■問いを設定する技法
インテリジェンスの生産者は最初に問いを設定します。その際にまず知っておくべきことは、問いの種類です。問いは「現在か未来か」と「YES/NOで答えられるかどうか」の二軸によって四つの象限に分かれます。ここでの「現在の問い」とは、過去から現在までの範囲を指し、すでに答えが存在する問いという意味です。
四つの問いは互いに関連しており、生産者(分析者)は、これらを自由に行き来しながら、使用者が本当に知りたいことを整理します。
この考え方を製造業の事例で説明します。ある幹部が「部品調達を国内メーカーに切り替えるべきか否か」を検討しています。これは「戦略の問い」であり、分析者は、その戦略判断に資するために「情報の問い」に分解し、調査の方向性を整えます。
■四つの問いの使い分け(サプライチェーン事例)
① 現在 × クローズドクエスチョン
分析者はまず、自社の現状をYES/NOで確認します。この段階では、事実を確実に把握します。
- 「わが社のコア部品の海外依存率は高いか」
- 「依存が特定の国や企業に偏っているか」
これらの問いは現状を確認するためのもので、回答は調査によって把握できます。想像的思考力は必要ありません。
② 現在 × オープンクエスチョン
次に、現状に至った理由や構造を確認する問いに進みます。この象限の問いは、YES/NOでは答えられません。
- 「海外依存率が高い理由は何か」
- 「現在の国内供給網の弱点はどこにあるのか」
- 「過去に国内メーカーが増産に踏み切った条件は何か」
ここでは、事実確認とともに一定の想像的思考力が必要になります。
③ 未来 × クローズドクエスチョン
そのうえで、幹部がまず知りたい「未来のYES/NO」にあたる問いを扱います。結論に近い部分を押さえる段階です。
- 「国内メーカーは今後、必要数量を安定供給できるのか」
- 「現在の弱点が今後もリスクとして続くのか」
- 「海外と国内の併用調達は可能か」
ここでの回答には想像的思考力が求められます。この問いへの考察が、戦略判断の方向性を形づくります。
④ 未来 × オープンクエスチョン
最後に、未来の変化の幅や条件を確認する問いに進みます。この問いは将来の動きを理解するためのものです。
- 「国内メーカーが増産に踏み切る条件は何か」
- 「価格は今後どの要因で変動するのか」
- 「どの工程を国内に戻す必要があるのか」
ここで求められるのは、より高度な想像的思考力です。
以上の四つの問いを縦横無尽に行き来することで、使用者の「部品調達を国内メーカーに切り替えるべきか否か」という戦略の問いを支えることができます。
四つの問いには、「どこから調査を始めるべきか」という決まりはありません。しかし、一つの象限の問いに偏ると視野が狭まり、判断に必要な材料が集まりません。四つの問いを行き来することで、
- 「何が分かっていて」
- 「何が分かっていなくて」
- 「未来のどこに幅があり」
- 「どの条件が結果を変えるのか」
が整理され、使用者が本当に知りたい問いに近づくことができます。
■クローズドに偏る危険性
イラク戦争では、情報機関は「イラクのサダム・フセインは化学兵器を保有しているか?」というクローズドクエスチョンに支配されました。その結果、「フセインは化学兵器を持っている」という思い込みが強まり、その前提を支持する情報ばかりを集めました。これは確証バイアスです。
さらに、当時の使用者であったブッシュ大統領やパウエル国務長官は、フセイン打倒という政治的目的に引きずられており、これに忖度する形でインテリジェンスの政治化や権威バイアスが生じました。
このような失敗を避けるためには、クローズドクエスチョンに囚われず、視野を広げてオープンクエスチョンに転換する努力が必要です。
CIAテロ対策センター元副部長フィリップ・マッド氏は、「はい/いいえで答えられる問いは、複雑な問題には向かない」と述べています。マッド氏は、使用者が分析者に結論を断定させようとする圧力を「確実性バイアス」と呼んでいます。このバイアスが働くと、分析者はYES/NO形式の問いばかりに引きずられ、必要な視点を見落とします。
企業の意思決定の現場でも同じです。
- 「国内調達は可能なのか」
- 「価格は下がるのか」
このような問いに固執すると、判断に必要な背景や条件が集まらず、誤った結論につながります。分析者は、クローズドクエスチョンに偏らず、オープンクエスチョンを併用することで、幅のある情報を確保する必要があります。
■まとめ
四つの問いは、分析者が戦略の問いを情報の問いへ分解する際の有効な指針となります。現在の事実、現在の構造、未来の可否、未来の条件を順番に確認することで、意思決定に必要な情報が揃います。
四象限を行き来することで、使用者が本当に知りたいことが明らかになります。分析者は、フィリップ・マッド氏の指摘を踏まえ、YES/NOの問いに縛られず、幅のある問いを設定することで、より確かな判断材料を提供できます。
