武器になる「状況判断力」(15)

相対的戦力を比較する

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□はじめに

前回の問いは、「なぜ日本は左側通行になったのか?」です。これをなかなか難問であり、歴史の蘊蓄(うんちく)がなければ解けません。

左側通行は世界の少数派です。ではなぜ日本がその少数派になったかと言えば、江戸時代に遡ります。当時の日本には狭い道が多く、通行も容易ではありません。武士は左腰に刀を差していたので、右側を歩くと人とすれ違った時に刀がぶつかってしまい、ケンカが絶えなかったようで。だから、お達しで左側通行になったということです。

このように「なぜ、なぜ」を繰り返し、根本的原因に遡るのがトヨタ式「なぜなぜ分析」と言います。根本原因を探り、そこから改善していくという思考法です。

今では刀を差す必要もないし、左側通行は必ずしも意味はありませんが、すでに自動車は右ハンドルになって、信号は向かって青、黄色、赤になっています。今さら左側通行を右側通行に直すのも意味はないですね。

今回の問いは、「福岡市は人口増大、成長目覚ましい。神戸市は人口減少、衰退の一途。ともに政令指定都市の中堅であった両市は対照的な状況。これはなぜ?」です。これは、少し考えればわかるかもしれません。

では本題です。今回は、軍隊式「状況判断」の第2アプローチの「状況および行動方針」の3回目です。

▼相対的戦力で勝利の法則を得る

軍隊式「状況判断」では、「地域」「敵」「我」の状況を認識したならば、その次に相対的戦力を考察、比較します。

相対的戦力といえば、筆者が学んだ陸自の初級戦術では、敵と味方の兵力、戦車、火砲などを定量的に比較し、「我vs敵」は機動力で3:1とか、火力で1:1であるとかという具合に戦力の格差を可視化し、たとえば機動力が優位ということを認識して、その優位性を利用できる行動方針を決定したという記憶があります。

相対的戦力のアプローチでは敵と我を作戦地域という〝土俵〟に置いて、目標を達成するために、敵と我が使う手段を総合的に考察・比較し、敵と我の利(長所)と不利(短所)を明らかします。つまり、「どちらが、どの点(時点、分野、領域)において、どれだけ優れているか」ということを明らかにし、敵や我の行動方針を案出するための基準にします。

相対的戦力を考察、比較する狙いの1つは、我が部分的であれ、敵に有利な態勢を作る、あるいは敵の弱点を捕捉するという点にあります。つまり、相対的戦力が明らかになれば、我は戦力を敵の非重点正面に対して集中する、不必要な戦力は節用することができます。さらには、敵の弱点を突いた奇襲も可能となります。

戦力の集中と使用、および奇襲はいずれも「戦いの9原則」(目的、主動、集中、戦力の節用、機動、統一、奇襲、簡明、保全)の要素です。すなわち、相対的戦力を算定することは勝利の法則を得るために重要なのです。

▼無用な戦いを回避する

相対的戦力の算定において、勝利の法則を得る以上に大切なことがあります。それは、無用の戦いをしない、あるいは敗戦が確実になるとわかれば潔く撤退する、さらには我の優位性を宣伝戦で強調するなどで、つまりは「戦わずして勝つ」ことです。

『孫子』では、「廟朝(作戦会議)して勝たざる者は、算を得ること少なければなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。しかるをいわんや算なきにおいてをや。我これをもって勝負を知る」とあります。

これは、「戦う前に彼我の国力を算定・比較し、勝算が少なければ負ける。まして勝つ要素が全くないのに戦争をすることは愚かである」という意味です。

そもそも戦争の勝敗は、彼我の戦闘力の優位によって決まります。先の太平洋戦争で、日米の国力や軍事力に関し、児戯(じぎ)に等しい判断がなされ、そのことが敗戦の決定的な要因だと言えます。

ただし当時から、米国の国力が巨大であるとの認識はありました。問題は「米国は自由主義で団結力がなく、戦況が悪くなれば容易に和解に応じるだろう」などの希望的観測に基づいて、米国国民の団結、士気などの精神要素を過小評価したことです。そこには、日中戦争における中国軍(蒋介石軍と中共軍)との戦いで「日本軍は勇敢で団結している、中国軍はバラバラで臆病」などいった過小評価の類似思考があったといいます。こうしたことが、米国や米軍の戦力を過小評価し、無謀な戦争に打って出るという誤判断をもたらしました。

彼我の国力や軍事力を算定し「戦う前に勝敗を知る」、すなわち「無用な戦いを回避する」ことが平時における戦略的情勢判断の大きな目的です。では、その算定はどのように行なうのでしょうか?

