インテリジェンス思考術(第18回)

情報の処理の技法

前回は、情報の収集について、ヒューミントに焦点を当てて解説しました。今回は、集めた情報をどう扱うか、という話になります。これまでと重なる部分もありますが、復習として読んでください。

情報はデータベースとして蓄積される

情報処理は、情報分析の重要な一過程です。

ベトナム戦争の際、米軍が撮影した大量の航空写真が机の引き出しに山積みになり、整理されないまま使われなかった、という指摘があります。もし体系的に整理されていれば、多くの兵士の命を救えた可能性がある、とも言われています。

情報は集めるだけでは意味を持ちません。
選別し、分類し、評価し、保管して、はじめて使える形になります。

こうした過程を経て、情報はデータベースとして蓄積されます。国家機関だけでなく、大企業や学校も、それぞれ独自のデータベースを持っています。ただし、膨大な情報を整理し続けるには時間と労力がかかります。そのため、国家組織では、専門部門が処理を担うのが原則です。

データベースに情報を入力する際は、日付だけでなくキーワードも付けます。
たとえば北朝鮮のミサイル関連情報であれば、「北朝鮮」「ミサイル」「技術」などの語を一緒に入力します。キーワードを付けると、その情報は一定の性質で検索できるようになります。ここでは、この性質を「属性」と呼びます。

情報は「劣化」する

情報は生ものです。時間がたつと価値が下がります。

1957年に『Strategic Intelligence Production』を著したワシントン・プラット准将は、戦術情報は6日で価値の半分を失い、道路や橋梁などの地誌情報は6年で半減すると述べました。

今日では、技術や市場、社会の動きが速いため、劣化の速度はさらに速いでしょう。ビジネスの情報はなおさらです。
したがって、できる限り新しい情報に接し、古い情報は更新しておくことが原則です。

ただし、新しい情報が常に正しいわけではありません。新情報に引きずられて、妥当だった分析を安易に変えることは避けたいところです。

新情報の情報源は信頼できるか。
どのように収集され、どの経路で伝達されたのか。
既存情報と照合して、何が変わったのか。
変化を生むような環境の変化はあったのか。

こうした点を一つずつ確認します。

情報の評価と情報源の評価は異なる

情報処理の一環として、情報を評価します。
評価は大きく二つに分かれます。

  • 第一に、情報源の信頼性(Reliability)
  • 第二に、情報そのものの正確性(Viability)

情報源の信頼性とは、情報を出した相手が信用できるか、別の情報源で裏づけが取れるか、という点です。

ただし、信頼できる情報源であっても誤ることがあります。意図的に虚偽を流すこともありますし、伝達の過程で内容が変わることもあります。
したがって、情報源の信頼性と、情報の正確性は分けて判断します。両者は必ずしも一致しません。

一例として、ウィキペディアはよく議論に挙がります。不特定多数のボランティアが執筆するため、情報源としての信頼性に疑問が出ることがあります。
その一方で、2005年に科学誌『Nature』は、科学分野の記事の正確性が『ブリタニカ百科事典』と大きくは劣らない、という趣旨の報告を紹介しました。多くの人の目にさらされ、誤りが修正され続ける、という側面があるためです。

つまり、情報源の性格と、情報そのものの正確性は別問題です。

情報は集めるだけでは意味がありません。
整理し、時間による劣化を意識し、評価を分けて考える。
この「処理」を丁寧に行うかどうかで、分析の質は変わります。

今回はここまで

今回は、情報の処理について整理しました。情報源の信頼性と、情報の正確性は分けて判断することが大切です。次回は、情報の取扱いについて、もう一段深めていきます。

インテリジェンス思考術(第17回)

ヒューミントとは何か

前回はオシントについて述べました。今回はヒューミントです。

国家情報機関に所属する者は、通信傍受によるシギント(SIGINT)や、偵察衛星によるイミント(IMINT)などの技術情報を扱います。しかし、ビジネスパーソンが実務で活用できる手段は、主にオシントとヒューミントです。

ヒューミントは人的情報と訳されます。人を介して情報を収集する手段、あるいはそこから得られたインテリジェンスを指します。

ヒューミントというと、スパイ活動を連想する人もいるでしょう。しかし、それだけではありません。国家レベルでいえば、外交官が赴任国で現地要人と会話を重ね、その国の意図や政策の方向を把握することもヒューミントです。

聞き取りだけではありません。現地に赴き、直接観察することもヒューミントに含まれます。ビジネスに置き換えれば、店舗に足を運び、売れ行きを確認すること、顧客に感想を尋ねることもヒューミントです。

ヒューミントは最も古い情報収集手法です。歴史上、各国は人を通じて相手の意図を探ってきました。対象の本音や兆候に迫れる点が、この手法の強みです。

ヒューミントの強みと限界

前回、オシントで全体像の90パーセントは把握できると述べました。ただし、それは十分な公開情報が存在するという前提が必要です。

これに対し、信頼できる人物から「その会社は近く新商品を出す」と聞けば、膨大な資料を分析せずとも核心に近い情報を得ることができます。これがヒューミントの力です。

しかし、ヒューミントは万能ではありません。

情報の信頼性は話し手に依存します。誤解や思い込みが含まれることもあれば、意図的な誤情報である場合もあります。また、聞き手の先入観が入りやすいという弱点もあります。

