インテリジェンス思考術(第23回)

前提を見直す

リンチピン分析で前提を見なおす

情報分析は、仮説を立て、それを証拠で立証することだと述べました。
ただし、仮説の立証にはいくつかの問題があります。

有力な仮説を立てられない、思い込みで仮説を立ててしまう、一度立てた仮説に固執してしまうといった問題です。

私は、こうした問題を避けるために、いくつかの分析手法を使います。
リンチピン分析、重要な前提の見直し(KAC)、反対の主張、仮説の検証、チームA/チームB、レッドチーム、代案分析、もしならば分析、競合仮説分析(ACH)などです。

まず、リンチピン分析について説明します。

分析を進める上では、前提が必要です。

たとえば、中国の最高指導者は2期10年という慣例がありました。
そのため、2012年に習近平氏が就任した後、2017年頃には次期指導者が誰になるかという分析が多く行われました。
2022年に習氏が引退するという前提で、後継者の予測が進められていたのです。

しかし、この前提は崩れました。
2018年に憲法が改正され、国家主席の任期制限が撤廃されました。
その結果、2022年に習氏は3選を果たし、現在に至っています。

このように、前提は分析の幅を狭めたり、分析そのものを誤らせたりすることがあります。

企業の事例で説明します。

ある外食企業で、プロジェクトチームが長期計画の策定を命じられたとします。

このチームは、「自社は今後も外食事業を続ける」という前提で検討を始めました。

この前提に立てば、戦略は自然に決まります。
店舗数の拡大、メニュー開発、原価管理、人材確保といった改善策を積み上げることになります。

しかし、この結果を社長に報告したところ、社長は次のように言いました。
「外食産業を続ける前提は誰が決めたのか。会社の発展と、人を幸せにするという目的から考え直してほしい。」

この指摘で、前提が揺らぎます。

外食市場が縮小する可能性があります。
人手不足やコスト上昇によって、事業そのものの採算が合わなくなる可能性もあります。
消費行動の変化によって、外食という形態自体が選ばれなくなる場合もあります。

もし「外食事業を続ける」という前提を見直すと、選択肢は大きく変わります。
中食や食品製造への転換、デリバリー専業への移行、あるいは事業からの撤退といった判断も現実的になります。

このように、前提を疑うことで、戦略の方向そのものが変わります。
それに伴い、情報分析の範囲や対象も変わることになります。

リンチピン分析は、国際情勢だけでなく、企業の意思決定や個人の将来設計にも使えます。
当然と思っている前提を疑うことが重要です。

たとえば、退職後は年金が受給できるという前提で将来設計を立てている場合、その前提が変わる可能性を考える必要があります。

前提が変われば、結論も変わります。

「重要な前提の見直し」(KAC)を使う

重要な前提を見直すために、欧米ではKAC(Key Assumptions Check)という手法が使われています。

この手法は、次の手順で進めます。

① 現在の分析の方向性を支えている前提をすべて列挙する。
② 明示された前提だけでなく、暗黙の前提も含めて確認する。
③ 各前提について、「なぜ正しいのか」「どの条件でも成り立つのか」を検証する。
④ 正しいと判断した前提についても、どのような状況で見直しが必要になるかを考える。

私は、この手順に加えて、前提を評価する際にマトリクスを使います。
評価は「関連性」と「立証」の二つの視点で行います。

関連性は、その前提が分析にどれほど影響するかを見ます。
立証は、その前提がどれほど確実に裏づけられているかを見ます。

関連性の評価は次のとおりです。
・分析にほとんど影響しない場合は0点です。
・誤っていれば分析が変わる場合は1点です。
・その前提がなければ分析が成立しない場合は2点です。

立証の評価は次のとおりです。
・裏づけが不十分で疑問が残る場合は0点です。
・おおむね正しい場合は1点です。
・確実に正しい場合は2点です。

具体例で説明します。

ある企業で、新規事業への投資判断を行うとします。
その際、次のような前提が置かれている場合があります。

① 市場は今後も拡大する。
② 自社の技術は競争力がある。
③ 競合企業の参入は限定的である。
④ 規制環境は大きく変わらない。
⑤ 必要な人材は確保できる。
⑥ 投資資金は継続的に確保できる。

これらはすべて「前提」です。
この前提の上に、投資の意思決定が組み立てられています。

これらを整理し、関連性と立証の程度を評価します。

その結果、関連性が高いにもかかわらず立証が不十分な前提に注目します。
たとえば、「市場は拡大する」「自社の技術は競争力がある」といった前提がこれに当たります。

一方で、影響が小さい前提は優先度を下げることができます。

このように、前提を整理し、重要度と確実性で評価することで、どの前提を重点的に検証すべきかが明確になります。

▼今回はここまで
今回は、前提や仮説を見直すための手法として、リンチピン分析とKACを説明しました。

仮説は立てるだけでは意味がありません。その仮説を支える前提を疑い、必要であれば組み替えることが重要です。

前提が変われば、結論は大きく変わります。この点を意識することで、分析の精度は向上します。

次回は、仮説そのものをどのように見直すかについて解説します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA