武器になる「状況判断力」(19)

敵の可能行動を妥当性から考察する

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

前回の謎かけは、「なぜ、無料ロッカーの鍵は100円玉が必要なのか?」です。娘に質問したら、100円を使用させるため、一度100円を使ったらジュースなどに使用したくなるから、という応答でした。
でも、この問いかけをしたテレビでは、「顧客に対しロッカーの使用を1つに限定する」ためだと言っていました。

100円玉の無料ロッカーは銭湯などに設置されていますが、もし100円玉方式でなければ、一人でいくつものロッカーを使用する人がいるのだそうです。

実は私も、某所の「日帰り温泉施設」に行く時には、ゆっくりと時間を過ごすために、PCや本をもって行くのでロッカーを2つ使用します(そこは100円玉のいらない無料ロッカーです)。

しかし、100円玉方式の入浴施設では、100円玉をいくつも用意するのが面倒なので、1つのロッカーに荷物を詰め込んで済ませます。

テレビで「なぜ、無料ロッカーの鍵は100円玉が必要なのか?」と改めて問われ、それに対する回答を聞いて、自分の行動を振り返り、思わず「なるほど!」と唸ったのです。

無意識に行なっている行動の意味をなぜかと考えることは、人の行動特性などが認識でき、さまざまな問題解決のためのアイデアを生むかもしれません。

今回の謎かけは、「太平洋戦争末期、敗色濃厚の日本に対し、アメリカはなぜ徹底的な日本本土への空爆を行なったのか?」です。これは、ある著書からの出題ですが、そこには人間と組織の性が潜んでいることを思い知らされます。少し難易度は高いと思います。

さて、前回は敵の可能行動を兆候から考察することについて述べましたが、今回は妥当性から考察することについて解説します。

▼敵の可能行動を妥当性で考察

敵の可能行動は兆候に加えて妥当性で考察します。妥当性は情報の正確性を評価する際に「そんなことがあり得るか?」という尺度です。

また、妥当性は「戦術的妥当性」「戦略的妥当性」という複合語でよく用いられ、彼我の行動の是非を判断する尺度でもあります。「その戦略や戦術が目的に合致しているか?」「その戦略・戦術が可能か?」といった具合です。

妥当性という尺度で敵の可能行動を考察することは、兆候のあるなしにかかわらず、地域環境の特性、相手側の慣用戦略・戦術、最近の特異な動向、国民性、指導者・指揮官の性格、法律制度なども考慮して判断するということです。

妥当性は、不可視である自己の内面の思考に基づく判断であり、兆候のように実際に目や耳で探知できる明確な根拠ではありません。

能力判断と意図判断でも言及したように不可視なものに基づく判断には先入主観が入り込みやすいのです。だから能力ベースに基づいて意図を判断することが基本であるように、まず兆候で判断して、その後に妥当性という尺度でその判断を見直すことが原則となります。

つまり、「兆候上はこのような可能性がある」とはっきり述べて、その上でそれを反駁する情報がどの程度有力であるかを検証します。

作戦レベルでは、敵指揮官の性格や慣用戦法などは、結局のところ衝突するまでは不明です。だから、実際に目に見える兆候がより重要です。しかも兆候と重大な行動との因果関係が密であり、兆候は重要な指標(インディケーター)になります。

よって、まず兆候で敵の可能行動を立証し、兆候上から採用公算の順位を判断(判定)します。その後、戦術的妥当性の観点から採用公算の順位を見直すことになります。

▼妥当性を考慮重要することの理由

兆候は次なる重大な行動を予測するための指標ですが、その兆候があまりも少ない場合には妥当性の判断に委ねるほかありません。

また、兆候ばかりの判断では「木を見て森を見ず」の視野狭窄に陥いて大局判断を誤ることになります。
一方向ばかりの兆候が出現し、相手側の秘密保全により重点正面の兆候が発見できずに全般判断を誤る、あるいは相手側の偽情報に踊らされて誤判断に陥ることになりかねません。