ヒューミントは強力ですが、常に検証が必要です。

ビジネスにおけるヒューミント

ビジネスの現場で使われるヒューミントには、主に三つの形があります。

聞き込み

聞き込みでは、情報を持っている人物に当たることが原則です。ただし、核心にいる人物が直接語るとは限りません。

競合企業の新規事業に関する情報は、一部の経営層しか知らないかもしれません。その場合、いきなり核心に迫るのではなく、まず周辺から状況を押さえます。取引先、元社員、関連業界などから情報を集め、全体像を描き、そのうえで徐々に核心に近づいていきます。

外縁から内側へ。これが原則です。

観察

観察も重要なヒューミントです。店舗の来客数、商品の陳列状況、従業員の動き、顧客の滞在時間などは、現場に行かなければ分かりません。

しかし、観察には落とし穴があります。

人の印象は、時間帯、曜日、季節、天候といった環境条件に左右されます。平日の昼間と休日の夕方では、まったく違う景色が見えます。

また、一部の特異な事象を全体傾向だと誤って解釈する危険があります。たまたま混雑していた、たまたま閑散としていた、という可能性を排除できません。

そのため、観察は一度きりでは不十分です。
継続して見ること、できる限り同じ条件で見ることが重要です。
観察とは印象を持つことではなく、変化を捉えることです。

アンケート・対面調査

アンケートやインタビューは、人の内面や意志を引き出す手段です。なぜその商品を選んだのか、何に不満を持っているのかといった情報は、外からは見えません。

しかし、アンケートは準備が難しい手法です。

母数が少なければ、全体傾向を示すことはできません。対象を誤れば、偏った結果になります。設問の作り方によっても、回答は誘導されます。

アンケートは強力ですが、設計を誤れば正確な情報は得られません。

オシントとの関係

オシントは広く全体像を把握するために有効です。ヒューミントは意図や兆候をつかむために有効です。

両者は対立するものではありません。公開情報で全体を押さえ、人的情報で空白を埋める。人的情報で得た仮説を、公開情報で裏づける。

この往復が、実務における情報分析の基本です。

今回はここまで

今回はヒューミントについて整理しました。
人から聞く、現場で見る、意志を引き出す。どれも強力な手段ですが、誤解や思い込みが入り込む余地もあります。

重要なのは、手段に頼りすぎないことです。
得た情報をそのまま信じるのではなく、検証し、組み合わせることが求められます。

次回は、集めた情報をどのように処理し、意味づけるかについて述べます。

3. 国際情勢ニュースを題材に

インテリジェンス思考術(第16回)

オシント情報とは

オシントで90パーセント以上のことがわかる

前回は、オシント情報をインターネットなどで集める方法について述べました。今回は、情報収集の手段を整理したうえで、オシント情報とは何かをあらためて説明します。

情報がどこから出てきたか、その出所のことを情報源といいます。たとえば、日々接しているニュースの情報源は、新聞、テレビ、インターネットなどです。これらの情報源は、大きく公開情報源と非公開情報源に分けられます。

非公開情報源は、さらにヒューミント(HUMINT:人的情報源)と、テキント(TECHINT:技術的情報源)に区分されます。一方、オシント(OSINT)は、オープンソース・インテリジェンスの略で、公開情報源から得られる情報を指します。

非公開情報源は、政府の情報機関や軍の情報部門などに属する人しか扱えません。一般の企業人や研究者が接することは、ほとんど不可能です。しかし、それを過度に気にする必要はありません。実務の世界では、オシントだけで全体像の90パーセント以上を把握できるとされています。

実際、オシントから重要な判断が行われた例は少なくありません。1962年のキューバ危機では、ケネディ米大統領が『タス通信』の報道を手がかりに、ソ連がキューバからミサイルを撤去したかどうかを判断しました。1990年の湾岸戦争でも、米国はイラクの内部状況を把握する際にCNNの報道を重視しました。

インターネットの発達によって、世界中の公開情報に容易にアクセスできるようになりました。国際情勢の分析でも、企業分析でも、有力なオシントに触れる機会は飛躍的に増えています。

第一次情報にアクセスする

オシントを扱ううえで、もう一つ重要な考え方があります。それは、できる限り第一次情報源に遡るということです。

第一次情報源とは、ある事象について最初に情報が発せられた出所を指します。第一次情報源から得られた情報を第一次情報と呼びます。それに対して、第一次情報をもとに編集や解釈が加えられた情報は、数次情報と呼ばれ、一般にはまとめて第二次情報として扱われます。

一般に、第一次情報とは「本人が直接見たもの、聞いたもの」だと言われます。この説明だけを見ると、第一次情報を得るには、現場に行ったり、当事者に話を聞いたりする必要があるように思えます。すると、それはオシントではなく、ヒューミント(人的情報源)ではないか、という疑問が生じます。では、オシントで得られる情報は、すべて第二次情報なのでしょうか。

ここで注意すべき点は、第一次情報か第二次情報かと、オシントかヒューミントかは、同じ区分ではないということです。
第一次情報か第二次情報かは、情報がどれだけ加工されているかという「距離」の問題です。一方で、オシントやヒューミントは、情報をどのような手段で得たかという区分です。

公開情報であっても、加工されていない原資料に当たれば、それは第一次情報に近いオシントになります。つまり、第一次情報=ヒューミント、オシント=第二次情報、という対応関係が成り立つわけではありません。

たとえば、新聞記事は記者の判断や編集が加えられた二次情報ですが、記者会見の全文記録、公式声明文、統計の原表などは、公開情報でありながら第一次情報源に位置づけることができます。

