武器になる「状況判断力」(14)

状況の変化を捉える

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

 前回の謎解きは「ここ最近、松屋は値上げ、吉野家は減収、すき家が一人勝ち。その理由は?」でしたね。

 答えは、「この中で、すき屋だけが郊外型だから」です。吉野家も松屋も駅近て通勤者がターゲット、すき屋はマイカーでの家族連れもOKなので、コロナ禍のテレワーク以降は「牛丼を食べるならば、すき屋で」という流れになったようです。

 

前回の本文中でも述べましたが、勝負には「天」と「地」を知ることが重要です。「天」とは時間的、流動的で状況や時機(タイミング)を指し、「地」とは固定的な地理環境、つまりここでは上述のような立地条件を指します。地理環境の有利、不利は状況や情勢によって変わる、地理的な位置関係は変わらずとも、その価値つまり利・不利は不変ではないのです。

今回の謎解きは、「なぜ日本は左側通行になったのか?」です。以前、日本の信号機が向かて左から青、黄色、赤になり、東京など(大阪という例外を除く)のエスカレターでは左側立ちで右側から抜いていくという事例を挙げましたが、そもそも、「日本はなぜ左側通行だったのか?」を考えてみようということです。

さて、前回から、軍隊式「状況判断」の第2アプローチの「状況及び行動方針」に移りましたが、今回はその2回目です。

▼「アウトサイド・イン」思考とは

状況には「地域」、「我」、「敵」の3つがありますが、この思考手順は、地域の特性、敵情、我が状況の順に考察して、最後に相対戦闘力を明らかにします。

しかしながら実際には、おおまかに敵を意識する、次いで我を意識する、そして敵と我を地域という土俵の上に置いて、敵と我の利・不利などを考察して、相対戦闘力を算定するというのが一般的です。

作戦では、地域とは気象と地形に大別できます。これは『孫子』の流動的な天(気象)と固定的な「地」(地形)に相当します。国家安全保障では「気象」は国際情勢に置き換わり、地形は地理的環境となり、ビジネスでは「気象」は経営を取り巻く情勢や時機(タイミング)となり、「地形」は立地条件やサプライチェンーンなどになるでしょう。

気象は流動的であり、地形は固定的ですが、流動的な気象が固定的な地形に影響を及ぼします。たとえば、錯雑地は夜間には機動障害になりますが、日中のそれは隠蔽良好な機道路になります。

このことはビジネスでも同様であり、コロナ禍ではテレワークが主体となったため、これまで駅近型の「吉野家」や「松屋」に先行を許していた郊外型の「すき屋」が売り上げを伸ばし〝独り勝ち〟になったりするのです。

つまり、地形や立地条件という固定的な状況も実は質的な変化を起こしているのであって、状況を認識するとは変化を読み取ることにほかなりません。

安全保障やビジネスでは問題の周辺に位置する環境を幅広く考察する必要があります。グローバル社会では様々な事象が影響を及ぼすため、「網を大きくかける」ことで、状況判断のための重要な要因を見逃さないようにします。そして、前述のとおり、流動的な情勢の変化をとらえ、それが彼我に及ぼす影響を考察します。

▼「アウトサイド・イン」思考

ビジネスを例に、環境を幅広く捉え、変化する情勢を捉えるためのポイントを考えてみましょう。

ビジネスの問題を取り巻く環境は大きく「外部環境」と「内部環境」に分けられます。外部環境は「マクロ環境」ともいい、世界的な潮流ないしは社会全体を指します。つまり、これが軍隊式「状況判断」で言うところの「地域の特性」になります。

これに対して内部環境は、業界内部の環境や自社の環境のことです。ここには軍隊式「状況判断」の敵、我という要素が入ってきます。

最近では、すでに把握している内部要因をもとにする「インサイド・イン」から、外部要因を幅広く考える「アウトサイド・イン」に変えることが推奨されています。これを「アウトサイド・イン思考」もしくは「アウトサイド・イン分析」といいます。まず最も大きな単位である世界について考え、それから少しずつ業界内部や競合他社、自社の能力といった身近な内部環境に着目していき、最後に自社の戦略・戦術などへの影響を考えていく思考法です。

なぜこうした思考法が重要かといえば、外部環境、すなわち世界のメガトレンドが内部環境を変化させることは往々にしてあるのに対して、その逆のパターンというのは、通常は起こりにくいからです。

アウトサイド・イン思考がいかに大事かを示すエピソードに、世界最大の写真用品メーカーであったコダックの例があります。同社は世界で最初にロールフィルムやカラーフィルムを開発したようにアナログフィルムのイメージが強い会社ですが、実は1975年に早くも世界初のデジタルカメラを開発しました。実はデジタル写真に関してもきわめて高い技術力を有するメーカーだったのです。

