半導体の分類をしてみた(2025年9月29日作成)

半導体は複雑に見えるが、ロジックツリーで整理すればその全体像は比較的単純である。まず、半導体を「古いか、新しいか」で大きく二つに分ける。長年使われてきたものをレガシー半導体と呼び、近年世界的に注目されているものをアドバンスド半導体と呼ぶ。本稿では後者に焦点を当てる。


アドバンスド半導体の二分法

アドバンスド半導体は大きく「情報を扱うもの(情報系半導体)」と「電力を扱うもの(電力系半導体)」に分けられる。

  • 情報系半導体は、データを処理したり記憶したりする役割を担う。
  • 電力系半導体は、電気を制御したり外界を感知したりする役割を持つ。

この二分法を起点にすれば、個々の半導体がどこに属するのかが理解しやすい。


情報を扱う半導体

情報系半導体はさらに二つに分けられる。

第一は処理系である。

処理系の代表はCPU(Central Processing Unit)である。CPUは「汎用の演算装置」であり、あらゆる計算や制御を少しずつ順番にこなすことが得意である。パソコンやサーバーの中心にあり、システム全体の動作を司る。

これに対し、GPU(Graphics Processing Unit)は、大量の演算を同時並行に行うことが得意である。もともとは画像処理用に発展したが、現在ではAIの学習や解析など膨大なデータを一斉に処理する用途で不可欠になっている。

さらに登場したのがAI専用チップである。これはNPU(Neural Processing Unit)やTPU(Tensor Processing Unit)と呼ばれるもので、AIの計算処理に特化して設計されている。GPUよりも効率よく、低消費電力でAI演算を行えるよう最適化されている。

たSoC(System on a Chip)は、CPUやGPU、通信機能など複数の回路を一つにまとめた統合チップである。スマートフォンに搭載される半導体はほとんどがSoCであり、これ一つで通信・計算・グラフィック表示までを担う。

このように処理系は「頭脳」といっても、一つの役割だけではなく、汎用の司令塔(CPU)、大量処理の職人(GPU)、AI専用の特化型(NPU/TPU)、そして多機能を一体化した万能選手(SoC)と、役割に応じて多様化しているのである。


第二は記憶系である。

記憶系の中心はDRAM(Dynamic Random Access Memory)である。DRAMは「作業机」にたとえられることが多く、データを一時的に置いて高速に読み書きする。電源を切れば中身は消えてしまうが、その分処理速度が極めて速い。PCやスマートフォンが快適に動くかどうかは、このDRAMの性能と容量に大きく依存している。

NAND型フラッシュメモリは、電源を切ってもデータが消えない「不揮発性メモリ」である。スマホのストレージやSSD(Solid State Drive)に使われ、写真やアプリを保存する。DRAMより速度は遅いが、大容量かつ安価で、長期保存に向く。

さらに近年重要性を増しているのがHBM(High Bandwidth Memory)である。HBMはメモリチップを縦方向に積み重ねて配置する技術により、従来のDRAMよりもはるかに広いデータ転送帯域を実現している。GPUやAIチップに直結し、AIの学習やスーパーコンピュータのような「超大規模データ処理」で威力を発揮する。

つまり記憶系も一様ではなく、一時的で高速な作業机(DRAM)、長期保存の倉庫(NAND)、超高速処理用の特別席(HBM)というように、用途ごとに棲み分けがなされている。


補足:AI半導体とは何か

近年「AI半導体」という言葉が頻繁に用いられている。これは厳密な技術区分ではなく、AI処理に最適化された半導体群を総称する呼び方である。

ロジックツリー上では、主として「情報系 → 処理系」に属する。GPUはその代表例であり、NPUやTPUなどのAI専用チップもここに含まれる。またAIの計算処理には膨大なデータを扱う必要があるため、HBMのような記憶系メモリも不可欠であり、広い意味ではAI半導体の基盤に含められる。

さらに、AIは外界の情報を取り込む必要があるため、イメージセンサーやLiDARなどの感知系、電力を制御するパワー半導体とも密接に連携して動作する。したがって「AI半導体」とは単独の部品を指すのではなく、AI処理を中心に据えた半導体群全体のエコシステムを指す言葉と理解すべきである。


電力を扱う半導体

電力系半導体も二つに分けられる。

第一は感知系である。

代表例はイメージセンサーである。イメージセンサーは光を受け取り、それをデジタルの画像データに変換する部品であり、人間にたとえれば「目」に相当する。スマートフォンのカメラ、自動車の車載カメラ、監視カメラや医療用内視鏡など、現代社会のあらゆる場面で不可欠となっている。

このほかにも、加速度センサージャイロセンサーは動きや傾きを検知し、スマートフォンの画面回転や自動車の安定制御に利用される。マイクに組み込まれるMEMSセンサーは音を電気信号に変換し、音声アシスタントやスマートスピーカーを可能にしている。さらに自動運転車に搭載されるLiDARセンサーは、レーザーを用いて周囲の空間を三次元的に把握する。これらはすべて「現実世界をデジタルに翻訳する」装置である。

