは「誰が」買うのか明らかにできても、「なぜ」買うのかはサイコグラフィックでなけれはならない、ということになります。

多様化する顧客のニーズや変化が激しい意思を、迅速かつ効果的にセグメーテーションできるようになったのはICTの発展によります。すなわち、SNS、ビックデータ、AIなどがセグメンテーションを可能にました。

これまでの顧客データの獲得は主として、市場でのインタビューやアンケート配布でした。これは準備が面倒であり、集計、分類、データ化など大変な労力がかかります。しかも、商品を買わない潜在顧客についてのデータは容易に集めることができません。ダイレクトメールによる潜在顧客を調査するという方法もありますが、経費との関係から対象は限定的です。

しかし、SNSではこのような手間はかからず、一挙にセグメンテーションが可能だといいます。すでに「膨大な情報をSNSで集める。それをAIによるアルゴリズム分析でパターン化する。さらに対象とする個人に関する情報を詳細に分析し、嗜好や行動パターンを把握する。そして、特定の顧客をターゲットにして、顧客の購買意欲をそそる商品を宣伝する」。

このような、SNSをプラットフォームとするマーケティング戦略が日常的に行われています。

Facebookのサービスの1つに「ターゲット広告」というものがあります。Facebookは、性別や年齢、趣味、嗜好などのユーザーの属性情報を多数保有しています。その属性データから、広告依頼主は広告を見てもらいたい層をターゲットを絞ります。これによって中小企業でも、高額なデータを購入せずとも、効果的なターゲット広告が可能になります。

Facebookは、ユーザーの投稿や「いいね!」や「共有」のボタンを押したページ、ユーザーがFacebook以外に訪れたウェブサイトなどトラッキングしているようです。

また、外部のマーケティング会社とも連携し、ユーザーのクレジットカードでの購入履歴から、役所の公的な記録に至るまで、個人情報を幅広く収集しているとされます。

そうして、顧客の趣味嗜好、財力などから、「何を購入しようとしているか、何が購入できるか」などを分析、判断します。

サイコグラフィックの技術が向上したことで、ターゲティングの活用の幅が広がりを見せています。

今日、SNS上の情報から、ユーザーの政治思想、支持政党などが分析、把握できるようになりました。このため、マーケティングは「マイクロターケッティグ(microtargetting)」と呼称されるようになりました。つまり、ビッグデータとAIがセグメーンテーションを〝マイクロ〟化したというわけです。そして、ビジネスのみならず、選挙などの政治分野でも活用されるようになってきたのです。

しかし、有権者一人一人をプロファイリングし、ある種のマインド・コントロールにも似た手法で政治的にコントロールすることが警戒されています。また、どのようなデータを、どのように入手し、どのように利用したのか、そこに法的な問題はないのかという疑念もあります。

つまり、SNSを何気なく使っている内に、個人情報の漏洩や不正利用により、気づかぬうちに民主主義が操られるような事態を招いているとの危惧があるのです。

マイクロターゲティングの選挙活用は2000年代から行われていましたが、とくに2016年の米大統領選挙で注目されました。すなわち、トランプ政権がマイクロターゲティングによって誕生したというのです。

次回は米大統領選挙とマイクロマーケティングについて考察します。

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