競合仮説分析(ACH)を使う
▼仮説競合分析とは
仮説を立て、検証する際に入り込む思い込みや先入観を抑える方法として、ACH(Analysis of Competing Hypotheses:競合仮説分析)があります。
この手法は、CIAの分析官リチャード・ホイヤーが、認知心理学をもとに整理したものです。背景には、KGBの二重スパイであるユーリ・ノセンコをめぐる論争があります。
さらに、9・11同時多発テロやイラク戦争で分析の誤りが問題となり、この手法が改めて注目されました。
ACHの特徴は、仮説を「裏付ける証拠」ではなく、「否定する証拠」で評価する点にあります。
どの仮説が正しいかを考えるのではなく、「どの仮説が成り立たないか」を消していくのです。
▼仮説競合分析の手順
まず、考えられる仮説を複数用意します。数は5つ以内に絞ります。
次に、関連する証拠を10〜20個ほど洗い出します。
そのうえで、それぞれの証拠について、各仮説との関係を一つずつ判断します。判断は3つです。
・その仮説と合う → C(整合)
・その仮説と合わない → I(不整合)
・どちらとも言えない → N(中立)
強く当てはまる場合はCC、明確に矛盾する場合はIIとします。
ここで重要なのは、「すべての仮説に当てはまる証拠」や「どの仮説にも影響しない証拠」は捨てることです。
それらは判断に使えません。
証拠を整理したら、各仮説について「不整合(IやII)」の数を数えます。
このとき、不整合が最も少ない仮説が、現時点で最も有力な仮説になります。
逆に、不整合が多い仮説は除外されます。
つまりACHは、「正しさ」を積み上げる手法ではありません。
「矛盾の少なさ」で残す手法です。
この方法は、一人でも使えますが、6〜8人で実施すると効果が高まります。
他人の視点が入ることで、自分では見落としていた不整合に気づくためです。
また、この手法は現状分析で特に有効です。
ただし、将来のシナリオを考える際にも、仮説の整理には使えます。
最後に一点だけ付け加えます。
ACHで得られる結論は、あくまで「暫定的な結論」です。
その後は、この結論が正しいのかを見極めるための指標を設定し、状況の変化を追い続ける必要があります。
▼まとめ
ここまで、インテリジェンス思考術として、分析の進め方を順に見てきました。
前提を明らかにし、隠れた前提を洗い出す。
仮説を立て、幅を持たせる。
証拠で立証し、因果関係で検証する。
さらに前提そのものを疑い、仮説を並べて削り込む。
この一連の流れを確認してきました。
これらに共通するのは、「思い込みで判断しない」という一点です。
前提を疑い、仮説を並べ、証拠で検証し、合わないものを捨てる。
この作業を繰り返すことで、判断の精度は上がります。
インテリジェンスとは、特別な情報を持つことではありません。
限られた情報の中で、どこまで考え抜けるか、その技術です。
今回のシリーズでは、その基本的な考え方と手順を示しました。
ただし、本来であれば、個々の手法は事例とともに説明する必要があります。
ニュースレターという形式では、それを十分に行うことはできません。
そこで、インテリジェンス思考術については、いったんここで区切ります。
今後は、内容を再構成したうえで、noteにてあらためて解説します。
実際の事例にあてはめながら、「どのように使うのか」を中心に説明していきます。