しかし、コダックの上層部は、自社に巨大な成功をもたらしたアナログ写真の需要を過信するあまり、自社のデジタル技術を市場に売り込む努力を怠りました。つまり、「社会や顧客が急激にペーパレス、デジタル化を求めている」といった外部環境の変化を見落としたため、結果としてコダックはデジタル化の波に乗り遅れ、2012年には倒産してしまったのです。

▼目的の確立は「インサイド・アウト」

 このように「アウトサイド・イン」思考は近年その重要性が重要視されていますが、間違えてはならないことは、「何をなすべきか?」「なぜそれをするのか?」といった目的の確立は「アウトサイド・イン」思考では出てきません。

何をなすべきかは、第1アプローチの「任務分析」により導き出しますが、軍隊式「状況判断」は作戦レベルについて規定するものだから、任務(使命)は上級指揮官から与えられます。だから、自らは上級指揮官の意図を目的として、与えられ任務を分析し、その目的に従い任務を達成するためにはいかなる手段を講じるべきか、すなわち具体的に達成すべき目標を明らかにします。

しかしながら、戦略レベルの状況判断(戦略的情勢判断)では、自らの目的を何に求め、何をなすべきかを自ら問いかけ、思索することから始めなければなりません。すなわち、国家指導者、企業トップあるいは個人は「Policy making」や大綱決定を自分自身で行なわなければなりません。

自己がどうしたいかのか、どうすべきなのかは、それぞれの価値判断に委ねられるものなのです。だから国家指導者、企業トップが自らの目的を定めるのは、「インサイド・アウト」になります。これは個人の問題についても同様です。

▼フレームワーク分析とは?

「アウトサイド・イン」分析とよく併用される分析手法に「フレームワーク」分析があります。フレームワークとは「発想の枠組み」です「アウトサイド・イン」の「アウトサイド」をどこまでも拡大し、彼我の行動に影響する要素をあまりに多岐にアトランダムに抽出すると後で収拾がつかなくなります。また、重要な要素を見落とすことにもなります。

そこで、「アウトサイド・イン」分析と併用してしばしば用いられるのが、「フレームワーク」分析です。

そもそも分析とは「ある何かを、いくつかのより細かい要素に分ける」という作業であり、物事や現象は必ずそれより小さいいくつかの要素から成り立っています。その属性や特性を浮き彫りするために構成要素に分けていくことになります。

しかし、この時にただ闇雲に分けるだけでは意味はありません。分けた後にアイデア(影響要素など)が出しやすくなるように、強制的に発想の枠組み、つまりフレームワークを設ける必要があります。これが強制発想法の1つである「フレームワーク」分析です。また、構成要素を「お互いに重複せず、全体に洩れがない」ように分ける思考法を「MECE」(ミッシー=Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)と言いますが、「フレームワーク」分析は、このミッシーな思考を行なうための体系化された分析手法でもあります。

▼さまざまなフレームワークを知る

さて今日の社会では、さまざまなフレームワークがあります。国家安全保障の領域では、社会(Social)、技術(Technological、環境(Environmental)、軍事(Military)、政治(Political)、法律(Legal)、経済(Economic)、安全(Security)の8つの枠組みを想定する「STAMPLES」や、政治(Political)、軍事(Military)、経済(Economic)、社会(Social)、インフラ(Infrastructure)、情報(Information)の「PMESII」、外交(Diplomatic)、情報(Information)、軍事(Military)、経済(Economic)を想定する「DIME」などが有名です。

ビジネスにおいて外部環境を分析するためのフレームワークが「PEST」です。これは政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をつなげたもので、最近は、社会の中に含まれる環境(Ecology)を分岐させて、語呂がいいように語順を並び替えて「SEPTEmber」と呼ぶことが多くなっています。

他方、内部環境を分析するためのフレームワークには消費者(Customer)、競合相手(Competitor)、会社(Company)の「3C」、さらにこの3Cに集客のための媒体、経路(Channel)を加えた「4C」、そして、製品(Product)、価格(Price)、Place(販路)、販促(Promotion)から成る「4P」などがあります。

「競合分析」(Competitive Intelligence=CI)の創始者であるアメリカの経営学者マイケル・ポーターは、自社を業界のなかに位置づけるために業界内部の環境要因を、「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手交渉力」「売り手交渉力」「既存競合他社」という5つの要素にわけて分析する「5フォース」を提唱しました。なおポーターは、この5つのうち最初の二つの脅威を外的要因、後の3つを内的要因に分類しています。

