武器になる「状況判断力」(23)

軍隊式状況判断からOODAループへ

はじめに

前回の謎解きは、「海上自衛隊が金曜日にカレーを食べるのは有名ですが、これはなぜか?」です。

これは「海上自衛隊では、長期の海上勤務で「曜日感覚」が失われることを防ぐため、毎週1回カレーを部隊食として出していた」という説があります。

しかし、カレー食は明治初頭の日本海軍からの伝統です。当時の海軍は慢性的な栄養不足から脚気に悩まされており、兵食改革も喫緊の課題でした。そこで、イギリス式の兵式を採用していた海軍は、英国海軍で採用されていた栄養豊富なカレーを食べることも取り入れ、どうやらそれが慣習化したようです。

つまり、よく言われる「曜日感覚を忘れないため」は、いつの頃からか規則的(週末)に食べる慣習が定着してからの後付けの説明のようです。

なお、海上自衛隊で週休2日制が導入されて以来、カレーを食べる日は土曜日から金曜日となりました。

本連載では、まず目的(行動の理由)を確立して、その後に目標を立てることが重要であり、そうすることが誤った目標の設定を回避できるなどを述べたてきたと思います。

ただし、直面する問題のすべてにおいて、目的、つまり行動の意味や理由を考えようとすると人の行動は億劫(おっくう)になります。目的は最終的には行動によって達成されるのですからこれでは本末転倒です。

個人の問題では、自分にとっての好きなこと、直観的にすべきことを最初に行なえばよいということも多々あります。その行動が結果としてよければ、もっともらしい理由をつけて定着、普及させればよい。
すなわち目的は後からついてくることもあり得るということなのです。実は、このことを言いたかったのが、この謎解きを出した狙いです(?)。

海上自衛隊のカレーもその一つ。GPSの時代に「曜日感覚」もあったものではありません。皆さんは不思議だと思いませんか。疑問ではないですか?

疑問であれば、どうして続いているのか考えてみる。金曜日にカレー食にすれば、主食と副食の食器は一つで、食器洗いも簡単であるので、週末外出がすぐにできるから、あるいは次週のための準備ができるから、これらが本当の目的かもしれませんね。
(笑い)

実は、本当のところ私の謎解きも似たようなものです。「今週は何か面白いネタはないかな?」と考え、まず頭に浮かんだものを採用する。しかし、これでは単なる“なぞなぞ爺さん”になってしまうので、後からもっともらしい出題の理由(狙い)を考える。
要するに理由の後付けです。

情報分析をやっていて思ったことですが、偶然に起きることの因果関係を追いすぎて誤って解釈するということがよくあります。物事の発生に原因と結果の因果関係が常にあるのではなく、偶然の所産であることも結構多いのです。理由がないので、理由をこじ付けても当たらないわけです。

最後の謎解きの出題です。「なぜ、正月には子供にお年玉をあげるのか?」です。これは、知っている人は知っていますし、調べればすぐわかります。

調べても構いません。でも、本当の謎解きは、この出題から私がどんな教訓じみたものをアウトプットとして皆様に伝えるかという点です。

これが、わかれば、本連載の意義はあったということです。

さて、今回でラス前とします。これまで述べてきた軍隊式「状況判断」の利点、欠点などを述べて、最近ビジネスの世界で、にわかに注目されているOODA(ウーダ)ループの登場経緯などについて解説します。

(1)軍隊式「状況判断」の利点・欠点と、その活用場面

▼米軍式意思決定法の利点

 第一に、軍隊式「状況判断」(米軍式意思決定法)は、米軍がそもそも採用した理由からも類推できるように、実戦経験や知識のない者でも、マニュアルで可視化された論理的な手順を踏まえれば、正しい結論が得られるという点にあります。すなわち、百戦錬磨の指揮官も士官学校での初級将校も同じ結論に至ることができます。

第二に、経験豊富な者であっても直観的思考に頼ってばかりでは、いつのまにか状況が変化していても、「現状維持バイアス(状況はいつもと変わらないと考えること)」などが影響して判断を誤ることになります。
この論理的な手順を順次に踏むことで、判断ミスを低減させる効果があります。また、手順を振り返る(フィードバック)ことで、どこで間違えたのかという失敗の教訓を積み重ね、それが組織で共有することができます。

第三に、指揮官と幕僚が同一の手順を踏むことで、複数の幕僚の判断を取り入れ、指揮官単独の判断よりも客観的かつ微細な判断ができます。
指揮官が気づかない行動方針が幕僚から提出する、指揮官が考えていた行動方針の欠点やその対策などが明らかになったりします。つまり、「集団の英知」が発揮できます。

