トランプ米大統領のグリーンランド発言をどう読むか

――「何を言ったか」ではなく「なぜ今言ったか」を見る

事実関係と報道の整理

2026年1月9日、ドナルド・トランプ米大統領は、アメリカがグリーンランドを「所有」する必要があると述べました。理由として大統領は、ロシアと中国がグリーンランドを取るのを防ぐためだと説明しました。

大統領は、「国は所有権を持ち、それを守るのであって、リースを守るものではない」と語り、「簡単な方法」と「難しい方法」があるとも付け加えました。ホワイトハウスは、購入の可能性を否定しなかった一方で、武力行使の可能性についても明確には否定しませんでした。

グリーンランドの現状

グリーンランドは、デンマークの準自治領です。外交と防衛はデンマーク政府が担い、自治政府が内政を担当しています。

デンマーク軍は規模が小さく、北極圏において単独でロシアや中国からの軍事行動を防衛できる能力は持っていません。

もっとも、中国はグリーンランドに軍事基地を保有しているわけではありません。過去にはインフラ投資や研究活動を通じて関与を試みてきましたが、軍事的に進出する兆候は見られません。ロシアも北極圏を軍事空間として重視していますが、グリーンランドの排他的経済水域(EEZ)と直接重なる海域を持つわけではありません。また、すでに北極経由で米国本土に到達するミサイル能力を有しており、グリーンランドが特段、新たな軍事的価値を持つ状況でもありません。

一方、米国はすでにグリーンランドに軍事拠点を置き、弾道ミサイル警戒や宇宙監視を行っています。米国自身も、今すぐに中露に対して安全保障上の空白を埋めなければならないという状況にはありません。

また、グリーンランドを米国が実際に「所有」するための現実的な手順は示されていません。売却交渉には時間がかかります。仮に軍事行動と呼ばれる事態があったとしても、それは軍事力をもってグリーンランド軍と戦うことではなく、既存の米軍基地を拡大し、港湾管理を強化し、ミサイル防衛を強化するといった措置にとどまります。それでも、NATO加盟国同士の関係を損なうため、すぐに実行できる話ではありません。

トランプ大統領は、あえて「難しい方法」という強い言葉を使いました。

それは実行計画を示すためではなく、政治交渉の文脈で意図的に選ばれた表現と見る方が自然です。ウクライナをめぐる交渉が続き、さらに年内に米中首脳会談を控えるこの時期だからこそ、こうした言い方が用いられたと考えられます。

トランプの意図

報道では、トランプ大統領のベネズエラやイランへの軍事的関与、石油輸出国への圧力といった視点から、北極圏の資源獲得が狙いだとする主張が多く見られます。

たしかに、グリーンランドのレアアースは注目されがちですが、採掘条件、インフラ整備、環境規制といった制約は大きいのが実情です。米国が中国依存を減らす手段としては、豪州や南米の方が即効性があります。

北極圏の資源獲得が狙いであるとの見方は否定できませんが、それだけでは、この発言の強さやタイミングを十分に説明できません。

また、トランプ大統領は国家安全保障戦略や国家防衛戦略において、いわゆるドンロー主義に基づく西半球での支配圏強化を打ち出し、特に中国抑止を重視してきました。今回の発言でも、ロシアと中国がグリーンランドを取るのを防ぐためだと説明しています。

将来の安全保障上の懸念を予期し、中露を牽制するために早期に布石を打つという見方も成り立つかもしれません。しかし、実務重視、駆け引き重視のトランプ大統領の政治手法を考えると、長期的な戦略構想を丁寧に積み上げるタイプとは言いにくい面があります。また、安全保障戦略や国家防衛戦略を見ても、欧州への冷淡な対応や、米露間の直接的な対立を回避しようとする意図がにじんでいます。

この発言は誰にどう響くのか――欧州と中国

今回の発言には、「いきなり言った」という印象が強くあります。グリーンランドの問題が、ほとんど焦点化していない局面で、トランプ大統領があえて極端な言葉を投げ込んだ真意はどこにあるのかを考える必要があります。

この発言は、グリーンランドやデンマークに向けた言葉というよりも、まず欧州に向けた発言と見ることができるでしょう。欧州の政権や世論は、必ずしもイランやベネズエラでの強硬な軍事行動を支持していません。一方で、ロシア・ウクライナ問題では、米国の関与提言を警戒しつつ、トランプ大統領主導で中露との直接交渉が進むことを牽制し、協議への関与を求めています。

