我が近況 2月23日配信記事

(1)桜の開花封報道で思うこと

二月というのに、昼間は二十度近くまで上がる日があります。
各地で桜が咲いたというニュースも目にしました。

もっとも、咲いているのは河津桜や寒桜のような早咲きの品種でしょう。
私たちが春の象徴として思い浮かべるソメイヨシノではありません。

それでも、「二月に桜」という響きには、どこか落ち着かないものがあります。
本来なら、梅の花を眺める時期です。
その梅も、心なしか早いように感じます。

四季がなくなった、と言う人もいます。
けれど私は、なくなったというより、境目が少しずつ曖昧になっているのだと思います。
寒い日はありますし、夏の暑さも昔とまったく別物になったわけではありません。
ただ、季節の並び方が少し変わってきた。そんな印象です。

ニュースで「桜が咲いた」と聞くとき、私はつい考えます。
それはどの桜なのか。
例年と比べて何がどれだけ違うのか。

「桜が咲いた」という言葉だけでは、まだ何も分かりません。
けれど、どの桜が、いつ、どこで咲いたのかを確かめていくと、
そこに小さな変化の輪郭が見えてきます。

季節の話は感覚的に受け止めがちです。
それでも、何が変わり、何が変わっていないのかを一つずつ見ていく。
その姿勢は、日々の仕事にも通じるものがあるように思います。

二月の空の下で咲く桜を見ながら、
そんなことを考えています。

(2)まもなく、冬季オリンピック終了

まもなくオリンピックが終わります。
日本は現在、金5、銀7、銅12のあわせて24個。北京大会の18個を上回り、過去最多とのことです。選手たちの努力に、素直に拍手を送りたい気持ちになります。

私は今回も高木美帆選手を応援していました。
500メートル、1000メートル、チームパシュートで銅メダル。パシュートは3本滑っていますから、体への負担も相当なものだったはずです。

1500メートルは6位。
彼女はこの種目の世界記録保持者で、過去二大会はいずれも銀メダルでした。「だんだんと1500メートルが走れなくなってきた」と語っていた言葉が、強く印象に残っています。

高木選手は31歳。15歳で初めてオリンピックに出場しました。
16年ものあいだ、世界のトップで滑り続けていることになります。

あらためて思うのは、その自己管理能力のすごさです。
体調を整え、体重を維持し、筋力を保ち、けがを防ぎ、心を立て直す。その一つでも崩れれば、世界の舞台では戦えません。

小平奈緒選手が32歳で金メダルを獲得したことを思い出します。年齢は一つの目安にすぎません。けれど、その年齢まで最高水準を保つことが、どれほど難しいか。

まだまだ頑張ってほしいという思いはあります。
しかしそれ以上に、15歳から五輪に立ち続けてきた時間そのものに、深い敬意を感じます。

長いあいだ、感動を与えてくれて、本当にありがとうございます。
そう伝えたい気持ちです。

インテリジェンス思考術(第18回)

情報の処理の技法

前回は、情報の収集について、ヒューミントに焦点を当てて解説しました。今回は、集めた情報をどう扱うか、という話になります。これまでと重なる部分もありますが、復習として読んでください。

情報はデータベースとして蓄積される

情報処理は、情報分析の重要な一過程です。

ベトナム戦争の際、米軍が撮影した大量の航空写真が机の引き出しに山積みになり、整理されないまま使われなかった、という指摘があります。もし体系的に整理されていれば、多くの兵士の命を救えた可能性がある、とも言われています。

情報は集めるだけでは意味を持ちません。
選別し、分類し、評価し、保管して、はじめて使える形になります。

こうした過程を経て、情報はデータベースとして蓄積されます。国家機関だけでなく、大企業や学校も、それぞれ独自のデータベースを持っています。ただし、膨大な情報を整理し続けるには時間と労力がかかります。そのため、国家組織では、専門部門が処理を担うのが原則です。