書籍についても同様です。書籍そのものは、著者の整理や解釈が加わった情報であり、厳密には一次情報とは言えません。しかし、書籍には統計資料や公的文書、当時の記録などの引用元が明示されていることが多く、その引用元に当たることで、第一次情報に遡ることが可能です。数字や事実関係を確認する際には、本文よりも注や参考文献の方が重要になる場合もあります。

ウィキペディアについても、同じ考え方が当てはまります。ウィキペディアの記述自体は編集を重ねた二次情報であり、そのまま分析に使うことは適切ではありません。しかし、多くの項目では引用文献や出典が明示されています。活用すべきなのは本文ではなく、そこに示された一次に近い資料です。

逆に、第三者の解説や論評が重ねられた情報は、たとえ内容が詳しく見えても、第三次、第四次情報になっている場合があります。インターネット上に見られる多くの記事やまとめ情報は、複数の媒体を経由した伝言情報です。

情報は、伝わる過程で削られ、強調され、ときに歪められます。そのため分析では、どこで誰の判断や解釈が加えられたのかを意識しながら、情報の出所をたどる必要があります。

事実か、意見かを確かめる

情報を扱う際、最後に確認すべきなのは、その情報が事実なのか、それとも意見や評価なのかという点です。

第一次情報源に近いからといって、その内容がすべて事実であるとは限りません。公式声明や記者会見で語られる内容も、多くの場合は当事者の認識や主張です。出来事そのものと、出来事についての意見は、明確に分けて考える必要があります。

オシントでは、事実の記述と意見や評価が同じ文脈で語られることが少なくありません。そのまま受け取ってしまうと、分析は容易に誤った方向へ進みます。

重要なのは、「これは何が起きたという事実なのか」「これは誰の意見や評価なのか」
を一つひとつ切り分けることです。

オシントの実務で求められるのは、情報を大量に集めることではありません。事実と意見を見分けること。まずは、そこから始めるべきです。

今回はここまで

今回は、オシントを用いた情報収集について整理しました。
公開情報であっても、どこまで加工されているのか、事実と意見がどう混ざっているのかを意識するだけで、見える景色は大きく変わります。

オシントは、単に「ネットで調べること」ではありません。公開情報の中から、一次に近い情報を探し出し、事実と評価を切り分けて読むこと。それだけで、状況の大枠は十分に把握できます。

次回は、現地で見る、聞くといったヒューミントについて述べます。オシントとヒューミントは対立するものではありません。それぞれに役割があり、使いどころがあります。
その違いと注意点を整理していきます。

インテリジェンス思考術(第14回)

枠組みの設定方法

前回は、「影響要因とは何か」「枠組みや影響要因の数はどの程度が適切か」「支配要因とは何か」について解説しました。
今回は、それらの前提となる枠組みを、どのように設定するのかを扱います。

枠組みは、思いつきで決めるものではありません。問いを分解し、要素を洗い出し、整理と統合を行う中で形づくられていきます。

枠組み設定の出発点は「問いの分解」

米CIAの元副部長が著した
『CIA極秘分析マニュアル「HEAD」』では、
問いを立てた後に、ドライバー(ボックス)を設定することが重要であると述べられています。

ただし、この書籍では「ドライバー」という言葉を、分析対象を区切る意味でも用いています。
私はこれまで述べてきた整理に合わせ、分析の範囲を定めるものを「枠組み」と呼んでいます。

同書では、次のような例が紹介されています。以下では、趣旨が伝わるよう、表現を整理して説明します。

「顧客はどのような車を購入するか」という問いに対し、
顧客がいきなり広告やパンフレットを見て、ホンダ、フォード、スバル、トヨタ、GMといった特定のブランド選定に走るのは、時間の無駄である、と指摘しています。

そこで問いを、

「どうすれば、家族向けの良い車を購入できるか」と

家族の顧客に絞って、問いを分解します。
そのうえで、

  • コスト
  • 信頼性
  • チャイルドシートの適合性
  • 安全性
  • 車の大きさ
  • 燃費

といった機能別の枠組み(同書ではドライバー)を設定します。

これは、問いの焦点を絞り、さらにその問いを機能別に分解することで、分析の対象となる枠組みを明確にした例です。

つまり、枠組みの設定とは、問いを分解し、分類し直す作業だと言えます。

フレームワークを使った問いの分解

問いを分解する際に役立つのが、3Cや4C、PESTといった既存の分析フレームワークです。
これらは答えを出すための道具ではなく、問いを多面的に分解するための補助線だと考えてください。

たとえば、次の問いを考えてみましょう。

問い:

あの商品は、なぜ売れているのか。

この問いに対して、いきなり影響要因を考え始めると、

視点が偏ったり、思いつきに引きずられたりしがちです。

そこでまず、たとえば3Cを使えば、顧客、競合、自社という三つの視点から問いを分解します。

顧客の立場からは、
・顧客は何を基準に商品を選んでいるのか、
・価格、品質、利便性のうち、どこに価値を感じているのか、といった点を問いとして掘り下げます。

競合の立場からは、
・競合は同じ条件で価格や品質を提示できているのか、
・競合が対応できていない制約や弱点はどこにあるのか、
・どの層や市場で差が生まれているのか、
といった点を確認します。