トランプ大統領は、中露との交渉に欧州は不要であり、大国間関係は独断で進めるという姿勢を示してきました。今回の発言は、欧州に対して、その立場をあらためて示す牽制と読むこともできるでしょう。

もう一つは、中国に向けた発言です。今年は米中首脳会談が予定されています。

中国は北極圏を将来の活動空間と見なし、研究や投資を通じて関与の余地を探ってきました。今回の発言は、北極圏を後から交渉で切り分ける対象にしないという事前通告として機能する可能性があります。

あるいは、中国に対して、イラン、ベネズエラ、そしてグリーンランドといった複数の論点で圧力を高め、それらを正面の議題にはせず、交渉全体の力関係を動かす材料として使う可能性もあります。つまり、交渉の場では圧力を下げ、その見返りとして経済的な譲歩を引き出そうとする意図が含まれている可能性も否定できません。

我が国への影響とメッセージ

この発言が、米国による同盟国への揺さぶりや、中国との交渉を意識したものであるなら、日本にとっても他人事ではありません。

日本国内の基地問題や世論の動きが、米国から見て反米的と映り、それが中国との大国間関係において取引材料とされるのであれば、かつてのニクソン・ショックを想起させる事態になりかねません。今年は米中首脳会談を控えています。

今回のような発言を読む際には、発言の正しさや現実性だけを見るのでは不十分です。発言が出た時点、そのタイミング、その必要性の有無を見ることが重要です。発言や行動の内容以上に、「なぜ今なのか」という視点を持つことが求められます。

時期的な特性を読み取ること。それが、情報分析の基本です。(了)

インテリジェンス思考術(第15回)

情報を収集し、整理する

――「集める」前に、何を集めるかを決めよ

これまで、情報分析では最初に枠組みを設定することが重要だと述べてきました。
今回は、その枠組みに沿って行う情報収集を扱います。

多くの人は、分析の第一歩は「とにかく情報を集めること」だと考えます。
企業でも、新規事業や競合分析を始めるとき、まず大量の資料を集める場面をよく見かけます。
筆者が防衛省や陸上自衛隊で接してきた情報担当者も、同じ発想を持っていました。

しかし、この考え方は正確ではありません。

情報収集とは、
あらかじめ設定した問いと枠組みに沿って集め、不要な情報を切り落とす作業です。
集めること自体が目的ではありません。

ここでは、企業分析でも利用頻度が高いオープンソース情報、
いわゆる「オシント」を前提に考えていきます。

キーワード検索は「問い」を投げる作業である

枠組みを設定したら、次に行うのは二つです。
一つは、枠組みに入れる情報を集めること。
もう一つは、すでにある情報を、枠組みの各要素に振り分けることです。

企業分析で使う情報源は、新聞、業界誌、決算資料、書籍、そしてインターネットです。
インターネットは、低コストで膨大な情報に触れられる一方で、真偽が混在しています。

ここで重要になるのが、キーワード検索です。
このキーワードは、先に設定した問いや枠組みを、そのまま言葉にしたものです。

たとえば、
「ある中国企業がEV市場でなぜ急成長しているのか」を知りたいとします。

最初に「中国 EV 企業名」で検索して、十分な情報が得られなくても、そこで止めてはいけません。

  • 「EV」を「電池」「車載半導体」「サプライチェーン」に広げる
  • 「中国」を「地方政府 補助金」「産業政策」に置き換える
  • 企業名を、創業者名、出身大学、過去の事業に分解する

このように、
少し上位の概念に広げる、あるいは切り口を変えることで、必要な情報に近づけます。

市場の実態に近づくほど、検索語は直接的でなくなります。
キーワード検索とは、発想力を使って問いを投げ直す作業だと考えるべきです。

検索要領を工夫する

検索には、知っておくだけで効率が大きく変わる基本的な技法があります。
ここでは、実務で使いやすいものを紹介します。

「〜とは」検索
新しい分野を理解するときに有効です。
「生成AI とは」「炭素国境調整措置 とは」と入力すると、定義や背景を整理した解説に当たりやすくなります。

AND(+)検索
複数の条件を同時に含む情報を探す方法です。
「半導体+台湾+地政学」と入力すれば、技術解説だけでなく、リスクや戦略に触れた記事が抽出されます。

OR(−)検索
どちらか一方を含む情報を広く集めたいときに使います。
新規事業の初期段階で、関連情報を漏れなく確認する際に有効です。

NOT検索
特定の話題を意図的に除外する方法です。
「EV NOT 中国」と入力すれば、中国以外の事例に絞って情報を集められます。

実務では、
問いを分解し、三〜四語のキーワードに落として検索する方法をよく使います。
これは、頭の中の分析を、検索という形で外に出す作業でもあります。

ネット情報の利点と欠点を理解して使う

ネット情報の扱い方については、ジャーナリストの 池上彰 氏と、作家の 佐藤優 氏が、
「『ネット検索』驚きの6極意」(東洋経済)という記事で示唆的な指摘をしています。

