半導体の分類をしてみた(2025年9月29日作成)

半導体は複雑に見えるが、ロジックツリーで整理すればその全体像は比較的単純である。まず、半導体を「古いか、新しいか」で大きく二つに分ける。長年使われてきたものをレガシー半導体と呼び、近年世界的に注目されているものをアドバンスド半導体と呼ぶ。本稿では後者に焦点を当てる。


アドバンスド半導体の二分法

アドバンスド半導体は大きく「情報を扱うもの(情報系半導体)」と「電力を扱うもの(電力系半導体)」に分けられる。

  • 情報系半導体は、データを処理したり記憶したりする役割を担う。
  • 電力系半導体は、電気を制御したり外界を感知したりする役割を持つ。

この二分法を起点にすれば、個々の半導体がどこに属するのかが理解しやすい。


情報を扱う半導体

情報系半導体はさらに二つに分けられる。

第一は処理系である。

処理系の代表はCPU(Central Processing Unit)である。CPUは「汎用の演算装置」であり、あらゆる計算や制御を少しずつ順番にこなすことが得意である。パソコンやサーバーの中心にあり、システム全体の動作を司る。

これに対し、GPU(Graphics Processing Unit)は、大量の演算を同時並行に行うことが得意である。もともとは画像処理用に発展したが、現在ではAIの学習や解析など膨大なデータを一斉に処理する用途で不可欠になっている。

さらに登場したのがAI専用チップである。これはNPU(Neural Processing Unit)やTPU(Tensor Processing Unit)と呼ばれるもので、AIの計算処理に特化して設計されている。GPUよりも効率よく、低消費電力でAI演算を行えるよう最適化されている。

たSoC(System on a Chip)は、CPUやGPU、通信機能など複数の回路を一つにまとめた統合チップである。スマートフォンに搭載される半導体はほとんどがSoCであり、これ一つで通信・計算・グラフィック表示までを担う。

このように処理系は「頭脳」といっても、一つの役割だけではなく、汎用の司令塔(CPU)、大量処理の職人(GPU)、AI専用の特化型(NPU/TPU)、そして多機能を一体化した万能選手(SoC)と、役割に応じて多様化しているのである。


第二は記憶系である。

記憶系の中心はDRAM(Dynamic Random Access Memory)である。DRAMは「作業机」にたとえられることが多く、データを一時的に置いて高速に読み書きする。電源を切れば中身は消えてしまうが、その分処理速度が極めて速い。PCやスマートフォンが快適に動くかどうかは、このDRAMの性能と容量に大きく依存している。

NAND型フラッシュメモリは、電源を切ってもデータが消えない「不揮発性メモリ」である。スマホのストレージやSSD(Solid State Drive)に使われ、写真やアプリを保存する。DRAMより速度は遅いが、大容量かつ安価で、長期保存に向く。

さらに近年重要性を増しているのがHBM(High Bandwidth Memory)である。HBMはメモリチップを縦方向に積み重ねて配置する技術により、従来のDRAMよりもはるかに広いデータ転送帯域を実現している。GPUやAIチップに直結し、AIの学習やスーパーコンピュータのような「超大規模データ処理」で威力を発揮する。

つまり記憶系も一様ではなく、一時的で高速な作業机(DRAM)、長期保存の倉庫(NAND)、超高速処理用の特別席(HBM)というように、用途ごとに棲み分けがなされている。


補足:AI半導体とは何か

近年「AI半導体」という言葉が頻繁に用いられている。これは厳密な技術区分ではなく、AI処理に最適化された半導体群を総称する呼び方である。

ロジックツリー上では、主として「情報系 → 処理系」に属する。GPUはその代表例であり、NPUやTPUなどのAI専用チップもここに含まれる。またAIの計算処理には膨大なデータを扱う必要があるため、HBMのような記憶系メモリも不可欠であり、広い意味ではAI半導体の基盤に含められる。

さらに、AIは外界の情報を取り込む必要があるため、イメージセンサーやLiDARなどの感知系、電力を制御するパワー半導体とも密接に連携して動作する。したがって「AI半導体」とは単独の部品を指すのではなく、AI処理を中心に据えた半導体群全体のエコシステムを指す言葉と理解すべきである。