第二は制御系である。

パワー半導体(SiC, GaN, IGBTなど)がその典型である。これらは電流や電圧を効率的に変換し、モーターを回したり電力を供給したりする。電気自動車や再生可能エネルギーの分野で特に重要性が高まっており、人間でいえば「筋肉」に相当する。


まとめ

以上のように、半導体はまず「レガシーかアドバンスドか」に分けられる。さらにアドバンスド半導体は「情報を扱うもの」と「電力を扱うもの」に大別でき、それぞれが「処理/記憶」「感知/制御」という四つの機能に細分される。

情報系では、CPU・GPU・AIチップ・SoCといった処理系、DRAM・NAND・HBMといった記憶系が互いに棲み分けを持って機能している。電力系では、イメージセンサーをはじめとする感知系が現実世界をデジタルに変換し、パワー半導体がエネルギーを制御して社会を動かしている。

「AI半導体」という言葉は、この体系の中では処理系を中心としつつ、記憶系・感知系・制御系と連携して初めて機能するものと理解すべきである。AI半導体は単独のカテゴリーではなく、AIという用途を軸に束ねられた半導体群の呼称なのである。

産経新聞の書評(一覧表)

特攻80年 「無駄死に」の歴史観、再検討を促す翻訳書 『日米史料による特攻作戦全史』 <書評>評・上田篤盛(ラック研究員・元防衛省分析官) – 産経ニュース

ムスリム移民の半生 『米軍極秘特殊部隊 ザ・ユニット』 <書評>評・上田篤盛(ラック研究員・元防衛省分析官) – 産経ニュース

爆弾テロ捜査の現実 『FBI爆発物科学捜査班』カーク・イェーガーほか著 <書評>評・上田篤盛(ラック研究員・元防衛省分析官) – 産経ニュース

有事を巡る議論の視点 『2030年の戦争』小泉悠・山口亮著 <書評>評・上田篤盛(軍事アナリスト・元防衛省分析官) – 産経ニュース

日本の弱点 監視忌避 『認知戦』イタイ・ヨナト著、奥山真司訳 <書評>評・上田篤盛(軍事アナリスト・元防衛省分析官) – 産経ニュース

国連のイラン制裁「再発動」──なぜ全会一致ではなく決まるのか(9月28日作成)

朝日新聞は28日朝刊一面で「国連のイラン制裁きょうにも再発動 安保理 中ロの阻止案否決」と報じた。

だが読者の多くが直感的に抱く疑問はこうだろう。「国連安保理の制裁は全会一致が必要なのでは?」

実は今回の動きは、2015年のイラン核合意(JCPOA)に付随したスナップバック方式によるものだ。これは通常の安保理決議とは逆の仕組みで、合意参加国が「重大な不履行」を通報すると30日間の審議に入り、その間に「制裁解除を継続する決議」が可決されなければ、自動的に制裁が復活する。常任理事国の拒否権を無力化するために考案された“逆転条項”である。

もともと対イラン制裁は2006年以降、米・英・仏・露・中がすべて賛成する全会一致で成立してきた。その後、2015年に決議2231号が採択され制裁は大幅に解除された。しかし米国が2018年に一方的に合意を離脱したことで体制は崩れ、今回は英・仏・独の通知に基づくスナップバックが動き出した。中国・ロシアは阻止決議を提出したが否決され、制裁再発動が現実のものとなった。

ここで問題になるのは正当性と実効性だ。形式上は安保理決議に基づくため加盟国は拘束される。だが中国・ロシアは「従わない」と明言しており、制裁の網は大きく緩む。さらに米国はすでに合意を離脱しているため、「発動資格があるのか」という疑義も消えない。制度は合法でも、国際社会の分裂を前提にした制裁は正統性に影を落とす。

そして最も注目すべきはイランの対応である。イランは「スナップバックは無効」と突っぱね、中国・ロシアの後ろ盾を得て核開発を加速させる構えだ。すでに濃縮度60%のウランを保有しており、核兵器製造に必要な90%までの距離は短い。西側の圧力が強まるほど、イランは中露との経済・軍事協力を深め、「東方志向」を戦略の柱に据えるだろう。

制裁は形式的には復活しても、現実には抜け穴を通じて骨抜きになりかねない。むしろ重要なのは、「制裁が効くかどうか」よりも、制裁を正統とみなす欧米と、無効を主張する中露・イランのせめぎあいが、国際秩序そのものを揺さぶるという点にある。

静かな地殻変動シリーズ(2025年9月28日作成)

はじめに

トランプ関税をめぐる喧騒の陰で、国際秩序には静かだが確実な“地殻変動”が進んでいる。ニュースの見出しには現れにくいが、各地域で進む構造変化は日本の安全保障や経済に直結する。本シリーズでは、世界10の焦点を取り上げ、その深層を鳥瞰する。