▼フレームワークの具体的内容を理解する

 こうしたフレームワークの項目を覚えるだけでは大した意味はなく、それぞれのフレームが具体的に何を表しているかもしっかり理解しておく必要があります。たとえば、「PEST」によるビジネス環境の認識では以下のような内容へとさらに細分化できます。ただし、この細部化の方法も画一化できるようなものではなく、自己を取り巻く環境や任務によって、常に内容の部分修正が必要となります。

◇政治(Politics)…国際政治、政府の法規制の強化・緩和、法改正、行政環境の変化、政府

の意向、補助金等による支援など。

◇経済(Economics)…国際経済システム、景気動向、株価・為替・金利、雇用情勢、経済成

長率など。

◇社会(Society)…人口動態、文化、世論、流行、ライフスタイル、自然環境、治安、宗教、言語など。

◇技術(Technology)…技術革新、代替技術、特許など。

▼情勢の変化に敏感になる

状況あるいは情勢は常に変化します。環境を認識するとは状況や情勢の変化を先行的に捉えろということです。これは戦争、ビジネス、個人の問題でも同様です。

ビジネスを例に、「PEST」に基づき、変化する情勢を捉えることの意味を考えてみましょう。

政治では国内の法律に特に注意します。法律が変わると、それまで合法的であったものが非合法になったりします。米国で銃規制などが行なわれると、たちまち銃の商売は上がったりです(規制される前に銃の売り上げは伸びますが)。

国際情勢の影響にも注意が必要です。米中対立により米国の対中包囲網が形成され、同盟国は5G設備で華為技術(ファーウェイ)など中国機器を採用できなくなりました。

経済では景気動向に特に注意する必要があります。景気は後退したり、インフレ気味となったりします。景気動向によって消費者の購入意欲は常に変化しています。

社会では流行に注意が必要です。一時的な流行はすぐに去ります。過去にはミニスカートの流行が終わり、ロングスカートが流行になったりしました。流行の後追いでは利益は上がりません。

また、レコードがCDになり、CDがアイポットになり、すっかりレコードは過去の遺物となった感がありましたが、一部ではレコードへのノスタルジーが起こり、レコードとステレオが高値で取り引きされる状況も生じています。

技術革新は新商品の開発、新規企業の市場参入を促進します。自動車の発明により、馬車は輸送手段の主役の座を失われ、スマホの発明によりデジタルカメラは主役の座を失われつつあります。IBM社は1960年代にコンピュータ部門で圧倒的なシェアを誇っていましたが、1970年代のパソコン(PC)の登場により、アップル社に代表される新規企業のPC市場への進出により、経営危機に陥りました。

このように状況判断を適切に行なうためには状況や情勢の変化を捉えることが重要なのです。

(つづく)

武器になる「状況判断力」(13)

状況の特質を把握する

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□はじめに

 前回の謎かけは「マシュマロ実験」に関するもので、「この研究では、マシュマロを食べるのを長時間我慢できた4歳児は、成長してからの成績が良かった。それはどうしてか?」でした。

この答えは、「自制心の強い子供は、学業成績も高くなるから」ではありません。この2つには「因果関係」はありません。我々は、相関関係を無理繰り因果関係で処理しようとしますが、これは誤解を生じさせます。

この実験を慎重に行なっていくうちに、両方(マシュマロを食べる、のちに成績が良くなる)に関係する要因が1つ特定されました。それは親の社会的地位でした。裕福な家庭の家の子供はマシュマロを食べるのを我慢した。おそらく心身ともに安定し、大人を信頼し、あまり執着が強くなかったのでしょう。

思春期の成績の良さも、親の豊かさが主要な原因となります。つまり、自尊心の強さと成績の良さに因果関係はなく、親が裕福だという別の原因が存在します。(カール・T・ハーグストローム『デタラメ』)

なお、「クーラーの売り上げ上昇」と「アイスクリームの売り上げ上昇」は相関関係にありますが、因果関係ではありません。別の要因、つまり「暑さ、気温の上昇」があります。このように、2つの事象に因果関係がないのに、見えない要因(潜伏変数)によって因果関係があるかのように推測される関係を「疑似相関」と言います。疑似相関に惑わされてはなりません(詳細は拙著『武器になる情報分析力』)

次回の謎解きは最近の巷の話題(某週刊誌に掲載)から出します。「ここ最近、松屋は値上げ、吉野家は減収、すき家が一人勝ち。その理由は?」です。

さて、前回までは任務分析での「目的と目標」について述べましたが、状況判断では目的と目標の明確化が全アプローチの7割の重要度を占めると言っても過言ではありません。なお情報分析では、「問いの設定」が7割の重要度を占めます(『武器になる情報分析力』)。いずれにせよ、最初の方向性を定める、最初の方向性を見誤らないことが肝心です。

