ツイッター、トランプ大統領のアカウント停止に思う

1月8日、ソーシャルメディア(SNS)大手のツイッターがトランプ大統領のアカウントを「さらなる暴力扇動のリスク」を理由として永久停止したようです。

私にとって、このニュースは今後の国際社会の行方を占う〝ドライバー〝であると思われますので、報道事実を中心備忘録として書き残しておきます。

事の起こりは、1月6日午後、ワシントンの連邦議会議事堂で大統領選の結果を確定させる上下両院の合同会議が開催中のことです。トランプ大統領の支持者が多数、会期場に乱入し、一時占拠しました。合同会議は中断を挟んで再開され、7日未明に大統領選の結果確認を終え、バイデン次期大統領の勝利とトランプ氏の敗北が正式に確定しました。この乱入騒ぎで警察に銃撃された女性1人を含め、4人が死亡した模様です。

この乱入事件に世界が注目しているようですが、私はツィターの停止の方に関心がありました。ツィターがトランプ氏のアカウントを停止した経緯は以下のとおりだとされています。

トランプ氏は、事前に支持者が議事堂で抗議するよう扇動していたとの批判が集まっていました[1]。これを受けて、ツイッターは6日にトランプ氏のアカウントを一時停止しました。その後、アカウントは一時解除され、ツイッターによる停止表明から24時間後の7日午後7時10分(東部時間)に、トランプ氏は暴力への批判と国民の団結を呼びかける2分41秒のスピーチ動画をツイッートしました。

さらに8日午前9時46分と午前10時44分にツィートし、この中で、トランプ氏が「20日のバイデン新大統領就任式に出席しない」などと表明し、「米国の愛国者たち」などの表現で支持者らを激励しました。

これを問題視したツィターが8日午後6時21分にトランプ大統領のアカウントを「さらなる暴力扇動のリスク」を理由として永久停止しました。

ツィターの動きを受けて、SNS各社が軒並みトランプ大統領のアカウント凍結に動いています。

フェイスブックもアカウント停止の無期限延長を表明しました。ツイッターの代替として、多くのトランプ氏の支持者が活用するソーシャルメディア・アプリ「Parler(パーラー)」については、グーグル社が8日、アップル社が9日、それぞれ自社のアプリ・ストアで凍結・削除しました。このほか、アマゾン社がホスティング・サービスから削除する決定をしました。アップルやアマゾン・ドット・コムは、右派が集まる交流サイト(SNS)「パーラー」をアプリストアやウェブサービスから削除しました。

ツィターの永久停止に対して、トランプ氏は米国大統領の公式ツイッターアカウントを使って、以下のようには表現の自由を損なうものとして反論してます。

「ずっと言い続けてきたことだが、ツイッターは表現の自由の禁止へとどんどんと突き進んできた。そして今夜、ツイッターの社員たちは民主党や急進左派と連携して私のアカウントをプラットフォームから削除し、私を沈黙させた――さらに私に投票してくれた7,500万人の偉大な愛国者の皆さんのこともだ。ツイッターは私企業だが、通信品位法230条(プラットフォーム免責)の恩恵なしには長くは存続できないはずだ。いずれそうなる。他の様々なサイトとも交渉をしてきた。いずれ大々的な発表をすることになるだろう。近い将来、我々独自のプラットフォームをつくる可能性も検討している。我々は沈黙しない。ツイッターは表現の自由とは縁もゆかりもない」[2]。(平和博「Twitter、Facebookが大統領を黙らせ、ユーザーを不安にさせる理由」)

トランプ氏は「表現の自由」という観点から、ツィター社を批判し、近い将来、独自のプラットフォームを立ち上げる可能性をちらつかせ、対抗意志を露にしました。

 一方、野党民主党は「トランプ氏が支持者らによる連邦議会での暴動を扇動した」などとして、11日、連邦議会下院にトランプ大統領を弾劾訴追する決議案を提出しました。一般の刑事事件の起訴状にあたる決議案では「トランプ大統領は政府への暴力をあおる重罪に関与した。大統領は国家安全保障と民主主義への脅威であり続ける」と非難しています。

 SNS(ソーシャルメディア)が社会的な問題を引き起こすことから、かねてよりコンテンツ管理強化を要求する声は高まっていました。これに、今夏の議事堂占拠事件が起こったのですから、今回のツィターの措置には一定の理解が示されているようです。

しかし、この問題の意味するところは小さくありません。なにしろ、トランプ氏はまもなく大統領を辞することが確定しているとしても、未だ現職の大統領なのです。一介の私企業であるツイッターがあからさまな政治活動を行っていることには、権力層への癒着という違和感さえあります。

2008年ごろからツイッター、フェイスブックなどのSNSが普及し、非民主主義の権威主義体制下の国の一部では、政府と国民との力関係が逆転する現象が起きました。2010年代のアラブの春はその記憶に新しいところです。その裏には欧米などの民主化運動への支援の影がちらついていました。他方、米国や中国などではSNSが政府などの権力と連携して、水面下で国民をコントールしているとの批判もあります。

今回のツィターのなどによる停止措置は、これまでのSNSによる水面下での政治工作が表面化したともいえます。トランプ支持派の暴力的行為は論外ですが、これにしても実態はどれほど深刻なのものかはわかりません。

香港デモでは、我々は民主化グループの活動がたとえどれほど過激であろうとも、それを〝善〟として捉え、取り締まる側を民主主義を抑圧する〝悪〟だと捉える傾向があります。香港民主化グループと、会議に雪崩れ込んだトランプ支持者はどうほど違うのでしょうか? 一方を〝善〟として、トランプ支持派を〝悪〟と認識する我々の多くは、本当はマスメディアによって操作された情報に踊らされている可能性さえあります。

今回のツィター社の行為は、国際社会がますます「国家に対する個人のエンパワーメントの増大」に向かっていることを証明しました。拡大解釈すれば、SNSなどの一部の巨大IT企業が、どこかの独裁国家と連携すれば、自らの価値観に沿った世界を構築し、支配するという懸念も出てきます。

よく「ポピュラリズム」を自由・民主主義の脅威だという声を耳にします。しかし、ポピュラリズムは直接民主主義が生んだ産物です。ポピュラリズムを一概に否定するわけにはいきません。これもメディアの操作かもしれません。

むしろ、SNSが特定の利益集団と連携して、それに反対する国民の言論や集会、結社の自由を奪うとすることの方が自由・民主主義への冒涜とはいえないでしょうか。一部の私企業における歯止めのない権力の増大こそが自由・民主主義の大きな脅威だと、私は思います。

共和党のルビオ上院議員はFOXニュースに、米国自由人権協会(ACLU)は「フェイスブックやツイッターなどの企業が、数十億人の発言に不可欠となったプラットフォームからユーザーを排除するという絶対的権力を行使することは懸念だ」との見解を示しました。

また、ドイツのメルケル首相は11日、ツイッター社の決定について、意見表明の自由を制限する行為は「法に基づくべきだ」と述べ、同社の対応を批判し、報道官を通じて、意見表明の自由を守ることは絶対的に重要だと強調しました。

メルケル氏は、多国間主義の重要性を基本理念として、トランプ氏の「米国第一」の政治姿勢に対しては批判的な立場を取っていますが、彼女には確固たる政治理念があります。だから、自国のみならずEUでもメルケル氏は大いに尊敬を集めています。

メルケル氏の発言を世界はどのように受け止めるかを注目しています。


[1]  トランプ氏は6日正午すぎにはホワイトハウス近くで演説し、「ここにいる全員が議事堂に行き、平和的に愛国的に、声を聞かせるために行進することを知っている」と議事堂での抗議を求めた。

[2]これらのツイートも、間もなくツイッターによって削除された。

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