第1弾:台湾

中国は2025年4月、過去最大規模の軍事演習「海峡雷霆—2025A」を台湾周辺で実施した。これは台湾総統就任1周年を前に圧力をかける政治的威嚇であると同時に、実戦能力の検証を兼ねている。中国国防部は「正当かつ必要な行動」と主張し、外交部も「内政干渉を許さない」と強調。プロパガンダの色彩を持つ一方で、演習内容は海上包囲や領域コントロールなど、実際の侵攻シナリオを意識していた。
さらに背後では、新型上陸用舟艇(水橋級)の開発・試験が進行しており、着上陸作戦能力の向上が確認されている。台湾問題は単なる外交的圧力ではなく、能力と意志が二重線で進行する静かな変動として読み解く必要がある。


第2弾:中東

複雑な中東情勢を理解するには、地層のような多層構造で捉える視点が欠かせない。

  • 基盤層(第1層):イスラムとユダヤの民族・宗教・歴史的対立。
  • 第2層:1979年以降のイランとイスラエルの固定的な敵対関係。
  • 第3層:「宗派と地政学が交差する準安定層」。イスラエル+湾岸諸国 vs イラン、そして米国の後退と中国の台頭(例:イラン・サウジ和解の仲介)が揺らぎを生む。
  • 第4層:ハマス、ヒズボラ、フーシ派といった武装勢力が国家枠を超えてせめぎ合う領域。

イスラエル・ハマス戦争は、この第4層の緊張が表層に噴き出した「第5層」にあたり、代理戦争の様相を呈している。中東はまさに“構造で見る”ことが求められる地域である。


第3弾:パナマ運河

20世紀を通じて米国が掌握し、太平洋と大西洋を結ぶ戦略的要衝だったパナマ運河。その地政学的価値は今も変わらないが、近年は水不足と老朽化で通航能力が低下。2017年にはパナマが台湾と断交し中国と国交を樹立、中国企業が港湾・物流に進出した。米国の影響力は後退し、代替ルート(ニカラグア運河やメキシコ横断鉄道)はまだ十分ではない。
一方、北極海航路はロシアの支配下にあり、スエズ経由の東アジア〜欧州ルートも戦争の影響で不安定化。結果、パナマは「安全な現実ルート」として再注目されている。トランプが「パナマを取り戻す」と叫ぶのは、米国の構造的不安の表れだ。


第4弾:中南米

中国は過去10年、中南米に投資・港湾整備・通信インフラ支援を拡大し、米国の地政学的影響圏を浸食している。パナマ、キューバ、ベネズエラなどを軸に存在感を高めるその戦略は、毛沢東以来の「国際統一戦線」思想に通じる。主敵に対抗するため、外周の矛盾を味方にする発想だ。
また、中南米への関与は一帯一路のラテン版であり、台湾承認国の切り崩しという外交戦の側面もある。経済援助、港湾投資、5G通信、孔子学院など非軍事的手法を駆使し、地域の覇権構造を静かに揺さぶっている。


第5弾:アフガニスタン

2021年、米軍の撤退でタリバンが政権を奪取。アフガニスタンは南アジア・中央アジア・中東・中国を結ぶ“戦略的心臓部”であり、米国の撤退は単なる戦術的後退ではなく、ユーラシア中枢からの離脱だった。
空白に最も迅速に接近したのは中国とロシアだ。中国は新疆安定と鉱物資源確保を狙い、ロシアは2025年にタリバンをテロ組織リストから外し、中央アジアへの影響力を再編しようとしている。アフガニスタンの未来は「誰が兵を送るか」ではなく、「誰が囲い込みを成功させるか」の競争へ移行している。


第6弾:サヘル地域

2020年以降、マリ、ブルキナファソ、ニジェールでクーデターが相次ぎ、軍事政権が誕生した。旧宗主国フランスの影響力が弱まる一方、ロシアはワグネルや「アフリカ軍団」を通じて進出。だがウクライナ戦争で余力は限られている。
中国はサヘル本体への直接介入を避け、代わりに東アフリカ・南部アフリカで“帯状の通商・資源回廊”を形成。国家単位ではなく回廊単位でアフリカを捉える独自戦略を進めている。サヘルは“空白地帯”をめぐる大国間の静かな競争の舞台となった。


第7弾:西欧

EUは経済統合には成功したが、アイデンティティ統合には失敗した。移民流入や宗教摩擦が極右台頭を招き、リベラルな価値観は形骸化。各国は自国優先へと傾き、西欧そのものが分裂の坂を下り始めている。
さらに安全保障では、核を持つ仏英と非核の独の非対称性がNATO不信を生み、米国依存が揺らぐ。経済では中国依存、資源ではロシア依存を減らそうとするが、その過程は供給網再編によるコスト増と成長鈍化を招く。西欧は「信頼できる経済圏」という狭く重たい枠組みに縛られつつある。