今回から、第二アプローチの「状況及び行動方針」に移ります。

▼状況とは地域、我、敵の3つ

軍隊式「状況判断」の第二アプローチは「状況及び行動方針」です。この過程では、地域の特性、我が状況、敵の状況を把握して、彼我の相対戦闘力を算定し、 敵の可能行動(EC)と我が行動方針(OC)を列挙します。

 

任務分析のアプローチが終われば、次は任務に影響する現状を知ることになります。

 現状を知ることは、「現状分析」あるいは「環境調査(認識)」などと呼ばれています。上述のとおり、状況には「地域」と「我」と「敵」の3つがあり、現状分析とは、これら3つの特質を炙(あぶ)り出すことであると言えます。

ただし、状況は任務の種類や大小などに応じて、考察すべき状況の要素が若干違ってきます。たとえば、国家戦略レベルでは、「戦略環境」、「我が国」、「相手国」となり、ビジネスでは「経営環境」、「自社」、「競業他社」などになるでしょう。

▼まずは「敵」を知れ

今しばらく『孫子』を引用して解説しましょう。『孫子』では、「彼(敵)を知り、己を知れば百戦危うからず。」(謀攻編)、「彼を知りて己を知らば、勝ち乃ち殆うかず」(地形編)とあります。

国家安全保障では敵対関係が存在し、ビジネスの世界では熾烈な競争原理が働いています。だから、我にとって敵国や競合他社に対して勝利することが自己繁栄の道であり、そのために相手の戦略や戦術を知ることが基本になります。

敵を知ることや、敵を意識することは現状分析や環境調査の第一の基本です。そのことが我を知ることにもつながります。国際政治学者の中西輝政・京都大学名誉教授は「敵を知ることは、そのまま自分を知ることにつながります。敵をはっきり意識することで、自分の弱さや欠けていること、強い部分や優れていることもはっきりしてきます。」(中西『本質を見抜く「考え方」』)などと述べています。つまり、日本あるいは日本人は「敵」または「他者」を意識することがもっともっと重要であるとの論旨を展開しています。中西教授が強調している「敵を知ることにより自分を知ることができる」は個人や企業においても通用する原理・原則と言えるでしょう。

▼そして我を知る

『孫子』では「敵を知り、己を知らば百戦危うからずや」の後ろに、「彼を知らずして己を知れば、一勝一負す」(謀攻編)と述べています。つまり、自分を知ることで、最低でも引き分けに持ち込めると言っています。

しかしながら、自分のことはいつでも知ることができると錯覚されているためか、このことは軽視されやすい傾向にあります。しかし、実際には自分のことは過大評価したり、過小評価したりで、正確な自己評価は容易ではありません。

先の太平洋戦争では、相手国である米国のことも知らなかったが、それ以上に我の補給・継戦能力、陸軍・海軍双方の戦略・思考などを知らず、「彼を知らず、己を知らざれば、戦う毎に必ず敗れる」(謀攻編)の状況にあった、との戦後なっての反省がなされています。

▼近年は我を知ることの重要性が増大

2001年の9月11日の同時多発テロ以降、国際テロ組織が主たる脅威の対象となりました。テロ組織は何を考えているのか、どのような能力があるのかは不明です。

それがため、米国の安全保障ではで「敵を知る」ことから、「己を知る」とくに「己の弱点を知らなければならない」という流れに変化し、この考え方が派生して、米国では「己の弱点を知る」ためのビジネス・インテリジェンスが活性化したとされます。

不透明な社会において、自分の力量を知ることはさまざまな分野において重要となっています。それが最低限負けない道を確保することです。自分を客観的に評価することは、正しい状況判断の鉄則とも言えましょう。

▼ほぼ全編で地形・気象の重要性を説く

『孫子』でほぼ全編にわたって地形・気象の重要性が説かれています。「兵(戦争の意)は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからず。故に、経(道筋をつけるの意)するに五事をもって計(はか)る。」(始計編)とあります。

五事とは「道」「天」「地」「将」「法」のことですが(※)、その中の「天」が明暗、天候、季節などの気象または時機(タイミング)を、「地」が地形を指します。要するに、戦争は国の重要事項であるので、時機をよくよく考慮し、地形を活用して有利に戦いなさいと言っているのです。

また、「彼を知りて己を知らば、勝ち乃ち殆うかず。地を知り、天を知れば、勝すなわち窮(きわま)らず」(地形編)とあります。これは、まずは我と敵を知り、戦勝の法則を確立したうえで、敵と我を地形の上に乗せてその利・不利を考察せよという意味です。

