認知戦とは何?(第3回)

 認知戦は世論形成に長けている

前回は認知戦の特徴について触れましたが、少し要点を復習します。

認知戦は過去の心理戦や情報戦に比べて、情報の拡散速度が速く、しかも特定個人の心理・認知に作用するので、一般大衆の意識への働きかけが大きく、世論形成にも長けています。現在の発達したICT環境の中で、AIやボットを利用すれば、24時間ひと時も休まずに、真偽を織り交ぜた情報を拡散し、人間の心理・認知に影響を及ぼすことができるのです。

従来の心理戦あるいは情報戦(メディア戦)では、影響工作は国家、組織などの優先度の高い指導者と不特定多数の世論への働きかけに制限されてきましたが、今日の認知戦はAIの活用とソーシャルメディアの発達により、特定個人の心理・認知への影響工作が可能になりました。

この背景には、スマホとソーシャルメディアの発達があります。従来の新聞、メディアは対象に対し、一方的に情報を発信することしかできなかったのですが、スマホと結合したソーシャルメディアでは、情報の発信者がどこの誰で、その情報を誰に拡散したかなどの追跡が可能となりました。

人々の行動を追跡し、好みや信念を把握し、その行動に影響を与える。特定対象が関心を持つ情報を重点的に配信し、興味を引き付け、引きとどめる。こうした手法により、たとえば心理・認知を刺激し、思いもしなかったような商品を買わせることも可能となりました。

つまり、ソーシャルメディアとスマホの普及により、認知戦は特定個人に対象に絞って、その心理・認知操作し、意思決定や行動を変容させることが可能となりました。

それゆえに、2016年の米大統領選では、フェイスブックの個人情報を不正利用して、「サイコグラフィック(心理的要因)」により有権者の「セグメンテーション(選別)」を行なうといった「マイクロターゲティング」の手法も採用されたのです。

認知戦の第一の目標は不安定化である

認知戦では、不安定化と影響力の行使という二つの目標達成を目指します。

不安定化とは、社会組織と人々の結束を攪乱し、経済領域での生産性の低下、政治対立などを惹起させることです。

その手法は、対象国の国家や集団の内部に問題が生じさせ、その国家をその問題処理に忙殺されるように仕向け、有益な目標達成への努力が削ごうとします。

偽情報でなくとも、有力政治家が汚職や破廉恥事件などの真実のスキャンダル情報を流布することで、国民の政治不信を醸成できます。

たとえば、『ウィキリークス』は、二〇一六年の民主党全国大会(DNC: Democratic National Convention)で、民主党候補ヒラリー・クリントンが過去にゴールドマン・サックスなどウォール街の複数の企業を相手に多額の講演料で講演した非公開の内容の抜粋とみられる文書を公開し、国民のクリントンに対する政治批判が集まるように画策しました。

認知戦の第二の目標は影響力の行使である

一方の影響力の行使とは、社会の不安定化を背景に、対象とする集団、個人の意識に直接的に働きかけるものです。

その手法は、特定の集団、個人が有している周囲の環境に対する意識や価値観を操作し、攻撃者と同じ考え方(イデオロギー)を持つように働きかけ、最終的には攻撃者が意図する行動をとるよう仕向けます。

また、攻撃者は、政治、経済、学術、社会の指導者を対象にして、より広範な大衆に影響力が及ぶように仕向けます。

影響力行使の事例には、テロ組織が行なったイデオロギーへの同調があります。イスラム国(ISIL)はソーシャルメディア上でハッシュタグを活用したメッセージや、デジタル技術・音楽を活用して完成度の高い動画を発信し、組織の宣伝や戦闘員の勧誘、テロの呼びかけなどを巧みに行ない、多数の外国人戦闘員や一般市民を魅了しました。

(第4回に続く)

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