第8弾:中央アジア

カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン。かつてソ連の“裏庭”だったこの地域は、いま静かにロシアから中国の影響圏へと移行している。ロシアは旧宗主国としての影響力を維持しようとするが、ウクライナ戦争による負担で求心力は低下。
一方、中国は「一帯一路」を軸に、鉄道・パイプライン・鉱物資源開発を通じて存在感を強めている。経済面ではすでに中国が主要パートナーとなりつつあり、ロシアの後退を埋める形で影響を拡大している。
米国は一時期、カザフやキルギスに軍事基地を置いていたが、現在は撤退しプレゼンスは大きく低下。中央アジアは「米国が戻りにくい空白」となっている。
カザフスタンは資源大国だが、権威主義体制のもとで民主化は容易でなく、むしろ中国・ロシア双方とバランスを取りつつ体制維持を図っている。中央アジアは今、ユーラシア大陸の“重心の移動”を象徴する地域だ。


第9弾:インド

「世界最大の民主主義国」とされるが、モディ政権下でヒンドゥー至上主義が強まり、報道や少数派への圧力が強化されている。制度的には選挙が機能するものの、自由主義とは異なる強権的多数派支配が進む。
経済はIT・宇宙・製造で成長を続けるが、教育格差やインフラ不足、多様性の統制が制約要因となる。QUAD参加国でありながら中国とも経済関係を維持し、ロシア産原油も大量購入。インドは「選ばれる国」ではなく「自ら選ぶ国」として、21世紀の国際構造の新たな重心を形成しつつある。


第10弾:朝鮮半島

ウクライナ戦争や台湾問題の陰で忘れられがちだが、朝鮮半島も重大な変動に直面している。韓国では2024年総選挙で与党が惨敗し、2025年4月には尹錫悦大統領が憲法裁判所により罷免。親北政権誕生の可能性が現実味を帯びている。
一方の北朝鮮はロシアと軍事連携を強化し、挑発行為を常態化。背後には中国が存在し、半島は台湾と並ぶ“第2の火薬庫”へ再浮上した。日本にとっては二正面有事リスクであり、「同盟前提」の思考停止を超えた複眼的な戦略が求められる。


おわりに

台湾から中東、中央アジア、そして朝鮮半島まで、“静かな地殻変動”は世界各地で進んでいる。変化はゆっくりだが確実であり、日本がそれを無視することはできない。国内政治が短期対応に追われる中で、国際秩序の変容に目を向けることこそ、未来への戦略的思考の第一歩である。

インテリジェンスの失敗とバイアスの罠

――寺田寅彦の言葉から考える批判的思考の重要性

1. インテリジェンスの失敗とは何か

インテリジェンスの失敗は、情報の欠如だけではなく、情報分析官の誤った解釈や、意思決定者による拒否でも起こります。その多くは、人間の思考に内在するバイアスに原因があります。

産経新聞の「産経抄」には寺田寅彦の言葉が引用されていました。

「読書もとよりはなはだ必要である、ただ一を読んで十を疑い百を考うる事が必要である。」

知識偏重ではなく、常に批判的に考えること。これがバイアスを乗り越える第一歩です。

2. 情報分析官を惑わすバイアスの事例集

アンカーリング(修正不足)

最初に立てた仮説に固執し、後から入った情報で十分に修正できない傾向。経験豊富な分析官ほど、自らの結論に縛られやすい危うさがあります。

ミラーイメージング

「相手も自分と同じように考えるはずだ」という思い込み。

  • 1998年、北朝鮮のテポドン発射は「経済制裁を恐れて発射しないはず」と誤認。
  • ロシアのウクライナ侵攻も「合理的に考えれば愚策」と判断し、意図を見誤りました。

利用可能性バイアス

目に見える派手な情報ばかりに囚われる傾向。

  • 中国の軍事演習に目を奪われ、同時並行で進むサイバー攻撃や偽情報拡散という“見えない戦線”を軽視する危険。
  • 犯罪率低下の要因を「警察増員・厳罰化・銃規制・景気」と説明した米国の事例。しかし実際は1973年の中絶合法化により、望まない妊娠が減り、90年代に犯罪予備軍が縮小したことが大きな背景だったのです。

因果関係バイアス

「相関=因果」と誤解する傾向。

  • 株価の上げ下げに単一原因を求めてしまう。
  • 実際には「おむつとビール」の購買データのように、背後に夏の暑さといった第三の要因が潜んでいることも多い。

確証バイアス

仮説に合う情報ばかりを集め、反証を無視する。韓国ドラマ『チャングムの誓い』では、経験豊かな医官が誤診し、未熟なチャングムの診断が正しかったエピソードがありました。

専門家バイアス

「弁護士だから正しい」「学者だから中立」と思い込む危険。専門家も立場に応じて主張を行うため、受け手が批判的に検討する力を持たなければなりません。

現状維持バイアス

急速に進む技術変化を過小評価する傾向。AIやスマホの進化は社会を大きく変えつつありますが、人間は従来の延長線上で未来を考えがちです。

3. 歴史が示す「拒否」の罠

バイアスは分析官だけでなく、意思決定者にも影響します。

  • ヒトラーはソ連侵攻の危険を進言した将校を「悲観主義」と罵倒し、殴打して解任。
  • スターリンはゾルゲの情報を無視。

感情や先入観に囚われた指導者は、有用な情報そのものを拒否します。分析の成果が届かない「構造的敗北」の典型です。

4. 未来予測の難しさとバイアス

未来を正確に言い当てることは極めて困難です。その理由を、経営学者の田坂広志氏は「不連続性」「非線形」「加速度」の3点に整理しました。加えて、私自身は次の4点を強調したいと思います。