軍隊式「状況判断」では、地形と気象の特性を合わせて「地域の特性」と呼んでいますが、これは作戦環境という言葉に集約できます。作戦・戦術レベルでは作戦環境が戦いの趨勢に大きく影響します。つまり、緊要地形を制するものが戦いの主導権を握ることが多々あります。

▼国家戦略レベルでは考察すべき対象は広範多岐

他方、国家戦略レベルでは、作戦環境に相当するものが戦略環境です。また、国家戦略レベルでは「状況」(「地域」、「我」、「敵」)のことを一般的に「情勢」と呼びます。

国家戦略レベルでは、様々な環境要因が戦争や戦略の趨勢に影響を及ぼします。だから、「天」と「地」を知るということは「国家の生存繁栄のために、取り巻く戦略環境を幅広く把握せよ」という意味に解釈すべきでしょう。

「天」とは流動的かつ時間的なものであり、国家戦略レベルでは国内外情勢の趨勢に相当します。それには、現在の政治・経済・社会・外交・軍事の情勢などに加えて、安全保障問題を取り巻く歴史的背景、過去に発生した戦争・紛争の原因および結果などが含まれます。

他方、「地」とは固定的かつ空間的であり、地理的環境に該当します。国際情勢を見る上で「地理的環境」に重きを置くのが地政学です。これは「人間集団としての国家の意図は地理的条件を活動の基盤としている」という点を論拠としています。つまり、地理的条件が民族の特性を形成し、国家の活動基盤になると考え方です。

地政学は歴史学と相まって国際情勢などを考察する上で現在も用いられています。地政学をタイトルとする著作は数多くあるし、実際、紛争多くは地域的に偏在する資源、資源の輸送ルート、集中する市場などをめぐる角逐(かくちく)です。また宗教および民族の分布と恣意的な国境線の不適合が多くの紛争を生起させています。

近年は、地政学リスクに加え得て地経学リスクを考慮する必要性が強調されるようになりました。これは、経済的依存度が政治・外交・安全保障上の政策に及ぼす影響と、逆に政治・外交・安全保障の影響が経済性政策や経済活動に及ぼす影響を考察せよというものです。

国家戦略レベルでは地理と歴史のような不変的な要素、さらには民族と宗教のような変えにくい要素が、国家の戦略や外交にどのような影響を及ぼし、それが国家間にいかなる摩擦をもたらすかを考察する必要があります。このため、考察すべき対象や範囲は広範多岐に及ぶことを認識し、知識(インテリジェンス)の蓄積に努力する必要があります。

(※)「道」は国家あるいは君主が、民意を統一して戦争に向かわせる基本方針であり、国家戦略という見方もできる。「将」は、国家指導者や作戦指揮、「法」(組織、制度、指揮法)などと解釈できる。

(つづく)

武器になる情報分析力(12)

□はじめに

前回の謎かけは「1973年のオイルショックではなぜトイレットペーパーが不足したか?」です。

「トイレットペーパーは石油から作られる。第四次中東戦争で中東の石油生産量が低下→石油の輸出価格が高騰→日本の石油の輸入価格が上昇→トイレットペーパーの値段が上昇→トイレットペーパーが不足」

このような論理的思考力を働かせた方はいましたか?でも実は、トイレットペーパーが不足したのは、デマ(誤情報)が大きく影響したのです。

当時、さまざまな製品の主原料となる石油の値上げが、物価の上昇を引き起こすのではないかという人々の不安感が高まっていました。そこに、1973年10月に日本政府が「紙資源節約の呼びかけ」を行なったために、「紙がなくなる」というデマが口コミで流れたのです。そして1カ月後の11月、大阪で、チラシに煽られた主婦が特売に殺到してトイレットペーパーが瞬く間に売り切れるという出来事がおこりました。その情報を聞いた新聞社が「あっという間に値段は2倍」という記事を出しました。このために騒動が大きくなり、全国各地でトイレットペーパー買い占め騒動が起きてしまったのです。

しかし、騒動が起きた当時はトイレットペーパーの品不足は実際にはありませんでした。要するに、マスコミや口コミに踊らされただけでした。今日もマスコミや口コミでたくさんのデマが流されています。注意が必要です。

今回の謎かけは「マシュマロ実験」に関するものです。「マシュマロ実験という社会心理学の研究では、マシュマロを食べるのを長時間我慢できた4歳児は、成長してからの成績が良かった。それはどうしてか?」