電力を扱う半導体

電力系半導体も二つに分けられる。

第一は感知系である。

代表例はイメージセンサーである。イメージセンサーは光を受け取り、それをデジタルの画像データに変換する部品であり、人間にたとえれば「目」に相当する。スマートフォンのカメラ、自動車の車載カメラ、監視カメラや医療用内視鏡など、現代社会のあらゆる場面で不可欠となっている。

このほかにも、加速度センサージャイロセンサーは動きや傾きを検知し、スマートフォンの画面回転や自動車の安定制御に利用される。マイクに組み込まれるMEMSセンサーは音を電気信号に変換し、音声アシスタントやスマートスピーカーを可能にしている。さらに自動運転車に搭載されるLiDARセンサーは、レーザーを用いて周囲の空間を三次元的に把握する。これらはすべて「現実世界をデジタルに翻訳する」装置である。

第二は制御系である。

パワー半導体(SiC, GaN, IGBTなど)がその典型である。これらは電流や電圧を効率的に変換し、モーターを回したり電力を供給したりする。電気自動車や再生可能エネルギーの分野で特に重要性が高まっており、人間でいえば「筋肉」に相当する。


まとめ

以上のように、半導体はまず「レガシーかアドバンスドか」に分けられる。さらにアドバンスド半導体は「情報を扱うもの」と「電力を扱うもの」に大別でき、それぞれが「処理/記憶」「感知/制御」という四つの機能に細分される。

情報系では、CPU・GPU・AIチップ・SoCといった処理系、DRAM・NAND・HBMといった記憶系が互いに棲み分けを持って機能している。電力系では、イメージセンサーをはじめとする感知系が現実世界をデジタルに変換し、パワー半導体がエネルギーを制御して社会を動かしている。

「AI半導体」という言葉は、この体系の中では処理系を中心としつつ、記憶系・感知系・制御系と連携して初めて機能するものと理解すべきである。AI半導体は単独のカテゴリーではなく、AIという用途を軸に束ねられた半導体群の呼称なのである。

国連のイラン制裁「再発動」──なぜ全会一致ではなく決まるのか(9月28日作成)

朝日新聞は28日朝刊一面で「国連のイラン制裁きょうにも再発動 安保理 中ロの阻止案否決」と報じた。

だが読者の多くが直感的に抱く疑問はこうだろう。「国連安保理の制裁は全会一致が必要なのでは?」

実は今回の動きは、2015年のイラン核合意(JCPOA)に付随したスナップバック方式によるものだ。これは通常の安保理決議とは逆の仕組みで、合意参加国が「重大な不履行」を通報すると30日間の審議に入り、その間に「制裁解除を継続する決議」が可決されなければ、自動的に制裁が復活する。常任理事国の拒否権を無力化するために考案された“逆転条項”である。

もともと対イラン制裁は2006年以降、米・英・仏・露・中がすべて賛成する全会一致で成立してきた。その後、2015年に決議2231号が採択され制裁は大幅に解除された。しかし米国が2018年に一方的に合意を離脱したことで体制は崩れ、今回は英・仏・独の通知に基づくスナップバックが動き出した。中国・ロシアは阻止決議を提出したが否決され、制裁再発動が現実のものとなった。

ここで問題になるのは正当性と実効性だ。形式上は安保理決議に基づくため加盟国は拘束される。だが中国・ロシアは「従わない」と明言しており、制裁の網は大きく緩む。さらに米国はすでに合意を離脱しているため、「発動資格があるのか」という疑義も消えない。制度は合法でも、国際社会の分裂を前提にした制裁は正統性に影を落とす。

そして最も注目すべきはイランの対応である。イランは「スナップバックは無効」と突っぱね、中国・ロシアの後ろ盾を得て核開発を加速させる構えだ。すでに濃縮度60%のウランを保有しており、核兵器製造に必要な90%までの距離は短い。西側の圧力が強まるほど、イランは中露との経済・軍事協力を深め、「東方志向」を戦略の柱に据えるだろう。

