軍を掌握した指導者の脆さ――4中全会に見る習近平体制の実像

事実の解釈には両面がある

第20期4中全会が開催

中国共産党の第20期4中全会が、2025年10月下旬に開かれました。

党大会は5年に一度開催され、その中間点にあたる4中全会は、次期経済5カ年計画の起草準備や、党の執政状況を中間評価する節目にあたります。

予定どおり、経済政策や社会目標が中心議題となり、来年に決定される第15次5カ年計画の方針が話し合われました。

内容としては「自給自足」と「先進的製造業」の発展を掲げたもので、全体としては規定路線に沿ったものと見られます。

一方で、今回は開催前から人事への関心が高まりました。

とくに、習近平氏の後任問題や、空席が続いていた中央軍事委員会(CMC)の人事動向が注目されました。

さらに、軍出身の中央委員の半数近くが欠席したとも伝えられ、体制の内側に不安と緊張が広がっているのではないかとの報道もありました。

軍委改革と新しい構成

2015年、習近平氏は大規模な軍改革に踏み切りました。
長年、人民解放軍の中枢を担ってきた「四総部」(総参謀部・総政治部・総後勤部・総装備部)を廃止し、戦区制と軍委直轄制を導入。
この改革は軍の近代化を掲げつつも、実際には軍の権限を党中央に集中させる動きでもありました。

2017年の第19回党大会で、中央軍事委員会の新体制が発足します。
従来の軍委は主席、副主席2人、国防部長、四総部の長4人、海軍・空軍・第2砲兵(ロケット軍)の司令官を含む計11人体制でした。
これが2017年以降、主席、副主席2人、国防部長、統合参謀長、政治工作部主任、そして規律検査委員会書記7人体制に再編されました。

このうち、規律検査委員会書記が軍委メンバーとなったのは初めてです。
このポストは通常中将職であり、就任した張昇民氏が中将のまま委員入りしたのは異例の昇進でした。その後、張氏は上将(大将)に昇格しています。
一方、東部戦区司令官だった何衛東氏は、委員を経ずに副主席に就任しました。
いきなり副主席というのは極めて異例で、まさに「飛び級人事」でした。

粛清の連鎖と軍の統制

2018年以降、人民解放軍では汚職摘発が相次ぎました。
最初に標的となったのは装備発展部門やロケット軍で、中将級幹部が次々に処分され、軍内部には不信感が広がりました。

2021年には装備発展部長だった李尚福氏が国防部長に昇格しましたが、2023年に「重大な規律違反」で失脚。
同年、ロケット軍の司令官と副司令官も更迭され、核戦力を担う中枢部門の人事が総入れ替えとなりました。
2024年には政治工作部主任の苗華氏が消息を絶ち、軍委内部で空席が目立つようになります。
そして2025年、4中全会の直前に何衛東副主席が失脚し、張昇民氏が副主席に昇格しました。

この結果、2017年に確立された7人体制のうち4人が交代または更迭されたことになります。
軍の意思決定は、指揮よりも監察と統制を重視する構造へと傾いているように見えます。

欠席という沈黙

今回の4中全会では、軍出身の中央委員の多くが欠席したと報じられました。
一部には「粛清への異論」や「軍の反発」といった見方もありますが、出席は原則として義務です。
過去の粛清の流れを踏まえれば、欠席は招集されなかった、あるいは調査中である可能性が高いと考えられます。
党中央が「安全」と判断した人物のみを出席させたという見方もあります。

習近平氏の掌握とその限界

形式上、習近平氏は軍を完全に掌握しています。将軍人事、昇進、予算――すべての決裁が主席の承認を要し、独立した権限はほとんど残っていません。しかし、権限が集中すればするほど現場は萎縮し、指揮官は判断を避けるようになります。

粛清の連鎖は統制強化と見ることもできますが、実際には幹部が恐れを抱き、命令が現場に届かなくなっているとも考えられます。組織は上の意向をうかがうばかりで、意思決定の力を失いつつあるようにも見えます。

この構図には、二つの不信が重なっています。
ひとつは、粛清が続くなかで指揮官同士が互いを疑う軍内部の不信。もうひとつは、党中央と軍の間に生じた信頼の揺らぎです。

かつて「党が銃を指導する」と言われた関係が、いまや「銃が党の意向をうかがう」関係に変わりつつある――。その微妙なずれが、体制全体の緊張として表面化しているのです。

後継者不在と「一強体制」の行方

今回の4中全会でも、習近平氏の後継者像は示されませんでした。
このため、「2027年以降も第4次政権を狙う」「一強体制がさらに強化された」との見方もあります。

しかし、後継を定めないことは短期的な安定をもたらす一方で、将来的な混乱の火種にもなります。
毛沢東氏は華国鋒氏を、鄧小平氏は江沢民氏、さらに胡錦涛氏へと続く後継体制を整えました。強い指導者とは、次を託せる仕組みを築く指導者でもあります。

習近平氏は軍を支配しているように見えますが、その背後には二つの恐れがあるのかもしれません。ひとつは、後継を託せる人物を見いだせない「託せない不安」。
もうひとつは、権力を手放した瞬間に自らの権威が失われるのではないかという「権威を失うことへの恐怖」です。その恐れが人事を慎重にし、粛清を繰り返すという形で表れているようにも見えます。

メッセージ――ルービンの壺のように

習近平氏は軍を完全に掌握したように見えます。けれどもその姿は、裏返せば「不安定さ」の映し鏡でもあります。粛清や欠席の連鎖は、統制の強化ではなく、恐れによって動けなくなった組織の現実を映しているのかもしれません。

物事の見方は、ルービンの壺のように、どちらの面を見つめるかでまったく違って見えます。指導者の「強さ」も、角度を変えれば「脆さ」に映る。どちらが正しいということではなく、反対の像を意識して見ることが大切です。

政治も、組織も、そして自分の思考も同じです。一つの見方にとらわれず、反対側の構図を想像すること――そこに、次の一手を考える力があるように思います

(了)

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