さて前回は、ミッドウェー海戦を事例に取り上げ、南雲忠一第一航空艦隊司令長官が山本五十六連合艦隊司令長官の意図(構想)を理解しなかったために、南雲は自らの目的を確立できずに、そこから達成すべき目標にブレークダウンできなかった。これがミドゥエー海戦の〝失敗の本質〟であることを述べました。

今回は、もう少し目的や目標について考察したいと考えます。

▼上級指揮官の意図が目的になる

状況判断の第一アプローチである任務分析における任務の付与は通常、上級指揮官から「達成すべき目標」とその「目的」をもって示されます。

指揮官は任務の分析にあたって、上級指揮官の意図(構想)をよく理解しなければなりません。与えられた任務が、上級指揮官の意図の中で占める地位と役割を明確にして「具体的に達成すべき目標」とその「目的」を明らかにします。

目的とは「上級指揮官の判決において示される意図」(菊池宏『戦略基礎計画』)です。また意図は、一般的には上級指揮官が目標を達成するために選定した手段となります。つまり、上級指揮官が選定した「具体的に達成すべき目標」を部下の指揮官に示すことが意図の伝達になります。

指揮官は上級指揮官の「具体的に達成すべき目標」を確認することにより、自らの任務上の「目的」を明らかにします。その上で上級指揮官から付与された「達成すべき目標」をブレークダウンして、自らの「具体的に達成すべき目標」を明らかにすることになります。

こうして上級指揮官が指揮官に与えた任務の具体化が図れるわけです。

▼社長の意図は部長の目的

上述のことを、会社での社長-部長-課長の指揮系統で解説しましょう。社長には会社の利益やブランド力を向上させる「大目的」があります。そこで社長は「競合他社との販売競争に勝利して利益を拡大する」ことを基本目標とします。これが会社全体から見た場合の社長の「大目標」となります。

社長は状況判断を行ない、いくつかの戦略構想の中から「設備投資に踏み切る」ことを「具体的に達成すべき目標」に選定します。つまり、社長は判決によって「大目標」に対する「大手段」を選定しました。この「大手段」が社長の判決によって示される部長に対する「意図」になります。

社長は複数の部長を呼び、「設備投資に踏み切る」という「意図」を示し、各部長には意図を達成するために振り分けたそれぞれの「達成すべき目標=中間目標」を伝えます。

たとえば、総務部長には「土地と建物の取得、経費の捻出、人員雇用対策」を、生産管理部長には「生産機械の購入と設置」を、営業部長には「新製品の販売計画の作成」を命じます。

「設備投資に踏み切る」という社長の「意図」は生産管理部長にとっての「目的」になります。生産管理部長は「設備投資に踏み切るために(目的)、『生産機械の購入と設置』(中間目標)を実現する」ことを認識します。これが与えられた任務の中で自らが「達成すべき目標=中間目標」を確認する行為になります。

次に生産管理部長は「社長の意図=自らの目的」および「社長から分与された目標=中間目標」、すなわち「生産機械の購入と設置」を踏まえ、任務分析します。そして「中間目標」をブレークダウン(具体化、細分化、特殊化)して「いつまでに、最低これくらいの資金を調達して、このような機械を〇〇台購入する」といった「具体的に達成すべき目標」を定めます。これが生産管理部長の「中間目標」に対する「中間手段」、すなわち生産管理部長が部下である課長に示す意図になります。

生産管理部長は各課長を集めて自らの意図、つまり「具体的に達成すべき目標」を意図として伝えます。同時に各課長に対し、担当すべき業務(任務)と業務目標(末端目標)を分与します。たとえば情報システム課長に「工場内の生産機械の情報システムの設計を〇〇までに行なえ」といった「目標=末端目標」を分与します。

情報システム課長は課に戻り、部長の意図と自分に与えられた末端目標を持ち帰り、それを最適に実施するための最適な手段である「具体的に達成すべき目標」を立てます。これが「末端目標」に対する「末端手段」です。

「末端手段」は課長が部下に与える意図になります。課長は自らの意図を課員に伝え、課員を督励して自らの目標を達成するために課の努力を集中します。

▼目標の分与によって意図が連結される

少し説明が冗長になりましたが、要するに社長の意図が部長の目的、部長の意図が課長の目的となり、課長の意図は課員の目的となるということです。そして、上司から与えられた「達成すべき目標」を任務分析により「具体的に達成すべく目標」にブレークダウンします。それを自らの意図とし、合わせて部下指揮官にそれぞれの「達成すべき目標」の分与を行ないます。この目標の分与によって、各レベル(社長、部長、課長)の意図が連結されることになります。すなわち、社長の意図が組織的、合理的、段階的に最下層に透徹することになります。

