武器になる「状況判断力」(14)

状況の変化を捉える

インテリジェンス研究家・上田篤盛(あつもり)

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□はじめに

 前回の謎解きは「ここ最近、松屋は値上げ、吉野家は減収、すき家が一人勝ち。その理由は?」でしたね。

 答えは、「この中で、すき屋だけが郊外型だから」です。吉野家も松屋も駅近て通勤者がターゲット、すき屋はマイカーでの家族連れもOKなので、コロナ禍のテレワーク以降は「牛丼を食べるならば、すき屋で」という流れになったようです。

 

前回の本文中でも述べましたが、勝負には「天」と「地」を知ることが重要です。「天」とは時間的、流動的で状況や時機(タイミング)を指し、「地」とは固定的な地理環境、つまりここでは上述のような立地条件を指します。地理環境の有利、不利は状況や情勢によって変わる、地理的な位置関係は変わらずとも、その価値つまり利・不利は不変ではないのです。

今回の謎解きは、「なぜ日本は左側通行になったのか?」です。以前、日本の信号機が向かて左から青、黄色、赤になり、東京など(大阪という例外を除く)のエスカレターでは左側立ちで右側から抜いていくという事例を挙げましたが、そもそも、「日本はなぜ左側通行だったのか?」を考えてみようということです。

さて、前回から、軍隊式「状況判断」の第2アプローチの「状況及び行動方針」に移りましたが、今回はその2回目です。

▼「アウトサイド・イン」思考とは

状況には「地域」、「我」、「敵」の3つがありますが、この思考手順は、地域の特性、敵情、我が状況の順に考察して、最後に相対戦闘力を明らかにします。

しかしながら実際には、おおまかに敵を意識する、次いで我を意識する、そして敵と我を地域という土俵の上に置いて、敵と我の利・不利などを考察して、相対戦闘力を算定するというのが一般的です。

作戦では、地域とは気象と地形に大別できます。これは『孫子』の流動的な天(気象)と固定的な「地」(地形)に相当します。国家安全保障では「気象」は国際情勢に置き換わり、地形は地理的環境となり、ビジネスでは「気象」は経営を取り巻く情勢や時機(タイミング)となり、「地形」は立地条件やサプライチェンーンなどになるでしょう。

気象は流動的であり、地形は固定的ですが、流動的な気象が固定的な地形に影響を及ぼします。たとえば、錯雑地は夜間には機動障害になりますが、日中のそれは隠蔽良好な機道路になります。

このことはビジネスでも同様であり、コロナ禍ではテレワークが主体となったため、これまで駅近型の「吉野家」や「松屋」に先行を許していた郊外型の「すき屋」が売り上げを伸ばし〝独り勝ち〟になったりするのです。

つまり、地形や立地条件という固定的な状況も実は質的な変化を起こしているのであって、状況を認識するとは変化を読み取ることにほかなりません。

安全保障やビジネスでは問題の周辺に位置する環境を幅広く考察する必要があります。グローバル社会では様々な事象が影響を及ぼすため、「網を大きくかける」ことで、状況判断のための重要な要因を見逃さないようにします。そして、前述のとおり、流動的な情勢の変化をとらえ、それが彼我に及ぼす影響を考察します。

▼「アウトサイド・イン」思考

ビジネスを例に、環境を幅広く捉え、変化する情勢を捉えるためのポイントを考えてみましょう。

ビジネスの問題を取り巻く環境は大きく「外部環境」と「内部環境」に分けられます。外部環境は「マクロ環境」ともいい、世界的な潮流ないしは社会全体を指します。つまり、これが軍隊式「状況判断」で言うところの「地域の特性」になります。

これに対して内部環境は、業界内部の環境や自社の環境のことです。ここには軍隊式「状況判断」の敵、我という要素が入ってきます。

最近では、すでに把握している内部要因をもとにする「インサイド・イン」から、外部要因を幅広く考える「アウトサイド・イン」に変えることが推奨されています。これを「アウトサイド・イン思考」もしくは「アウトサイド・イン分析」といいます。まず最も大きな単位である世界について考え、それから少しずつ業界内部や競合他社、自社の能力といった身近な内部環境に着目していき、最後に自社の戦略・戦術などへの影響を考えていく思考法です。