自社の立場からは、
・自社はどの点で他社と異なるやり方を取っているのか、
・その違いは、資源、体制、工程、意思決定のどこから生まれているのか、
そして、それは継続して維持できるものなのか、
といった問いを立てます。

このように、3Cを使うとは、単に顧客・競合・自社を頭に置くことではありません。
それぞれの立場に立って、問いを一段具体化することなのです。

この作業を通じて、価格、商品特性、生産・供給、購買者といった論点が浮かび上がり、後に枠組みとして整理されていきます。

重なりと関係を見る

3C、4C、PESTといった複数のフレームワークを使って分解すると、一見すると雑多な要素が並びます。

しかし整理してみると異なるフレームワークを使っているにもかかわらず、
同じ要素や、言い換えに近いキーワードが何度も現れることに気づきます。

たとえば、

  • 価格
  • コスト
  • 原材料費
  • 仕入れ条件

といった要素は、顧客の視点からも、競合の視点からも、
経済環境の視点からも現れます。

このように、繰り返し現れる要素は、問いに対して影響力が大きい可能性があります。

さらに、要素同士の関係にも注目します。

原材料価格の上昇は、製品価格、生産規模、供給量と連動します。

このように、因果関係や相関関係によって一緒に動く要素は、個別に扱うのではなく、まとめて捉える方が有効です。

枠組みへ整理・統合する

ここまでの作業を経ると、大量にあった要素やキーワードは、いくつかのまとまりに整理できます。

たとえば、

  • 価格に関する枠組み
  • 商品特性に関する枠組み
  • 生産・供給に関する枠組み
  • 購買者に関する枠組み
  • 原材料や調達条件に関する枠組み

といった具合です。これが、枠組みです。

枠組みとは、分析の範囲を定めるために、分解した要素を束ね直したものだと言えます。

枠組みの数をどう絞るか

前回述べたとおり、枠組みの数は、判断や情報収集に使うことを考えると、
5つから6つ程度が適当です。

これ以上多いと、情報収集の対象が広がりすぎ、分析の焦点がぼやけます。

逆に少なすぎると、問いに答えるために必要な視点が欠けてしまいます。

枠組みを絞るとは、要素を切り捨てることではありません。
散らばった要素を、扱える単位に束ねることです。

グループで枠組みを設定する場合

枠組みの設定は、
グループ作業として行うこともあります。

その場合は、
最初から全員で一つの枠組みを考えるのではなく、
視点を分けて分業する方法が有効です。

たとえば、

  • あるグループは顧客の視点から
  • 別のグループは市場や競合の視点から
  • さらに別のグループは生産・供給の視点から

それぞれ問いを分解し、
枠組みや要素を抽出します。

その後、すべてを持ち寄って整理します。

投票によって、
重要だと感じられる枠組みを選ぶ方法もあります。

ただし注意が必要です。
参加者の属性によっては、
顧客目線の枠組みに票が集まりすぎることがあります。

そのため有効なのは、
枠組みを出したチームとは別のチームが評価や投票を行う方法です。

こうすることで、
自分たちの発想を自分たちで正当化する循環を避けられます。

投票はあくまで補助的な手段であり、
最終的な整理と判断は、分析として行う必要があります。

今回はここまで

今回は、枠組みをどのように設定するのか、その基本的な考え方を解説しました。

枠組みは、最初から決めるものではありません。問いを分解し、要素を洗い出し、
重なりと関係を見て、最後に整えるものです。

問いの設定と枠組みの設定が終わって、はじめて情報収集が可能になります。次回からは情報収集の話をします。

インテリジェンス思考術(第13回)

影響要因とは何か

前回は、「枠組みとは何か」を説明しました。今回は、その枠組みの中から、どのように影響要因を抽出するのかを見ていきます。

改めて、次の問いを考えてみましょう。

問い:
あの商品は、なぜ売れているのか。

この問いに対して、いきなり影響要因を並べるのではなく、まず分析の範囲、すなわち枠組みを定めます。

たとえば、3CやPESTといったフレームワークを使うと、次のような枠組みが考えられます。

  • 価格に関する枠組み
  • 商品特性に関する枠組み
  • 生産・供給に関する枠組み
  • 購買者に関する枠組み
  • 原材料や調達条件に関する枠組み

これらは、「何を見るか」を決めるための区切りです。この段階では、まだ結論を出しません。

次に、それぞれの枠組みの中から、実際に売れ行きに影響を与えている要素を取り出します。

たとえば、

  • 価格の枠組みからは
    → 価格
  • 商品特性の枠組みからは
    → 商品形状、機能構成
  • 生産・供給の枠組みからは
    → 生産規模、販売チャネル

といった影響要因が抽出されます。

このように、枠組みで分析の範囲を定め、その中から影響要因という焦点を絞り込むことで、分析は初めて整理された形になります。

枠組みの中には、状況に影響を与えている要素がいくつも含まれます。現状分析では、これらを影響要因と呼びます。枠組みが分析の範囲を定める「箱」だとすれば、影響要因は、その中に含まれる個々の要素です。

  1. 価格
  2. 商品形状
  3. 機能構成
  4. 生産規模
  5. 販売チャネル

これらはいずれも、判断や評価を含まない中立な要素です。ここで言う判断とは「低価格」、「高価格」といった評価語を指します。影響要因は未来予測ではドライバーとなる可能性があります。その段階で評価を含めると、未来の選択肢を嵌めてしまいます。