▼目標は整合性が図られるべき

目標は個別分断的に存在するのではなく、その先のもっと大きな目標があり、目標の下には具体化された目標があります。これを最終目標から逆行的に考えると、そこには連鎖があります。この連鎖には「時系列的連鎖」と「階層的連鎖」があります。前者は、「一流企業への入社←一流大学の入学←一流高校の入学」という形態となります。後者は、「会社の利益←営業本部の利益←営業課の利益←社員の営業成績」という形態となります。

最も重要なことは上位目標と下位目標には整合性が確保されているということです。言い換えれば、任務分析とは上位目標から整合性のある下位目標を導き出すことです。

▼上位目標との整合性を図る

整合性は厳密には2つあります。第1は上位目標との整合性です。たとえば、生産管理部長が「生産機械の購入と設置」という目標=中間目標を社長から分与された場合、この目標は、その先にある社長が設定した「具体期に達成すべき目標=大手段=意図」である「設備投資に踏み切る」という上位の目標に合理的につながっているかを確認します。

この際、整合性が担保されていなければ社長に意見具申することが必要です。命じられた目標を単にこなすだけでは、社長の意図を体(たい)することにならず、指揮の統一が図れないのです。

前出のミッドウェー作戦では、南雲は、山本から与えられた「ミッドウェー島を攻撃する」という目標が、「空母を誘い出す」という山本の上位目標(南雲にとっては目的)に対して整合性がとれているかを確認する必要がありました。この確認を行なうことで、自分の目標がどのように直属上官の意図の達成につながるかを理解できるのです。

▼下位目標との整合性を図る

第2は下位目標との整合性です。リーダーは上司から与えられた目標に基づいて、この目標を達成するために「具体的に達成すべき目標」を明確にします。

たとえば、生産管理部長は社長から与えられた「生産機の購入と設置する」目標から「具体的に達成すべき目標」を「生産機を○○台購入するため、資金〇〇円を△△までに確保する」とした場合、この両者に整合性があるかどうかを確認します。

こうして指揮系統におけるあらゆる目標間に整合性が確保されることを確認します。目標の整合性を確保されているか否かを判断することは、状況判断あるいは任務分析において非常に重要なことなのです。

(つづく)

【武器になる「状況判断力」(11)

-目的と目標を使い分ける-

□はじめに

前回の謎かけは、「マンホールの蓋はなぜ丸いか?」でしたね。マンホールとは「人(マン)の穴」、つまり中で人が工事や排泄などの作業をします。丸い蓋は穴に落ちない、つまり安全だからです。長方形のホールであれば、ホールの短辺が枠の長辺より短いので落ちてしまいます。正方形も同様です(一辺が対角線よりも短い)。

では、構造的には円と四角はどちらが強いのでしょうか。実は四角形の方が構造的に強いようです。にもかかわらず、電柱はどうして円柱であり角柱ではないのでしょうか。これは、周囲の木が丸いので電柱も円形にしたようで、そこに合理性はないようです。

今回の謎かけは「1973年のオイルショックではなぜトイレットペーパーが不足したか?」です。コロナ禍ではマスクが不足しました。今はトイレの便座が入手できなくなっているようです。危機には、いつも何気なく使っているものが不足するようです。

逆に、「この頃、〇〇の値段が上がっていないか?」と気づくこと、それは世界の変化の兆候を発見することかもしれません。

今回は、任務分析の〝キモ〟というべき目的と目標の確立について解説します。

▼目的と目標との関係

任務分析における「目的」と「目標」との関係について考察しておきましょう。目的は「成し遂げようとする姿」であり、最終地点、すなわちゴールです。

それは「会社を今よりも大きくする」、「安定した暮らしをする」とか抽象的・包括的な表現になります。

一方、目標は通過点や目印であり、「今年の売上高は○○億円以上にする」とか、「国家公務員試験に合格する」とか、具体的な数値か状態で示されます。要するに、目的は抽象的、目標は具体的です。

一連の作戦などにおいて目的は一つですが、目標は複数存在します。たとえば、富士山の山頂がゴールだとすると、まずは5合目、次には7合目、さらに9合目というように、時間的あるいは段階的に先の目標があります。また、登山ルートも複数あるので、5合目の目標も複数あることになります。

軍事における目的は、米軍用語の「Purpose」に相当します。それは「使命(Mission)に示された取るべき行動の理由」(堂下哲郎『作戦司令部の意思決定』)の意味です。

だから、目的は最終目的(ゴール)という意味よりも、「取るべき行動の理由」として捉える方が核心をついています。他方、目標は目的達成のための「手段」として理解すべきでしょう。