両氏の主張を要約すると、
ネットは便利だが、依存すると判断を誤る、という点に集約されます。

理由は、企業の情報分析でもそのまま当てはまります。

  • デマや思い込みが混じりやすい
  • 情報が時系列で並び、重要度が見えにくい
  • 引用や孫引きが多く、一次情報に行き着きにくい
  • 関心分野だけを追い、視野が狭くなる
  • ネット上の声を社会全体の声だと誤解する

とくに注意すべきなのは、
ネット上の盛り上がりが、市場全体の動きと一致するとは限らない点です。

SNSで酷評されている製品でも、
実際の売上は堅調、という例は珍しくありません。
声を上げない多数の顧客は、ネットには現れないからです。

一方で、ネットには他では代替できない強みもあります。

  • 低コストで大量の情報に触れられる
  • 情報源が明記された資料も多い
  • 図書館に行かなくても事前に絞り込める
  • 既存メディアにはない視点に出会える

重要なのは、使い方を誤らないことです。

ネット情報を使う際には、
情報源がどこかいつ書かれたものか
この二点を必ず確認する。
それだけで、情報の信頼度は大きく変わります。

今回はここまで

情報収集とは、量を集める作業ではありません。
問いを立て、問いに合わない情報を捨てる作業です。

企業の意思決定で、
「情報は集めたが、結局よくわからない」という状態になる場合、
多くは、問いや枠組みが曖昧なまま収集に入っています。

次回は、情報収集における着眼点について述べます。

衆議院選挙の感想

今年も1か月があっという間に過ぎていきました。「光陰矢の如し」とは、月日の流れが矢のように速く感じられることを言います。慌ただしく年が明け、気がつけばひと月が過ぎていました。今年は干支でいえば午年で、十干十二支では丙午です。丙午に生まれた女性は気性が激しいとされ、この年の出生率が下がった、という話がよく語られてきました。実際、前回の丙午である1966年には出生数の減少が統計に見られましたが、これは迷信が社会に影響した面が大きいと考えられています。科学的根拠があるわけではありません。

一方で、少子高齢化が進む日本の現実は、迷信ではなく深刻な人口動態の問題です。衆議院議員総選挙が2026年2月8日投開票に行われました。 この選挙では、外国人政策や安全保障がしばしば論点のひとつにはなりましたが、少子化対策については、主要な争点として十分に論じられているとは言い難い状況でした。結婚や出産といった家族形成の問題は重要ですが、価値観が多様化する社会において、それらのテーマは扱いにくさから、政治や社会の正面の議論の場では後回しにされているのかもしれません。

衆議院選挙について、高市自民党政権の圧勝でした。私自身は先週木曜日に期日前投票を済ませました。自宅から会場が近いこともあり、最近は期日前投票を利用することが多くなっています。今回も同じ会場で投票しましたが、先週土曜日、その会場前の道路に、これまで見たことのない投票待ちの列ができているのを目にしました。

少なくとも過去の選挙と比べて、有権者の関心が高まっていることは確かだと感じました。それにもかかわらず、マスメディアときたら、午後4時現在の投票率は前回より○○%下回っている、との報道。おかしいな、と思ってよくみると、期日前投票の数値を入れていないのです。今や、期日前投票が当たり前。選挙制度に報道の設計が追随できていないのか、メディアの意図的なものなのでしょうか。

すつての立憲民主党議員は軒並み落選、比例区は、かつての公明党議員ばかり。公明党は陰の勝者でした。いろいろな敗因はあるでしょうが、「勝には不思議な勝ちあり、負けには不思議な負けあり」、立憲民主党の親中路線、高市政権批判、自らの政策が不透明、これでは支持は得られなかったのかもしません。

以前、私は、中道が結成された時、1+1-?=?、?が知りたいと謎のツイートをしたのですが、?は1.5と言う印象でしたね。