新著『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル』9月18日に発刊

皆様へ

 暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。本日は私の新著の発売のご紹介させてください。

 9月16日ワニブックス社から『超一流諜報員の頭の回転が速くなるダークスキル-仕事で使える5つの極秘技術』が発刊されます。ワニブックス社は桜林美佐様の『陸海空 軍人によるウクライナ侵攻分析』の出版社です。

 タイトルは、読者の関心を引き付けようとの意図が見え見えですが、内容はインテリジェンス・リテラシーやビジネス力をつけるために役立つ内容です。

 本日は同著の前書き部分(修正前原稿)を紹介させていただきます。

善く(よく)戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、智名も無く、勇功も無し。

→勝者は無理のない、勝って当然な勝ち方をする。「能ある鷹は爪を隠す」。それが諜報員の戦い方である。

  故に三軍の事は間より親しきは莫く、賞は間より厚きは莫く、事は間より密なるは莫し。

→組織トップは、諜報員を最も信頼し、高い俸給が与え、しかも諜報員とのことは秘密にしなければならない。つまり、諜報員は組織にとって必要不可欠な存在である。

■この世で最も“頭の回転が速く”なければならない職業

「会話や物事の理解度が高い」

「仕事を効率的に行なう」

「情報をまとめたり、整理できる」

「人の心が読める、人を操れる」

「記憶力が高い」

「物事の先を読める」

「決断力がある」

 多くのビジネスパーソンが憧れる、〝頭の回転が速い人〟とは、このような能力や資質の持ち主を指すのであろう。

 むろん、これだけの能力が備わっていれば、仕事やビジネスで成果を出すことはたやすいだろう。だからこそ、あなたは「頭の回転が速くなる技術」について書かれた本書をご所望されたのだろう。

 実は、冒頭に並べた能力・資質をほぼすべて兼ね備えている仕事人がいる。それが諜報員だ。本書で定義する諜報員とは、アメリカのCIA、イギリスのMI6、ロシアのSVR、イスラエルのモサドといった諜報機関で、敵対勢力に対し、「戦わずして勝つ」を信条に水面下での情報戦に従事している者の総称である。

 彼らは、情報を収集し、分析してインテリジェンスを作成したり、時に秘密工作に従事し、また、国家の重要な秘密情報を守るミッションを遂行する。

諜報員がミッションに失敗すれば、国や国民は危機に瀕する。個々の諜報員には死刑、投獄が待っている。まさしく、重要かつ命がけの職業だ。

諜報員は、高い倍率を突破し、長期間の基礎教育と実地教育で篩にかけられ、勝ち残った超一流のエリートである。

 すなわち、諜報員こそは、この世で最も「頭の回転が速くなければ務まらない職業人」なのである。

 本書のテーマは、世界の優秀な諜報員が実践している「思考」と「行動」の型を紹介し、それをあなたに使いこなしてもらうことだ。

■努力、まじめさ、よりもダークスキルで成果が出る

 誰もが仕事に対して、努力し、まじめに働いていることだろう。それなのに、なぜ、成果が出ないのだろうか。それは、結果につながらないことをやっているからだ。すなわち無駄なことに力を注いでいるからだ。

 諜報員は国家の危機を救うなど大きな成果を出している。そんな優秀な諜報員の仕事の流儀に従えば、あなたは無理なく成果が出せるだろう。

 諜報活動は社会の水面下で粛々と行われるため、諜報員の成功が華々しく語られることはない。すなわち、諜報員のスキルはダークサイドのスキルなのである。しかし、インテリジェンスに関する研究書や歴史書、元諜報員の自伝や執筆物から、ダークサイドのスキルから一部は我々に役立つスキルに置き換えることはできる。また、欧米では、企業がインテリジェンスの重要性を認識していることもあり、退職する諜報員は今も昔も、企業から引く手あまたの状態だ。経営者として成功している元諜報員も多い。

 つまり、諜報員のスキルの中で汎用性の高いものは、ビジネスの世界に流入し、活用されており、これらスキルが成果につながることは実証済みである。つまり、ビジネスパーソンがこれらスキルを使えば必ず、頭の回転を格段に速めることができる。

 諜報員は、緊迫した状況で成果を出さなければならない。だから諜報員のスキルは「ムリ、ムダ、ムラ」を排除したシンプルで理に適っている。すなわち、諜報員のスキルはビジネスパーソンにも容易に理解できるし、実践しやすいのだ。

 また、かつては国家機関で情報の収集と分析に携わり、今はビジネスパーソンの一人となった我が、重要な情報を選りすぐり、自分の経験も踏まえて、できるだけ平易に解説した。

本書で書かれていることを、あなたが実践すれば、ビジネスの成果を出すことは間違いないと確信する。

■元情報分析官等の経験から解説

日本にはCIAのような海外で秘密ミッションを行なうような機関はないが、「日本に諜報機関があるか」と問われば微妙である。なぜならば、諜報という言葉は元来、目的を秘匿する情報収集活動であって、そこにはオープンソース(公開情報源)を集め分析する活動も含むからだ。

 このような活動はいかなる国も当然のこととしてやっている。だから、私がかつて就いていた「情報分析官も諜報員か」と言えば、(我が国では諜報がダーティーなもとのイメージが定着しているので非常に答えにくいが)「そうだ」と言えるのかもしれない。