  1. 複雑性:些細な変化が大きな影響を生む(バタフライ効果)。
  2. 悲観論への傾斜:人はセンセーショナルなストーリーを好み、過剰に悲観的になる。
  3. 改善の影響:規制や改善策によって未来は変わりうる。たとえば地球温暖化対策。
  4. 技術のブレークスルー:1997年、IBMのスーパーコンピュータがチェスの王者を破った例に象徴されるように、技術革新は予測不能です。

人間は「現状維持バイアス」に縛られ、未来を過去の延長線で考えがちですが、実際には予測不能な要素が社会を動かします。

5. バイアスを克服するために

ジョン・ベイリス『戦略論』は、認知バイアスを避ける手法として以下を挙げています。

  • 反論討議法
  • チームA/B分析
  • 競合仮説分析
  • シナリオ分析

体系的な分析技術を導入しなければ、人間の思考は容易に偏ってしまいます。

6. 結論 ― 客観性と論理性

インテリジェンスを支える二本柱は「客観性」と「論理性」です。

  • 客観性:感情や立場を超えて、他者も納得できる視点を持つこと。
  • 論理性:前提と根拠に基づき、筋道を明確にして結論に至ること。

結論そのものの正しさよりも、結論に至るまでの筋道が合理的であるかどうかが重要です。批判的思考を怠らず、自らの思考のクセを疑い直すことこそ、インテリジェンスの失敗を減らす唯一の道なのです。

パレスチナ国家に思うこと(2025年9月23日作成)

本日の新聞では、英国・豪州・カナダがパレスチナ国家を承認し、フランスも承認予定と報じられています。これに対し、日本は先日、岩屋外務大臣が「未承認」を表明しました。

その説明の要点は、

  • 「外部から干渉して対立を激化させない」
  • 「イスラエルに自制を促すカードを留保する」
    といった理屈にまとめられます。

しかし、ロシア・ウクライナ戦争では日本は積極的に支援しました。結果として対立を激化させており、今回の姿勢とは矛盾します。こうした二重基準は、日本が「独自判断を装いながら、実際には対米従属している」と見られかねません。さらに「米国と同様にイスラエルの武力行使を間接的に容認している」との印象も避けられないでしょう。

そもそも日本外交は対米従属を前提としており、外務省は自主判断に見せかける理屈を用意してきました。しかし、情報が多元化した現在、建前だけの説明では国民は納得しません。背後には、米国からの関税圧力を少しでも和らげたい思惑もあったでしょう。けれども、従属的な姿勢を示したところで信頼は得られません。むしろ欧州諸国のように、主導的な駆け引きを見せる絶好の機会だったのではないでしょうか。

承認しないという判断自体は、一つの選択肢として理解できます。私も必ずしも政府方針に反対ではありません。しかし、その説明が「建前」で固められている以上、説得力を欠き、国民から理解されることはないのです。

拙著を恵送して考えた郵便事情(2025年9月26日作成)

□はじめに

先週、新刊『兵法三十六計で読み解く中国の軍事戦略』の見本(完成品と同じもの)が届きました。そこで、お世話になっている方々やご紹介いただけそうな方々へ献本を始めました。

郵送はスマートレターを利用すれば210円で済みます。本書は303ページで厚さちょうど2センチ。もっとも安価に送れる方法です。2冊送る場合はレターパックライトで430円。さらに台湾へも1冊送りましたが、こちらはEMSで500グラム以下(本書は380グラム)の扱いとなり、1450円かかりました。地理的には近くても、やはり「外国」であることを実感させられます。


日本の郵便制度

改めて感じたのは、日本の郵便料金が全国一律であることのありがたさです。東京から与那国島へ送ろうと、隣町に送ろうと、料金は同じ。

離島や山間部に住む人々の中には「自分たちは国家に顧みられていない」と感じる瞬間もあるでしょう。しかし居住地を選ぶのは個人の自由であり、その自由を前提に、郵便制度は全国民が平等に恩恵を受けられる仕組みを保っています。あえて非効率を抱え込みつつも「あなたもこの国の一員です」と静かに伝えているのです。実際、近距離の郵便で浮いた利益を、遠距離に均等配分する仕組みがあるのだそうです。


郵便制度は国家からのメッセージ

台湾有事を想定すれば、南西諸島は最前線となります。しかし同時に、地理的・政治的・歴史的に距離を感じやすい地域でもあります。だからこそ全国一律料金は、そうした距離を縮める「国家からの静かなメッセージ」と言えるのではないでしょうか。

何より国民全体が「離島や僻地も日本国の確かな一部である」という認識を持つ必要があります。これらの地域を支えることは、単なる善意や思いやりではなく、私たち自身の暮らしを守る安全保障の基盤そのものだからです。

一方で、離島や僻地に暮らす人々も、国家や国民全体からの支援で生活が成り立っていることを自覚することが求められます。支える側と支えられる側が互いにその役割を認め合うとき、国家共同体としての一体感が形づくられるのです。郵便の一通は、その思いを結びつける小さな旗印のように見えてきます。


郵便のハプニング

もっとも、現実には困った出来事もありました。台湾へ送った1冊は、封筒が破れて中身が紛失。先方から「届いたが本が入っていなかった」との連絡を受けました。封筒ではなく箱で梱包すべきでした。日本ではまず考えにくいケースですが、海外では一筋縄ではいかないようです。

さらに追い打ちをかけるように、スマートレターで送った2冊が「厚さ2センチ以上なので送れない」との紙片付きで自宅に返送されました。投函から3日後のことです。本の厚さはちょうど2センチのはずでしたが、実際には2センチ1ミリだったのかもしれません。以前は同じ厚さで問題なく送れていただけに納得がいきませんでした。

特に不満を覚えたのは紙片の表現です。「2センチ以上」と「2センチまで」では意味合いが違います。結局、恣意的な目分量ではないかと疑いました。近くの郵便局に持ち込みましたが、判断は上級部署次第とのことで埒があかず、結局電話で担当者と話すことに。しかし最終的には諦めました。スマートレター自体が1ミリあり、全体で2センチを超えていたからです。

とはいえ、改善してほしいのは説明の仕方でした。「計測器で測ったところ、2センチ1ミリありました。スマートレターは安価なサービスであり、厚さ制限は厳格に適用しています。申し訳ありませんが、今回の郵便物は送れません」と明記されていれば、まだ納得できたでしょう。社員教育や表現の適切さが問われる出来事でした。

台湾訪問で考えたこと(2025年9月14日作成)

■台湾訪問

先週、3泊4日で台湾を訪れました。昨年4月以来の再訪です。

「2027年危機説」が叫ばれて久しいものの、現地の市民生活は驚くほど平穏で、空港には大陸からの旅行者も目立ちます。松山空港と上海虹橋空港を結ぶ直行便も活発に運航され、台湾社会の落ち着きを象徴しているようでした。

ただ、台湾の物価の高さには驚かされました。日本よりも高く感じられたのは、物価の問題というよりも円安の影響かもしれません。

■台湾は半導体のメッカ

今回の訪問では、新竹サイエンスパークと台北郊外での半導体展示会に参加し、日本の半導体企業で常駐されている方に案内していただきました。

台湾は世界の半導体供給を担う存在です。国家として半導体産業を育成し、博士課程を修了した技術者の年収は3,000万円に達するとされます。小学校からデジタル教育を徹底し、子どもたちの将来の夢も「技術者」が主流。すでに日本は台湾や韓国に後れを取っています。

私はこれまで、国家戦略とは「国の資源(能力)×政府の意志力(意図)」と規定していましたが、そこに教育を加える必要があると痛感しました。国家意思に基づく教育こそが長期戦略を支える。教育が伴わなければ、戦略の持続性はない――今回の最大の学びでした。

■半導体シールドへの疑念

中国にとって台湾の半導体は垂涎の的であり、それが軍事侵攻をためらわせる要因ともなっています。いわゆる「半導体シールド」です。TSMC新竹工場では米国の要請に応じて海外生産拠点を拡大しつつも、中国との取引も継続しています。

しかし、ここ数年「半導体シールド」に対する疑念も語られるようになっています。中国も少子高齢化に向かう一方で、半導体の製造力を急速に高めています。「今しかない」と判断するか、あるいは「台湾の半導体が死活的ではない」と見なすなら、中国は強引に台湾へ侵攻する可能性も否定できません。

■中国による「釜底抽薪」

米中対立の本質は、いまや「半導体戦争」です。

アメリカは台湾・日本・韓国・欧州に輸出規制を迫り、中国は先端半導体に不可欠なレアメタルの輸出規制で対抗しています。これは、中国兵法三十六計の「釜底抽薪」――釜の下から薪を抜き、敵の力を根本から奪う策に通じます。

表面上は安定し、技術大国の道を歩む台湾ですが、対中脅威は現実です。新竹のサイエンスパークでは「もし侵攻があれば施設を爆破する」といった物騒な噂も流れており、台湾社会に根強い危機意識が存在することもうかがえます。

■『兵法三十六計で読み解く中国の軍事戦略』まもなく出版

拙著『兵法三十六計で読み解く中国の軍事戦略』は、9月27日に刊行予定です。発刊部数は限られます。兵法三十六計の思考法を通じて、中国のしたたかな戦略を描いた一冊となっています。「釜底抽薪」では、中国のエコノミックステェイトクラフトと、米中半導体戦争を描いてます。各計略にちなんだ現実をあからさまに描いています。ぜひ、この機会にご一読ください。

