インテリジェンス思考術(第17回)

ヒューミントとは何か

前回はオシントについて述べました。今回はヒューミントです。

国家情報機関に所属する者は、通信傍受によるシギント(SIGINT)や、偵察衛星によるイミント(IMINT)などの技術情報を扱います。しかし、ビジネスパーソンが実務で活用できる手段は、主にオシントとヒューミントです。

ヒューミントは人的情報と訳されます。人を介して情報を収集する手段、あるいはそこから得られたインテリジェンスを指します。

ヒューミントというと、スパイ活動を連想する人もいるでしょう。しかし、それだけではありません。国家レベルでいえば、外交官が赴任国で現地要人と会話を重ね、その国の意図や政策の方向を把握することもヒューミントです。

聞き取りだけではありません。現地に赴き、直接観察することもヒューミントに含まれます。ビジネスに置き換えれば、店舗に足を運び、売れ行きを確認すること、顧客に感想を尋ねることもヒューミントです。

ヒューミントは最も古い情報収集手法です。歴史上、各国は人を通じて相手の意図を探ってきました。対象の本音や兆候に迫れる点が、この手法の強みです。

ヒューミントの強みと限界

前回、オシントで全体像の90パーセントは把握できると述べました。ただし、それは十分な公開情報が存在するという前提が必要です。

これに対し、信頼できる人物から「その会社は近く新商品を出す」と聞けば、膨大な資料を分析せずとも核心に近い情報を得ることができます。これがヒューミントの力です。

しかし、ヒューミントは万能ではありません。

情報の信頼性は話し手に依存します。誤解や思い込みが含まれることもあれば、意図的な誤情報である場合もあります。また、聞き手の先入観が入りやすいという弱点もあります。

ヒューミントは強力ですが、常に検証が必要です。

ビジネスにおけるヒューミント

ビジネスの現場で使われるヒューミントには、主に三つの形があります。

聞き込み

聞き込みでは、情報を持っている人物に当たることが原則です。ただし、核心にいる人物が直接語るとは限りません。

競合企業の新規事業に関する情報は、一部の経営層しか知らないかもしれません。その場合、いきなり核心に迫るのではなく、まず周辺から状況を押さえます。取引先、元社員、関連業界などから情報を集め、全体像を描き、そのうえで徐々に核心に近づいていきます。

外縁から内側へ。これが原則です。

観察

観察も重要なヒューミントです。店舗の来客数、商品の陳列状況、従業員の動き、顧客の滞在時間などは、現場に行かなければ分かりません。

しかし、観察には落とし穴があります。

人の印象は、時間帯、曜日、季節、天候といった環境条件に左右されます。平日の昼間と休日の夕方では、まったく違う景色が見えます。

また、一部の特異な事象を全体傾向だと誤って解釈する危険があります。たまたま混雑していた、たまたま閑散としていた、という可能性を排除できません。

そのため、観察は一度きりでは不十分です。
継続して見ること、できる限り同じ条件で見ることが重要です。
観察とは印象を持つことではなく、変化を捉えることです。

アンケート・対面調査

アンケートやインタビューは、人の内面や意志を引き出す手段です。なぜその商品を選んだのか、何に不満を持っているのかといった情報は、外からは見えません。

しかし、アンケートは準備が難しい手法です。

母数が少なければ、全体傾向を示すことはできません。対象を誤れば、偏った結果になります。設問の作り方によっても、回答は誘導されます。

アンケートは強力ですが、設計を誤れば正確な情報は得られません。

オシントとの関係

オシントは広く全体像を把握するために有効です。ヒューミントは意図や兆候をつかむために有効です。

両者は対立するものではありません。公開情報で全体を押さえ、人的情報で空白を埋める。人的情報で得た仮説を、公開情報で裏づける。

この往復が、実務における情報分析の基本です。

今回はここまで

今回はヒューミントについて整理しました。
人から聞く、現場で見る、意志を引き出す。どれも強力な手段ですが、誤解や思い込みが入り込む余地もあります。

重要なのは、手段に頼りすぎないことです。
得た情報をそのまま信じるのではなく、検証し、組み合わせることが求められます。

次回は、集めた情報をどのように処理し、意味づけるかについて述べます。

3. 国際情勢ニュースを題材に

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