 私はかつて、情報幹部、情報分析官、情報学校の共感、在外大使館員などとして勤務していた。本格的な諜報員のように身分を隠すようなことはなかったが、オシントやヒューミントを収集し、分析した。また、各国情報機関の公開の情報分析マニュアル、各国のスパイマスターや諜報員の自伝を渉猟し、彼らの思考法から、自らの情報収集や情報分析のスキルを磨いてきた。

 簡単に言うと、インテリジェンスとは情報(インフォメーション)を料理することだ。集めた情報を自分なりに解釈し、意思決定、行動に活かせる形にしたものがインテリジェンスである。

 現在、私は一介のビジネスパーソンである。そこで残念に感じることがある。ビジネス界にはスキルアップ研修の場は数多くあるが、インテリジェンス・リテラシーを高めるための研修は少ない。つまり、インテリジェンスの重要性は次第に認識されつつあるものの、それがスキルとなってビジネスに適用されることには不十分である。

 これからは、社会がますます不確実性を帯ていくとともに、高度なICT社会の中で情報が氾濫する。だから、インテリジェンスや諜報の重要性が増大するだろう。それは相手側の情報の活用と、自らの情報のセキュリティという両面においてである。

 本書は、元諜報員が自らの体験をビジネス向けに書き下ろした著書の中から、ビジネスパーソンが活用できるエキスを抽出して1冊に再構築した。そこに、私の経験から得た知見でもって体系整理と内容の肉付けをおこなった。本書はインテリジェンスリテラシーの入門書としての価値も高いと確信する。

■本書の構成

 本書は次のような構成になっている。

01の章では、諜報員がいかに優れているか、どんな組織で、どんな活動を行ない、どんなスキルを持っているかを紹介する。

02の章では、情報収集法を紹介する。諜報員がどのように秘密情報を集めていくのかがわかる。

03の章では、人心掌握の技術を紹介する。諜報員が、協力者を見つけ、思い通りに動かすテクニックがわかる。

 04の章では、記憶術を紹介する。キーワードや人の話の内容を覚える技術、記憶を瞬時に引き出す方法がわかる。

05の章では、情報分析の技術を紹介する。03章までの技術を駆使して集めた情報から、有効な意思決定、行動を行なうためのインテリジェンスを作成する要領の一端がわかる。

06章では、目標達成のための実行力を高める方法を紹介する。冷静に、迅速に、柔軟に考え、行動する技術が身につく。

 ところどころに、歴史的なスパイ戦についてもお話しているので、楽しみながらスキルを身につけていってほしい。

                                  (以上)

近況の報告(『インテリジェンス用語事典』の出版)

2022年の最初の投稿です。一昨日、講演依頼をいただきましたが、依頼者から、最近、ブログの投稿が途絶えているので、この連絡メールのアドレス(ブログに記載)が生きているのかどうか心配であった、とのお話しをいただきました。はい、生きています。

実は投稿をしばらく休止していたのは新作の構想固めに1か月半もかかったからです。仕事をしながら、一つの事に集中すると、他のことは全くできません。60歳を超えると、目は悪くなるし、体力も衰えます。頭の中にあるものをどのように体系付けしようかと考えると非常にぐったりとして、ブログ投稿はお休みしていました。それもなんとか1週間くらい前に終わりました。新作はいつ刊行できるかはわかりません。

ありがたいことに一年くらい前から講演依頼を継続的にいただています。主に『武器になる情報分析力』と『未来予測入門』を読んだ方々からです。非常にありがたいことです。私は原則、1か月に2回以上の講演は受けないことにしていますので少し後ろ倒ししていただいています。申し訳ありません。

今年は固い著書とやわらかい著書を1冊ずつ出すのが目標です。本は売れない時代ですが、講演はだいたい数十人、本は数千冊。講演は組織による要請の方が多いですが、本は自ら出費を決断しての購入です。私の考え方などを伝えるツールとして本の方が効率的です。ただし、本は、よほど売れないと商売にはまったくなりません。赤字と言ってもよいくらいです。

さて、先日は共著『インテリジェンス用語事典』を出しました。辞典ではなく事典であるので、読み物として読んでいただいても面白いと思います。編著は樋口敬祐さんが担当しました。自分の執筆に加えて、私と志田さんの執筆をチェックして修正され、全体の構成を考えられたので大変な労苦であったと思われます。

樋口さんは長年、インテリジェンスの学術研究をされており、私の先輩ですが、組織での再任用を継続されていたので、昨年65歳で定年されました。今は、大学で講師もされています。今後の活躍を祈念します。

私の方は自衛隊を退官して早7年(55歳で定年)になります。インテリジェンスをビジネスパーソンにどう伝えるかがテーマですので、樋口さんとはアプローチや書き物はかなり違います。志田さんは沖縄県にある名桜大学の准教授であり、こちらはバリバリの学者です。それぞれの知識によるコラボで、拓殖大学大学院教授の川上高司先生の監修のもとで著書が完成しました。

本来ならば、各用語を大項目にするか、中項目にするか、小項目にするのかなど侃々諤々の議論をするはずが、コロナ禍の影響でできていません。そのため、完成度としてはイマイチ感もありますが、初のインテリジェンス用語事典ということに意義があると思います。ご愛読いただくと嬉しいです。

新著を発刊します(4月14日)