データベースに情報を入力する際は、日付だけでなくキーワードも付けます。
たとえば北朝鮮のミサイル関連情報であれば、「北朝鮮」「ミサイル」「技術」などの語を一緒に入力します。キーワードを付けると、その情報は一定の性質で検索できるようになります。ここでは、この性質を「属性」と呼びます。

情報は「劣化」する

情報は生ものです。時間がたつと価値が下がります。

1957年に『Strategic Intelligence Production』を著したワシントン・プラット准将は、戦術情報は6日で価値の半分を失い、道路や橋梁などの地誌情報は6年で半減すると述べました。

今日では、技術や市場、社会の動きが速いため、劣化の速度はさらに速いでしょう。ビジネスの情報はなおさらです。
したがって、できる限り新しい情報に接し、古い情報は更新しておくことが原則です。

ただし、新しい情報が常に正しいわけではありません。新情報に引きずられて、妥当だった分析を安易に変えることは避けたいところです。

新情報の情報源は信頼できるか。
どのように収集され、どの経路で伝達されたのか。
既存情報と照合して、何が変わったのか。
変化を生むような環境の変化はあったのか。

こうした点を一つずつ確認します。

情報の評価と情報源の評価は異なる

情報処理の一環として、情報を評価します。
評価は大きく二つに分かれます。

  • 第一に、情報源の信頼性(Reliability)
  • 第二に、情報そのものの正確性(Viability)

情報源の信頼性とは、情報を出した相手が信用できるか、別の情報源で裏づけが取れるか、という点です。

ただし、信頼できる情報源であっても誤ることがあります。意図的に虚偽を流すこともありますし、伝達の過程で内容が変わることもあります。
したがって、情報源の信頼性と、情報の正確性は分けて判断します。両者は必ずしも一致しません。

一例として、ウィキペディアはよく議論に挙がります。不特定多数のボランティアが執筆するため、情報源としての信頼性に疑問が出ることがあります。
その一方で、2005年に科学誌『Nature』は、科学分野の記事の正確性が『ブリタニカ百科事典』と大きくは劣らない、という趣旨の報告を紹介しました。多くの人の目にさらされ、誤りが修正され続ける、という側面があるためです。

つまり、情報源の性格と、情報そのものの正確性は別問題です。

情報は集めるだけでは意味がありません。
整理し、時間による劣化を意識し、評価を分けて考える。
この「処理」を丁寧に行うかどうかで、分析の質は変わります。

今回はここまで

今回は、情報の処理について整理しました。情報源の信頼性と、情報の正確性は分けて判断することが大切です。次回は、情報の取扱いについて、もう一段深めていきます。

米国務長官のハンガリー訪問――同盟より国益という現実

2月23日のニュースレター記事

1 事実関係

2月16日、ルビオ米国務長官はハンガリーの首都ブダペストを訪問し、オルバン首相と会談しました。

会談後、ルビオ氏は「両国関係は黄金時代を迎えている」と述べました。さらに、トランプ大統領がオルバン氏の成功に深く関与してきたと語り、同氏が政権を維持することは米国の国益にかなうとの認識を示しました。米国がハンガリーに財政支援を行う可能性にも言及しました。

ハンガリーでは4月に総選挙が予定されています。オルバン氏は長期政権を維持してきましたが、経済の停滞や汚職問題に対する不満が広がり、世論は流動化しています。その局面で、米国は現職首相への支持を公然と打ち出しました。

ルビオ氏はその前日にスロバキアも訪問しています。米国は中欧諸国との関係を強める姿勢を明確に示しました。

今回の訪問は、単なる友好確認ではありません。米国がEU内部の力関係を踏まえ、意図を持って行動したことを示しています。

2 米国の狙い――中欧という戦略的足場

今回の動きからは、複数の意図が読み取れます。

第一に、中欧の地理的位置です。ウクライナ戦争が続くなかで、中欧は軍事物資の通過点となっています。同時に、ロシアと西欧を結ぶ接点にも位置します。この地域で影響力を確保することは、欧州全体の安全保障に関与することを意味します。