第四に、上級指揮官や国民などに説得力のある説明が可能です。指揮官には部隊の損害や部下将兵の犠牲を最小限にするための作戦であること、あるいはあったことを説明する責任があります。
合理的な手順を経て作戦を実施する、あるいは実施したと説明することが周囲を納得させ、執拗な批判の回避につながります。

第五に、組織員が同一の思考手順を踏むことで、組織内での意思疎通や意見交換が活発になるほか、他組織との共同連携が可能となります。
事実、米軍が開発した状況判断の思考過程の手順は、自衛隊のみならずドイツやフランスの軍隊、米国と同盟関係にあるカナダ・オーストラリア・韓国の軍隊もこの手順を学んでおり、それが訓練や実践の場での共同を円滑かつ実効性あるものにしています。

▼米軍式意思決定法の欠点

 第一の欠点は、米軍式意思決定法は地域や彼我の状況把握を前提とする思考方法であるため、状況の不明度が高くなるにつれ、論理的な思考手順を踏むことができない点です。
作戦開始前には、我が部隊の能力と作戦地域に関しては確実な情報が入手できますが、敵に関する情報(敵情)はなかなか上がってきません。
敵の単位が国家のように大きければ、国力や軍事力、国民性、慣用戦法、最近の類似事象などから敵の可能行動を予測できますが、テロ組織のように敵部隊の単位が小さくなるにつれて敵情把握は困難となり、軍隊式状況判断は役に立たなくなります。

第二に、軍隊式状況判断は任務分析を最優先し、任務を基礎に行動方針を選定する方法のため、状況の不明を理由に無理な目標を設定に固執するという点です。
前述のとおり、敵情は接触する以前にはなかなか明らかにならないことが多いので、任務への整合性ばかりを重視して、敵情判断を疎(おろそ)かにして、実行の可能性を無視した行動方針が採用される可能性があります。

第三に、複雑かつ詳細で面倒であり、時間がかかりすぎるという点です。これでは、次々と新しい状況が生起する現実の作戦戦闘では役に立ちません。
とくに現代戦は、個々の戦力がC4ISRで連接され、目標情報が同時かつ多様に出現し、迅速性な意思決定が求められます。このような現代戦には第二次世界大戦時に創設された軍隊式状況判断ですべてに対応することが困難になっています。

▼さまざまな場面で活用が可能

第一に、状況を幅広く考察して、彼の可能行動を案出し、彼我の対抗シミュレーションによって最良の行動方針を選定する手法は、国際情勢を判断して国家安全保障戦略を立てるなどの場面でも活用できます。

筆者は情報分析官として国際情勢の判断などに携わってきましたが、この種の分析手法は軍隊式状況判断の思考手順と非常に類似しています。つまり、初級幹部の時代に学んだ戦術の思考手順、特に状況の把握や敵の可能行動の列挙は国際情勢の分析や判断に役立ちました。

第二に、ビジネスにおける経営戦略や経営ビジョンを立案するなどでも役立つと考えます。安全保障環境もビジネス環境もよく類似しています。ともに競争原理が働いているので、彼我の対抗シミュレーションによって行動方針を選定する要領はビジネスでの競合他社との関係において役立つといえます。また、任務分析のやり方は、経営戦略やビジョン、さらには目標を組織で共有する上で役立つと考えます。

第三に、組織(集団)教育の場で活用できます。軍隊式「状況判断」は、共通の思考手順に基づく論理的思考法であり、マニュアル化されているので、誰もが容易に理解できます。
つまり、組織員が共通の土俵での教育・訓練を通じて、相互に切磋琢磨する中で個々の判断力を向上させることができ、組織全体としてのノウハウを蓄積することで、総体的な判断力の強化につながります。

第四に、個人や組織員の直観を鍛えることができます。「直観は、不可視を可視化する、暗黙知を形式知に置き換えることで養成される」旨を述べましたが、マニュアル化された思考過程を教育・訓練や実践場面で繰り返し活用することで達人が持ち合わせている直観やクードゥイユ(戦略眼)を少なからず養成することができると考えます。

ただし、米軍式意思決定法をさまざまな場面で活用するには、その本質をよく理解し、場面に合わせた応用が必要です。すべてにマニュアルどおり教条的に適用することは意味がありません。

(2)OODA(ウーダ)ループの登場

▼米軍は新たな意思決定法「OODA」を確立

米軍は、第二次世界大戦時に開発した意思決定法(軍隊式「状況判断」)を50年近く将校教育の中心に位置づけてきました。

ところが、1987年にジョン・ボイド(※)が開発した「OODAループ」が米軍の意思決定法に変革をもたらしました。

空軍パイロットであったボイドは1975年に空軍を退役し、その後はどの研究機関にも所属せずに個人で研究を続けました。彼は、第二次世界大戦のドイツの電撃戦の研究から、1987年に「OODA」を発表しました。

