インテリジェンス思考術(第21回)

前提とは何か

前回は、情報分析について説明しました。分析とは、仮説を立て、その仮説を証拠(情報)によって確かめる作業です。

この分析の土台となるものが前提です。分析を行うときには、必ず前提(想定または仮定)を置く必要があります。

今回は、この前提とは何かについて説明します。

前提とは、完全ではないが、おおよそ正しいと判断して置く情報のことです。

前提がなければ仮説を立てることができません。仮説がなければ結論を導くこともできません。したがって、前提がなければ分析そのものが成立しません。

たとえば中国を分析する場合、多くの研究者は「中国共産党が今後も政権を維持する」という前提を置きます。そのうえで、中国の対外政策や軍事戦略を分析します。

もしこの前提を置かなければ、議論は「政権崩壊」「民主化」「軍事政権」など、さまざまな可能性に広がります。議論は拡散し、分析は複雑になります。その結果、政策判断に役立つインテリジェンスを作ることは難しくなります。

ただし注意すべき点があります。前提は「おおよそ正しい」と判断して置くものであり、「絶対に正しい」ものではありません。

たとえば「中国共産党が政権を維持する」という前提は、現在の情勢では妥当と考えられます。しかし、それが50年先まで確実に正しいとは言い切れません。

このように、前提は分析を進めるための出発点であり、永遠に正しい命題ではありません。

前提には二つの種類がある

前提には二つの種類があります。明示された前提と隠れた前提です。

明示された前提とは、問いの中で言葉として示されている前提です。
たとえば「中国共産党政権が2040年まで存続すると仮定した場合」という問いでは、この仮定が明示された前提になります。

しかし、問いや情報要求の中では、前提が必ずしも明示されるとは限りません。そこで問題になるのが隠れた前提です。

隠れた前提とは、文章や主張の中では明言されていないが、論理を成立させるために必要な前提です。

たとえば、次の論理を考えてみましょう。

人はみな死ぬ。
だからソクラテスは死ぬ。

この論理には、一つの前提が省略されています。それは「ソクラテスは人である」という前提です。

論理を完全な形で書けば、次の三段論法になります。

人はみな死ぬ。
ソクラテスは人である。
だからソクラテスは死ぬ。

しかし、このようにすべてを書けば説明はくどくなります。そのため、明らかだと考えられている前提はしばしば省略されます。これが隠れた前提です。

この問題は、現実の政策分析でも起こります。
たとえば「ポスト習近平の後継者は誰か」という問いには、一つの隠れた前提が含まれています。

それは「習近平氏はいずれ権力の座から退く」という前提です。

この前提には、政権交代、事故、病気、自然死など、さまざまな可能性が含まれます。しかし、いずれにしても「習近平氏はいつか退く」という前提が存在しています。


隠れた前提を確認する重要性

隠れた前提がとくに問題になるのは、グループ討議の場合です。

参加者全員が同じ隠れた前提を共有していれば、議論は円滑に進みます。しかし、前提の理解が異なれば議論はかみ合いません。

たとえば「習近平氏はいずれ現在の地位から退く」という前提を共有していない場合、「習近平氏は永久指導者を目指しているので後継者は存在しない」という仮説が提示されることになります。

このように、隠れた前提の違いは議論の方向そのものを変えてしまいます。

そのため、分析やシナリオ・プランニングを行うときには、明示された前提だけでなく、隠れた前提も確認し、参加者の間で共有しておくことが重要です。

今回はここまで

今回は、分析の出発点となる前提について説明しました。

次回は、仮説を検証するために必要となる**証拠(情報)**についてお話しします

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