第二に、EUへの働きかけです。EUは対ロ政策や制裁で結束を維持してきました。EUが統一した立場で行動すれば、強い交渉力を持ちます。米国は欧州との協調を維持しつつ、自らの選択肢も確保しようとします。中欧諸国との関係強化は、そのための現実的な手段です。

第三に、指導者同士の関係を前面に出す外交です。トランプ政権は制度や枠組みよりも、首脳間の関係を重視します。オルバン氏のような強い指導者と並ぶ姿は、米国内に向けた分かりやすい政治的メッセージになります。

3 同盟を運用するという発想

米国とEUはNATO同盟を共有しています。安全保障面での協力は続いています。

しかし、米国は同盟を固定的な前提とは考えません。米国は同盟を自国の国益に沿って運用します。

同盟は目的ではありません。国益を実現するための手段です。国益と一致する場面では協調が強まり、状況が変われば調整が行われます。

ハンガリー訪問は、米国が欧州全体との関係と、個別国家との関係を同時に使い分けていることを示しています。EU全体と協議を続けながら、特定の国とも関係を強めます。そうすることで、政策の自由度を確保します。

4 中国・ロシア・中間選挙という時間軸

現在のトランプ政権の外交の重点は、中国とロシアです。

中国とは、技術、経済、安全保障の各分野で競争が続いています。ロシアはウクライナ戦争を通じて欧州の安全保障環境に直接影響を与えています。この二つの課題は、切り離して扱うことはできません。

4月には米中首脳会談が予定されています。ここで経済や安全保障に関する具体的な成果を示せば、政権は国内政治において説明しやすい材料を得ます。

政権は中間選挙を視野に入れています。外交の進展や合意は、有権者にとって理解しやすい成果になります。

ハンガリー訪問は、この大きな流れの中に位置づける必要があります。中欧への関与、米中首脳会談、ロシア問題への対応は、ばらばらの動きではありません。時間軸の上で連動しています。

5 日本への示唆――日米同盟をどう読むか

今回の動きは、日本にとっても他人事ではありません。

米国は同盟を重視します。しかし、米国は常に自国の国益を基準に判断します。国益と一致する局面では強固に結束しますが、優先順位が変われば調整を行います。

4月に予定されている米中首脳会談は、その試金石になります。米国が経済や安全保障の分野で成果を優先すれば、地域戦略の重心も動きます。中国との間で何らかの合意や取引が成立すれば、その内容は同盟環境にも影響を与えます。

重要なのは、同盟を安心装置として固定的に捉えないことです。日米同盟は強固です。しかし、米国の外交判断は常に米国の国益を軸に下されます。

日本に求められるのは、米国の発言を追うことだけではありません。米国がどの課題を優先し、どの順番で処理し、どこに政治的資源を投入しているのかを見ることです。

ハンガリー訪問、ロシア問題、米中首脳会談、中間選挙。これらを一本の時間軸で並べると、米国が外交成果を積み上げようとしている姿が見えます。

日米同盟に安心するのではなく、米国の戦略の動きを具体的に追うこと。そこに現実的な対米外交の出発点があります。

6 情報分析の視点――メッセージ

最後に、情報分析の視点を明確にします。

国際政治を読むとき、分析者は自国の期待や願望を基準にしてはいけません。分析者は相手の立場に立たなければなりません。

今回であれば、米国とトランプ政権の立場に立ちます。米国は国益を最優先にします。政権は中間選挙を控えています。政権は外交成果を必要としています。この三つを前提に置きます。

その前提に立てば、ハンガリー訪問は孤立した出来事ではありません。米中首脳会談も、ロシアへの対応も、同じ線上にあります。政権が外交成果を積み上げ、それを国内政治に結びつけようとする流れです。

情報分析とは、出来事を並べる作業ではありません。分析者は、誰が、何を求め、どの時間軸で動いているのかを特定しなければなりません。同盟という言葉、友好という言葉に引きずられてもいけません。分析者は、「その行動は誰の利益に直結するのか」「そのタイミングは何を狙っているのか」と問い続けなければなりません。

出来事の背後にある優先順位と時間軸を読み取ること。それができなければ、国際政治の動きは理解できません。

(了)