■枠組みや影響要因の数について

枠組みの数は、判断や情報収集に使うことを前提にすると、概ね5つから6つ程度が適当です。

これ以上多いと、情報収集の対象が広がりすぎ、分析の焦点がぼやけます。

逆に少なすぎると、問いに答えるために必要な視点が欠けてしまいます。

枠組みを適切な数に絞ることで、「何を集めるのか」と同時に「何を集めないのか」が明確になります。
その結果、情報収集と分析の両方を制御できるようになります。

枠組みや影響要因の数については、理論よりも実践感覚を優先すべきだと考えています。

私自身の情報分析官としての経験では、枠組みの数は5つから6つ程度が、最も扱いやすいと感じています。

これ以上多くなると、情報収集の対象が拡散し、どこに分析の力点を置くのかが分からなくなります。

同様に、各枠組みの中に含める影響要因も、無制限に列挙すべきではありません。

最初に洗い出す段階では、影響要因が多くなっても構いません。
しかし最終的には、各枠組みにつき3から5程度に絞るのが現実的です。

これは、重要でない要因を切り捨てるためではありません。判断に使える形に整理するためです。影響要因を絞り込む過程そのものが、分析の一部になります。

人は放っておくと、可能性を広げることばかりに力を使い、まとめる作業を後回しにしがちです。

枠組みや影響要因の数をあらかじめ制限するのは、思考を縛るためではなく、
思考を前に進めるための工夫だといえます。

支配要因とは何か

影響要因は、すべてが同じ重さを持つわけではありません。

その中で、現在の結果を最も強く左右しているものを、支配要因と呼びます。

この事例では、現時点での支配要因として、たとえば価格を挙げることができます。

価格は、顧客の購入判断に直結し、競合との差を一目で生み、他の要因の評価にも影響を与えています。

今回はここまで

今回は、影響要因とは何か、支配要因とは何かを整理しました。

影響要因は、未来を考える段階ではドライバーになります。
特に支配要因は、複数のシナリオを立てる際の分岐点になります。

まだ、この点を具体的に理解する必要はありません。今の段階では、言葉と位置づけを押さえておけば十分です。

次回以降は、枠組みをどのように設定するのか、影響要因の抽出や支配要因の特定を、どのような考え方と手順で行うのかを扱います。

インテリジェンス思考術(第12回)

■問いの次に来る「枠組み」とは何か

昨年のニュースレターでは、「問い」を扱ってきました。問いは、情報収集の前段階に置かれますが、実は分析そのものでもあります。

問いを立てた後、インテリジェンスは次の工程へ進みます。

問いの設定
→ 枠組みの設定
→ 情報の収集
→ 情報の分析とインテリジェンスの作成
→ インテリジェンスの提供

今回は、このうち枠組みを扱います。

■枠組みはフレームワークではない

ここで言う枠組みは、3C(顧客、競合、自社)やPEST(政治、経済、社会、技術)といった、既存の分析フレームワークそのものではありません。

フレームワークは、問いに答えるために、「何を見るべきか」を広く確認し、思考の抜けや偏りを防ぐために使います。

一方、枠組みは、分析や判断の対象を、どこまでに限定するかを決めるものです。

枠組みは、投網のようなものだと考えると分かりやすいでしょう。網を投げた範囲の魚は取れますが、網の外にいる魚は、最初から取れません。

同じように、枠組みを定めると、その中にある情報は集めますが、枠組みの外にある情報は、意図的に排除します。

枠組みの設定とは、「何を見るか」を決めると同時に、「何を見ないか」を決める作業です。

■フレームワークを使うと、枠組みが見えてくる

枠組みは、最初から与えられるものではありません。問いを立て、フレームワークを使って考える中で浮かび上がってきます。

たとえば、次の問いを考えてみます。

問い:あの商品は、なぜ売れているのか。

この問いに対して、3Cを使えば、自社・競合・顧客という三つの視点から、
さまざまな要素が挙がります。

自社を見れば、宣伝投下や大量生産といった要素が出てきます。

競合を見れば、他にない商品、価格の安さといった点が浮かびます。

顧客を見れば、安価であること、便利さ、形状の使いやすさといった評価が見えてきます。

この段階では、論点は散らばっています。むしろ、この「散らばり」を一度つくることが重要です。

■フレームワークを横断して残るものが枠組みになる

ここで重要なのは、出てきた要素をそのまま並べ続けることではありません。

判断に使うためには、それらを整理し直す必要があります。そこで要素を整理すると、いくつかの共通した方向性が見えてきます。

価格に関わる話。商品そのものの特徴に関わる話。生産や供給の条件に関わる話。

この時点で、自社・競合・顧客という区分は消えています。

3Cというフレームワークを使って問いを分解した結果、フレームワークを横断して残った論点が、枠組みになります。

■枠組みはいくつかのフレームワークを使って規定する

既存の分析フレームワークには、3CやPESTのほか、PESTに法的規制(L)や環境(E)を加えたPESTLE、さらにDIME(外交・情報・軍事・経済)など、さまざまなものがあります。

これらは、すでに述べたとおり、問いを取り巻く周辺情報を網羅的に確認するための道具です。そのため、フレームワークをそのまま用いると、扱う論点は必然的に多くなります。

それぞれのフレームワークは、複数のサブカテゴリーで構成されています。
たとえば政治であれば、国際政治、法規制、法改正、行政環境が含まれます。
経済であれば、経済システム、景気、賃金動向、株価、為替、金利、消費動向、雇用情勢、経済成長率などが並びます。

