ムスリム移民の半生 『米軍極秘特殊部隊 ザ・ユニット』

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『米軍極秘特殊部隊 ザ・ユニット』
『米軍極秘特殊部隊 ザ・ユニット』

『米軍極秘特殊部隊 ザ・ユニット』アダム・ガマル、ケリー・ケネディ著 沖野十亜子訳(原書房・3080円)

本書は、米陸軍で極秘任務に従事したムスリムの著者、アダム・ガマル(仮名)が自身の半生を語る記録である。「工作員としての経験を語るのは、私が初めて」という著者の言葉通り、実務者の視点から対テロ任務の過酷な現場を鮮明に伝えている。

エジプト生まれの著者は、1991年にアレクサンドリア法科大学院を中退し、20歳で米国に移住。米陸軍極秘特殊部隊「ザ・ユニット」に所属し、10回以上の海外派遣を経験した後、2016年に退役した。「ザ・ユニット」の実名は伏せられ、組織や活動の記録は黒塗りされているが、諸処の記述から判断するに、その実態は陸軍「インテリジェンス・サポート・アクティビティー(ISA)」であると推定される。

ISAは1981年に特殊作戦部隊への情報支援を目的として設立されて以来、情報提供に加えて重要人物捜索、人質救出、犯罪者捕縛など幅広い作戦任務を担ってきた。対テロ戦争は戦場での戦闘にとどまらず、海外で現地社会に溶け込み、テロネットワークを解明し、市民に紛れるテロリストを特定するなどの任務も含む。ISAメンバーには高度な分析力、言語能力、多文化理解力が求められ、移民も積極的に採用している。

本書の核心は、ムスリム移民の著者が、なぜ米国の対テロ任務に身を投じたのかという問いにある。著者は故郷でのムスリム過激派への反発、米社会の自由と機会平等への憧れ、移住後に受けた恩恵への感謝の念から米国を守る道を選んだ。その選択はムスリムを一くくりにして敵視するのではなく、個々の背景と価値観を理解することの重要性を強く示している。

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