そして目的と目標との関係は「~のため」を用いて一体的に捉えることが重要です。たとえば「安定した暮らしをしたいために(目的)、国家公務員試験に合格する(目標)」といった具合です。

目的がなければ目標は生まれません。だから、目的の確立はいかなる時代でも、どんな組織や個人でも最優先事項です。その目的は、個人や組織の人生観や価値観から湧き上がる「なぜ○○をするのか」、すなわちを「why」を意識することで主観的に確立すべきものです。どのように優れたAIであって目的の確立を代替することはできません。

これに対し、目標は目的が決まれば論理的な思考で客観的に導き出すことが可能です。やがて目標の選定はAIの独擅場になる可能性もなきにしもあらずだと考えます。

▼ミッドウェー作戦での目的と目標の混同

上述のように理論上、目的と目標の差異を説明できたとしても、現実には両者の判別は容易ではありません。特に状況が複雑な戦争局面などでは目標と目標がしばしば混同されます。

わが国が対米劣勢へと転じた〝分水嶺〟であるミッドウェー作戦(1942年)を振り返ってみましょう。

この作戦では、「敵機動部隊を撃滅する」、「ミッドウェー島を攻撃・占領する」のいずれが目的であり、目標であったのでしょうか?

太平洋戦争の全局からみれば、「敵機動部隊の撃滅」が目的であり、これを誘い出すための「島の攻撃・占領」が目標であるいえます。他方、ミッドウェー作戦だけを考えれば「島の攻撃・占領」が目的で、この行動を妨害する「敵機動部隊の撃滅」が目標になります。

ミッドウェー作戦では目的が不明確であったため、目的と目標の混同が起きていました。これに関して、名著『失敗の本質』は次のように記述しています。

「ミッドウェー作戦は米空母軍の出撃を誘出するための条件をつり出さなければならなかった。つまり、この作戦の真のねらいは、ミッドウェーの占領そのものではなく、同島の攻略によって米空母群を誘い出し、これ対し主動的に航空決戦を強要し、一挙に捕捉撃滅しようとすることにあった。

ところが、この米空母の誘出作戦の目的と構想を、山本(五十六)は第一機動部隊の南雲(忠一)に十分に理解・認識させる努力をしなかった。ここに、後世に至って作戦目的の二重性が批判される理由がある。」

つまり、一連の作戦に「米空母の誘出作戦」と「ミッドウェーの占領」という二つの目的があったことが失敗の原因であったと指摘しています。

▼山本の構想は南雲には理解されなかった

山本は「強大な国力を有する米国との長期戦は回避しなければならない。しかし、日本近海での『邀撃作戦』を取っていては米軍が主導権を握るので長期戦は回避できない。よって、自主積極的に米空母群への打撃を行い、米国海軍および米国民の戦争士気を喪失させる」といった意図(構想)を持っていました。

しかしながら、南雲はミッドウェー基地への攻撃(第一次攻撃、米空母の誘出作戦)した後も)、米空母群への攻撃に備えるのではなく、ミッドウェー基地に対する第二次攻撃を決心します。つまり、第一次攻撃後も米軍の空爆が止まないという状況に接し、一方で「ミッドウェー攻略中に米空母が出現してくることはあるまい」との希望的判断に依拠して、海軍航空機の装備を米空母の艦艇攻撃用(米空母機動部隊用)から地上攻撃用(ミッドウェー基地用)に切り替えたのです。

ところが、その時、日本海軍の索敵機から「敵ラシキモノ10隻ミユ」との情報が入ります。南雲は「空母を含む米艦隊が近くに存在することが確実だ」と判断し、ミッドウェーに対する第二次攻撃を取りやめ、再び航空機の装備を地上攻撃用から艦艇攻撃用に転換する決心をしました。

さらには帰還する第一攻撃隊を空母に着艦・収容することを、米機動部隊への攻撃よりも優先したため、逆に米軍機による先制爆撃を受けて、日本海軍は4隻の空母を含む主要艦艇を失ったのです。

南雲は上級指揮官である山本の構想を十分に理解していなかったのです。山本の構想は、南雲自身が行動を起こすための目的に相当します。つまり、南雲は山本の構想、すなわち南雲自身の目的を確立していなかったために、それを具体的な目標にブレイクダウンできなかったのです。ここにミッドウェー作戦の〝失敗の本質〟があります。

目的が未確立であったため、米空母が予想以上に早くミッドウェー海域に出現したらどうするかという対策もなく、情報収集の態勢、企図の秘匿や欺瞞の措置は不十分であり、現場での南雲の命令は二転三転してしまったのです。

(つづく)