本書は、10年の現場経験を持つ現役FBI(連邦捜査局)主任爆発物科学者のカーク・イェーガーが、爆弾テロの実態に迫ったノンフィクションである。飛散した破片や潜在指紋、メモに残された微細な筆圧痕跡などを丹念に追い、爆弾テロを再現して真相を明らかにしていく科学捜査の過程をリアルに描く。
例えば、2002年のバリ島爆弾テロ事件は、欧米の政治・経済支配に反発する宗教武装勢力の犯行とされ、日本人夫婦を含む202人が死亡した。著者は、最初の自爆テロに続くナイトクラブ前の1トン級自動車爆弾、米領事館近くでの手製爆弾という3つの連続テロの関係を推理、損壊した縁石や木立の溝に残されたワイヤなどの痕跡を手がかりに犯人像に迫った。被害者の熱傷から「大量の熱パルスを発生する爆弾が使用された」という仮説が立てられたのに対しては、同種の爆弾を製造して実験することで、熱傷は建物火災が原因であることを証明した。科学捜査と推理が結びついた成果だ。
9・11(米中枢同時テロ)以降、FBIは対テロ任務を強化し、科学捜査の役割も証拠提示から事件の背景解明や再発防止へと広がっている。テロの根源を理解するには、現地の歴史や政治的背景を現場感覚で把握することが重要であり、世界各地の大使館に配置されるFBI司法担当官の調整の下、科学捜査官も海外に派遣されている。著者もイスラエルや英国などでの国際捜査の経験を有している。
著者は、大量の薬品や電子装置の購入、人だかりでの異変など爆弾テロに通じる兆候を目撃・通報する市民の協力体制と、爆弾テロからの自己防衛の重要性を説いている。日本では爆弾テロの事例は少ないが、オウム真理教事件や安倍晋三元首相銃撃事件のように衝撃的なテロはある。SNSによってテロリストの発信する情報が拡散し、リスクは高まっている。本書は、爆弾テロに対して私たち一人一人が危機感を持つことの重要性を訴える一冊である。