なぜこうした思考法が重要かといえば、外部環境、すなわち世界のメガトレンドが内部環境を変化させることは往々にしてあるのに対して、その逆のパターンというのは、通常は起こりにくいからです。

アウトサイド・イン思考がいかに大事かを示すエピソードに、世界最大の写真用品メーカーであったコダックの例があります。同社は世界で最初にロールフィルムやカラーフィルムを開発したようにアナログフィルムのイメージが強い会社ですが、実は1975年に早くも世界初のデジタルカメラを開発しました。実はデジタル写真に関してもきわめて高い技術力を有するメーカーだったのです。

しかし、コダックの上層部は、自社に巨大な成功をもたらしたアナログ写真の需要を過信するあまり、自社のデジタル技術を市場に売り込む努力を怠りました。つまり、「社会や顧客が急激にペーパレス、デジタル化を求めている」といった外部環境の変化を見落としたため、結果としてコダックはデジタル化の波に乗り遅れ、2012年には倒産してしまったのです。

▼目的の確立は「インサイド・アウト」

 このように「アウトサイド・イン」思考は近年その重要性が重要視されていますが、間違えてはならないことは、「何をなすべきか?」「なぜそれをするのか?」といった目的の確立は「アウトサイド・イン」思考では出てきません。

何をなすべきかは、第1アプローチの「任務分析」により導き出しますが、軍隊式「状況判断」は作戦レベルについて規定するものだから、任務(使命)は上級指揮官から与えられます。だから、自らは上級指揮官の意図を目的として、与えられ任務を分析し、その目的に従い任務を達成するためにはいかなる手段を講じるべきか、すなわち具体的に達成すべき目標を明らかにします。

しかしながら、戦略レベルの状況判断(戦略的情勢判断)では、自らの目的を何に求め、何をなすべきかを自ら問いかけ、思索することから始めなければなりません。すなわち、国家指導者、企業トップあるいは個人は「Policy making」や大綱決定を自分自身で行なわなければなりません。

自己がどうしたいかのか、どうすべきなのかは、それぞれの価値判断に委ねられるものなのです。だから国家指導者、企業トップが自らの目的を定めるのは、「インサイド・アウト」になります。これは個人の問題についても同様です。

▼フレームワーク分析とは?

「アウトサイド・イン」分析とよく併用される分析手法に「フレームワーク」分析があります。フレームワークとは「発想の枠組み」です「アウトサイド・イン」の「アウトサイド」をどこまでも拡大し、彼我の行動に影響する要素をあまりに多岐にアトランダムに抽出すると後で収拾がつかなくなります。また、重要な要素を見落とすことにもなります。

そこで、「アウトサイド・イン」分析と併用してしばしば用いられるのが、「フレームワーク」分析です。

そもそも分析とは「ある何かを、いくつかのより細かい要素に分ける」という作業であり、物事や現象は必ずそれより小さいいくつかの要素から成り立っています。その属性や特性を浮き彫りするために構成要素に分けていくことになります。

しかし、この時にただ闇雲に分けるだけでは意味はありません。分けた後にアイデア(影響要素など)が出しやすくなるように、強制的に発想の枠組み、つまりフレームワークを設ける必要があります。これが強制発想法の1つである「フレームワーク」分析です。また、構成要素を「お互いに重複せず、全体に洩れがない」ように分ける思考法を「MECE」(ミッシー=Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)と言いますが、「フレームワーク」分析は、このミッシーな思考を行なうための体系化された分析手法でもあります。

▼さまざまなフレームワークを知る

さて今日の社会では、さまざまなフレームワークがあります。国家安全保障の領域では、社会(Social)、技術(Technological、環境(Environmental)、軍事(Military)、政治(Political)、法律(Legal)、経済(Economic)、安全(Security)の8つの枠組みを想定する「STAMPLES」や、政治(Political)、軍事(Military)、経済(Economic)、社会(Social)、インフラ(Infrastructure)、情報(Information)の「PMESII」、外交(Diplomatic)、情報(Information)、軍事(Military)、経済(Economic)を想定する「DIME」などが有名です。

ビジネスにおいて外部環境を分析するためのフレームワークが「PEST」です。これは政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をつなげたもので、最近は、社会の中に含まれる環境(Ecology)を分岐させて、語呂がいいように語順を並び替えて「SEPTEmber」と呼ぶことが多くなっています。

他方、内部環境を分析するためのフレームワークには消費者(Customer)、競合相手(Competitor)、会社(Company)の「3C」、さらにこの3Cに集客のための媒体、経路(Channel)を加えた「4C」、そして、製品(Product)、価格(Price)、Place(販路)、販促(Promotion)から成る「4P」などがあります。

「競合分析」(Competitive Intelligence=CI)の創始者であるアメリカの経営学者マイケル・ポーターは、自社を業界のなかに位置づけるために業界内部の環境要因を、「新規参入者の脅威」「代替品の脅威」「買い手交渉力」「売り手交渉力」「既存競合他社」という5つの要素にわけて分析する「5フォース」を提唱しました。なおポーターは、この5つのうち最初の二つの脅威を外的要因、後の3つを内的要因に分類しています。

▼フレームワークの具体的内容を理解する

 こうしたフレームワークの項目を覚えるだけでは大した意味はなく、それぞれのフレームが具体的に何を表しているかもしっかり理解しておく必要があります。たとえば、「PEST」によるビジネス環境の認識では以下のような内容へとさらに細分化できます。ただし、この細部化の方法も画一化できるようなものではなく、自己を取り巻く環境や任務によって、常に内容の部分修正が必要となります。

◇政治(Politics)…国際政治、政府の法規制の強化・緩和、法改正、行政環境の変化、政府

の意向、補助金等による支援など。

◇経済(Economics)…国際経済システム、景気動向、株価・為替・金利、雇用情勢、経済成

長率など。

◇社会(Society)…人口動態、文化、世論、流行、ライフスタイル、自然環境、治安、宗教、言語など。

◇技術(Technology)…技術革新、代替技術、特許など。

▼情勢の変化に敏感になる

状況あるいは情勢は常に変化します。環境を認識するとは状況や情勢の変化を先行的に捉えろということです。これは戦争、ビジネス、個人の問題でも同様です。

ビジネスを例に、「PEST」に基づき、変化する情勢を捉えることの意味を考えてみましょう。

政治では国内の法律に特に注意します。法律が変わると、それまで合法的であったものが非合法になったりします。米国で銃規制などが行なわれると、たちまち銃の商売は上がったりです(規制される前に銃の売り上げは伸びますが)。

国際情勢の影響にも注意が必要です。米中対立により米国の対中包囲網が形成され、同盟国は5G設備で華為技術(ファーウェイ)など中国機器を採用できなくなりました。

経済では景気動向に特に注意する必要があります。景気は後退したり、インフレ気味となったりします。景気動向によって消費者の購入意欲は常に変化しています。

社会では流行に注意が必要です。一時的な流行はすぐに去ります。過去にはミニスカートの流行が終わり、ロングスカートが流行になったりしました。流行の後追いでは利益は上がりません。

また、レコードがCDになり、CDがアイポットになり、すっかりレコードは過去の遺物となった感がありましたが、一部ではレコードへのノスタルジーが起こり、レコードとステレオが高値で取り引きされる状況も生じています。

技術革新は新商品の開発、新規企業の市場参入を促進します。自動車の発明により、馬車は輸送手段の主役の座を失われ、スマホの発明によりデジタルカメラは主役の座を失われつつあります。IBM社は1960年代にコンピュータ部門で圧倒的なシェアを誇っていましたが、1970年代のパソコン(PC)の登場により、アップル社に代表される新規企業のPC市場への進出により、経営危機に陥りました。

このように状況判断を適切に行なうためには状況や情勢の変化を捉えることが重要なのです。

(つづく)

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