ここで重要なのは、これらをすべて同じ重さで扱ったままでは、判断に使えないという点です。
論点が多すぎると、どこから情報を集め、どこに分析の力点を置くのかが定まりません。

そこで、フレームワークを使って出てきた論点を、判断に使うために整理し直す必要があります。
具体的には、抽象度を一段上げ、内容が近いものを同類項としてまとめ、分析の焦点となる論点だけに絞り込みます。

このようにして定められるのが、枠組みです。

■今回はここまで

今回は、問いの次に来る「枠組み」について整理しました。

次回は、影響要因、支配要因、ドライバーとは何か、さらに枠組みや影響要因の数をどう考えるかを扱います。

インテリジェンス思考術(第11回)

■問いは準備であり、分析である

インテリジェンスは、次の流れで生産されます。

問いの設定→ 枠組みの設定→ 情報の収集→ 情報の分析とインテリジェンスの作成
→ インテリジェンスの配布

この順序は、国家インテリジェンスでも、企業の意思決定でも変わりません。

この中で、問いの設定は情報収集の前段階に置かれます。そのため、問いはしばしば「準備作業」と見なされます。しかし、問いの設定は準備であると同時に、すでに分析そのものです。

問いを立てるとは、構造を考えることである

良い問いは、思いつきでは出てきません。問いを立てるためには、現状がどのような構造で成り立っているかを考える必要があります。

たとえば、「この事業はなぜ伸び悩んでいるのか」という問いを立てるには、

需要なのか。
供給なのか。
価格なのか。
競争環境なのか。
内部の運営体制なのか。

どこに問題がありそうかを、頭の中で分解します。この分解の時点で、分析はすでに始まっています。

問いは未来を考える入口でもある

問いは、現在だけでなく未来にも関わります。「この状況は続くのか」「どの条件が変われば状況は動くのか」

こうした問いを立てるためには、何が固定され、何が変わり得るのかを考えなければなりません。

問いを並べ、問いを比べることで、将来に影響しそうな要素が浮かび上がります。
問いは、未来予測の前段階にある分析でもあります。

問いの設定技法は、分析技法の中核である

問いは、情報収集の指示書になります。どの情報を集め、どの情報を集めないかを決めるからです。

同時に、問いの質は、その後に用いる枠組みの選び方、分析の視点、判断材料の置き方を左右します。

問いが曖昧であれば、集まる情報は散漫になります。問いがずれていれば、
分析が精緻でも、判断には使えません。

この意味で、問いの設定技法は、情報分析の技法の中核に位置します。

これまで扱ってきた「問い」

今年の連載では、問いについて次の点を扱ってきました。

・問いとは、使用者の判断を想定して立てるものであること
・戦略の問いと、それを支える情報の問いがあること
・問いには、現在と未来、クローズドとオープンの組み合わせがあること
・一つの象限に偏ると、判断に必要な情報が欠けること
・最初に立てた問いは、そのままでは不十分なことが多いこと
・問いは、問い直し、組み替えることで初めて焦点が定まること
・視点を変えることで、同じ事象でも別の問いが立ち上がること

これらはすべて、問いを「正しく立てる」ための技法であり、同時に、分析を深めるための技法です。

まとめと来年の予告

問いの設定は、インテリジェンス・サイクルでは情報収集の前に置かれます。
しかし、問いを立てること自体が、現状の構造を理解し、変化の可能性を探る分析です。

良い問いが立っていれば、情報収集と分析の方向は、すでに定まっています。
インテリジェンスの質は、問いの段階で決まります。

来年は、ここで立てた問いを、どのように枠組みに落とし込み、分析へと進めていくのかを扱います。

問いの次の工程について、具体的に見ていきます。

インテリジェンス思考術(第10回)

物事を見る目

問いを再設定するときは、最初に立てた問いを別の角度から見直します。視点には、相手から見る視点、常識への反対方向から見る視点、組織と個人の視点など、いくつもの向きがあります。

物事の特徴をつかむための視点として「三つの目」がよく紹介されます。空から全体を見る「鳥の目」、細部を集中的に見る「虫の目」、流れをとらえる「魚の目」です。

初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、グリコ・森永事件に触れ、「公安警察は国際情勢を踏まえた大局的な鳥の目で捜査し、刑事警察は聞き込みなど虫の目で捜査する。この両方がそろってこそ成果が出る」と語りました。

私が講義をした際、受講者から「もうひとつの目があります」と教えられたのが「蝙蝠の目」です。地図を逆さに見るように、相手の立場に身を置いて考える視点です。人は無意識に自分の視点で物事を解釈します。この傾向は「ミラーイメージング(鏡像効果)」と呼ばれますが、蝙蝠の目はそれを抑える役割を果たします。「他国の靴を履く」とも言います。

さらに「トンボの目」も挙げられます。複眼のように複数の視点を組み合わせる考え方です。

三つの目を使った問いの置き換え

問いを再設定するときも、この三つの目を使います。たとえば外食産業で「支店の売り上げが落ちているのはなぜか」という問いを立てたとします。これを次のように置き換えられます。

①虫の目
・どのメニューの売れ行きが下がっているのか。
・どの時間帯と関係しているのか。

②鳥の目
・外食需要は全国的に下がっているのか。
・もし下がっているなら、要因は何か。

③魚の目
・売上の低下は最近なのか。
・消費者ニーズは過去数年でどう変わったか。
・原材料価格はどう推移してきたか。

深さ(虫)、広さ(鳥)、流れ(魚)を意識すると、問いの立て方が変わります。

問いの再設定(Issue Redefinition)の手法

米情報機関の分析マニュアルには、問いを組み替える具体的な手順が紹介されています。拙著『戦略的インテリジェンス入門』でも触れた例を挙げます。

当初の問い:中国はイランに弾道ミサイルを売っているのか?

