『無人の兵団』の読後感

私は時々、出版社から書籍を贈呈されることがあります。執筆をする側とすれば、非常にありがたいとことです。

先日、早川書房さまより、『無人の兵団』という書籍をいただきました。私もざっと一読はしましたが、「アナログ派の私には少し難しいかな?」という印象でした。そこで、ある後輩が私のところに遊びに来てくれたので、「この本読んでみない」と渡したところ、次のような所感を送ってくれました。

上田さんお疲れ様です。 先日はお世話になりました。 お酒を酌み交わしながら示唆に富んだお話聴かせて頂き、私にとってとても意義のある時間だったと思っています。 少し遅くなりましたが、上田さんにお貸し頂きました『無人の兵団』という本を読み終わりましたので、まとめきれていない雑感ですが送らせて頂きます。

まず、率直な感想は「勉強になった」という感じです。自律型兵器に対する、軍部、技術サイド、倫理学者、規制運動家といった様々なセクションの捉え方がヒヤリングに基づき記述されており多角的な視点を付与してくれていると思いました。

自律型兵器そのものについては、その定義の曖昧さに関する話題を導入にしつつ、半自律ウエポン・システム、監督付き自律ウエポン・システム、完全自律ウエポン・システムといった区分をして、初学者の理解を助けるようになっているのは良点でした。

私にとって示唆に富んでいたのは第4部「フラッシュ・ウォー」及び第5部「自律兵器禁止の戦い」でした。 まず、第4部において、自律型兵器同士の戦いは「速度の軍拡競争」と言えるという気付きを得ることできました。

学生時代に勉強した機械学習の知識や近年のAI技術の動向等から、これらの応用が見込まれる自律型兵器の本質は、大量のデータに基づくパターンマッチングの「精度」にあると考えていましたが、第4部を読むことで、その本質は人間が絶対に辿り着けない状況、意思決定及び行動の連環の「速度」にあるかも知れないと認識を新たにした次第です。

続いて第5部では、自律型兵器をめぐる法律問題(国際法)に関する法学教授のチャールズ・ダンラップ氏の見解が述べられていますが、彼は間に合わせの禁止は不必要であるだけでなく有害と述べており、テクノロジーの一瞬の姿に基づいて兵器が禁止され、将来的にもっと人道的な兵器に発展するような技術改善の可能性が妨げられることに懸念を表明しています。

例えば地雷とクラスター爆弾には戦争終了後の爆発の危険があるという問題がどちらもイノベーションで解決されるものと論じています。彼は、これらのツールが使えないと、戦争を行うのに合法的だがより破壊的な手段が必要になるというパラドックスの生起を指摘しています。この指摘が、自律型兵器禁止を主張する人に対する私自身のこれまでの意見として「自律型兵器の方が個々の戦闘において人間より技術的に優れたパフォーマンスを発揮する可能性が高い」ことでしたが、別の角度からも自律型兵器禁止反対を主張する理論武装の資を得ることができました。

・・・ ・・ ・ 以上、本書を読んだ中で特に気付きになったと感じた内容について書かせて頂きました。 引き続き勉強していきたいと思います。

(以上、引用おわり)

近年のAI技術の動向によって、自動運転車の導入などが検討、推進されています。しかし、自動運転車が事故を引き起こすと、従前の楽観的な観測が一転して、それを危険して、計画や開発の見直しを迫る動きが出てきます。ここには、自動運転車の導入を良しとしない側の恣意的な見解が加担している場合があります。

このようなことは米軍兵器導入などにおいてもみられます。例えば、米海兵隊のオスプレーが事故を起こすと、通常ヘリコプターと事故件数との比較もなしに、「オスプレーは危険だ」という批判がメディアを通じて大々的に流される傾向にあります。つまり、オスプレー問題を米軍批判に結び付けようとする利害者が意を得たりとばかり、恣意的な意見を述べることになりかねません。

今日では不可欠な交通手段である飛行機も、それが安全と呼ばれるまでにはたくさんの事故や犠牲がありました。また、AIによる技術革新、生活の利便性と、倫理的、道徳的、人道的価値の折り合いをどうつけるかという問題もあります。

しかし、テクノロジーというメガパワーはもはや押しとどめることはできません。テクノロジーのさらなる進歩によってのみ、問題解決をはかるしか方法はないと思われます。

東アジア情勢の基本構造をみる

最近は、東アジアをめぐる情勢が一段ときな臭くなってきました。

クロノロジーにしてみますと、以下のとおりです。

7/23 ロシア機が韓国竹島の領空侵犯、中露初の合同監視訓練の実施      

7/24 中国「国防白書」発表。米国を激しく批判、尖閣を固有領土と発表するも対日批判は抑制的、台湾統一のための武力行使は放棄せず           

7/25 北朝鮮、ミサイル発射                        

7/26 韓国大統領府、米韓合同演習中止せずと発表             

7/28 北朝鮮、対南宣伝サイト「わが民族同志」で、日韓の軍事 情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を韓国に要求

8/1トランプ米大統領、北朝鮮の弾道ミサイル発射試験について、「(短距離なら)問題ない」と述べた 

8/2北朝鮮、日本海に向けて飛翔体2発発射

8/2トランプ米大統領、北朝鮮のミサイル発射に対し、米朝首脳会談の合意に違反せずとの見解を提示

8/5米韓合同演習開始

8/6北朝鮮が日本海に向けて正体不明のミサイル2発を発射

8/9トランプ米大統領、日韓首脳をやゆ、金正恩委員長との関係を誇示

8/10北朝鮮短距離弾道ミサイル2発を発射したと発表。ロシア製「イスカンデル」の北朝鮮版「KN23ミサイルの可能性」

以上のようなことから、米韓合同軍事演習に対して北朝鮮がさかんにミサイルを発射して牽制、トランプ米大統領は金正恩を刺激してこれまでの非核化の成果が水泡に帰さないよう配慮、米大統領は日韓対立を懸念して両国を牽制、日韓は北朝鮮に対する非難もできず、といった状況でしょう。

さらに、その下部構造に目を向けますと、中国、ロシア、北朝鮮が連携して、 米日韓の政治的、軍事的離間工作に着手しているように状況もかいまみれます。こうした背景には、米トランプ政権が発動した米中経済戦争、 日米安保の不公平発言、日韓の徴用工および半導体関連資源輸出規制などをめぐる対立、米朝の非核化交渉への停滞と経済苦境に苦しむ北朝鮮の内情、韓国の経済失速と国内の政権批判の高まり、 中ロのそれぞれの国内事情などが複雑に入り組んでいます。  

こうした複雑な情勢においては、さらに下部構造となる、東アジアの基本構造を押さえておくことが重要 です。まず、(1)中ロは対米において協調するが、長い国境線を接し、中央アジア等の利害対立から同盟関係には至 らない、(2)中ロ米はいずれも朝鮮半島の安定を当面は最優先してい る(変わる可能性もあるが、それはまだ見えていない)、(3)米中は経済相互依存関係から決定的な対立を回避する、とういうものです。