約1年半ぶりの新著の発刊です。今回のタイトルは『情報分析官が見た陸軍中野学校』です。昨日の4月13日からアマゾンで予約募集を開始しました。その内容については、本ブログ「情報分析官が見た陸軍中野学校」で紹介しています(現在3/5回まで)。

また、固定ページの「上田篤盛の本」でも掲載しました。久しぶりに固定ページを編集したので、編集の仕方(アマゾンとのリンクの貼り方など)を忘れて、しばらく〝格闘〟しました。

新著は私にとって、これまでのどの著書よりも、もがき苦しみました。そこで私の気持ちを次のように表現しました。

「中野学校を一冊の著書として刊行しようとした過程では、理解力や筆力の欠如から、中野学校の実相あるいは先人たちの労苦を表現しきれない挫折感を覚え、執筆を中断したこともあった。だが、筆者の友人の支援、中野関係者および出版社のご厚意で、五年の歳月をかけて、ようやく一つの形にすることができた。少々大袈裟ではあるが、本書は自身の内面と向き合い、先人たちの崇高な精神をあれこれ分析する資格もない自らの〝未熟さ〟を自覚し、また〝葛藤〟と戦い抜いた末の書なのである。」(本書から引用)

ところで、歴史と向き合うのは大変です。先行研究や既存の著書などを参考にするにしても、書く人によって事実が微妙に異なります。当然、解釈は大いに異なります。私自身もバイアスがありますし、意図的にある種のメ―セージをそこに織り込みますので、全体的な主張でのバランスには苦慮します。

説がほぼひとつならば問題はありませんが、1928年の張作霖爆殺事件のように最近になってソ連犯行説が出てくるとやっかいです。私は歴史家ではないので、とちらが正しいか断定する力量はありません。そこで、「これまでの定説である河本大作大佐が犯人としたら、…」、「一方、ソ連の情報機関の仕業であったとしたら…」、といった具合に両仮説を前提に論理を展開するしかありません。

しかし、歴史に詳しい方は「絶対に・・・・・である」というような強い主張をお持ちであるので、それに反する見解を述べようとすると、「勉強不足」とのお叱りを受けることになります。

本人が書いた手記は第一次情報なので正しいかと言えばそうではありません。自己評価によればりっぱな人物も、他の人から見ればそうでもないのです。たとえば、関東軍情報部長を歴任した土居明夫中将の手記などを見ると、辻正信大佐、服部卓四郎大佐などはかなり変わった人物と思っていまいます。しかし、第三者の手記を読むと、辻はさておき、服部は大変バランスの取れた好人物であり、むしろ変わり者は土居中将であったと評価されています。

手記は一般に脚色され、「自己を正当化し、仲が良い人は高く評価する」傾向にあります。これは歴史に限らず、現実の社会でもそうですが。

要するに、過去の歴史書も疑ってかからないといけません。権威ある歴史家の説が正しいとは限りません。だから、当時の状況や周辺環境を思い浮かべながら、自分が置かれている現実に照らして、「おそらく、こうだろう」という前提の下で論理を展開するほかないのです。

私の歴史との向き合い方は、真実を探求することではありません。歴史から現代の教訓を導き出すことです。他方、「真実を追求せずして、なんの教訓か!」という論理も正しいでしょう。しかし、結局、判断するだけの知見がない私には、これこれを前提とするならば、このような仮説が成立し得る、というような形でで教訓を導くしかないのです。

まあ、このようなこともあって、過去の日本軍のことや、中野学校のことを書くことに大変苦労しました。

新著ではとりわけ陸軍中野学校の精神教育に焦点を当てました。自分がたいして精神修養などしていないにもかかわらず、中野学校の精神教育や中野出身者の精神を語ったわけですから、誹りを受けるかもしれません。

昨今、少子化の趨勢の中で、良質な隊員を確保して、安全保障に万全を期すことは容易ではありません。当時も、陸軍は作戦重視であって、なかなか容易に良質な情報要員は確保できませんでした。そこに現代との類似性を見出し、教訓を得ようとしました。

陸軍中野学校の創設者たちは、陸軍士官学校出ではなく、一般大学出身者などに採用ターゲーットを絞りました。彼らの軍人に凝り固まらない自由で柔軟な発想力に期待したのです。しかし、一般社会で過ごした軍人らしからぬ彼らに、軍人さらに秘密戦士としての愛国心をいかに涵養するかが課題でした。彼らの精神性を高めたのが中野学校での精神教育でした。

今日、サイバー脅威などの高まりから、優秀なハッカーを国家や自衛隊で確保する試みが取り沙汰されています。愛国心なき諜報員は二重スパイという問題があるように、愛国心なきハッカーは困ります。彼らの愛国心、使命感、責任感はどのように涵養するのか、これも問題となってきます。その意味でも一度、中野学校でどのような精神教育が行われたのかを読んでいただきたいと思います。

引っ越ししています(3月31日)

現在、私は人生最後(?)かもしれない引っ越しの最中です。大型家具等の引っ越しはまだですが、新居への住民票の移転、郵便物の配送変更届、ガス、電気、インターネット、携帯電話(ついでに携帯電話も変更)の新設と廃止の手続き、はたまた新居での内装などやることがたくさんあります。

これまで引っ越しは何回かやりましたが、もの忘れも多くなったせいか、過去にやったことのある銀行口座の住所変更届などのやり方が思い出しません。最近(随分前からですが)、銀行で別の生命保険会社との契約を結んでいたり、銀行と関連するクレジット会社や信用会社が違っていて、銀行へのの届け出だけではダメなのです。

やはり、順調に進むのは市役所での住民票、印鑑登録証の移転、免許の住所移転などの窓口で直接対応していただくものです。話せばわかるではないですが、やはり私は会話でないと理解ができないようです。

電話でオペレーターとお話ができればと思うのですが、クレジットカード会社、インターネット会社など多くは、音声自動ガイダンスになっています。電話をかけてもオペレーターにはなかなかつながりません。「○○秒○○円でご案内します」と言われ、ガイダンスが示す番号や、こちらのクレジットカードの番号などを入力し、やっとたどり着いた先は、私が知る必要もない音声ガイダンスが流れる、まったく役に立ちません。顔の見えないガイダンスに腹を立てても仕方がありませんが、まったく住みにくい生活になったものです。

電気の使用に関しても、東京電力以外のところに変えて、それなりに使用料は下がっているのかもしれませんが、対応窓口が一つではなく、たらいまわしにされます。しかも、前のところと言うことが違う。インターネットも別の会社が一部業務を委託している関係から、カスタマーサービス一発で問題解決になりません。

内装のためにホームセンターに行っても、従業員不足なのか、店内に店員さんがあまりいません。広い店内を「ダボはどこにあるんだ」とブツブツ言いながら店内を徘徊する始末。昔は、うるさいくらいまでに店員さんが対応してくれたの・・・・。

日本の自動決済の普及率は中国、韓国などに遅れを取っているようです。自由・民主主義の国では個人のプライバートーなどが尊重されます。そこで、国家に監視される制度は妥当なのかという議論がメディアで提起され、そういうこともあって、マイナンバーカードも普及も容易ではありません。

プライバーシーを守りながら様々な生活をオンラインで済まそうとするから複雑になります。中国のような国家が国民監視することが当たり前の社会では、プライバシーは尊重されないが、例えば特定のカードをかざすだけで問題が解決するといった生活の利便性があります。ふと、どちらがいいのかと思ってしまいます。

はたして自由・民主主義体制と権威主義体制、世界はどちらに向かうのか。AIが発達して、人間が考えることが少なくなり、一部の権力者や高度技術者にすべてお任せします、それが最も便利でストレスフルな社会なのではないかなどと思ってしまいます。他方、そうなった場合、なんのために生きているのか、人生とは何かなど別の悩みも生まれてきそうです。

『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』の読後感

慶應大学教授、廣瀬陽子氏の『ハイブリッド戦争 ロシアの新しい国家戦略』を読みました。壮大な「グランドストラテジー」の下で、ち密なロシアのハイブリッド戦略を解説する良書です。今、我々が直面しているサイバー脅威や情報戦に立ち向かうための「インテリジェンス・リテラシー」を高めるために、是非とも手に取っていただきたい著書です。

平易な文章で分かりやすく書かれているので1日か2日で読破できます。

 本作は「プロローグ」と「エピローグ」が秀逸です。「プロローグ」では本書の全般紹介のほか、最近、〝謎の人物〟として話題になっている、エフゲニー・プリゴジン氏について書かれています。彼は2016年の米大統領選挙でスティーブ・バノン氏などとともに、よく耳にするようになった人物です。

 同大統領選挙では、ロシアによるトランプ氏支持のためのサイバー攻撃(ロシアゲート)が注目されました。そこでは、「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」、​「コンコルド・マネージメント&コンサルティング」、「コンコルド・ケータリング」などの得体のしれない会社が暗躍しました。これらを裏で操っていた人物がプリゴジン氏です。

 彼は「プーチンのシェフ」と呼ばれ、最初にレストランと仕出しビジネスを立ち上げたのですが、本書でより詳しい彼の経歴を知ることができました。

 詳細は割愛しますが、9年間も刑務所につながれていたような不良人物がクレムリンとの人脈を築き、プーチンに近づき、裏社会のボスに一挙に上り詰めます。いったいどのような手口だったのか、皆さんも興味があるのではないかと思います。そのきっかけの一つががロシアのハイブリッド戦争を現場で支えた民間軍事会社(PMC)の「ワグネル」社(2014年設立)の経営関与です。そこに現代ロシアの裏側を見る〝わくわく感〟を覚えました。

 彼は本書の随所で登場しますので、本書を小説のような感覚で一挙に読むことができました。まさに、プリゴジン氏が本書の「シェフ」として、絶妙な味付けをしています。

 エピローグでは、世界を席巻しているパンデミック禍の中での「ロシアの下心」について描かれています。むろんエビローグなので全章のまとめとなります。

 著者はロシアがコロナ禍の中で積極的な支援外交を展開したことに言及され、欧米がこの支援外交を「ハイブリッド戦争」と警戒していることを紹介されています。著者は、この支援外交が「ハイブリッド戦争」だとは言えないものの、それほどロシアの「ハイブリット戦争」が世界から注目されていることの証左であるとの見解を述べられています。

 そのことを踏まえ、ロシアのハイブリッド戦争の効果について総合評価されています。ハイブリッド戦争は目に見えない部分が多く、それぞれの戦術・戦法の関連性が不明であり、因果関係が複雑なので、評価は容易ではありません。非常に困難である評価を敢えて行われたことに敬意を表します。

 その評価も客観的で納得できるものでした。評価自体は割愛しますが、①エストニアへのサイバー攻撃、②ジョージアへのハイブリッド戦、③ウクライナでのクリミア侵攻、④米国大統領選挙の関与、⑤シリア介入について、の5つの事例を取り上げ、各々を「成功と失敗」の両面から分析し、部分評価を下し、そのうえで総合的な評価を下されています。非常に読み答えがあります。

 また、世界が「ハイブリッド戦」にどのように対抗すべきかを、『シャドウ・ウォー 中国・ロシアのハイブリッド戦争最前線』の著者であるジム・スキアット氏の解決案を紹介しつつ、筆者自身の見解を提示されています。なお、私は現在この本も読書中です。

 最後は、わが国がどうすべきかということで締めとなっていますが、本来は行われるはずであった東京オリンピックに対するロシアのサイバー攻撃の計画があっことを改めて取り上げ、我が国の危機意識の欠如を指摘されています。一方で、今日の日本政府の取り組みに対する肯定評価もされています。このあたり、〝期待値も含めて〟といったところでしょうか。

 以上のようにプロローグとエピローグを読むだけでも大変勉強になりますが、やはりロシア研究の一人者としてオーソドックスな分析手法に大いに感服しました。第1章とは第2章は、ハイブリッド戦争の全体像の解説と、そのなかでも主流というべきサイバー戦(宣伝戦・情報戦)の解説なので、さらりと読ませていただくとして、やはり第3章の「ロシア外交のバックボーン」が本書の最大のキモであると思います。

 ロシア研究の第一人者である著者が、地政学の見地から、プーチン氏の「グランド・ストラテジー」を描き出し、これを踏まえて、ロシアにとっての勢力圏に対する外交アプローチ、ロシアが米国に対してどのようなことを狙っているのかなどを解説されています。2016年の大統領選挙や昨年の大統領選挙にまで、なぜロシアが国家的介入を行ったのか、「なるほど。う~ん」と唸らされる思いです。

 続く、第4章ではロシアの地域戦略、つまり重点領域を明らかにし、さらにロシアの戦略・戦術を多角的に展開しています。第5章では、アフリカをハイブリッド戦争の最前線であるとして、一転して焦点を絞った分析が行われています。ここに本書のメリハリが存分に発揮され、魅了されながら読書を進めることができました。

 著者も述べられているように、私も「最近のアフリカといえば、中国の進出が顕著というイメージ」を持っていましたので、ロシアが地政学の視点から巧みなアフリカアプローチを展開している状況は大変勉強になりました。

 著者によれば、ロシアは権威主義政権による「国内の抑圧」などに対する支援(「グレーゾーン」に対する「安全保障の輸出」)はPMCを使って国際批判をかわし、軍事分野での進出を筆頭に、経済分野よりも政治分野の方を優先させるとあります。この点は、中国とはやや異なる点であると興味を持ちました。

 私は若干、中国について研究していますので、ついつい中国とロシアを比較してしまいます。著者は、「ロシアは火種のないところに炎上を起こさせる力はないとされる一方、火種を見つけ、それつけこんで炎上させることに長けており、その際、ハイブリッド戦争的な手法はきわめて有効に機能してきた」と述べられています。ここにロシアのやり口が凝縮しているように思えます。

 一方、私に言わせれば「中国は火のないところに煙を立てる。これは「無中生有」という「兵法三十六計」の一つである。やり方である。それが国際社会に対する反中感情を引き起こしている」と感じています。

 これらに最近の両国の力の差を感じるととともに、中国は舌戦によって「喚く」、ロシアは裏でひっそりと「○殺」するといった、歴史文化の違いがあるのだと言ったら、少し言い過ぎでしょうか。

 最後になりましたが、著者には個人的にも意見交換などさせていただきおり、ますますのご発展を祈念申し上げます。

あけましておめでとうございます。

皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

昨年は私の諸般の事情がありましてブログを中断していましたが、今年は再開します。昨年はコロナ禍に見舞われましたが、雑誌取材や講演依頼などはほぼ順調でした。どうもありがとうございました。

これも、一昨年に出版した『武器になる情報分析力』と『未来予測入門』の効果のようです。昨年は、私の環境変化などで一冊も新刊を出版できなかったのですが、今年はなんとか一冊は出版したいと考えています。

四五年来の書き溜めたものをすでに整理していますので、出版もまもなくだと思います。その節には、このブログでご紹介させていただきますので、ご贔屓に願います。

今年はスマホを利用して、外出先などで気軽に近況ブログなどを書き、その後、自宅で時々修正(更新)したいと思います。

皆様、今年一年よろしくお願いします。

拙著『未来予測入門』が「TOPPOINT」12月号で選出

拙著が「TOPPOINT」12月号の 「一読の価値ある新刊書」に選出されました。

「TOPPOINT」のホームページには以下のように掲示されています。

私どもは、1987年に、新刊書を紹介する月刊誌「TOPPOINT」(トップポイント)を 創刊いたしました。以来、30年以上にわたって、
“1冊の本”との出合いが、ビジネスを、人生を、変える!
そう信じて、毎月、「一読の価値ある新刊書」を厳選して、
その内容を紹介しております。

世の中には、たった1冊の本と出合ったことで、その後のビジネスや人生が大きく変わったという経験を持つ人たちが多数おられます。
しかしその一方で、
「書店で本を探すヒマがない」
「これだけ新刊書が多ければ、どれを読めばよいのかわからない」――
こんな声が多く聞かれるのも事実です。

