■ 物事を見る目
問いを再設定するときは、最初に立てた問いを別の角度から見直します。視点には、相手から見る視点、常識への反対方向から見る視点、組織と個人の視点など、いくつもの向きがあります。
物事の特徴をつかむための視点として「三つの目」がよく紹介されます。空から全体を見る「鳥の目」、細部を集中的に見る「虫の目」、流れをとらえる「魚の目」です。
初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏は、グリコ・森永事件に触れ、「公安警察は国際情勢を踏まえた大局的な鳥の目で捜査し、刑事警察は聞き込みなど虫の目で捜査する。この両方がそろってこそ成果が出る」と語りました。
私が講義をした際、受講者から「もうひとつの目があります」と教えられたのが「蝙蝠の目」です。地図を逆さに見るように、相手の立場に身を置いて考える視点です。人は無意識に自分の視点で物事を解釈します。この傾向は「ミラーイメージング(鏡像効果)」と呼ばれますが、蝙蝠の目はそれを抑える役割を果たします。「他国の靴を履く」とも言います。
さらに「トンボの目」も挙げられます。複眼のように複数の視点を組み合わせる考え方です。
■ 三つの目を使った問いの置き換え
問いを再設定するときも、この三つの目を使います。たとえば外食産業で「支店の売り上げが落ちているのはなぜか」という問いを立てたとします。これを次のように置き換えられます。
①虫の目
・どのメニューの売れ行きが下がっているのか。
・どの時間帯と関係しているのか。
②鳥の目
・外食需要は全国的に下がっているのか。
・もし下がっているなら、要因は何か。
③魚の目
・売上の低下は最近なのか。
・消費者ニーズは過去数年でどう変わったか。
・原材料価格はどう推移してきたか。
深さ(虫)、広さ(鳥)、流れ(魚)を意識すると、問いの立て方が変わります。
■ 問いの再設定(Issue Redefinition)の手法
米情報機関の分析マニュアルには、問いを組み替える具体的な手順が紹介されています。拙著『戦略的インテリジェンス入門』でも触れた例を挙げます。
当初の問い:中国はイランに弾道ミサイルを売っているのか?
・いい換え:イランは中国から弾道ミサイルを買っているのか?
・180度回転:中国はイランから弾道ミサイルを買っているのか?
・焦点の拡大:両国に戦略的協調関係はあるのか?
・焦点の集約:中国はどの種類のミサイルを売っているのか?
・焦点の変換:イランはなぜ中国製ミサイルを欲しがるのか?支払いはどう行っているのか?
■「なぜなぜ分析」による問いの深掘り
米情報機関は、問いを再設定する手法として「なぜを重ねる」分析も紹介しています。以下は、その要点を私が整理し直したものです。
最初の問い:中国はなぜイランにミサイルを売却するのか?
→ イランに影響力を及ぼしたいから
それはなぜか?
→ 湾岸地域における米国の権益を弱めたいから
それはなぜか?
→ 米国がアジアに集中する力を減らしたいから
それはなぜか?
→ 台湾統一を見すえ、アジアで自由に行動したいから
最終的な問い:
中国は台湾正面への大戦略の一環として、中東に軍装備を広げているのだろうか?
現在の事象を扱う分析では、「なぜ(Why)」が水面下に隠れています。理由を追うことで、最初の問いでは見えなかった構造が浮かび上がります。一方、未来に関する問いでは「なぜ」はまだ存在しません。未来の問いでは「どこへ向かうのか(where)」「何が起こりそうか(what)」「どのように進むか(how to)」を重視して考えます。
