因果関係とは何か
物事を考える上では、因果関係という概念が重要となります。 たとえば、「Xが殺害された」という事象と、「YはXに恨みを持っていた」という関係は、原因と結果という因果関係の可能性があります。
つまり、「Xを殺害したのは誰か」という質問に対して、「Yが殺害した」という仮説を立て、それを立証するために、Yの殺害動機という証拠を探り、因果関係を立証することになります。
以前にこのブログ(「さくらももこさん、ご冥福をお祈りします」)で書きましたが、因果関係とよく似たもので相関関係という概念があります。
「AとBにはなんらかの関係がある」ことを「AとBは相関関係にある」といいます。 相関関係と因果関係はしばしば混用されます。しかし、相関関係は物事の将来を予測することも、現実の問題の原因を探ることもできません。
しかし、因果関係を探る重要な糸口を掴むことができます。 そのために相関関係から因果関係を立証することが重要なのです。
因果関係を立証する
相関関係から因果関係を立証するための手法は以下のとおりです。 ①相関関係にありそうな事象をアトランダムに列挙する。 ②列挙した事象のなかから、原因が先で結果が後であるという時系列的な関係がある事象に着目する。 ③その関係には別の原因が存在していないことを証明する。つまり、疑似相関でないことを証明する(下記参照)。
この際、AとBの2つの相関関係がある事象において①AがBが引き起こした、②BがAを引きこ起こした、③CがAとBを引き起こした、④AとBとの関係は単なる偶然である。以上の4つの関係を考察する必要があります。
ここで疑似相関には注意が必要です。上述の③が疑似相関に当たります。たとえば、アイスクリームの売り上げと、クーラーの売り上げは連動しています。しかし、 アイスクリームがクーラーの売り上げに影響を与えるのではありません。実は、 これは夏の暑さという別の要因が関係しています。
因果関係は意外なところにある
真の因果関係を見つけ出せない原因を探りますと、想像力の欠如や思い込みがしばしば原因となってり有力な仮説が立てられていないことが多々あります。
1990年代初頭の米国の事例をあげましょう。当時の米国では過去10年間、犯罪を増える一方でありました。専門家は、今後はこれよりも状況は悪くなると予測しました。しかし、実際には犯罪が増え続けるどころかぎゃくに減り始めてしまったのです。すなわち、未来予測を誤ってしまったのです。
「なぜ犯罪率は減ったのか?」という質問に対して、「割れ窓理論」に基づく警察力の増加や厳罰化、銃規制、高景気による犯罪の減少などの仮説があがりました。 しかし、そのような対策を行っていないところでも犯罪は減ったのです。
そこで調査したところ、予想もしなかった因果関係が明らかになったのです。それは「中絶の合法化」でした。 この因果関係を簡略化して示すと次のとおりです。貧しい家庭→未婚の女性の妊娠・出産が増加→貧困による子育て放棄、虐待、教育放棄→未成年者が犯罪予備軍→犯罪の増加でした。
当時の米国では長らく妊娠中絶は違法でした。 しかし、米国では1960年以降、性の解放の観点から、シングルマザーや中絶も1つの選択肢とされました。そして、歴史的に有名な1973年の「ロー対ウェイド判決」で、最高裁は7対2で憲法第14条に基づき、中絶禁止を憲法違反であると判定しました。 すなわち人工中絶法が設定されたのです。
つまり、この時期以降、貧しい未婚家庭に育った妊娠女性が子供を産まなかっくてもよくなったのです。その結果、1990年代に若者の犯罪予備軍が減り、犯罪率が減り始めたのです。
人工中絶法を巡る米国社会
しかし、それで人工中絶が米国社会から容認されたか、というとそうではありません。上記の人工中絶が犯罪率を低下させるという事実が分かったことで、ぎゃくに人工中絶がクローズアップされ、それに対する反対運動が起こりました。その結果、1990年代以降、ふたたび人工中絶の数は減っていきました。
今日、米国社会は、人工中絶を認める判定の逆方向に向かっている傾向があります。
最近では、全米で州レベルでの中絶禁止法案が 記録的な勢いで 通過しています。宗教の権利に基づき、女性の選択の権利を制限した6月30日のホビー・ロビーおよびコネストガ・ウッドの聴聞での最高裁の判定はその極端な例です。
キリスト教信者の人口層が多い米国は、社会の隅々で宗教団体が著しい影響を与えています。特に女性の避妊や中絶に関して、政治家も様々な角度から影響を及ぼしています。
トランプ米大統領は、選挙戦で人工妊娠中絶をした女性には「何らかの形で罰があるべきだ」と発言して、他の候補者たちから非難の声が上がり、同氏は発言を事実上、撤回しました。
一方、 このような社会の変化に反応し、選択の権利を主張する女性の声も高いようです。 カリフォルニアなどでは、中絶へのアクセスを拡大するため、7年ぶりの新しい州法を制定しました。
NHK連続テレビ小説 『半分、青い。』から「マザーズ」へ
NHK連続テレビ小説『半分、青い。』が終了してしばらくたちましたが、筆者はこれの“ネタバレ” をネット上で探していて、ある記事に辿りつきました。
このドラマでは、主人公の鈴愛(永野芽郁)が癌になった母・晴(はる、松雪泰子)のため、幼馴染の律(りつ、佐藤健)はなき母・和子(わこ、原田知世)に何もしてあげられなかったことから、“そよ風の扇風機”を発明し、その名前を「マザー」と命名します。
二人の母親への感謝と愛情が一杯つまったすばらしい作品でした。
一方、中京テレビ報道局が2011年から7年にわたり取材・放送してきたドキュメンタリーが「マザーズ」です。筆者は「マザー」から「マザーズ」に行きついたわけです。
マザーズの記事を引用
「マザーズ」 の記事を引用します。
「予期しない妊娠に直面したとき、あなたはどんな選択をするでしょうか。 厚生労働省のデータによると、1年間に行われる人工妊娠中絶の件数は16万8015件(平成28年度)。「育てられない」多くの命がある、残酷な現状です。
その一方で、「中絶はできない」と揺らぐ女性たちもいます。 病院のベッドに横たわる、お腹の大きな少女。中学2年生の綾香さん、14歳です(仮名・年齢は取材当時)。綾香さんのお腹の中には、出産間近の新しい命が宿っていました。 若くして母となった綾香さん。お腹の赤ちゃんの父親も、同じ中学生でした。
予期せぬ妊娠や病気、経済的な困窮で子どもを育てられない、子どもを虐待してしまうなど、様々な事情により、実の親による子どもの養育が難しいことがあります。そのようなとき、実の親に代わって、温かい家庭環境の中で子どもを健やかに育てるために、特別養子縁組や里親などの制度があります。」
特別養子縁組に注目
生みたくても産めない人、積極的に社会進出したいために子供を持つことを選択しない人、誤って妊娠して人工妊娠中絶をする人、人はそれぞれさまざまです。
残念ながら、シングルマザーズによる子育ては社会に良い面ばかりをもたらしません。しかし、わが国が少子高齢化に向かうなか、 子供は国家成長の礎であり、国の宝なのです。このことを正面から向き合ってみることが重要です。
少子高齢化の対策には、外国人労働者への入国拡大、定年の延長、AI社会への発展など、さまざま健闘されいます。一方で「育てられない」ということと、「子供ほしい」という両者の条件を、完全には程遠いとはいえ、充たすものが特別養子縁組や里親の制度 ということになるのでしょう。
シングルマーザーズに対する社会支援を充実させる一方で、特別養子縁組なと゛の制度強化に注目する必要はおおいにありそうです。