さまざまな兆候から、相手側の戦略・戦術が推量されても、著しく妥当性を欠く場合があります。この場合、その兆候は偽情報、すなわち欺瞞として処理する必要がでてきます。

たとえば攻撃開始を示す事前の兆候があったとしても、その攻撃が著しく戦術的な妥当性を欠く場合、その兆候は陽動として処理します。これが妥当性の尺度を用いる意義です。

▼妥当性の誤り

情報分析の実務においては、妥当性の判断を誤るケースが多々あります。第四次中東戦争において、イスラエルは多くの兆候をつかんでいましたが、エジプトによる軍事侵攻の可能性を否定しました。

イスラエルの軍事常識ではまず航空優勢を確保した後に軍事侵攻を行なうのが原則です。だから当然「エジプトもそうであろう!」と考えました。つまり「エジプトは航空優勢を確保するために攻撃機とスカッドミサイルをソ連から輸入しようとしている。
それが輸入され、配備されない状況での侵攻はない」と判断しました。

しかし、エジプトのサダト大統領はスエズ運河沿いの防空網の外に部隊を進出させない限定的な作戦を実行しました。つまりスカッドミサイルや攻撃機に頼らない作戦を選択したのです。

人は誰でも「常識」という判断尺度をもっています。専門家や知識レベルの高い人になればなるほど「常識」を振りかざします。すなわち「妥当性」という判断尺度を過信して、重要な兆候を見逃してしまうことがあります。

そのため各国情報機関などは対策を考え、今日では妥当性を検証する分析手法として代替分析やリンチピン分析などが案出されています。

▼妥当性の判断が奏功したケース

前述のとおり、兆候と妥当性の判断が異なった場合は兆候を優先するのが原則ですが、妥当性の判断によって兆候とは異なる、正しい結論を導き出した事例も多々あります。

1962年のキューバ危機では、ソ連はキューバに核ミサイル基地を建設していました。当時、ソ連は米国に対して核攻撃をする能力を有しており、米国もそのことを知っていました。つまり、ミサイル基地は核攻撃の明確な兆候となり、核攻撃もソ連の可能行動の1つとして取り上げられました。

当時のケネディ政権は次のように考えました。「ソ連が採用する可能行動の第一は、中距離核ミサイルの配置による米国への政治牽制であろう。核攻撃を行なえば、米国から核による反撃を受けることをソ連は知っているはずである。
だから、キューバにミサイル基地を設置しても、ソ連が核攻撃を行なえば、米国を政治牽制するというソ連の当初の目的は達成できない。ソ連が核攻撃を行なう意図はない」と判断し、ソ連による核攻撃という可能行動は排除しました。

太平洋戦争中の大本営参謀の堀栄三少佐は、米軍によるフィリピンへの上陸地点の予測を命じられました。彼は「リンガエン湾、ラモン湾、バンダガスの3か所の上陸地点を考察し、まず兆候上から「リンガエン湾とラモン湾に上陸する蓋然性が高い、とくにラモン湾の蓋然性が高い」と判断しました。

しかし、堀少佐はマッカーサー司令官になったつもりで再検討しました。つまり、(1)米軍がフィリピン島で何を一番に求めているか(絶対条件)(2)それを有利に遂行するにはどんな方法があるか(有利条件) (3)それを妨害しているものは何であるか(妨害条件) (4)従来の自分の戦法と現在の能力で可能なものは何か(可能条件)の4つの条件に当てはめて再考したのです。

その結果、堀少佐は当初の判断を訂正して、「リンガエン湾への上陸の蓋然性大」との最終判断を下し、米軍の行動を見事に的中させました。

堀少佐は、妥当性を絶対条件、有利条件、妨害条件、可能条件といった基準に分解し、妥当性の判断を行ないました。

よく妥当性の判断の基準としては、整合性(適合性)、可能性、受容性の3つが用いられます。これは我が行動方針を選択する際の基準でもあります。

次回は我の行動方針の列挙および彼我の行動方針の比較などについて解説します。

(つづく)

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