・いい換え:イランは中国から弾道ミサイルを買っているのか?
・180度回転:中国はイランから弾道ミサイルを買っているのか?
・焦点の拡大:両国に戦略的協調関係はあるのか?
・焦点の集約:中国はどの種類のミサイルを売っているのか?
・焦点の変換:イランはなぜ中国製ミサイルを欲しがるのか?支払いはどう行っているのか?

「なぜなぜ分析」による問いの深掘り

米情報機関は、問いを再設定する手法として「なぜを重ねる」分析も紹介しています。以下は、その要点を私が整理し直したものです。

最初の問い:中国はなぜイランにミサイルを売却するのか?
 → イランに影響力を及ぼしたいから
それはなぜか?
 → 湾岸地域における米国の権益を弱めたいから
それはなぜか?
 → 米国がアジアに集中する力を減らしたいから
それはなぜか?
 → 台湾統一を見すえ、アジアで自由に行動したいから

最終的な問い:
中国は台湾正面への大戦略の一環として、中東に軍装備を広げているのだろうか?

現在の事象を扱う分析では、「なぜ(Why)」が水面下に隠れています。理由を追うことで、最初の問いでは見えなかった構造が浮かび上がります。一方、未来に関する問いでは「なぜ」はまだ存在しません。未来の問いでは「どこへ向かうのか(where)」「何が起こりそうか(what)」「どのように進むか(how to)」を重視して考えます。

インテリジェンス思考術(第9回)

問いの再設定とは何か

問いは一度立てれば終わり、というものではありません。問いは立てた後にこそ、その意味を何度も確かめ直す必要があります。最初に設定した問いが、本当に知るべきことを捉えていないことは珍しくないからです。これはインテリジェンスの世界に限らず、ビジネスの現場でも同じです。

「最初の問いが浅い」「方向がずれている」――そうしたズレは、問いを再設定しないかぎり気づけません。そこで必要になるのが問いの再設定です。

なぜ問いを再設定するのか

問いを再設定する必要がある理由は、大きく二つあります。

  1. 最初に与えられた問いが、使用者(依頼者)が本当に知りたいこととズレている場合がある。
  2. 自分自身が立てた問いが、本来知るべきことを外している場合がある。

人はどうしても、最初に見えた問題をそのまま“問い”にしてしまいます。しかし、その問いが表面的であったり、思い込みに基づいていたりすることは多いのです。

問いを再設定するための3つの視点

私は、問いを再設定するとき、次の3つを必ず確認します。

  1. 「本当にそうか」
  2. 「そもそも、この問いが必要なのか」
  3. 「この問いは誰のためのものか」

これらの視点を、簡単な例で説明します。

「本当にそうか」

例:「商品Aが売れている理由は何か?」

ここで立ち止まり、「本当に知りたいのは“売れている理由”なのか?」と問い直します。
もしかすると知りたいのは、

  • Aだけでなくどんな商品が売れやすいのか
  • 市場全体がどう変化しているのか
    といった、より広い視点かもしれません。

最初の問いを疑うことで、思考の幅が広がります。

「そもそも、この問いは必要なのか」

同じ問いでも、「そもそも私はなぜAの売れている理由を知りたいのか?」と自問すると、

  • 単に気になっただけなのか
  • 新商品を開発するためなのか
  • 顧客の嗜好の変化を知りたいのか
    目的が変われば、必要な問いも変わります。

多くの場合、「そもそも」を探ることで新しい問いに気づきます。

「その問いは誰のためのものか」

インテリジェンスでは使用者(政策者)と生産者(分析官)の立場が明確です。
使用者が必要としていない問いをいくら深めても、意味がありません。

ビジネスも同じです。
作り手や販売側は「なぜ本が売れないのか」と考えがちですが、顧客の視点に切り替えれば、
「客はなぜこの本を買わないのか」という問いになります。

この視点の変化だけで、得られる答えは大きく変わります。

簡単なビジネス事例で見る「問いの再設定」

あなたは経営コンサルタントで、ある企業からこう依頼されたとします。

「新製品を開発したいので、今よく売れているものを調べてほしい」

最初の問いは「どんな商品が売れているのか」です。
しかし、ここで問いをそのまま受け取るのではなく、問いの再設定を行います。

ステップ①

依頼者が直面している「達成すべきこと」を考える。
→ 本当に必要なのは“新製品開発”なのか?

