はじめに
11月26日に香港で起きた大規模マンション火災の死者は、200人近くに上るとされています。外壁工事に使われていた資材が激しく燃え、火が建物の外側を一気に広がったことが大きな被害につながりました。この火災は、個別の不注意だけでは説明できません。いくつもの事情が重なって事故が起きたことを示しています。表面の出来事だけを見るのではなく、背景を順番にたどることが、現在の社会が抱えるリスクを理解するうえで重要だと感じています。
香港の高層マンション火災は、日本とは条件の違う出来事です。建物のつくりも、使っている資材も違います。それでも、「高層マンションが増え、老朽化が進み、工事の難易度が上がっている社会」という点では、日本とも共通しています。香港の火災は、日本の都市が抱える課題を考えるための“鏡”になります。
今回は、この出来事を考えるために、ふだん私が重視している二つの視点――「なぜなぜ分析」と「アナロジー思考」――を紹介します。
なぜなぜ分析でたどる香港火災
香港の火災は、一つの原因で説明できる出来事ではありません。そこで、「なぜ」を重ねて背景をたどると、次のような流れが見えてきます。
最初の問いは、「なぜ火があれほど広がったのか」です。報道によると、外壁工事に使われていた足場やシート、発泡スチロールがよく燃え、炎が外側を上へ走りました。
次の問いは、「なぜ可燃性の資材が使われていたのか」です。工事会社が、価格が安く扱いやすい資材を選び、工期を短くすることを優先した可能性があります。
さらに、「なぜ行政がそれを止められなかったのか」という疑問が生まれます。香港政府は燃えにくい資材を使うよう通知していましたが、現場での検査が不足していました。監督官の人数が足りず、老朽化した建物が増えて工事が多くなったため、現場まで目が届かなかったのです。
最後に、「なぜ監督官も職人も足りないのか」という問いが出てきます。香港では少子高齢化で労働人口が減り、高所で危険な外壁工事ができる人が少なくなっています。AIやロボットが話題になりますが、細かい判断が必要な高所作業は、現時点では人の手で行うしかありません。
このように「なぜ」を重ねると、火元となった資材だけではなく、行政の監督、人手不足、老朽化といった背景がつながります。
香港と日本の相違点:すぐに同一視はできない
アナロジー思考とは、起きた出来事の“構造”に目を向け、それを自分の社会に引き寄せて考える方法です。ただし、まず相違点を確認しなければなりません。
日本では、竹の足場は使われず、鉄パイプの足場や燃えにくいシートが一般的です。外壁や開口部の材料にも厳しい制限があります。消防設備や避難経路も法律で細かく決められています。
このため、「香港で火災が起きた=日本でも同じ火災が起きる」と短く結びつけることはできません。
アナロジー思考:他国の事故を、日本の「生活に近い問い」に置き換える
アナロジー思考では、香港の火災そのものを日本に当てはめるのではなく、香港の出来事の“背景の構造”を、日本の私たちが考えるべき問いに言い換えます。具体的には次の二つが分かりやすい例です。
●1つ目の問い
「安価な工事で済ませたとき、後になって建物の寿命や耐震性に問題は出ないのか」
香港では工事費節約のために可燃性資材が使われました。日本では同じ資材を使いませんが、「安さを優先した工事が、後々の不具合につながらないか」という問いは共通します。
●2つ目の問い
「建物が増える一方で、修繕を行う人や行政の監督は足りているのか」
香港では監督官や職人が不足していました。日本でも、建物は増えるのに、修繕を担う技能者は減っています。行政の建築担当も、増え続ける仕事を限られた人数でこなしています。
このように、香港の火災の背景を日本の暮らしに引き寄せて考えるのがアナロジー思考です。
メッセージ:なぜなぜ分析とアナロジーで“見えにくい危機”を考える
香港火災から学べることは、「火を出さない方法」だけではありません。
なぜなぜ分析で背景をたどると、資材の選び方、行政の監督、人手不足、老朽化といった、日常では見えにくい事情が浮かび上がります。
アナロジー思考でそれを日本に言い換えると、
- 危険がどこから生まれやすいのか
- 誰がどの部分を支えているのか
- 支える側の負担がどこで限界に近づくのか
という、私たちが考えるべき問いが見えてきます。
海外のニュースを、自分たちの未来の課題に引き寄せて考える――
そのために、「なぜなぜ分析」と「アナロジー思考」は大きな力になると感じています。
(了)
