■ 和解交渉は進展せず(2025年11〜12月の事実経過)
2025年11月から12月にかけて、アメリカが提示した28項目案をめぐる協議が続きました。ウクライナは原案を20項目に再構成し、フランス・ドイツ・英国もいくつかの文言に慎重な姿勢を示しました。
アメリカのウィトコフ特使は修正版を携えてモスクワを訪問しましたが、プーチン大統領が求める領土の扱いやウクライナの中立化に関する要素が欠けており、受け入れは拒否されました。戦闘は続き、交渉に目立った進展は見られません。
12月10日、トランプ大統領は「ウクライナ国民の八割が停戦を支持している」と述べたうえで、「ゼレンスキー大統領は現実的になるべきだ。戦争を終わらせる時期が来ている」と明言し、ウクライナに譲歩を促しました。英国・フランス・ドイツにも停戦を後押しするよう要請したと報じられています。
■ プーチンとゼレンスキーの戦略と立場(直接の対立要因)
和平交渉が進まない最大の理由は、プーチン氏とゼレンスキー氏が交渉の出発点・目的・譲歩の範囲をまったく異なる場所に置いているためです。
プーチン氏は、クリミアを含む南部と東部の占領地域を「既にロシアの統治下にある地域」と位置づけ、その前提を交渉文書に反映させるよう求めています。ウクライナのNATO不加盟も必須条件とし、戦争で得た成果を固定化することを目的としています。現状の戦況はロシア側に有利と判断しており、大きな譲歩を行う必要はないという立場です。
一方のゼレンスキー氏は、占領地域の扱いを交渉の前提に含めることを主権の放棄と捉え、領土問題を出発点に置くことを拒んでいます。譲歩すれば国内支持が崩れ、政権基盤が弱まる恐れがあります。さらに、欧州の政治的支援に依存する現状では、強硬姿勢を維持する必要があり、大きな譲歩に踏み切りにくい状況です。
両者の交渉の出発点が一致していないため、文書調整では埋まらない構造的対立が続いています。
■ 徹底抗戦を求めるEU vs 停戦を迫るトランプ政権(停滞の真因)
交渉停滞の背景には、当事者の対立だけでなく、支援国側の政治力学が強く作用しています。
トランプ大統領は、戦線が長期化すればロシア優位になると予測し、プーチン氏の要求に近い妥協案をゼレンスキー氏に受け入れさせようとしています。早期停戦を目指す路線を明確に取り、欧州主要国にも協力を求めています。
一方、EUの一部指導者はウクライナを「ロシアの影響力を押し返す前線」と位置づけ、停戦には慎重です。ヒトラーの例を引き合いに出し、妥協がロシアの勢力拡大につながると警戒しています。しかし、EU諸国は自国軍を前線に送る用意はなく、実際の抑止力はアメリカに依存したままです。欧州はウクライナに踏ん張りを求めながら、自らは限定的な行動にとどまる構造となっています。
この欧米間の方針のずれが、ゼレンスキー氏の「引き際」を曖昧にし、交渉の遅延を生んでいます。
■ 欧州の結束、アメリカの戦略転換、ロシアの戦況推移、ウクライナ世論(今後の影響要因)
今後の交渉を決定づける影響要因は四つあります。
第一に、欧州の結束です。
フランスとドイツが欧州諸国をまとめて支援枠組みを維持できなければ、ウクライナの交渉力は低下します。
第二に、アメリカの戦略転換です。
12月に発表された国家安全保障戦略では、ロシアを「管理すべき対象」と位置づけ、アメリカは停戦に重心を置き始めています。現在はウクライナと仏独に圧力をかける段階ですが、戦況が悪化すれば、アメリカが停戦受諾を事実上の「最後通牒」として突きつける可能性があります。
第三に、ロシア軍の戦況推移です。
今冬にロシア軍がさらに前進し、プーチン氏の想定するエンドラインに近づけば、ウクライナと仏独は現実的に譲歩を検討せざるを得なくなります。軍事的既成事実の積み上げは、交渉条件の幅を狭める要因となります。
第四に、ウクライナ国内の世論です。
この揺れる世論は、戦況や支援の変化によって大きく傾く可能性があります。世論が抗戦を支持すれば、ゼレンスキー氏は徹底抗戦の姿勢を維持することになりますが、世論が停戦支持へ振れれば、彼が譲歩に向かう決定的な転機となり得ます。世論の振れ幅が、交渉のタイミングと方向性を左右します。
欧州支援の行方、アメリカの圧力の強まり、ロシア軍の攻勢、ウクライナ世論の揺れ。この四つの力が、和解交渉の行方を左右します。
■ メッセージ:国際情勢は背後の力学で動く
ウクライナ和平交渉の停滞を理解するうえで重要なのは、当事者の表向きの対立ではなく、その背後で動く力学です。プーチン氏とゼレンスキー氏の発言だけで状況は動かず、支援国の戦略、欧州の限界、ロシア軍の戦況、国内世論が交渉の枠組みを形づくっています。
国際情勢は言葉では動かず、力関係と政策で動きます。背後要因と影響要因を丁寧に追うことが、未来を見誤らないために不可欠です。
(了)
