『日米史料による特攻作戦全史』ロビン・リエリー著、小田部哲哉編訳(並木書房・6820円)

本書は、昭和19年10月以降の特攻作戦を日米双方の膨大な史料に基づき緻密に記述した貴重な歴史資料である。最大の読みどころは、「無意味な死に有為な青年を追いやった」とする現代日本の歴史認識に一石を投じている点だ。

当時の日本は物量・技術で圧倒的に不利な状況にあり、本土防衛のため、米軍の侵攻を遅滞させ、有利な停戦条件を引き出すべく特攻作戦が採用された。本書に登場する河辺正三大将の「特攻隊員は、自分の死で勝利を確信し、幸せに死んだ」という言葉は、全ての隊員を代弁するものではないが、多くの隊員が作戦目的を理解し、国家や家族のために命をささげる覚悟を持っていたと考えられる。

『日米史料による特攻作戦全史』
『日米史料による特攻作戦全史』

台湾沖航空戦からレイテ沖海戦、戦争終結に至るまでの特攻作戦を日々詳細に記録している本書は、その全体像を通じて特攻の戦術的意義を浮き堀りにしている。私が特に注目した沖縄航空戦では、米艦艇の「目と耳」であり防御力の弱い、レーダー・ピケット艦を狙い、米海軍の情報収集能力をまひさせた。その体当たり成功率が32%に達したという資料が米側にある。

著者はこれらの事例を踏まえ、「フィリピンや沖縄でのカミカゼ機と特攻艇の運用が成功したことで、最小限の人員、装備の投入で貧弱な国力をはるかに上回る成果」を挙げたと評価している。

本書からは、特攻作戦が米軍に心理的な影響を与えたこともうかがえる。こうした心理的影響が、占領後の統治リスクを米軍に意識させ、日本の存続や早期独立回復に寄与したとの見方もできる。(『産経新聞』2024.10.13)

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