OODAは、「Observe(観察)」、「Orient(状況判断)」、「Decide(決定)」、「Act
(行動)」の頭文字四つで構成されています。(中村好寿『米軍意志決定の技術』の翻訳)

ただし、これら英語の翻訳にはさまざまあって、特に「Orient」は「状況判断」「情勢判断」、「方向性の決定(『ドイツ電撃戦に学ぶOODAループ超入門』)」「方向づけ」などと翻訳されています。

以下、私はOODAを解説する場合に、最も体を表している「方向性判断」と訳することにします。

米軍の中では米海兵隊が最も早くOODAに共鳴し、1989年にドクトリンとして採用しました。湾岸戦争ではボイドの意思決定論に沿って、迅速な機動展開によりイラク軍を包囲し、イラク軍の戦意を喪失させました。

そして1990年代に入り、米軍がRMA(軍事革命)を推進する中で、ますます迅速な判断や決断が求められるようになりました。

かくしてOODAが米陸・海・空軍の意思決定法としても導入され、2000年代のアフガン戦争やイラク戦争、対テロ作戦などの作戦ドクトリンとして採用されるようになっています。

突然の事態や難局に直面した際、多くの指揮官は直観的思考による即時判断で難局を乗り越えてきましたが、それは可視化されず、組織として共有されませんでした。しかしながら、ボイドの研究により、軍隊式「状況判断」では対応できない、一局面、一時点の「作戦実施型」の意思決定をリードする思考法としてOODAが誕生したのです。すなわち、それまで直観的思考法に依存する、あるいは米軍式意思決定法の一部だけを切り取る意思決定に対し、新しい可視化の概念が誕生したのです。

(※)ジョン・ボイド(1927~1997年)。
戦闘機パイロットとして24年間、米空軍に奉職し、
朝鮮戦争ではF-86のパイロットとして従軍し、撃
墜王の名をはせた。その後、教官となったボイドは、
パイロット仲間から「40秒のボイド」と呼ばれるよ
うになる。模擬演習で、空軍のみならず、海軍や海
兵隊の一流パイロットたちをいつも40秒で撃墜した
からである。
ボイドはパイロットとしての技術面だけでなく、理
論面でも優れていた。彼が大尉の頃に書いた『空中
戦研究』は、米空軍の公式原則(ドクトリン)とし
て採用された。また彼は、自ら開発したEM(エネ
ルギー機動性)理論をもとにF-15とF-16を設計に
関わり、「F-15とF-16の父 」とも呼ばれている。

▼ボイドが着目したドイツの機動戦

戦争の目的は我の意思を敵に強要することです。そのために米軍は従来、主として火力を集中して敵の将兵、装備品、軍事施設などを物理的に破壊することを目指してきました。

このような戦いを「消耗戦(Attrition Warfare )」と呼びます。これに対するのが「機動戦(Maneuverwarfare)」であり、火力ではなく主に機動により遂行される戦いです。

ボイドは第二次世界大戦でドイツの電撃戦に注目しました。電撃戦は機動戦の理論に基づいています。
ドイツのハインツ・グデーリアンは、航空部隊による近接航空支援との連繋の下で、相手の陣地防御に対して機甲部隊に縦深突撃を実施させ、ただちに敵の側面と背後に戦力を展開して包囲が完成するよう作戦を指揮しました。

1940年のフランスへの侵攻は、唯一の真の電撃戦といわれています。ドイツ軍のA軍集団が、マジノ線に対処するC軍集団と、欺瞞のためのB軍集団の支援を受けて、錯雑地であるアルデンヌの森を通過し、フランス陣地を突破し、フランス軍に対応の暇を与えずに包囲し、イギリス軍を大陸から撤退させフランスを屈服させることに成功しました。

ただし、ボイドがこの電撃戦から着目した機動戦は「機動力を発揮した消耗戦」ではありません。つまり、電撃戦の勝利は意思決定の速度の優越によって、敵に対して不利な態勢を強要して、戦闘意思を喪失させることにあると考えたのです。

「機動力を発揮した消耗戦」との違いを明確にするために「機略戦」(北村淳『アメリカ海兵隊のドクトリン』)とも訳されています。

ボイドは第二次世界大戦で、戦力で劣っているドイツ軍が意思決定のスピードでフランス軍を上回ったことが電撃戦の勝利につながったと分析し、この〝高速型意思決定〟の普及を開始しました。

ではボイドが提唱した「ボイド理論」とは、どのようなものでしょうか?

これについては次回(最終回)で解説することとします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA