武器になる「状況判断力」(22)

比較要因に基づき最良の行動方針を選定する

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□はじめに

前回の謎解きは、「ウナギ屋、焼き鳥屋の秘伝のタレは、〇〇時代からずっと同じものであっても、なぜ腐らないのか?」です。

もともと糖分もあり塩分もあるので菌の発生は少なく、使うたびに全体を火入れし、使用後に残りかすなどを取り除き、定期的に加熱処理もしています。

ただし、腐らない理由の要点は、減ってくると新しいタレの素を作って足していく、すなわち、数か月で元のタレのほとんどは新しいタレと交換されるということです。

 長年の秘伝のタレも、わずかなエキスは残っていくが、どんどん新しいものと入れ替わります。

タレの味が良くて、繁盛するのは実は秘伝のタレではなく、職人の味付けであったり店の雰囲気であったりするのでしょう。

そういう目に見えないことが秘伝のタレを大切にしていくという具体的な行為によって伝承されることに価値があると筆者は考えます。

伝統も本質は残るものの、受け継がれるもののさまざまな状況の変化や時代の流れに応じて微妙に変わっていきます。「換骨奪胎」という四字述語がありますが、伝統を元にして自らのオリジナル性を加えていき新たなものを生み出すことが時代ニーズに対応することなのでしょう。

今回の謎解きは“自衛隊ネタ”です。「海上自衛隊が金曜日にカレーを食べるのは有名ですが、これはなぜか?」です。

ところで、これまで軍隊式「状況判断」について、第1段階から第3段階まで解説してきました。今回の第4段階の「各行動方針の比較」と第5段階「結論」で全手順を終えることになります。

しかし、おそらく最初の方の話は忘れてしまわれたのではないでしょうか。というのは、この軍隊式「状況判断」は手順が煩雑であるからです。

そこで、次回は少し復習の意味も込めて、軍隊式「状況判断」の利点と欠点を整理します。さらに、じ後の2回をもって、激動の現代に対応する迅速な意思決定法として注目されるOODAループなどについて解説しようかと考えています。

2021年もまもなく終わりになりますので、私の連載メルマガも本年末まで終わりとします。つまり今回を含めて残すところあと3回となります。

いましばらくおつきあいください。

▼軍隊式「状況判断」の思考手順

ここでもう一度、軍隊式「状況判断」の思考手順を復習しましょう。

・第1段階「任務分析」
上級指揮官から任務を与えられた任務を分析し、「自分は何をすべきか?」を明確にします。

・第2段階「状況および彼我の行動方針」作戦環境や敵・味方の戦力バランスや方策(行動方
針)を見積ります。
そして、敵の可能行動の列挙と分析を行ないます。敵が能力的に取りうる方策(可能行動)列挙し、それを敵の意図と兼ね合わせて、敵が採用するだろう可能行動の種類や採用公算の順位などを考えます。最後に敵の可能行動(複数)に応じた我の行動方針をいくつか列挙します。

・第3段階「各行動方針の分析」
敵の可能行動と、我の列挙した各行動方針を組み合わせて対抗シミュレーションを実施します。

・第4段階「各行動方針の比較」
第3段階で明らかとなった、行動方針の選定のための比較要因と、とくに重視する比較要因(加重要因)するなど比較要因の軽重を判定します。
そして各要因が各行動方針に及ぼす影響などを考察し、比較要因ごとに最良の行動方針を判断し、最後に総合的に最良の行動方針を選定します。

・第5段階「結論」
選定した行動方針に所要の修正を加えて、1H5Wのうち所要の事項を定めます。これが、事後の作戦計画の構想、つまり方針や指導要領となります。

▼各行動方針の比較

「各行動方針の比較」は第3段階「各行動方針の分析」と同時並行的に行ないます。すなわち、分析と比較をフィードバックしながらやっていきます。

第3段階では、敵の可能行動と我の行動方針の対抗シミュレーションの結果、我の行動方針の利点と欠点を明確にします。

その結果を踏まえて、第4段階では行動方針を補修します。この「補修された行動方針」が最終的な最良の行動方針の候補となります。

そこで「補修された行動方針」についてもう一度、利点と欠点およびその程度を考察します。そして利点、欠点のうち、行動方針に影響を及ぼすものを比較要因とします。

ここでは一例として、「戦いの原則」を比較要因として考察してみましょう。

古代から現代までのいかなる軍事作戦であれ、必勝の原理・原則があります。これを「戦いの原則(wars of principles)」と言い、わが国のみならず各国軍事も同じような原則を列挙しています。