あわせて、既刊の『15歳からのインテリジェンス入門』も、ブロガーさんのご紹介などをきっかけに認知が広まり、アマゾンランキングも上昇しています。こちらも手に取っていただければ幸いです。

『兵法三十六計で読み解く中国の軍事戦略』まもなく出版(2025年9月7日作成)

■はじめに

すでにお伝えしたとおり、9月28日、拙著『兵法三十六計で読み解く中国の軍事戦略』が刊行されます。これまでツイートやメルマガでも紹介してきましたが、なかなか広く認知されません。少し、テーマが重いのか苦戦しています。書店やアマゾンでの予約が少なければ刊行部数も抑えられてしまう時代、どうすれば読者に届けられるかに苦心しています。

私は防衛省を退いて10年になりますが、中国軍事を正面から論じるのはこれが初めてです。退職直後に書けば「実務の延長」と受け取られかねず、職務から距離を置くことこそインテリジェンスの鉄則だと考えてきました。

ただ、この10年のあいだに私が知っていた秘匿情報はすでに意味を失っています。現在の私には能力分析を行う材料はなく、できるのは公開情報や歴史的考察をもとにした意図分析です。

本書で取り上げたのは、その「中国の軍事意図」です。軍事行動に直結する政治的意図、権力闘争や経済戦略を、歴史や地理の文脈とあわせて分析しました。とくに中国の戦略文化に深く根づいた思考をどう読み解くか――そのための切り口として『兵法三十六計』を位置づけています。

単なる「台湾有事シナリオ」の羅列ではなく、中国という国家がどういう思考法で行動するのかを理解する――そのための視座を読者の皆さんに提示するのが、この本の狙いです。

■中国軍事分析――意図と能力

軍事分析は大きく「能力」と「意図」の両面から行います。能力分析にはオシントだけでなく、シギント、イミント、ヒューミントを総合する必要があり、現在の私の立場では到底及びません。

一方、意図分析は人の心の内を読む作業であり、能力分析のように可視化できない分、本来は格段に難易度が高く、しばしば誤りを生みます。プーチン氏によるウクライナ侵攻をめぐって、多くの専門家がその意図を見誤ったのは記憶に新しいところです。

さらに意図分析は、誰もが「もっともらしく語れてしまう」領域でもあります。だからこそ玉石混交となり、信頼できる分析と憶測まじりの言説とが入り乱れます。

それでも、意図分析を避けることはできません。能力分析だけに依拠すれば「あれもできる、これもできる」と無数の可能性が並び立ち、結局は対応を定められなくなってしまうからです。もっとも、意図分析も決して不可能ではありません。習近平氏もプーチン氏も金正恩氏も、意志決定を完全に恣意的に行っているわけではなく、国家の法や制度、世論、国際情勢といった制約の中で動いています。

だからこそ「分析官」という職があり、その積み重ねが奥義となるのです。私も万能ではありませんが、中国分析に30年以上携わってきた経験があります。その蓄積をふまえ、中国の「意図」をどう読むか――その課題に本書で挑みました。

■兵法三十六計というツール

意図を少しでも根拠をもって語るためには、その国の歴史や知識が欠かせません。独裁者の背後には、必ず国家としての「クセ」が作用します。私はそのクセを読み解く道具として、防衛省時代から「孫子」と「兵法三十六計」に注目してきました。

孫子は広く知られていますが、実際に体系的に理解するのは容易ではありません。中国専門家ですら全十三編の内訳さえ正確に言える人は少なく、「戦わずして勝つ」といった耳ざわりの良い一節だけが独り歩きしているのが現状です。

これに比べて兵法三十六計はきわめて簡潔です。全体でわずか186字。3〜4字の成語で36の計略を示し、それぞれに歴史物語が添えられています。敵を欺き、退き、奇襲し、再起を図る――そうした知恵が凝縮され、物語として記憶に残ります。米国では政治学者マイケル・ピルズベリーが『China 2049』で多数引用するなど、研究対象として扱われています。しかし日本では、「孫子」に比べてはるかに露出がすくなく、しかも、主にビジネス書として紹介されるにとどまり、安全保障の文脈で真剣に読まれることはほとんどありません。

孫子は深みがある一方で、体系的に理解しづらく記憶にも残りにくい。これに対して兵法三十六計は短く、覚えやすい。歴史と照らし合わせれば知識が体系的に積み上がり、必要なときに自在に引き出すことができます。私にとっては「思考術の書」なのです。

本書はその思考法を読者と共有する試みでもあります。

■本が読まれない時代に

いまは情報が氾濫し、本がなかなか届かない時代です。しかし本とは、著者が長い葛藤を経て、編集者とのやりとりを重ねて形にする「思考の結晶」です。雑誌やインターネットの断片的情報では養えない「ものを見る目」を、私は本を通じて読者に渡したいと思っています。

私が若い頃、小林秀雄を繰り返し読み、理解に苦しみながら思考を磨きました。いまも難解ですが、挑み続けることで得られる力があります。読書とはそういうものだと思っています。私の新書もまた、読者の思考を鍛える一冊になればと願っています。

