2030年の台湾有事の認知戦シミュレーション(第1回)

このシナリオは台湾有事と題していますが、中国と台湾で起きる物事に焦点を当ててはいません。台湾有事が発生する前の、平時からグレーゾーン段階での日本の沖縄本島を含む南西諸島を中心とした日本で起きる情報戦や認知戦に関するシナリオです。

社会の不安定化と影響力工作が進展する我が国

■AI技術がもたらすデジタル社会の混迷

2030年現在、我が国におけるAIは急速に発展中であり、AIがけん引する高度なデジタル社会からはもはや後戻りできない段階に達している。インターネットを通じて世界中の情報に瞬時にアクセスすることは、仕事やビジネスの効率化やイノベーションのために不可欠となっている。また、インターネット上で様々なサービスを享受することで生活の利便性が向上し、我が国の少子高齢化対策においてもAIは欠かせない存在となってきた。

しかしながら、同時に多くの国民がAIによるネガティブな側面に気づき始めている。サイバー空間ではディープフェイクによる偽情報の生成、自動化されたフィッシングメール攻撃、自動プログラミングによるマルウェアの生成など、AIの悪用事例が様々な形で確認されている。すでに多くの分野でAIが人間の業務を代行し、人間の職を奪うなどの影響も現れ始めている。

さらに、AIはデジタル格差、情報格差、世代間格差を生み出している。デジタル技術の普及に伴い、多くの情報やサービスの受け渡しはオンラインで行われるようになった。デジタル社会はリテラシーに優れた若者にとっては利便性が高い一方で、そうでない者には住みにくい社会となっている。

特にデジタルリテラシーが低い高齢者は、オンラインシステムからの個人情報や銀行口座の流出などを心配し、疑心暗鬼になっている。どこに電話をかけてもオンラインメッセージであり、市役所の資料請求に出かけても丁寧に案内してくれる受付人がいない現実に直面している。警察や自治体からの詐欺に関する注意喚起も頻繁に行われ、人手不足の中で情報格差と世代間格差が進んでいるのが現在の社会の実態である。

こうした状況は社会の分断化を招くものとして多くの専門家が警告している。政府はデジタル社会の発展と利便性を維持するためには、社会、組織における情報管理の徹底と、個人の情報リテラシーやモラルが重要であると啓発している。

政府内にはAIを規制する動きもあるが、自由・民主主義を奉ずる勢力の反対によってこれらの動きは打ち消され、結果的にAIは制約なく発展している状況である。一方で、暗号通貨やAIを積極的に利用する層は海外資金を運用し、国内では脱税の手段を模索している。

最先端技術に追いつけない高齢者などは国家のデジタル化に反対の立場をとりがちである。高齢者たちは社会の端に置かれがちであるが、彼らは強力な権力である選挙権を持っている。このため、政治家たちは高齢者層の投票に期待し、国家のデジタル化があまり進展していない。

一方で、隣国の中国はますますデジタル大国となり、現在では貿易もデジタル人民元での決済が一般的になっている。政府の中にはAIを規制する動きもあるが、自由・民主主義を唱える勢力の反対圧力で打ち消され、結果的にAIは野放しの状態である。中国と日本との国際競争力の差が広がっており、この状況が進行している。

■偽情報を拡散する生成型AI

2020年代初頭に登場した「ChatGPT」とそれに触発され、対抗する対話式(生成型AI)が相次いで誕生し、市場シェアを急速に拡大している。これらの技術の最大の魅力は、文書の作成能力において「人間よりも人間らしい」とされる点である。パラメータの急激な増加により、これらの技術は自然で幅広い範囲の言語生成が可能となり、多くのビジネスパーソンを引き付けている。

しかし、ChatGPTにはGPT-3の開発段階から懸念されていたリスクが存在している。ChatGPTの開発元であるOpenAIの研究者は、世界有数のサイバーセキュリティイベント「Black Hat USA 2021」で、ChatGPT3が悪用された場合のリスクについて警告していた。残念なことに2030年現在、この警告は現実のものとなりつつある。現在、生成型AIは悪用者によって大量の偽情報や有害情報を生成するツールとしても機能している。

最新式の生成型AIはビッグデータから学習を深化させ、人間の個々のユーザーに合わせた大量の情報を、人間をはるかに超える速度で生成している。このような情報は受け手にとって魅力的で説得力があり、仲間内でシェアされ、情報は加速的に拡散しているようだ。しかし、その中には他者を誹謗・中傷する、社会を偽情報によって貶める類のものも多く見受けられている。

生成型AIはボットと一体となり、24時間稼働で偽情報が拡散されるため、政府が推奨するファクト・チェックも追いつかない状態である。サイバー空間では悪意ある者による偽のプロフィール、コメント、画像が大量に流通している。また、生成型AIは誤植が多いことが問題となっており、そのなめらかな文体からくる信頼性の低下も懸念されている。たとえば、「ウィキペディア」の記事も生成型AIが書いているのか、以前よりも正確性が低下したとの指摘がある。

「Web」上の誤った情報に基づくEコマース上のトラブル、プライバシーの暴露、著作権侵害を巡る裁判沙汰などが急増している。また、倫理的な判断を伴う社会問題への投稿においては、生成型AIを使って書かれたものにより、殺伐とした、弱者を軽視するコメントが増えているとの指摘もある。

生成型AIが人間の意識に悪影響を与える可能性を懸念する声がある中、一部の者は政府が抜本的な規制をかけるべきだと主張しているが、現在までに具体的な動きは見られていない。

(次回に続く)

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