確定申告の季節に考えます
確定申告の時期に思う「医療控除」のからくり
年末が近づくと、医療費控除やセルフメディケーション税制の話がよく出てきます。政府は「自分の健康は自分で守りましょう」と呼びかけ、市販薬にも税の優遇があるように見えます。多くの人が「薬を買えば税金の保護を受けられる」と思っているのではないでしょうか。私もその一人でした。
歯茎の炎症にビタミンDを、頻尿に八味地黄丸を飲みました。どちらも医薬品ですし、治療のつもりでした。だから10万円を超えれば、その額が控除されると信じて、領収書を集めていました。ところが確定申告では、これは「治療」とは認められませんでした。医薬品であるかどうかより、「治療のために使われたか」が判断の基準になるのです。医師の処方がなければ、原則として医療費控除の対象外です。市販の風邪薬の一部は例外として認められることもあるようですが、限られています。
――学んだことはひとつ。レシートは貯まっても、控除は貯まらないのです。
「自助」を勧めつつ、制度は支援しない
政府は医療費の増加を抑えるために「セルフメディケーション」を推進しています。ところが、制度の実際は自分で治療しようとする人をあまり助けません。予防や健康維持の重要性を訴えながら、漢方薬やサプリメントの多くは控除の対象になりません。
医師が関与すれば控除の対象になりますが、自分で治そうとすれば対象外になります。つまり、政府は「自助」を勧めながら、その努力を税制では支援していないのです。結果として、セルフで頑張るほど、財布もセルフで頑張らなければならなくなります。
広告がつくる「健康」の幻想
テレビをつけると、芸能人が「健康」「元気」「若さ」を明るく勧めます。体調がすぐれないとき、人はつい何かにすがりたくなります。その心理をねらって、巧妙な広告が流れます。
「アンケートに答えると1万人に無料提供」「今だけ70%割引」――そうした言葉が安心感と期待をくすぐります。けれど、それらの多くは医薬品ではなく、効果もはっきりしません。懸賞に応募すれば必ず当選し、「続けないと効果が出ません」と勧められる。典型的な販売の仕掛けです。
医師にサプリの効果を尋ねると、「薬ではありませんから」と明確に言われます。コマーシャルの言葉と、医師の言葉。その差を前にして、何が本当の「情報」なのか分からなくなります。政府は「偽情報に注意」「情報リテラシーを高めよう」と呼びかけますが、こうした広告にはほとんど手をつけません。理由は明快です。広告の裏には企業の利益と税収があるからです。
「医薬品」というラベルの意味
国は「特定保健用食品(トクホ)」や「医薬品認定」という肩書を与えます。これは科学的な保証というより、安心を与えるための商業ラベルです。その「お墨付き」は、健康意識の高い人ほどよく効きます(広告効果として)。しかし、税の優遇はほとんどなく、確定申告では治療の証拠にもなりません。
結局、「医薬品」とは何でしょうか。それは「治すためのもの」ではなく、政府が定めた枠の中で意味を持つ商品ラベルに過ぎないのかもしれません。そして政府が認定を続けるのは、「国民の健康を見ています」という姿勢を示すためでもあるのでしょう。
私たちは、健康情報の洪水の中で「自分で選んでいる」と思いながら、実際には誰かに選ばされていることがあります。用心深い人ほど、別の形の仕掛けに引き寄せられます。芸能人の広告には騙されないと思っても、「トクホ」や「医薬品」のラベルには、あっさり信頼を置いてしまうのです。