なお陸上自衛隊は、戦後に米軍教範を基に『野外令』を制定する過程で、米軍の9つの原則をほぼそのまま踏襲し、(1)目標、(2)主動、(3)集中、(4)経済、(5)統一、(6)機動、(7)奇襲、(8)保全、(9)簡明の9つを「戦いの原則」としています。

たとえば、各行動方針の重要な判断事項が攻撃の方向であるとしましょう。
攻撃方向がA方向、B方向、C方向あれば、行動方針A(〇-1)、行動方針B(〇-2)、行動方針C(〇-3)の3つの行動方針が上がります。

そして比較要因には、「戦いの原則」を念頭に、(1)機動力の発揮(機動)、(2)火力の発揚(集中)、(3)企図の秘匿(保全)、(4)奇襲効果(奇襲)など、攻撃方向に影響を及ぼす要因を挙げていきます。

この際に注意することは二重評価の回避です。たとえば「総合戦闘力の発揮」と「機動力の発揮」を比較要因として挙げると、機動力は総合戦闘力に含まれるので二重評価となります。このような重複要因は列挙してはなりません。

また、A方向、B方向、C方向もいずれにも良好な機道路があり兵站支援などに支障がない場合には「機動力の発揮」は行動方針を選定するために必要ではありません。機動は戦いの原則、とりわけ攻撃方向を選定するための重大な比較要因ですが、この場合には比較要因とならないのです。

さらに、比較要因の中には特に影響が大なるものと、そうではないものがあります。つまり、影響が最も大なる比較要因を他の比較要因と同列に扱ってもよいかという問題が生じます。そこで、比較要因の軽重を判断する必要があるのです。

▼マトリックスを利用した行動方針の判断

要因ごとに各行動方針の優劣を判断します。これが部分結論になります。さらに、比重の大きい要因を重視して総合的に判断します。

以上のことを踏まえつつ最良の行動方針を選定する上ではマトリック分析手法が有用です。

マトリックスの縦列に比較要因を記入します。各比較要因の軽重を点数化し書き込みます。横列には行動方針AからCまでを挙げます。

要因ごとに行動方針の優劣を判断して、点数化(五段階評価など)します。す。升目の総点数が高いものが総合評価の結論、すなわち最良の行動方針となります。

マトリックスを利用したこのような分析手法は一般的な課題に対する意思決定にも有用です。

筆者は拙著『戦略的インテリジェンス入門』(*)の中で、「慰安旅行の行き先」を決定するためという事例で、マトリックス手法の活用要領を紹介しています。

その詳細は割愛しますが、行動方針である行き先に京都、大阪、沖縄、北海道を挙げ、比較要因として観光地、食事、娯楽、経費、気候を挙げて、その軽重を判断して、行動方針の優劣を判定しています。同著をお持ちの方は是非一読ください。

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▼結論から決定へ移行

最終の5段階「結論」では、選定した行動方針に所要の修正を加えて、1H5Wのうち所要の事項を定めます。結論が決心へと移行します。

決心は指揮の核心であり、計画・命令の基礎となり、指揮下部隊の行動の根拠となります。したがって、任務を基礎に部隊の行動準備の時間などを考慮して、戦機に応じた決心を行なうことが重要です。

状況の不明等を理由として決心をためらってはなりません。また一度決心をしたならば、むやみに変更することはできません。

すでに繰り返し述べていることですが、幕僚も幕僚見積を通じて、指揮官と同時並行的に状況判断を行なっています。特に、作戦幕僚が実施する作戦見積は、指揮官の状況判断と同一の思考手順で行なわれます。

したがって、指揮官は幕僚から幕僚見積の「結論」、すなわち最良の行動方針とその理由に関する説明を受けます。ただし、作戦幕僚などが判断した行動方針を指揮官が採用、拒否、変更(修正)するかは指揮官の自由です。

同じような思考手順を経て状況判断をしていても、幕僚と指揮官の結論が異なることはあります。なぜならば共に直観が働いているからです。

指揮官の状況判断は、幕僚の状況判断を活用しつつも一人で行なっているのでより直観が入り込む余地が大です。

しかしながら、複数人の幕僚による論理的思考が指揮官の直観的思考よりも正しいのかと言えばかならずしもそうでもありません。大局観に立った指揮官の直観直観が正しい判断であることが多々あることは過去の歴史が証明しています。

幕僚は決心することは許されません。決心は指揮官のみに与えられた権限であり、状況判断の結論を決心に移行できるのは指揮官のみです。

指揮官の状況判断は決心の準備作業であり、決心と直接につながっていきます。他方、幕僚が実施する状況判断(幕僚見積)は結局のところ、指揮官の状況判断の欠落事項をチェックする役割しかないのです。

 これが指揮官の状況判断と幕僚の状況判断の大いなる違いだと言えます。

(つづく)

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