中国の歴史戦と万博、拙著まもなく販売(2025年8月31日)

■はじめに

先週、大阪・関西万博を見学しました。会場は人であふれ、入場ゲートには長蛇の列。人気パビリオンは事前抽選や当日抽選が必須で、なかなか入ることもできませんでした。それでも万博の高揚感は味わえた反面、掲げられた「理想」と、実際に来場者の目に映る「現実」との乖離を強く感じました。

一方で、このメルマガが配信される翌日の9月3日には、北京で「抗日戦争・世界ファシズム戦争勝利80周年記念式典」が予定されています。習近平氏が軍事パレードを主催し、プーチン氏や金正恩氏の参列も報じられています。さらにインドネシア、マレーシア、ベトナムなどアジア諸国の首脳も出席すると伝えられ、中国は「東アジアの盟主」を誇示しようとしています。

ここには、またしても日本に突き付けられる「歴史戦」の構図があります。日本政府が欧州やアジア諸国に対し、軍事パレードへの参加を見合わせるよう要請したとの報道もありますが、もし事実なら逆効果となりかねません。「歴史を反省しない国」という口実を与え、中国の思惑に拍車をかける恐れがあるからです。

平和と未来をテーマに掲げた万博と、過去の戦争を政治的に利用する歴史戦。この二つを見比べると、日本がいかに「物語を紡ぐ力」で後れをとっているかを痛感します。来場者数やイベント演出に気を取られるのではなく、アジアを中心とする青少年を積極的に招き、歴史と未来を架橋する戦略を打ち出せなかったのか――その点が何よりも残念でした。

■新著がいよいよ9月10日発売

先週のメルマガでは、新刊『15歳からのインテリジェンス』の背景として、青少年が認知戦の主要なターゲットになっている現実を取り上げました。今週は、いよいよ発売を目前に控え、さらなる本書の紹介です。

アマゾンでは版元が用意してくださった紹介ページが公開されています。非常に工夫された画像や文言で魅力を伝えてくださっていますが、残念ながら他の書籍広告に紛れてしまい、最後までスクロールしないと見つけにくいかもしれません。ぜひ一度ご覧になっていただければと思います。

しかし本当の魅力は、やはり中身にあります。『15歳からのインテリジェンス』は、中学生にも読める物語形式で描かれていますが、その背後に込めたのは「情報の洪水にどう向き合い、どう自分の意思決定に活かすか」という普遍的な問いです。つまり、本書は青少年向けの体裁をとりながら、実は大人が“自分のために”読み直すことでこそ真価を発揮する一冊なのです。

■インテリジェンスとは何か

インテリジェンスとは何か。しばしば誤解されますが、新聞記事やネットの断片を集めただけではインテリジェンスにはなりません。それは単なるインフォメーション(情報)にすぎないのです。インテリジェンスとは、情報を解釈し、意思決定に活かすための知恵であり、未来へ進む羅針盤です。

高校の教科書「情報」では、データやツールの扱い方は学べても、それをどう戦略や人生に結びつけるのかという「連接」は弱い。まさにその隙間を埋めるのがインテリジェンスなのです。

■目的があるから情報は微笑む

インテリジェンスは捜査のように「事実を突き止める」ものではありません。まだ見ぬ未来に向かって「目的」を定め、その達成に必要な情報をまず選び取ること。そこからさらに意味を解釈し、意思決定へと結びつけてこそ、それはインテリジェンスとなります。目的があるからこそ、情報は光を放つのです。

本書に登場する中学生に対し、元防衛省分析官の父親は繰り返しこう説きます。「インテリジェンスは目的から出発する」「目的が明確になったとき、情報は意味を持つ」「情報は目的のある人間にしか微笑まない」

おそらく「目的」という言葉は本書の中で最も頻出するキーワードでしょう。そしてその目的を具体化するものが「問い」です。問いを立てることで情報は初めて生き、羅針盤のように私たちを導きます。

■大人が読むべき理由

『15歳からのインテリジェンス』と銘打っていますが、実は最も大きな読者は大人であるべきだと私は思っています。なぜなら、情報にあふれる社会の中で、私たち自身こそが「目的を見失い」「問いを立てる力を鈍らせている」からです。

仕事で、人生で、あなたは今どれほどの「情報」にさらされていますか。そして、その情報を意思決定に結びつけられているでしょうか。情報に振り回される側に立つのか、情報を使いこなす側に立つのか――その分岐点にあるのは、インテリジェンスの有無です。

■隠されたキーワードを探してほしい

本書の物語はシンプルです。しかし、行間には「目的」「問い」「羅針盤」といったキーワードが巧妙に織り込まれています。どうか読みながら、それらを探し、自分自身の意思決定と照らし合わせてみてください。

『15歳からのインテリジェンス』は9月10日発売。青少年のために書きましたが、同時に大人が学び直すための書でもあります。どうか、私の新たな挑戦を応援していただければ幸いです。

次回は、9月27日に刊行予定の『兵法三十六計で読み解く中国の軍事戦略』へと話を移し、中国の現状についてお伝えします。