制裁は形式的には復活しても、現実には抜け穴を通じて骨抜きになりかねない。むしろ重要なのは、「制裁が効くかどうか」よりも、制裁を正統とみなす欧米と、無効を主張する中露・イランのせめぎあいが、国際秩序そのものを揺さぶるという点にある。

静かな地殻変動シリーズ(2025年9月28日作成)

はじめに

トランプ関税をめぐる喧騒の陰で、国際秩序には静かだが確実な“地殻変動”が進んでいる。ニュースの見出しには現れにくいが、各地域で進む構造変化は日本の安全保障や経済に直結する。本シリーズでは、世界10の焦点を取り上げ、その深層を鳥瞰する。


第1弾:台湾

中国は2025年4月、過去最大規模の軍事演習「海峡雷霆—2025A」を台湾周辺で実施した。これは台湾総統就任1周年を前に圧力をかける政治的威嚇であると同時に、実戦能力の検証を兼ねている。中国国防部は「正当かつ必要な行動」と主張し、外交部も「内政干渉を許さない」と強調。プロパガンダの色彩を持つ一方で、演習内容は海上包囲や領域コントロールなど、実際の侵攻シナリオを意識していた。
さらに背後では、新型上陸用舟艇(水橋級)の開発・試験が進行しており、着上陸作戦能力の向上が確認されている。台湾問題は単なる外交的圧力ではなく、能力と意志が二重線で進行する静かな変動として読み解く必要がある。


第2弾:中東

複雑な中東情勢を理解するには、地層のような多層構造で捉える視点が欠かせない。

  • 基盤層(第1層):イスラムとユダヤの民族・宗教・歴史的対立。
  • 第2層:1979年以降のイランとイスラエルの固定的な敵対関係。
  • 第3層:「宗派と地政学が交差する準安定層」。イスラエル+湾岸諸国 vs イラン、そして米国の後退と中国の台頭(例:イラン・サウジ和解の仲介)が揺らぎを生む。
  • 第4層:ハマス、ヒズボラ、フーシ派といった武装勢力が国家枠を超えてせめぎ合う領域。

イスラエル・ハマス戦争は、この第4層の緊張が表層に噴き出した「第5層」にあたり、代理戦争の様相を呈している。中東はまさに“構造で見る”ことが求められる地域である。


第3弾:パナマ運河

20世紀を通じて米国が掌握し、太平洋と大西洋を結ぶ戦略的要衝だったパナマ運河。その地政学的価値は今も変わらないが、近年は水不足と老朽化で通航能力が低下。2017年にはパナマが台湾と断交し中国と国交を樹立、中国企業が港湾・物流に進出した。米国の影響力は後退し、代替ルート(ニカラグア運河やメキシコ横断鉄道)はまだ十分ではない。
一方、北極海航路はロシアの支配下にあり、スエズ経由の東アジア〜欧州ルートも戦争の影響で不安定化。結果、パナマは「安全な現実ルート」として再注目されている。トランプが「パナマを取り戻す」と叫ぶのは、米国の構造的不安の表れだ。


第4弾:中南米

中国は過去10年、中南米に投資・港湾整備・通信インフラ支援を拡大し、米国の地政学的影響圏を浸食している。パナマ、キューバ、ベネズエラなどを軸に存在感を高めるその戦略は、毛沢東以来の「国際統一戦線」思想に通じる。主敵に対抗するため、外周の矛盾を味方にする発想だ。
また、中南米への関与は一帯一路のラテン版であり、台湾承認国の切り崩しという外交戦の側面もある。経済援助、港湾投資、5G通信、孔子学院など非軍事的手法を駆使し、地域の覇権構造を静かに揺さぶっている。


第5弾:アフガニスタン

2021年、米軍の撤退でタリバンが政権を奪取。アフガニスタンは南アジア・中央アジア・中東・中国を結ぶ“戦略的心臓部”であり、米国の撤退は単なる戦術的後退ではなく、ユーラシア中枢からの離脱だった。
空白に最も迅速に接近したのは中国とロシアだ。中国は新疆安定と鉱物資源確保を狙い、ロシアは2025年にタリバンをテロ組織リストから外し、中央アジアへの影響力を再編しようとしている。アフガニスタンの未来は「誰が兵を送るか」ではなく、「誰が囲い込みを成功させるか」の競争へ移行している。


第6弾:サヘル地域

2020年以降、マリ、ブルキナファソ、ニジェールでクーデターが相次ぎ、軍事政権が誕生した。旧宗主国フランスの影響力が弱まる一方、ロシアはワグネルや「アフリカ軍団」を通じて進出。だがウクライナ戦争で余力は限られている。
中国はサヘル本体への直接介入を避け、代わりに東アフリカ・南部アフリカで“帯状の通商・資源回廊”を形成。国家単位ではなく回廊単位でアフリカを捉える独自戦略を進めている。サヘルは“空白地帯”をめぐる大国間の静かな競争の舞台となった。


第7弾:西欧

EUは経済統合には成功したが、アイデンティティ統合には失敗した。移民流入や宗教摩擦が極右台頭を招き、リベラルな価値観は形骸化。各国は自国優先へと傾き、西欧そのものが分裂の坂を下り始めている。
さらに安全保障では、核を持つ仏英と非核の独の非対称性がNATO不信を生み、米国依存が揺らぐ。経済では中国依存、資源ではロシア依存を減らそうとするが、その過程は供給網再編によるコスト増と成長鈍化を招く。西欧は「信頼できる経済圏」という狭く重たい枠組みに縛られつつある。


第8弾:中央アジア

カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン。かつてソ連の“裏庭”だったこの地域は、いま静かにロシアから中国の影響圏へと移行している。ロシアは旧宗主国としての影響力を維持しようとするが、ウクライナ戦争による負担で求心力は低下。
一方、中国は「一帯一路」を軸に、鉄道・パイプライン・鉱物資源開発を通じて存在感を強めている。経済面ではすでに中国が主要パートナーとなりつつあり、ロシアの後退を埋める形で影響を拡大している。
米国は一時期、カザフやキルギスに軍事基地を置いていたが、現在は撤退しプレゼンスは大きく低下。中央アジアは「米国が戻りにくい空白」となっている。
カザフスタンは資源大国だが、権威主義体制のもとで民主化は容易でなく、むしろ中国・ロシア双方とバランスを取りつつ体制維持を図っている。中央アジアは今、ユーラシア大陸の“重心の移動”を象徴する地域だ。


第9弾:インド

「世界最大の民主主義国」とされるが、モディ政権下でヒンドゥー至上主義が強まり、報道や少数派への圧力が強化されている。制度的には選挙が機能するものの、自由主義とは異なる強権的多数派支配が進む。
経済はIT・宇宙・製造で成長を続けるが、教育格差やインフラ不足、多様性の統制が制約要因となる。QUAD参加国でありながら中国とも経済関係を維持し、ロシア産原油も大量購入。インドは「選ばれる国」ではなく「自ら選ぶ国」として、21世紀の国際構造の新たな重心を形成しつつある。


第10弾:朝鮮半島

ウクライナ戦争や台湾問題の陰で忘れられがちだが、朝鮮半島も重大な変動に直面している。韓国では2024年総選挙で与党が惨敗し、2025年4月には尹錫悦大統領が憲法裁判所により罷免。親北政権誕生の可能性が現実味を帯びている。
一方の北朝鮮はロシアと軍事連携を強化し、挑発行為を常態化。背後には中国が存在し、半島は台湾と並ぶ“第2の火薬庫”へ再浮上した。日本にとっては二正面有事リスクであり、「同盟前提」の思考停止を超えた複眼的な戦略が求められる。


おわりに

台湾から中東、中央アジア、そして朝鮮半島まで、“静かな地殻変動”は世界各地で進んでいる。変化はゆっくりだが確実であり、日本がそれを無視することはできない。国内政治が短期対応に追われる中で、国際秩序の変容に目を向けることこそ、未来への戦略的思考の第一歩である。