(3)については、最近になって「米中対立は避けられない」を 主張する書籍の出版や専門家の発言が増加しており、意見の分かれるところです。ただし、近代の歴史からみると、米国は中国と直接戦争したこともうありませんし、大戦後にお いてもさまざな対立はありますが決定的な対立を回避してきました。  

つまり、米中関係は波乱や紆余曲折がありましたが、経済のグローバル化などが要因となり、概して安定的に維持されてきたのです。筆者は現段階では、米中対立のシナリオよりも、摩擦を繰り返しながらも対立を回避するシナリオの蓋然性がやや高いと判断します。  

長期的にみれば、ロシアおよび米国との対立を上手に回避した中国はますます強大な存在になる可能性があります。そして、ロシアは人口減少などから影響力が低下して、日本も人口問題等から衰退する傾向が大との見方が一般的です。さらに米国はアジアから後退する可能性もあるということです。

このような基本構造を劇的に変化させるとすれば、やはり北朝鮮の核問題です。北朝鮮は2016年頃から核実験とミサイルを発射を繰り返し、あわや米朝軍事衝突かと懸念されました。しかし、今は2016年以前の情勢に後戻りした感があります。ただし、決定的に違うのは、北朝鮮の核ミサイル能力が格段に向上し、事実上、北朝鮮を核保有国として扱うような既成事実が生じている点です。

われわれは、基本構造、すなわちメガパワーとゲームチェンジャーが何かという視点で国際情勢を見て、わが国の国家戦略や政策の妥当性を判断していかなければならないと思います。

戦争プロバガンダ10の法則で韓国を切る

『戦争プロバガンダ10の法則』とは

『戦争プロバガンタ゛10の法則』は、ブリュセル自由大学・歴史学者のアンヌ・モレリの著作です。

彼女は、1928年ロンドンで出版された、アンサー・ポンソンビーの衝撃的な著書『戦時の嘘』などを参考に、この本を書きました。ポンソンビーは、第一次世界大戦時の英国労働党議員で、イギリスの参戦に反対しました。平和主義者の彼は、「ディリー・メール」紙の社主・ノースクリフ卿の指揮のもとで行われた、第一次世界大戦におけるプロパガンダを分析し、その様相を10項目の法則に集約しました。

モレリは、この10の法則に照らし、ポンソンビーの分析を引用しつつ、第一次世界大戦から現代までの戦争におけるプロパガンダの手口を明らかにしています。

現在、日韓対立が深刻化しつつあり、なかなか着地点がみえません。韓国の言い分は『戦争のプロパガンダ10の法則』さながらです。この「10の法則」に基づき、ざっとみてみましょう。

()は10の法則です。その下記は各種報道から韓国が発言しているようなことを筆者が作文したものであり、実際に韓国側がこれを発言したわけではありません。韓国側のプロパガンダを、「10の法則」で分析することにより、韓国側の発言上の思惑や、今後に仕掛けてくる舌戦の様相を分析、推察しようとするものです。

(1)我々は戦争したくない

我々は日本と対立したくないのだ。先の火器官制レーダー照射事件は“根も葉もない”日本側の捏造であった。徴用工問題は韓国の大多数の人々の情緒に絡む問題であり、司法の判断だ。韓国政府の問題ではないのだ。我々政府は、これまで築きあげた日韓関係を重視して、「より前向きの関係を作ろう」と言っているのだ。

(2)しかし、敵側が一方的に戦争を望んだ

今回、日本が徴用工問題の復讐という卑劣な目的で、一方的に半導体関連物資の輸出規制を行なってきた。これは韓国に対する〝銃声なき経済戦争〟であり、安定した日韓関係を希求するわが国への重大な挑戦だ。

(3)敵の指導者は悪魔のような人間だ

金正恩委員長とトランプ大統領との歴史的な会談をお膳立てしたわが国への嫉妬心から「禁輸措置」に出た安倍はなんと偏狭な指導者であろうか。帝国主義者の安倍は、外交問題を国内政治に理由している。極右勢力結集のためのきっかけが欲しかったのだ。憲法改正して、再びアジア侵略の歴史を繰り返し、アジアの人々を苦しめるであろう。

(4)われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う

我々が守ろうとしているのは自国の利益といった狭小なものではない。自由貿易体制の秩序破壊という日本の挑戦に対して、わが国は世界の代表として断固として戦うというものである。

(5)われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが、敵はわざと残虐行為を行なっている

戦略物資の不正輸出はたしかにある。ただし、わが国は不正輸出を適切に摘発し、管理しているではないか。日本から輸入したフッ化水素が北朝鮮に流失した証拠はないし、ましてや意図的に流失するなどでっちあげも甚だしい。

日本こそ意図的に「韓国が、国連の対北朝鮮制裁に違反した」とのでっちあげにより、わが国の国際的立場を貶めようとしている。なんなら、事実関係を確認するために、国際機関による調査をしようではないか。

(6)敵は卑劣に兵器や戦略を用いている

政治、外交の案件に対して、経済的に優位な立場を利用して制裁しようとしている。誠に卑劣な手段であって経済大国のとるべき対外政策ではない。多くの経済発展途上国は日本の今回の軽率な行動に失望している。

(7)我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大

輸出規制による韓国の被害はむしろ小さいことが分かった。日本の輸出関連企業の被害の方が大きいようだ。韓国は輸入先の多角化と国産化の道を進める。結局は、日本経済に大きな被害を及ぶことを警告する。日本の輸出規制によって世界経済は大損害を被り、日本は経済的、政治的にも世界中に敵を廻すことになろう。

(8)芸術家や知識人も正義の戦いを支持している

我々の毅然とした対応を国民全員が支持している。わが国民は日本の不埒な行動に怒りを覚え、すでに「韓国も日本製の輸入を規制すべき」とか、「日本車などを買うのは辞めるべきだ」との反日世論が沸騰している。我々は、日韓両国の国民が互いに憎しみ合うことは欲していないが、その原因を意図的に作ろうとしているのは日本の方である。

(9)われわれの大義は神聖なものである

自由貿易体制を守る活動は全世界共通のものであり、わが国の主張は尊いものだ。しかるに今回の日本側の挑戦の不当性を国際政治の場で明らかにする。米国やWTOも韓国の正当性を支持するであろう。

(10)この正義に疑問を投げかける者は裏切者である。

わが国の一部保守勢力による軽率な反政府の発言や行動はただちに止めるべきだ。わが国政府の立場を不利にして、日本側を利することになることを理解せよ。わが国民は分裂している時ではない。分裂を画策する者は、国民から「親日派」「土着倭寇」と呼ばれて断罪されても仕方がない。

 

以上、「10の法則」で韓国側の発言および予想される発言を整理してみました。この10の法則は、相手側のブラパガンダの虚構を見破ること、およびわが国の政治宣伝、公共外交(パブリック・ディプロマシー)さらには経営戦略などにも応用できそうです。

エルニーニョ現象がある商品を値上げした

新著が好評

筆者の新著『武器になる情報分析力』が、発売されてⅠか月以上がたちますが、おおむね「アマゾン軍事ランキングの10位以内につけています。

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メルマガ「軍事情報」寄稿者の石原ヒロアキさんの『漫画クラウゼヴィッツと戦争論』(清水多吉監修)とともに、ご愛読のほどよろしくお願いします。

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バタフライ効果とは?