ステップ②

依頼者の本当の任務を探る。
→ 実は「売上を伸ばすこと」が核心であると気づく。

ステップ③

すると、元の問いが的外れだと分かる。
「新製品の調査」だけでは売上アップに直結しない。

ステップ④

そこで問いを再設定する。
「売上を伸ばすために、どんな企画があり得るか」

ステップ⑤

依頼者に確認する。
「知りたいのは“売れる新製品”ではなく、“売上アップの方法”ですね?」

ステップ⑥

依頼者は気づく。
「ああ、そうか。私が本当に知りたいのはそこだった。」

この瞬間、依頼者が必要としていた問いが立ち上がります。つまり、問いの再設定によって、初めて正しい仕事が始まります。

問いの再設定がもたらす効果

問いを再設定すると、

  • 問題の核心が見える
  • 思い込みから離れられる
  • 誰のための問いかが明確になる
  • 行動が的確になる

インテリジェンスでもビジネスでも、「正しい問い」を立てることが成果を決めます。そして、その問いは最初に立てたものではなく、問い直しによって得られるものです。

インテリジェンス思考術(第8回)

問いを設定する技法

インテリジェンスの生産者は最初に問いを設定します。その際にまず知っておくべきことは、問いの種類です。問いは「現在か未来か」と「YES/NOで答えられるかどうか」の二軸によって四つの象限に分かれます。ここでの「現在の問い」とは、過去から現在までの範囲を指し、すでに答えが存在する問いという意味です。

四つの問いは互いに関連しており、生産者(分析者)は、これらを自由に行き来しながら、使用者が本当に知りたいことを整理します。

この考え方を製造業の事例で説明します。ある幹部が「部品調達を国内メーカーに切り替えるべきか否か」を検討しています。これは「戦略の問い」であり、分析者は、その戦略判断に資するために「情報の問い」に分解し、調査の方向性を整えます。

四つの問いの使い分け(サプライチェーン事例)

現在 × クローズドクエスチョン

分析者はまず、自社の現状をYES/NOで確認します。この段階では、事実を確実に把握します。

  • 「わが社のコア部品の海外依存率は高いか」
  • 「依存が特定の国や企業に偏っているか」

これらの問いは現状を確認するためのもので、回答は調査によって把握できます。想像的思考力は必要ありません。

現在 × オープンクエスチョン

次に、現状に至った理由や構造を確認する問いに進みます。この象限の問いは、YES/NOでは答えられません。

  • 「海外依存率が高い理由は何か」
  • 「現在の国内供給網の弱点はどこにあるのか」
  • 「過去に国内メーカーが増産に踏み切った条件は何か」

ここでは、事実確認とともに一定の想像的思考力が必要になります。

未来 × クローズドクエスチョン

そのうえで、幹部がまず知りたい「未来のYES/NO」にあたる問いを扱います。結論に近い部分を押さえる段階です。

  • 「国内メーカーは今後、必要数量を安定供給できるのか」
  • 「現在の弱点が今後もリスクとして続くのか」
  • 「海外と国内の併用調達は可能か」

ここでの回答には想像的思考力が求められます。この問いへの考察が、戦略判断の方向性を形づくります。

未来 × オープンクエスチョン

最後に、未来の変化の幅や条件を確認する問いに進みます。この問いは将来の動きを理解するためのものです。

  • 「国内メーカーが増産に踏み切る条件は何か」
  • 「価格は今後どの要因で変動するのか」
  • 「どの工程を国内に戻す必要があるのか」

ここで求められるのは、より高度な想像的思考力です。

以上の四つの問いを縦横無尽に行き来することで、使用者の「部品調達を国内メーカーに切り替えるべきか否か」という戦略の問いを支えることができます。

四つの問いには、「どこから調査を始めるべきか」という決まりはありません。しかし、一つの象限の問いに偏ると視野が狭まり、判断に必要な材料が集まりません。四つの問いを行き来することで、

  • 「何が分かっていて」
  • 「何が分かっていなくて」
  • 「未来のどこに幅があり」
  • 「どの条件が結果を変えるのか」

が整理され、使用者が本当に知りたい問いに近づくことができます。

クローズドに偏る危険性

イラク戦争では、情報機関は「イラクのサダム・フセインは化学兵器を保有しているか?」というクローズドクエスチョンに支配されました。その結果、「フセインは化学兵器を持っている」という思い込みが強まり、その前提を支持する情報ばかりを集めました。これは確証バイアスです。

さらに、当時の使用者であったブッシュ大統領やパウエル国務長官は、フセイン打倒という政治的目的に引きずられており、これに忖度する形でインテリジェンスの政治化や権威バイアスが生じました。

このような失敗を避けるためには、クローズドクエスチョンに囚われず、視野を広げてオープンクエスチョンに転換する努力が必要です。

CIAテロ対策センター元副部長フィリップ・マッド氏は、「はい/いいえで答えられる問いは、複雑な問題には向かない」と述べています。マッド氏は、使用者が分析者に結論を断定させようとする圧力を「確実性バイアス」と呼んでいます。このバイアスが働くと、分析者はYES/NO形式の問いばかりに引きずられ、必要な視点を見落とします。

企業の意思決定の現場でも同じです。

  • 「国内調達は可能なのか」
  • 「価格は下がるのか」

このような問いに固執すると、判断に必要な背景や条件が集まらず、誤った結論につながります。分析者は、クローズドクエスチョンに偏らず、オープンクエスチョンを併用することで、幅のある情報を確保する必要があります。

まとめ

四つの問いは、分析者が戦略の問いを情報の問いへ分解する際の有効な指針となります。現在の事実、現在の構造、未来の可否、未来の条件を順番に確認することで、意思決定に必要な情報が揃います。

四象限を行き来することで、使用者が本当に知りたいことが明らかになります。分析者は、フィリップ・マッド氏の指摘を踏まえ、YES/NOの問いに縛られず、幅のある問いを設定することで、より確かな判断材料を提供できます。