▼軍事作戦での相対的戦闘力の算定法

陸上作戦を扱う米軍マニュアルや自衛隊『野外令』に基づけば、相対的戦闘力の算定は、兵力、編組、配置、兵站および最近の注目すべき活動などから、敵と味方の特性や弱点を分析します。ただし、作戦規模の拡大し、広範囲となり総力戦になるにつれ、政治的要因、経済的要因、心理的要因などの軍事的要因以外の比重(一般的要因)が大きくなります。

ここでは米国海軍大学の教科書『サウンド・ミリタリー・デシジョン』(1942年)の翻訳本『SOUND MILITARY DICISION勝つための意思決定』(1991年)を基に、相対的戦力を比較するための要因とその考察要領をみていきましょう。

▼相対的戦闘力の比較・考察要因

同著の状況判断フォームは、以下のような構成になっています

A 与えられた目標の選定

   細部略

 B 相対的戦闘力(目標を達成するための敵・味方が使う手段の比較)

  • 敵・味方の手段の調査
  • 一般的要因
    • 政治的要因、②経済的要因、③心理的要因、④情報活動と対情報活動
  • 軍事に関する事項
    • 艦船と航空機、②陸上部隊と陸上を基地とする航空機、③要員、④資材、⑤後方支援
  • 戦場の環境の調査
  • 水路、(b)地勢、(c)気候、(d)昼と夜の時間、(e)相対的位置と距 

離、(f)輸送路と補給路、(g)施設と固定防備、(h)通信

  • 相対的戦力の結論

1 目標達成の土台づくり─情報の収集

 A  与えられた目標の選定

   (細部略)

 B  相対的戦闘力(目標を達成するための敵・味方が使う手段の比較)

(1)敵・味方の手段の調査

(a)一般的要因

①政治的要因、②経済的要因、③心理的要因、④情報活動と対情報活動

 (b)軍事に関する事項

①艦船と航空機、②陸上部隊と陸上を基地とする航空機、③要員、④資材、⑤後方支援

(2)戦場の環境の調査

(a)水路、(b)地勢、(c)気候、(d)昼と夜の時間、(e)相対的位置と距離、 (f)輸送路と補給路、(g)施設と固定防備、(h)通信

(3)相対的戦力の結論

2 整合性、達成可能性、負担可能性のある方策の決定

 (細部略)

3  敵能力の調査

 (細部略)

4 最善の方策の選定

 (細部略)

5 意思決定

 この状況判断フォーラムは太平洋戦争中の米海軍大学の教科書に掲載されたものであり、当時の戦争と現代戦の様相は異なりますが、全体的なイメージは今日でも十分に通用するものと考えます。

▼相対的戦力の考察要領

相対的戦力について、同著の記述などを踏まえて補足します。

まず、一般的要因を考察、比較した上で、軍事的要因(軍事に関する事項)を考察、比較します。これは「アウトサイド・イン」分析の思考法です。

一般的要因では、政治、経済、心理、情報・対情報の各要因あげていますが、大規模な戦略的決定では政治条件や経済的要因の比較が極めて重要です。国家は政治的な大義に突き動かされる、経済的利益を求めて行動するものだからです。

一般的要因の考察では、目に見えるもの、定量的に算定できるものだけではなく、国家の技術力、国民の意志・感情などの精神要素も重要です。これは、前述の太平洋戦争前における米国国民の士気を過小評価したことが失敗の要因として教訓になります。

経済的要因では、石油の備蓄量や年間総生産量などの物量的な比較だけに留まらず、国民による戦争への支持、軍需生産への協力体制、兵站・補給体制、技術開発力などを考察することが重要です。

  軍事的要因の比較では、兵力や装備の定量的比較だけでなく、敵の指揮官の個性や要員の訓練・士気・熟練度などの不可視要素も重要となります。しかし、敵の士気などは戦うまではわからないのが通常です。よって我と同等と判断するか、もしくは過去の戦闘経験、現在の組織の規律維持の状態などの不可視の周辺にある可視化できる要因を比較します。

また、技術革新などを考慮し、過去情報に基づく既成概念から敵の装備品の到達距離、数量、耐久力、機動力、補給力は過小評価しないことが肝要です。

一般的要因と軍事的要因の比較が終わったならば、これら影響を及ぼす戦場環境を考察し、それを一般的要因と軍事的要因に反映させます。戦場要因は戦争が総力戦になるにつれ、影響を及ぼす地理的要因を幅広く考察します。

以上の過程を終えて、想定的戦力の結論では、項目別に彼我の強みと弱みをまとめて一覧表にします。

ただし、どんな項目を列挙して比較するかは、状況判断のレベル、状況(作戦の性質、時間推移など)によって異なります。一覧表にどのような項目を記入するかは指揮官の判断によります。

たとえば、中台間の戦争を想定すれば、中国の全陸上兵力と台湾の陸上兵力をそのまま比較しても意味はありません。中国はインド、朝鮮、ロシア、国内治安対処のための陸上兵力を拘置しなければならないので、台湾に全てが指向できるわけではありません。さらに双方は200km以上の台湾海峡を隔てていますので、中国から経海、経空による台湾に上陸できる陸上兵力は限定されます。このように作戦や地域に応じて、中国と台湾の現実的な陸上兵力を比較しなければなりません。

一般的に、戦略的な状況判断(戦略情勢判断)よりも、局地的で戦術的な状況判断の方が強み弱みの要因を確定しやすいとされます。というのは、艦戦の速度や航空機の数などが定量比較できるのに対し、敵の後方支援上の問題が自軍と比べてどうであるかなどの比較は困難だからです。

(つづく)

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