小誌「TOPPOINT」は、忙しいあなたに代わって、
毎月大量に発行される新刊書の中から、「一読の価値ある書」を厳選して
紹介することを使命と考えております。

毎月大量に発行されるビジネス関連の新刊書や、文化、教養に関する新刊書など、100冊前後を吟味します。 熟読した書籍の中から、「切り口や内容が新鮮なもの」「新たな知恵やヒントが豊富なもの」など、おすすめのビジネス書を10冊厳選します。 (以上、引用終わり)

拙著は10月16日に出版しましたが、新書にもかかわらず、内容が少し専門的で、一般読者用にブレークダウンできていなかったかなと反省しておりましたが、非常に嬉しい知らせでした。

「TOPPOIN」は定期頒布物で書店では販売されていません。大半の読者が経営者ということで、「軽めの本」よりも、どちらかといえば「重厚な本」のほうが好まれるということでした。企業の方々にお読みいただき、私の思考法が少しでも参考になると思っていただければ、嬉しいです。

なお、拙著が紹介された12月号を送っていただき拝読しました。現在、ビジネス本も読み始めた私にとって非常に参考になる所がありましたので、来年1月から1年間定期購読することにしました。

過日、講談社現代新書から拙著が発売

 10月16日、拙著『未来予測入門』が出版されました。

 本書をお読みいただいた私の知人から、「若人に捧げる元防衛省情報分析官が解く、インテリジェンスで人生100年時代を生き抜く法」という、ありがたいネイミングもいただきました。

 著名な作家である佐藤優先生からは、日刊ゲンダイ「週末オススメ本ミシュラン」 にて、拙著を紹介していただきました。佐藤先生、どうもありがとうございました。

https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/2134

 今回は初の新書ということで、できるだけ分かりやすく書いたつもりですが、それでも私の子供たち読ませて感想を聞くと、やはり内容が難しいようです。以前に上梓した『戦略的インテリジェンス入門』においては、難しい内容を平易に説明しているとの意見がある一方、難しくてよくわからないとの講評もありました。今度は、新書なのでより理解できるように心がけましたが、本当に人に分かりやすく伝えるのは容易ではありません。

  ただし少々の言い訳が許されるとすれば、情報分析や未来予測など、そもそもが「分からなこと」が前提になっているので、その手法や思考法は決して単純ではありません。以前、私が解説文を投稿した『CIA極秘分析マニュアル「HEAD」』においては、著書(CIAテロ対策センター・元副部長)は、「重要なことは楽に身につけられない」と言っています。 難しいと思う方は、その気持ちを少し我慢して、読んでいただければと思います。

 私が読む本の6割以上は一読して理解できるものではありません。でも何回か読みなおしたり(全文でなくパラパラでも)、ある別の本を読んだ後などにはすっと理解できることがあります。その時、この年になっても自分の知的レベルが上昇していることに少し満足感が生まれます。

 今回の著書では未来予測の手法が実際的に理解していただけるように、筆者とその子供たちが対話によって未来予測の技法を学ぶというスタイルを取っています。

 実は、我ながらよくぞ斬新なアイデアを思いついたものだと、 自己満足に浸っていたのです。そうしたら、自衛隊時代の後輩が 「現役時代に読んだ『戦術入門』みたい、とチラッ思いました」 との所感を送ってくれました。

 その『戦術入門』は1佐の教官だか連隊長だったかが、 2尉や3尉の若手幹部との問答のなかで戦術の原則事項を教える、 という内容でした。  

 筆者も若手幹部の時代がありましたから、この本は当然のごとく読みました。つまり、 若手幹部時代に読んだ『戦術入門』の内容が私の潜在意識として頭の片隅に残り、これが今回、どのようなことをどのように書こ うかと懊悩していた時に想起されたのかもしれません。  

 よくベテランになるほど、「不透明な時代には論理よりも創造 が大事だ!」とか「スキルよりセンスだ!」という言う人がいます。しかし、いきなり創造力やセンスが生まれるわけではないと思います。

 実は、過去に学んだことが潜在意識として残り、それに何らか の“スイッチ”が加わることで直観が生まれ窮地を脱したりすることがあるのです。それを「神がささやいた」などと総括 していますが、実はこの直観も過去における経験や論理的思考などの成果だと言えます。  

 ところで直観はどのようにして高めるのか、その秘訣はあるのでしょうか?

 北岡元先生の著書『【速習!】ハーバード劉インテリジェンス仕事術-問題解決力を高める情報分析のノウハウ』に、某消防署の大隊長B氏の話が出てきます。B氏は、あわや消防隊員が命を落とす寸前に「退避!」という命令を出します。「九死に一生を得た」隊員が、大隊長に「どうして、あのように絶妙なタイミングで退避の指示が出せたのですか?」とたずねます。

 大隊長は「正直言って、オレにもよく分からない。神秘的だね。強いて言えば直観かな。すぐさま退避しないとやばいということを、直観が教えてくれたんだ」と答えます。

 そこで、北岡氏は「隊員がB氏のような直観を得られるか?」、「B氏は自分でも分からない直観をどうやって教えられるか?」という「問い」を読者に投げかけています。

 そのうえで北岡氏は、「結論から先に言うと、B氏が現場で突然得た直観を、隊員が具体的に学ぶことは十分に可能である。なぜなら直観は、決して神秘的なものではなく、科学的に説明することができるものだからだ。具体的にいうと、直観とは広範かつ高速な「パターン認識」が原動力となって生じる。問題は、それがほぼ無意識の状態で働くために、結果として生じる直観を事後的に説明できなくなつてしまうことだ。(以下、略)」

 つまり、直観で判断したことを「何となく変だ」と思ったことはなかったか自問すれば、「何となく変だ」という「パターン認識」が高速で行われていたに過ぎないということになります。

 消防士は火災現場を経験することでパターン認識を身につけていきますが、「消防官が経験を積んでいない段階でも、B氏が「パターン認識」から直観を得たことを説明してやれば、説明がない場合に比べて、消防官は、はるかに素早くバターン認識ができるようになる。」と北岡氏は述べています。

 そして、「どのような分野でも大切になるのは、直観でうまくいったり、失敗したりするときに、その直観はなぜ生じたのかを振り替えてしっかりと考えることだ。そうすることで、高速すぎてほぼ無意識のうちに行っていた「パターン認識」が見えてくる。それを自覚することで、直観に頼る性向は増え、失敗は減る。さらに部下に、仕事でどのようなパターンに気おつけるべきか、教えることも可能になる」と述べています。

 拙著でも、読者の方に未来予測のノウハウを身につけて欲しいとして、同じようなことを述べています。

 「皆さんの周りで、仕事ができる人、物事の先を読 むのに長けている人がいるかもしれないが、そういう人はたいて い、私が本書で述べるテクニックを駆使して(あるいは知らずし らずのうちに使って)思考・分析を繰り返しているのである」 (拙著より引用)。

 ようするに仕事ができる人は「パターン認識」を高速に行っているのです。そのような優れた「パターン認識」を可視化、形式知化したものがマニュアル本であり、拙著もそれが狙いとしています。

 しかし、マニュアル本を一度読んだからといって自分が「パターン認識」が向上するはずはありません。マニュアル本に書かれていることを自分の実務や生活に落とし込み、少しでも実践してみる。そして自分流のパターン認識や思考法を確立することが重要です。

 

本日、講談社現代新書から拙著が発売

▼拙著『未来予測入門』(講談社現代新書)が発売

本日(10月16日)から拙著『未来予測入門』(講談社現代新書)が発売されました。本書は5つの章からなり、第 1章「未来予測とは何か」、第2章「情報分析とは何か」、第3 章「未来予測のための情報分析ツール」、そして第4章から第6 章までは「未来予測ケーススタディ」です。

第3章では、未来予測のための個人モデルを紹介しています。 これは、インテリジェンス・サイクルのCIAモデルなどを基に 編み出したオリジナルであり、(1)問いの設定、(2)枠組みの設定、 (3)収集&整理、(4)現状分析&未来予測、(5)戦略判断の5つから なります。  

そして、これら各段階に対応する必要な思考法&分析手法として、 (1)問いの再設定、(2)アウトサイド・イン思考&フレームワーク 分析、(3)システム思考、(4)クロノロジー(年表)分析、(5)マト リックス分析、(6)アナロジー思考、(7)ブレーンストーミング& マインドマップ、(8)四つの仮説案出、(9)シナリオ・プランニン グを特出して、それぞれを解説しています。  

 第4章から第6章では、それぞれ「将来有望な職種・スキルと は」「未来のベストセラーを特定せよ」「2030年の暮らし方・ 働き方を予測する」と題し、上記の9つの手法を使ったケーススタディを試みています。  

 ここでは、防衛省を退職した私が、我が子供たちに分析手法を教えるという対話スタイルを採用しました。子供たちの疑問や質問に対し、筆者が分析手法を伝授しながらその疑問を解消し、答えに導いていくというものです。  

 実は、ここに登場する子供たちは私の実在する三人の娘をモデ ルにしています。娘たちに父親としてどんな助言が適切か、脳漿 を絞ったといっても過言ではありません。

 編集長やフリーライター氏の協力を得て、これまでにない味わいの作品に仕上がったと自負しています。お読みいただければ嬉しいです

▼ エンリケさまの紹介文

  「軍事情報メルマガ」を主催されているエンリケさまが私の著書を紹介していたくださいました。いつも過分な称賛で少々恥ずかしいのですが、一部を引用させていただきます。

 こんにちは、エンリケです。

 4章~6章が本書の白眉です。父と娘、息子の対話形式で、「情報分析手法を実際にどう使うか?」をわかりやすく案内しています。

 「問い」に対する「答え」を導き出す。それが情報分析手法を人生に活かすことです。情報のプロが使う手法が、自分の人生とつながっている証左なんです。

 また、情報のプロが記した一般向け情報教養本で、ストーリーが使われた解説は、私が知る限り本書が初めてでしょう。ストーリー作りってのは実はむつかしいものです。上田さんも、相当苦労して作られたんじゃないだろうか?と推察します。

 さて上田さんのインテリジェンス本で特筆される特徴の一つが「読み手が情報分析スキルを使えるようになる」という点です。第一作以来刊行された本に一貫して流れている上田さんならではと言ってもよい特徴で、「上田スピリッツ」と名付けて差し支えないといえます。

 本著にもこのスピリッツはもちろん流れており、その道のプロの意見を待つのでなく、自分で結論を導き出す国民になるためのスキルをコンパクトな新書でありながら、惜しみなく教えてくれます。ぜひあなたも手に取って、実人生で活かしてほしいです。(以上10/14掲載)

 

 今日は<すべての情報分析は「質問=問い」の設定から開始される>(P33)という名言についてお伝えしようと思います。

 そもそもあなたは、分析したいことに対する「問い」を持っていますか?分析して何を達成したいのでしょうか?

 ちなみに私のばあい、ここが極めてあいまいでした。だから、常に拡散してしまい、収拾がつかなくなるという流れをいつも辿ってきたわけです。

 私が上田さんの既刊書を通してイチバン学んだのは実はこの点でした。「適切な問いがなければ、適切な分析はできない」ということです。逆にいえば「適切な問いがあれば、適切な分析につながる」ということなんでしょう。

 本著でも上田さんは<情報分析は必ず「問い」の設定から始めるべきであり、未来に関する予測もその例外ではない>(P42)とおっしゃっています。実はこの点こそ、われわれ一般人の情報分析で、最も欠けているところではないか?と感じてなりません。そのために不可欠な「情報分析するときの、適切な問いの作り方」を解説した書は、私が知る限りこれまでなかった気がします。

 少なくとも私は、上田さんの著作でこのことを初めて知り、いろんな情報分析、未来予測へのチャレンジの場で意識できるようになりました。こんかい、この本の42P~45Pを読み、腑に落すことができたように感じます。(以上10/15に掲載)

 きょうは、今年6月に発売された、上田さんの『武器になる情報分析力』と本著を比べてみたいと思います。

 ひとことでいえば、『武器になる情報分析力』が対象とする課題は安保問題、『未来予測入門』のそれは個人の身の回りの問題という感じでしょうか。けっきょく、使うツールや手法はカブるのですが、昨日もお伝えした「問い」が違うわけです。

 戦略テーマが違えば問いも変わる。着眼点も微妙に変わってくる。上田さんというプロが、痒いところに手が届く感じで細やかに解説しているからそのあたりの違いをつかめるんですね。両書ともに読むとわかります。だから、『武器になる情報分析力』をお持ちの方には、ぜひ手に取ってほしいわけです。本著を手に取った方には、『武器になる情報分析力』も手に取ってほしいです。

 私も含めた一般人は、もちろん安保戦略問題に関心はあります。でも、自分の将来をはじめとする身の回りのことの見通しも持っておきたいものです。上田さんの最新刊『未来予測入門ー元防衛省情報分析官が編み出した手法ー』は、軍事ファンやマニアではない人向けに書かれています。

その点で物足りない人もいらっしゃるかもしれません。が、その分、語り口がひじょうにわかりやすいんです。ファンやマニアの方も、情報分析の基礎の基礎が定着できる点でおススメなんですね。(以上10/16に掲載)

エンリケさま、いつもありがとうございます。

  

近日、講談社現代新書から拙著が発売(2)

前回の続きです。本日は書影が完成したので、その紹介をします。

ここに紹介しますのは未来予測のための「個人モデル」の思考サイクルです。オリジナルですので、もちろん、どの書籍にも載っていません。

組織としてのインテリジェンスサイクルはCIAモデルなどがすでに提示されています。それは、1-計画・指示、2-収集、3-処理、4-分析・作成、5-配布の順となります。

つまり、政策決定者などの使用者から1の計画・指示が出され、収集部隊などが情報の収集を開始します。

このインテリジェン・サイクルを個人モデルにそのまま置き換えると、上級者から1のか「計画・指示」に替る「何か書いてみない」との漠然としたオーダーが出て、いきなりの2の情報を集めようとします。

これでは、効率的な情報収集とはいえませんし、氾濫している情報の渦に巻き込まれて身動きができなくなります。さらにはガサネタに踊らされるかもしれません。

そこで必要になるのが①の「問い(問題)の設定」なのです。実は、これが私が以前所属していた組織の若手分析官はできていませんでした。だからプロダクトがなかなか書けないのです。これは上司の指導上の問題でもあります。

この点の重要性は前著『武器になる情報分析力』でも強調しましたが、今回はより身近なテーマで、 ケーススタディでにより①についての要領を解説しています。

①の「問いの設定」の次には、②枠組みの設定が重要となります。これは設計図の作成といってもよいでしょう。これについては、前著ではドライバーと表現していましたが、日本語として馴染まないということもあり、「枠組み」としました。

①と②により、必要な情報の枠をあらかじめ設定して情報を収集する、これが最初のポイントです。

③については、本著は未来予測のための技法を焦点にしていますので、説明は割愛しています。

④については、現状分析と未来予測の技法について紹介しています。

⑤は「戦略判断」としましたが、組織モデルでは5-配布です。情報組織は政策の領域まで立ち入らない、すなわち政策を誘導しないことが原則です。専門用語で、これを「インテリジェンスの政治化」を回避する、といいます。

しかし、会社の企業戦略や個人の発展戦略では自分で戦略判断をしなければなりません。未来予測は戦略判断のためにあります。ということは、実は、この⑤から未来予測のサイクルを開始するといってもよいのです。

ようするに、個人が未来に向かって何かの判断をする場合、今現在の立ち位置を明確にして個人モデルの循環サイクルを常に回せ、といことです。

この個人モデルに連接する形で、必要な9つの技法を特定し、図示しました。 次回は、それを紹介したいと思います。