 さて、軍事ランキングが上位を維持することは本自体の魅力もさることながら、その急上昇には原因があります。著名な方が著書紹介ブログを書いてくださる、出版社などからの新聞広告が掲載されるなどです。つまり、そこに原因と結果の関係があります。

 2019年6月28日から29日に行われた大阪G20明けの株価が上昇しました。これは簡単ですね。米中両首脳が貿易協議の再開をさせることで合意したことが原因となり、結果として株価が上昇しました。

 でも、世の中には原因と結果が容易にわからないものがあります。皆さんは、「バタフライ効果」をご存じですか?

 これは、「ブラジルで蝶の羽ばたきはテキサスでトルネードを引き起こすか?」というもので、非常に些細な小さなことが、さまざまな要因を引き起こし、だんだんと大きな現象へと変化することを指す言葉です。日本の「風吹けば桶屋屋が儲かる」という諺のようなものです。

 実際には、蝶の羽ばたきとトルネードとの因果関係はありませんが、ちょっとしたことが、のちに大きなことを引き起こすことは多々あります。

 そのちょっとしたことを重大事項の兆候として感知できるかどうか、つまり、その兆候が単なる一過性の事象ではなく、大きなトレンドの上に成り立つ事象であって、他に影響を及ぼす「ドライビングフォース」となり得るかどうかを見極めることが重要です。

エルニーニュ現象の影響とは?

1972年にチリの沖合でエルニーニョ現象が発生しました。さてわが国では何が起こったでしょうか? 

実は豆腐が値上がりしたのです。

つまり、エルニーニョという海流の変化でカタクチイワシが捕れなくなった。それまでカタクチイワシは鳥や家畜の餌になっていた。それがなくなったので大豆を買う。それで日本への大豆の輸入が減って、豆腐が値上がりをしたのです。

 仮に、この因果関係にいち早く気づいたとすれば、株や先物取引でで大儲けができたかもしれません。物事を広く知っている、一片の兆候が何に影響しているか、何を引き起こすのかなど想像的に考える習慣を身につけると、困難といわれる未来予測の精度がほんの少し上がる。このほんの少しが、他の人をリードするのではないでしょうか。

米国において「なぜ犯罪率は減ったのか?

 『武器になる情報分析力』では、1990年代初頭の米国において「なぜ犯罪率は減ったのか?」という問題を扱っています。

この話は以前の本ブログ「因果関係は意外なところに!」で取り上げましたが、ここでもう一度同記事を抜粋します。

1990年代初頭の米国の事例をあげましょう。当時の米国では過去10年間、犯罪を増える一方でありました。専門家は、今後はこれよりも状況は悪くなると予測しました。しかし、実際には犯罪が増え続けるどころかぎゃくに減り始めてしまったのです。すなわち、未来予測を誤ってしまったのです。

「なぜ犯罪率は減ったのか?」という質問に対して、「割れ窓理論」に基づく警察力の増加や厳罰化、銃規制、高景気による犯罪の減少などの仮説があがりました。 しかし、そのような対策を行っていないところでも犯罪は減ったのです。

そこで調査したところ、予想もしなかった因果関係が明らかになったのです。それは「中絶の合法化」でした。 この因果関係を簡略化して示すと次のとおりです。貧しい家庭→未婚の女性の妊娠・出産が増加→貧困による子育て放棄、虐待、教育放棄→未成年者が犯罪予備軍→犯罪の増加でした。

当時の米国では長らく妊娠中絶は違法でした。 しかし、米国では1960年以降、性の解放の観点から、シングルマザーや中絶も1つの選択肢とされました。そして、歴史的に有名な1973年の「ロー対ウェイド判決」で、最高裁は7対2で憲法第14条に基づき、中絶禁止を憲法違反であると判定しました。 すなわち人工中絶法が設定されたのです。

つまり、この時期以降、貧しい未婚家庭に育った妊娠女性が子供を産まなかっくてもよくなったのです。その結果、1990年代に若者の犯罪予備軍が減り、犯罪率が減り始めたのです。

 常日頃から問題意識をもって観察力を磨く、本質を見抜く洞察力を鍛えることで、真の原因を探り、そして近未来予測が少しばかり可能になるということではないでしょうか。

群衆の英知と集団浅慮

自衛隊における情報教育とは

私は、防衛省や陸上自衛隊で情報分析官や情報幹部などの教育に長年従事してきました。

卓越した情報分析力の持ち主として著名な元外務省主任分析官の佐藤優先生や、タイ大使などを歴任され著名な外交官であった故岡崎久彦先生などのの著作を読むと、「やはり天才教育重視かな」と思ってしまいます。

私も在外大使館に3年ばかり勤務しましたので、なんなとなく外務省は個人の卓越したスキルで勝負する、いわゆる一匹狼的な組織だなと感じたことがあります。もちろん、仕事以外では仲良くしますが、専門の仕事に関しては、他に干渉させないといったある種の矜持があるように思います。

しかし、有事のための組織である自衛隊は組織集団で仕事します。情報についても有事における情報体制が基準としなければならならないと考えます。

有事にはあらゆる階層、領域の真偽混在の膨大な情報が流れてくることが予測されます。当然、大勢の者が分担して仕事を行うことになります。数人の専門家が国際情勢を予測するといった状況にはなりません。

したがって、私も自衛隊の情報教育に従事していた際、「数人の卓越した人材を生み出す(私が大した力量がないのでこれは無理)のではなく、集団のレベルアップを図ること」を信条としていました。

海軍大将・井上成美の教え

先日、ある後輩の現職自衛官数人が筆者を宴席に誘ってくれました。彼らは、拙著『戦略的インテリジェンス入門』を熟読してくれており、それを基にインテリジェンスに関する意見交換をしました。

そこで、筆者は自衛隊における情報教育の在り方について、上述のような思いを語りました。するとある自衛官が、「それは海軍兵学校の井上成美大将の言っていることですね」と、貴重な助言をしてくれました。

私は、元陸上自衛官だったので、井上大将がどんな人物かは知っていましたが、将校教育における彼の考え方は知りませんでした。そこで、是非、井上大将の発言内容をメールで教えてほしいと懇願したところ、以下メールが届きました。

昨日の井上成美大将の画一教育について、阿川弘之氏の小説に当該箇所の記述がなかったため、代わりに以下の論文をご紹介します。
「海軍兵学校教程へのドルトン・プランの導入と放棄について」(防衛研究所)

「井上は「海軍兵學校ノ敎育ハ画一敎育ニシテ、天才敎育ハ不可ナリ」と述べた上で「學校ノ努力ハ先ス劣等者ヲ無クスルコトニ注ガルベキナリ」との考えを残している(67)。

この文面のとおり兵学校では英才教育よりも底上げ教育を重視するべきと井上は説いている。戦場で勝利を得るために期待される特性の第一は、戦闘参加者の均質性である。

軍事教育は、軍種・職種といった専門性の違いや最前線の兵卒レベルから指揮官、高級参謀といった階層の違いを越えて、戦争における諸活動を統一的に考えることのできる。

知的基盤や心情的同一性を持たせるために必要な均質性を養うことを主眼にしなければならない。このことから一般に軍事教育では一斉教授法が向いており、実行上留意すべき点として全体の底上げを優先的に考えるのが妥当と考えられている。一方、戦勝を得るための主動、奇襲、陽動といった戦闘活動では発想の斬新さが重視され、そこで期待される特性は均質性の対極にある特異性である。

戦闘もしくは戦争の行方を左右するような指揮官に至るほど特異性が要求されるであろう。この特異性を得るために個別学習法を取り入れようとする動機が向上する場合がある。(67)水交会『元海軍大将井上成美談話収録』(水交会、1959 年)59-60 頁」

また、ウィキペディアの「井上成美」にも「教育思想」の項目で、画一教育について、紹介されています。

「井上は、教官たちに「自分がやりたいのは、ダルトン・プランのような 『生徒それぞれの天分を伸ばさせる天才教育』 ではない。

兵学校の教育は 『画一教育』 であるべき。兵学校では、まず劣等者をなくし、少尉任官後に指揮権を行使するのに最低限度必要とされる智・徳・体の能力を持たせて卒業させ、その見込みのない者は退校させねばならない。

兵学校教育の目標は、結果として、少尉任官に指揮権を行使する最低限度能力を持てないと見込まれる退校者を出さないよう、生徒をしっかり教育することである」という旨を示し、秀才は放っておけ、まず劣等者をなくせ、と端的に指示した。[345]
[345]井上成美伝記刊行会編著 『井上成美』 井上成美伝記刊行会、1982年 366-367頁」

まさに、筆者が思っていたことを鋭く述べており、我が意を得たりの心境です。ただし、底辺の底上げについても、限られた時間での計画教育だけの成果は限定的です。結局のところ、個人の課外における自主学習が必要となります。そのためには、教科書あるいは参考書が必要です。

しかるに自衛隊の教範は原則事項から踏み出されたことは記述されておらず、いわば〝無味乾燥〟であり、それを解説する教官が必要となります。さらに、教範は厳重に管理され、自宅での学習に適しません。

私は、現職時代にこうした問題点を認識していましたので、退職後にすでに世に流通する書籍と米国の公開マニュアルなどを基に、『戦略的インテリジェンス入門』を執筆し、上梓したという訳です。

集団で仕事することの利点は「群衆の英知」を発揮すること

さて、集団で仕事をすることの最大の利点は「群衆の英知」を働かせることです。ジェームズ・スロウィッキーの『「みんなの意見」は案外正しい』では、「WOC :Wisdom of Crowds」という概念が述べられています。これは「群衆の英知」あるいは「集合知」と呼ばれるものです。

つまり、少数の権威者による意思決定や結論よりも、多数の意見の集合による結論や予測が正しいということです。ここに、凡人集団が天才あるいは専門家に勝てる秘訣があります。

集団浅慮とは

集団で考えることで、個人のバイアスを回避して、プラスの効果をもたらすことが多々あります。他方、同質が高い少数の手段は集団浅慮に陥りやすい欠点もあります。 これは、グループで討議する際に、少数意見や地位の低い者の意見を排除し、不合理な意思決定を行なうことです。

結束の強い小さな集団に属する者はグループ討議する際に疑問を挟まなくなる傾向があります。この結果、集団内で不合理あるいは危険な意思決定が容認されることになります。

同質性が高く、絶対的階級社会である自衛隊の現場においてとかく集団浅慮が生じがちです。筆者も上級者に盲目的に追随する集団浅慮の場に遭遇することもありました。

集団浅慮は、米国のキューバのビッグス湾侵攻の失敗、イスラエルの第4次中東戦争の失敗を引き起こしたとして有名です。

キューバ侵攻で失敗したケネディー大統領は、集団浅慮の弊害をなくするため、意図的に会議の場から姿を消す、「(議論のために)わざと本心と反対の意見を述べる、悪魔の代弁者」を設定して、キューバミサイル危機に対処したとされます。

第四次中東戦争の失敗で学んだイスラエルの情報組織は、トップリーダーの意見に同調しないためにはどうすればよいかを考え、今日では会議に民間人を採用する施策を導入するなどして成果を挙げているといいます。

集団浅慮の兆候とは

グループシンクバイアス研究の第一人者で、キューバのピッグズ湾侵攻に至る意思決定を研究した心理学者のアービング・ジャニスは、その著書『グループシンクの犠牲者』で、集団浅慮は時間的制約、専門家の存在、特定の利害関係の存在などによって引き起こされ、以下の8項目の兆候があると指摘しています。

①無敵感が生まれ、楽観的になる。

②自分たちは道徳的であるという信念が広がる。

③決定を合理的なものと思い込み、周囲からの助言を無視する。

④ライバルの弱点を過大評価し、能力を過小評価する。

⑤皆の決定に異論を唱えるメンバーに圧力がかかる。

⑥皆の意見から外れないように自分で自分を検閲する。

⑦過半数にすぎない意見であっても、全会一致であると思い込む。

⑧自分たちに都合の悪い情報を遮断してしまう。

(以上、拙著『武器になる情報分析力から抜粋』)

異端を排除しない社会づくり

わが国は、同質性の高い民族国家です。その結束力を発揮すれば、諸外国の天才にも勝利できます。国民の全体の知的レベル高め、組織における「群衆の英知」を高めることが可能です。

しかし、AI社会におけるわが国の後進性などの現状を見ますと、わが国も天才を生み出す教育に力を入れる必要性も感じます。

AI社会における有為な牽引を生み出すために、まずは青少年を中心とする国民全体レベルの知的向上を図ることと、組織における同質性の弊害を認識し、努力している〝異端〟を排除しない社会づくりが重要だと思われます。

兆候と妥当性との関係

元農水省事務次官の事件

先日、元農林水産省事務次官(76)が長男(44)を殺害するというニュースが話題を呼びました。元次官は警視庁に対し、川崎市で児童ら20人が殺傷された事件に触れ、「長男が子どもたちに危害を加えてはいけないと思った」という内容の供述をしたようです。

この事件で筆者は、「ヒヤリ・ハット」すなわち「ハインリッヒの法則」のことを思い起しました。これは、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常、すなわち「ヒヤリとする、ハットする」ヒヤリ・ハットが存在するというものです。

先日、池袋で87歳の旧通商産業省高官が自動車暴走し2人死亡させる事故が起きました。この事故にも軽微な事故やヒヤリ・ハットがあったと思われます。

重大な事故を防止するためにはヒヤリ・ハットを無視、軽視することなく、その対策を考えることが重要です。ここでのポイントは、上述の交通事故を例にすれば、ブレーキ動作の遅れといった交通事故の直接原因だけでなく、階段の踏み外れ→筋力の衰え→ブレーキ動作の遅れといったように想像的にヒヤリ・ハットを考えることです。

また、他の人が経験したヒヤリ・ハットを自分のものとして自覚することです。つまり、最近の高齢者による重大事故のニュースなどに接した場合、加害者やそのご家族は「自分達は大丈夫だ」と過信せず、自らのヒヤリ・ハットとして〝冷や汗〟を流して、その対策を創造的に取る必要がありました。

今回の元次官による我が子殺害事件では、おそらくまだ報道されていないヒヤリ・ハットがいくつもあったのでしょう。その意味では、元次官は川崎事件を想像して、我が子による重大事故を未然に防止しようとしたのですから、この点では、ハインリッヒの法則の良好事例ということになります。

もちろん、我が子を殺害することが唯一の対策であったのかという点は、大きな問題として考えなければなりません。

ただし、外野は「いかなる理由があろうと 殺人は許される行為ではない。行政に相談することが重要」などと、ありきたりのコメントをしますが、元次官の立場や心情に立てば、やむにやまれぬ行動であったのかもしれません。

兆候とは

ヒヤリ・ハットは重大事故の一つの兆候ととらえることもできます。国際情報を分析するうえでは、兆候を見逃さないことが重要です。

兆候は「物事の前触れ」であり予兆ともいいいます。たとえば敵が近々戦争を開始しようとすれば、物資の事前集積、情報収集機の活発な活動、通信量の増大など必ずなんらかの変化が現出します。一方、攻撃の直前ともなれば「無線封止」により通信量が激減するといった変化が現れるかもしれません。

第二次世界大戦中、米海軍で対日諜報を担当していたE・M・ザカリアス(元米海軍少将)は、日米開戦前に日本が米国を奇襲する寸前の兆候として、「あらゆる航路からの日本商船の引き揚げ」と「無線通信の著しい増加」、日本の攻撃に特徴的な兆候として「ハワイ海域における日本潜水艦の出没」を挙げましたた。

妥当性とは

他方、兆候に対峙する概念として妥当性があります。妥当性は「その戦略や戦術が目的に合致しているか?」「戦略・戦術が可能か?」ということです。いくら戦争開始を示す事前の兆候があったとしてもその戦略や戦術が著しく妥当性を欠く場合、兆候は偽情報として処理するというのが妥当性の考えです。

妥当性をはかる基準としては適合性、可能性、受容性および効果性の4つがあります。それぞれの基準の意義は以下のとおりである。

1)適合性:その戦略構想が戦略目標達成にどれほど寄与できるか?

2)可能性:自己の内部要因がその戦略行動を可能にするか?

3)受容性:戦略構想実施によってえられる損失または利益が戦略意図の要求度に対して許容できるか?

4)効果性:戦略構想が実施に移された場合、全般戦略および他の関連する戦略にどれほどの貢献ができ、またはどれほどの影響を及ぼすのか?

妥当性の評価が誤るケース は多い

妥当性の評価が誤るケースは多々あります。第四次中東戦争において、イスラエルは多くの兆候をつかんでいたものの、エジプトの軍事侵攻の可能性を否定しました。

イスラエルにしてみれば、航空優勢を確保したのちに、軍事侵攻を行なうのが原則であり、当然「エジプトもそう考えている」と思い込みました。つまり「航空優勢を確保するためエジプトは、攻撃機とスカッドミサイルをソ連から輸入しようとしている。それが配備されない状況での侵攻はない」との評価を最後まで変えませんでした。

しかし、エジプトのサダト大統領は、スエズ運河沿いの防空網の外に部隊を進出させない限定的な作戦、つまりスカッドミサイルや攻撃機に頼らない作戦を決断したのです。

人は誰でも「常識」という判断尺度をもっています。専門家や知識レベルの高い人なればなるほど、「常識」すなわち「妥当性」という判断尺度を過信して、重要な兆候を見逃してしまうことがあります。

兆候と妥当性はどちを重視するか

兆候と妥当性の評価が異なった場合、まず兆候を優先し、次に妥当性を判断するのが原則です。

つまり、「兆候上はこのような可能性がある」とはっきり述べることが重要です。そのうえで、それを反駁する情報がどの程度有力であるか、すなわち妥当性を検証します。

ただし、さまざまな兆候から、相手側の戦略・戦術が推量されても、著しく妥当性を欠く場合があります。この場合、その兆候は偽情報、すなわち欺瞞として処理する必要がでてきます。

前述した大本営参謀の堀栄三少佐は、米軍によるフィリピンへの上陸地点の予測を命じられ、「リンガエン湾、ラモン湾、バンダガスの三か所への上陸する蓋然性が高い」と判断し、まず兆候から、「リンガエン湾とラモン湾の蓋然性が高い、とくにラモン湾の蓋然性が高い」と判断しました。

しかし、堀少佐はマッカーサー司令官になったつもりで再検討します。つまり、①米軍がフィリピン島で何を一番に求めているか(絶対条件) ②それを有利に遂行するにはどんな方法があるか(有利条件) ③それを妨害しているものは何であるか(妨害条件) ④従来の自分の戦法と現在の能力で可能なものは何か(可能条件)の四つの条件に当てはめて再考したのです。

その結果、堀少佐は当初の見積りを修正して、「リンガエン湾の蓋然性大」との最終判断を下し、見事に米軍の行動を予測したのです。私たちも堀少佐の域には達しませんが、兆候を探知する感知力、妥当性を判断する想像力を養う必要があります。


強制思考とアナロジー思考を活用しよう!

▼「1県50」とは

筆者が住んでいる近隣に立ち飲み屋があります。そこに、この前から秋田出身の女性が働いています。 ここで秋田の話になったのですが、秋田と言えば、日本一深い湖の田沢湖、横手のかまくら、キリタンポ鍋、桜田淳子(古い話でごめんなさい)くらいしか出てきません。

彼女の出身は田沢湖近くの仙北市だということですが、「それどこ?」という感じです。 しだれ桜の有名な角館町と田沢湖町、それに西木村が2005年に合併して新設された市です。

筆者は、仕事やプライベートで、ほとんどの都道府県に行ったことがあります。残すところ愛媛、高知、和歌山、秋田の4県です。だから、日本の地理には結構、薀蓄がありますが、秋田は苦手の部類ではありました。

以前、私が若かりし頃に情報教育を受けた時のことを思い出しました。ある教官は「初対面で会った人とスムーズに会話するためには、○○県と言えば、最低でも50のキーワードが次々に出てくるようでなければならない」といいました。 のちに、教官になった筆者も「1県50」と称して、学生にこれを紹介し、時々授業で一緒にやったりしていました。

▼強制思考とフレームワーク

この「1県50」にはコツがあります。アトランダムに考えると、だいたい20くらいで途絶えてしまいます。そこで、政治、経済、社会、地理、人物などのフレームワークを使用します。このような思考法を「強制思考」と称し、情報分析における仮説を立てるなど、さまざまな局面で活用されています。

今日ではいくつかの既存のフレームワークが提示されています。

ビジネスにおいて外部環境を分析するためのフレームワークが「PEST」です。これは政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をもじったものです。これは記憶しやすいための“語呂合わせ”です。

なお、最近は、社会の中に含まれる環境(Ecology)を分岐させて「SEPTEmber」(セプテンバー、9月)」と呼称されることが多いようです。

他方、内部環境を分析するためのフレームワークには「3C」(Customer、Competitor、Company)、「4C」(3Cにチャンネル(Channel)を加える)、「4P」(Product,Price, Place(販路),Promotion)などがあります。

「競合分析」(CI、コンペティティブ・インテリジェンス)の祖であるマイケル・ポーターは、自社を業界のなかに位置づけるために業界内部の環境要因を5つの要素にわけて分析する「5フォース」を提唱しました。

国家安全保障の領域では「STAMPLES」(Social、Technological、Environmental、Military、Political、Legal、Economic、Security)があります。

このほか「PMESII」(Political、Military、Economic、Social、Infrastructure、Information)、「DIME」(Diplomatic、Information、Military、Economic)などよく活用されます。

▼アナロジー思考とは

強制思考と並んで、 良質のアイデアを生み出す発想法には アナロジー思考があります。これは類似思考、類比思考ともいい、野球、サッカー、スポーツ、オリンピックというように類似したものを思い出すことです。フレームワークとアナロジー思考を組み合わせることでアイデアが生まれというわけです。

アナロジー思考はは前例、他の業界や商品などから学ぶことですが、これには縦の思考、すなわち歴史的類推法があります。これは、過去に起こった歴史的事象に基づいて未来を予測する方法です。

ハーバード大学のグレアム・T・アリソン教授は著書『米中戦争前夜』の中で「トゥキディデスの罠」について述べています。

アリソン教授はアナロジー思考により大国スパルタを現在の米国、新興するアテネを現在の中国に見立てて「米中はトゥキディデスの罠を免れることができるか?」をテーマに米中関係および国際社会の未来図を描いています。

トゥキディデスは古代ギリシャのペロポネソス戦争を描いた『ペロポネソス戦争史』を遺した歴史家です。つまり、覇権国家スパルタに挑戦した新興国アテネの「脅威」が、スパルタをペロポネソス戦争に踏み切らせたことにアリソン教授は着目し、覇権を争う国家どうしは戦争を免れることが難しいとして、それを「トゥキディデスの罠」と名づけたのです。

アナロジー思考には横の思考もあります。これは現在起きている他の類似した事物や状態に着目することで未知のことを類推する手法です。

この時、すでに生起している先行事象を探すことが重要です。たとえば地方では少子高齢化は進んでいますが、そこでは家屋の過剰、交通機関の閉鎖、市町村の合併、その一方で自動販売車の進出などが起きています。つまり、これの減少が、やがて急速に少子高齢化を迎える都市部の近未図でもあります。

▼越境とリベラルアーツ

このほか発想力を鍛える方法として、最近は〝越境〟という言葉が知友黙されます。これは池上彰氏の造語です。A1時代を生き抜くためには、一つの専門性では太刀打ちできない、でも専門性を二つ、三つと増やすことができればAIの追随を許さない。だから〝越境〟が必要ということになります。

また、学問の世界では「リベラル・アーツ」が注目を集め始めています。この語義は『ウィキペディア』などで調べていただければわかりますが、要するに、専門の世界に入る前に、いろいろなことを横断的(越境的)に学ぶということです。

▼乱読のススメ

今日、勉強はどこでもできます。しっかりと学ぼうとすれば学校に行けばよいでしょうが、経費を節約しようとすればネット講座も利用できます。私は、1か月1300円で「10mtv」を契約しています。

でも、 もっとも手っ取り早い勉強法は読書でしょう。 ある本に、ビジネスパーソンが時代に対応するためには1年に最低50冊を読むことが必要だと書かれていました。かの佐藤優氏は1か月に300冊から500冊だそうです。これは、とても凡人には無理できすが、個人で少し難しいくらいの目標を定めて挑戦したら良いと思います。

なお、筆者は1か月に30冊の読破を目標にして乱読しています。これにはキンドルの「アンリミテッド」を契約 (Ⅰか月1000円) しているので経費はあまりかかりません。ただし、アンリミテッドには制限がありますので、これはあくまでも思考の裾野を広げるための乱読用です。読みたい本や書籍や論文などの執筆用には別途購入していますので、書籍代が1か月1000円で済むという話ではありません。

「パレートの法則」を活用しよう

▼パレートの法則とは

現在、筆者は新著出版に向けて準備を進めています。もうすでに本文を書きおわり、校正・推敲という最終段階に来ています。 いつも思うことですが、8割方が概成してから完成に持っていくまでが大変ということです。

さらには、よくよく気つけて校正・推敲しても、出版してから読者から誤字・脱字、事実関係の誤り、氏名の誤り、年代の誤りなど、いくつも指摘をいただきます。

実は、これには法則があるようです。 「パレートの法則」あるいは 「80対20の法則」あるいはといいます。 イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートが発見した法則で、経済において、全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出しているという理論です。簡単に言えば、20%が全利益の80%を生み出している、ということです。

これは次のように応用できます。

仕事の成果の8割は、費やした時間全体のうちの2割の時間で生み出している。だから、私の著作作業の8割概成は、まだ全体の2割の時間しかかかっていない。よって著作というものは終着点が見えてからが本当に遠く感じるのも道理ある。

▼パレートの法則の一般的適用

 パレートの法則はさまざまに適用できるといいます。商品の20%が全体の売り上げの80%を引き出している。20%の社員が会社利益の80%を生み出している、などです。

 したがって、成功者の2割に入る、わずか2割が大事、あと20%の努力をすれば成果が劇的に増大する、日曜日にすこしの努力をすることで大きな成果が得られるといった教訓が導きだすことができます。

 このように、「パレートの法則」は、ちょっとした努力が自分の置かれている状況を劇的に変え、他との優位性を保持するコツであるというように、ポジティブ思考に解釈されるのが一般的です。

▼パレートの筆者的運用

でも、2割をどのように捉えるかは自由です。筆者はこの法則を次のように解釈しています。

冒頭の著作を例にとりましょう。

著作作業の完成に向けた2割は大変な時間と労力がかかります。しかし、これを専門の校正者がやったらどうでしょうか。残り2割の労力でさらに8割進むことにになり、より短時間で100%に近くなります。さらに、その残りを別の人に依頼すれば、短時間でさらに100%に近づきます。

つまり、一人で物事を100%完璧におこなうことはできません。「漢字の誤記などは人格を疑われるとか」といった批判はあまり気にせずに、8割完成に精神を注力する、そして、残り2割は人と共同してやればよい、これも一つの考えです。

編集者にとってもっとも苦手な作者は、「時間を守らない」「全部自分でやろうとする」「文書の誤りを指摘すると自分流で直そうとする」、このような人だといいます。完璧主義者の陥りやすいところだと思います。

こういうことを踏まえ、「パレートの法則」から、筆者は他の人と協調して物事の完成を目指せということを教訓としています。

▼必要なことはコミュニケーション能力

現代社会が速度が勝負です。完全性よりも創造性や柔軟性がより重要となってきます。完全性に時間がかかっても、状況がすでに変化していたということも生起します。

だから、創造性を発揮して2割の労力で8割の完成を目指す。あとの2割は仲間と協調して行う。ぎゃくに仲間の仕事の完成には2割の力で支援する。こういったことが重要になると思います。

仲間との協調を成立させる最も重要な資質や能力はコミュニケーションということです。最近、コミュニケーションの重要性が取り沙汰されていますが、予測不能で不確実な時代、変化が激しい時代だからこそでしょう。

「令和」元年と天皇制について思う

▼新元号は「令和」に決定  

 新元号が「令和」に決定!元号としては248個目になります。ただし、「一世一元」の制が実施されたのは1886年の慶応から明治への改元の時からであり、それ以前は天皇の在位中にも災害などさまざまな理由で改元がおこなわれていました。ぎゃくに天皇が即位しても、元号が変わらない場合もありました。

  元号は前漢に始まり、日本への導入は645年の「大化」が始めとされます。 日本の元号は、ほとんど全てが中国古典を出典としていますが、最も多く引用されたのは『書経』です。

 しかし、新元号「令和」は、わが国の「万葉集」の梅花の歌が出典です。 「万葉集」とは、奈良時代の日本最古の歌集です。 ここには、天皇や皇族、歌人、さらには農民など幅広い階層の人々が読んだ「約4,500首」の歌が収められています。

 新元号の出典を日本古来の歌集「万葉集」の梅花の歌としたのは、ICT化、グローバル化、少子高齢化に向かう世の中で、あらゆる階層や年代層が、これら環境に押し流されることなく、それぞれの目標に向けて積極的に困難に立ち向かい、大きな花を咲かせていこうとの、願いがあると思われます。 

▼「万世一系」の継続を末永く祈願

 皇太子徳仁親王は第126代目の天皇として即位されました。

 筆者は平素より、新天皇の慎ましくて勇気ある言動、慈愛に満ちた所作など、そこに日本人としての由緒正しき血統を感じています。令和におけるわが国の発展を心から願うものです。

 永久に一つの天皇の系統が続くことを「万世一系(ばんせいいっけい)」といいます。日本の国歌、「君が代」にも万世一系の永続性が謳われています。

 令和がつつがなく発展し、万世一系の安定した継続を末永く祈願します。

▼わが国にとっての天皇制とは  

 ところで、過去125代のなかで、幕府から天皇に政権が移ったことが2回ありました。まずは1333年の「建武の中興」です。これは、鎌倉幕府を倒し、後醍醐天皇(第96代)の執政による復古的政権を樹立したものです。

 そして1867年の大政奉還です。これは、江戸幕府の徳川慶喜将軍から明治天皇に政権が奏上されました。

 両政権移管の背景をみますと、ともに外的脅威の出現によって、国内秩序に危機が起こり、国民のなかから勇士が登場し、天皇の権威にすがって国体をようやく維持した、という構図があります。

「建武の中興」は二度の蒙古襲来(元寇)が原因です。“神風”が吹き、鎌倉幕府は蒙古軍に勝利しますが、御家人たちに多大な犠牲を払わせたばかりで、財政に窮乏し、御家人に対し、ろくに恩償を与えることもできなくなります。

 一方で幕府のトップ北条高時は、田楽や闘犬に興じ、政(まつりごと)を顧みようとはせず、農民に重税を課すばかりでありました。幕府は腐敗し、御恩と奉公の秩序は崩れ、それが農民や商人に伝播し、社会は乱れていきました。

 そこで、後醍醐天皇が秩序維持の回復のために、自ら親政をおこなうことを決意したのです。

 他方の大政奉還は、1853年のペリーの黒船来航が直接の原因になります。それ以前から、外国船が各地に出没して、列強が日本に開国を迫るという状況は生起していましたが、黒船は政治中枢である江戸に直接に開国要求を突き付けたのですから、日本としては待ったなしの決断を迫られたのです。

 幕府は大いに動揺します。一方の庶民は、本来は守ってくれるはずの武士階級の無為無策、堕落した姿に不安を覚えます。幕府としても、家柄ではなく能力主義の人材登用に着手したことで、薩摩藩や長州藩から有為な先進的人材が出てくるようになります。

 これらの先進的人材から、もはや徳川幕府では新たな時代に対応できない、だから天皇の御世への復活を図ろうとの「尊王攘夷」の思想が芽生え、やがて外国にかなわないことを自覚して倒幕に向かいます。

 外国からの未曽有の脅威が発生した場合、外敵から国家を守るためには内部が一致団結するほかありません。つまり、天皇の権威のもとに国民が結集して、愛国心を発揚して、自己犠牲を顧みずに国家存続のために一心奉仕する以外に道はなかったのです。

 国家体制が危機を迎えるなか、有志は「万世一系」の天皇制によって国体を維持した、ここにわが国の天皇制の持つ意義があるのかもしれません。

▼傑出した思想家の登場

 また、国家体制が危機を迎えると、愛国心を鼓舞する傑出した思想家が登場します。これまでの国家体制で立ち行かなくなり、そのためには体制変換だけではなく思想変換も必要ということでしょう。

 思想変革をリードしたのが「建武の中興」における楠木正成であり、明治維新における吉田松陰であったのです。

 正成と松陰もともに尊王愛国の士です。時代が愛国心を、また尊王愛国の士を必要とした。つまり、激動と変革な時代が優れた思想家を誕生させたのだと思います。

▼現在のわが国が直面している脅威

 さて筆者は現在、第三の〝脅威の波〟がわが国に押し寄せていると感じています。それは、テクロノロジーとグローバリズムです。

 この二つの潮流が今後、現実の脅威となるか、それとも日本再生の好機となるかは、我々次第でしょう。

対応を誤れば、AIと外個人労働者が人々の職業を奪って、失業者が町中に溢れる。反政府デモが頻発する。

社会では所得格差が増大し、テクロノジーとグローバル化の波に乗れない人々は、倦怠感に打ちひしがれて孤立する。社会は活性力がなくなる。

 少子高齢化という負のベクトルが、さらなる追い打ちをかける。疎外された一部の老人は、世間を注目させるためにテロを起こす。国民は治安に怯える。

 このような、〝悪の未来シナリオ〟は排除されません。

〝悪の未来シナリオ〟の方向に向かうなか、すぐれた思想家は登場するのでしょうか?

 ICT社会のなかでは、とかくカリスマ経営者などが脚光を浴びて拝金主義が横行し、なかなか優れた思想家が現れる環境ではないような気もします。

 逆に、一部の者は新興宗教やイスラム過激派などのアイデンティティ探しの活路を求めているのかもしれません。

▼象徴天皇制という問題

 時代が先行き不透明で変化が激しくなれば、「象徴天皇制」という問題がいやが上にも頭を擡げてくるでしょう。

 誰しも、自分が苦境の時は、誰かに助けてほしい、心の拠り所が欲しい、そう思うものです。このことは日本だけではありません。タイでは、政治が不安定になって収拾がつかなくなれば、国王が出てきて決着をつけます。イギリスでも似たような状況があります。

 経済苦境、増税、貧富の格差、世間との断絶、外国人の流入、そうした苦しい生活環境のなかに身をおくことになるとすれぎ、国民は、「万世一系」の天皇制に心の安寧や、アイデンティティの礎を追い求めるかもしれません。

そうしたなか、皇室の行動が自由奔放に映り、そこに節度が感じられず、一方の国民が重税や自制を強いられるとした場合、どのような発想が起こり得るでしょうか?

多くの国民は天皇制の在り方に疑問を抱くかもしれません。

 戦後、「象徴天皇制」の時代が長くなるにつれ、皇室教育は多様化し、皇室の発言や行動にも変化が生まれているように感じます。これはある意味致し方ないのかもしれませんが、ICT化によるネット情報が拡大するなか、一部皇室の行動が国民の期待値から遠くなるとすれば、さまざまな〝バッシング〟が起こるでしょう。

 それが、やがて政争の論点になるかもしれません。天皇制を否定する政党も存在します。こうした状況が進展していくなか、国民全体が「象徴天皇制」に対して、どのような判断を下していくことになるのでしょうか?

数字のトリックに騙されるな

はじめに  

「辺野古移設に伴う埋め立ての賛否」を問う、沖縄県民投票 が2月24日に実施されました。 最終投票率は52.4%で、反対は71.8%となりました。

筆者は、これに関する全国紙報道に大いに注目しました。

案の定というべきか、『朝日新聞』と『毎日新聞』は「7割以上が移設に反対した 」との趣意の記事を掲載しました。『読売新聞』は、「投票率が52%であり、 あまり関心が高くなかった」旨を指摘しました。これも案の定と いうべきか、『産経新聞』は「有権者6割が反対しなかった」という点を強調しました。つまり、52.4%に71.3%を掛け算して3 5%が積極的な反対派とみたようです。  

これほど、いつもの全国紙の主張を端的に物語る状況には滅多にお目にかかれません。いずれの全国紙も“数字のトリック” (いいとこどり)を駆使して、自らの主張の正当性に結び付けよ うとしています。とりあえず、いろいろな見方ができるというこ とは教えてくれました。  

ただし、“数字のトリック”は説得力を持つことも事実です。 その意味では、反対勢力にとって県民投票を実施した効果はあっ たといえます。  

サンプリングバイアス

“ 数字のトリック ”で騙されやすいバイアスの一つがサンプリングバイアスです。これは統計学の用語で、標本抽出という意味です。

統計の対象が大きい場合、サンプリングします。たとえばテレビの視聴率は全国民を対象に調査しているわけではありません。ある資料によれば、関東・関西・名古屋地区は各600台、そのほかの24地区は各200台のテレビに計測器をつけて調べているそうです。

ここで重要なのは、計測器を設置するモニターに偏りがないよう、ランダム(無作為)に抽出することです。

サンプリングに偏りがあったり、標本サイズが小さすぎたりすると分析結果に誤差が生まれます。偏りのあるサンプリングから仮説や結論を導き出すことを「サンプリングバイアス」というのです。

安倍政権の支持率に関するアンケート調査がよく行なわれますが、米軍基地に強く反対する沖縄県と、東京都での調査ではその支持率は大きく異なると推量されます。仮に、両方の自治体から同数の人を抽出して統計化しても、平均的な国民の声とは言えません。

最近の「地球温暖化」に関する報道から、空気中のわずか0・04%にすぎない二酸化炭素の制限を声高に叫ぶ傾向があります。これに対して興味深いブログがありました。「昔の夏はもっと涼しかった」と思って50年前の日本の気温を調べてみたが、50年前から気温はほぼ横ばい、湿度は昔よりも下がっているというのです。

気象庁の公開データでは東京は130年あまりで2度上昇しているとされます。確かに都市部では上昇しているようですが、そのほかの地域はほぼ横ばいだそうです。

またエジプトなど赤道付近や熱帯地域の平均気温は下がっている、南極の氷も厚くなっているというデータもあります。さらに「地球は氷河期に向かって、気温は徐々に下がっていく」という学説もあります。つまり「サンプリングバイアス」を排して、日本全体、さらには地球規模で論ずると、「地球温暖化」とは一概に言えないようです。

フレーミング効果

“数字のトリック”と巧みな表現方法で都合の良いメッセージを伝達する例をあげましょう。それがフレーミング効果です。これは情報の意味する内容が同じでも、表現の仕方によって印象が変わり情勢判断や意思決定を誤ってしまうことです。

この説明によく用いられるのが、(A)「まだ半分もある」、(B)「もう半分しかない」という言い方です。実際には同じ容量でも、Aの方はあまり減っていない気分にさせられます。

このような思考心理を利用して利益を上げるなど、行動経済学の分野においてこの効果はよく説明されています。

フレーミング効果の題材として、「アジア病問題」が取り上げられます。これは、600人が死ぬと予想されるアジアの病気を撲滅するため、二つのプログラムが考案され、どちらのプログラムを選択するかというものです。

学者がまず学生に問題1(ポジティブ)を提示し、どちらのプログラムを選ぶかを答えさせました。その結果が( )内の%です。

【問題1】

対策A:200人が助かる。(72%)
対策B:3分の1の確率で600人が助かる。3分の2の確率で誰も助からない。(28%)

次に問題2(ネガティブ)を設定し、別の学生に尋ねました。

【問題2】

対策C:400人が死ぬ。(22%) 
対策D: 3分の1の確率で誰も死なず、3分の2の確率で600人が死ぬ(78%)

これらの対策の中身はすべて同じですが、それぞれ表現方法が違います。結果は200人が助かるが72%、400人が死ぬが22%と大きな違いが生じました。

つまり、表現が変わることで、人間にはある思考の枠(フレーム)が設定され、これにより判断や思考が変わってしまうのです。

この実験では、ポジティブなこと(生存)が強調されれば、ネガティブなリスク(死亡)を避ける方向に、ネガティブ(死亡)が強調されると、それ自体を回避するために、あえてリスクを引き受ける方を選択する傾向があると結論づけています。

世の中には、都合のよい情報だけをつなぎ合わせたり、“数字のトリック”と巧みな表現を使用して、都合の良いメッセージを伝達しているのです。

皆さんは、このようなトリックに引っかかることのないようにしましょう。