【武器になる「状況判断力」(11)

-目的と目標を使い分ける-

□はじめに

前回の謎かけは、「マンホールの蓋はなぜ丸いか?」でしたね。マンホールとは「人(マン)の穴」、つまり中で人が工事や排泄などの作業をします。丸い蓋は穴に落ちない、つまり安全だからです。長方形のホールであれば、ホールの短辺が枠の長辺より短いので落ちてしまいます。正方形も同様です(一辺が対角線よりも短い)。

では、構造的には円と四角はどちらが強いのでしょうか。実は四角形の方が構造的に強いようです。にもかかわらず、電柱はどうして円柱であり角柱ではないのでしょうか。これは、周囲の木が丸いので電柱も円形にしたようで、そこに合理性はないようです。

今回の謎かけは「1973年のオイルショックではなぜトイレットペーパーが不足したか?」です。コロナ禍ではマスクが不足しました。今はトイレの便座が入手できなくなっているようです。危機には、いつも何気なく使っているものが不足するようです。

逆に、「この頃、〇〇の値段が上がっていないか?」と気づくこと、それは世界の変化の兆候を発見することかもしれません。

今回は、任務分析の〝キモ〟というべき目的と目標の確立について解説します。

▼目的と目標との関係

任務分析における「目的」と「目標」との関係について考察しておきましょう。目的は「成し遂げようとする姿」であり、最終地点、すなわちゴールです。

それは「会社を今よりも大きくする」、「安定した暮らしをする」とか抽象的・包括的な表現になります。

一方、目標は通過点や目印であり、「今年の売上高は○○億円以上にする」とか、「国家公務員試験に合格する」とか、具体的な数値か状態で示されます。要するに、目的は抽象的、目標は具体的です。

一連の作戦などにおいて目的は一つですが、目標は複数存在します。たとえば、富士山の山頂がゴールだとすると、まずは5合目、次には7合目、さらに9合目というように、時間的あるいは段階的に先の目標があります。また、登山ルートも複数あるので、5合目の目標も複数あることになります。

軍事における目的は、米軍用語の「Purpose」に相当します。それは「使命(Mission)に示された取るべき行動の理由」(堂下哲郎『作戦司令部の意思決定』)の意味です。

だから、目的は最終目的(ゴール)という意味よりも、「取るべき行動の理由」として捉える方が核心をついています。他方、目標は目的達成のための「手段」として理解すべきでしょう。

そして目的と目標との関係は「~のため」を用いて一体的に捉えることが重要です。たとえば「安定した暮らしをしたいために(目的)、国家公務員試験に合格する(目標)」といった具合です。

目的がなければ目標は生まれません。だから、目的の確立はいかなる時代でも、どんな組織や個人でも最優先事項です。その目的は、個人や組織の人生観や価値観から湧き上がる「なぜ○○をするのか」、すなわちを「why」を意識することで主観的に確立すべきものです。どのように優れたAIであって目的の確立を代替することはできません。

これに対し、目標は目的が決まれば論理的な思考で客観的に導き出すことが可能です。やがて目標の選定はAIの独擅場になる可能性もなきにしもあらずだと考えます。

▼ミッドウェー作戦での目的と目標の混同

上述のように理論上、目的と目標の差異を説明できたとしても、現実には両者の判別は容易ではありません。特に状況が複雑な戦争局面などでは目標と目標がしばしば混同されます。

わが国が対米劣勢へと転じた〝分水嶺〟であるミッドウェー作戦(1942年)を振り返ってみましょう。

この作戦では、「敵機動部隊を撃滅する」、「ミッドウェー島を攻撃・占領する」のいずれが目的であり、目標であったのでしょうか?

太平洋戦争の全局からみれば、「敵機動部隊の撃滅」が目的であり、これを誘い出すための「島の攻撃・占領」が目標であるいえます。他方、ミッドウェー作戦だけを考えれば「島の攻撃・占領」が目的で、この行動を妨害する「敵機動部隊の撃滅」が目標になります。

ミッドウェー作戦では目的が不明確であったため、目的と目標の混同が起きていました。これに関して、名著『失敗の本質』は次のように記述しています。

「ミッドウェー作戦は米空母軍の出撃を誘出するための条件をつり出さなければならなかった。つまり、この作戦の真のねらいは、ミッドウェーの占領そのものではなく、同島の攻略によって米空母群を誘い出し、これ対し主動的に航空決戦を強要し、一挙に捕捉撃滅しようとすることにあった。

ところが、この米空母の誘出作戦の目的と構想を、山本(五十六)は第一機動部隊の南雲(忠一)に十分に理解・認識させる努力をしなかった。ここに、後世に至って作戦目的の二重性が批判される理由がある。」

つまり、一連の作戦に「米空母の誘出作戦」と「ミッドウェーの占領」という二つの目的があったことが失敗の原因であったと指摘しています。

▼山本の構想は南雲には理解されなかった

山本は「強大な国力を有する米国との長期戦は回避しなければならない。しかし、日本近海での『邀撃作戦』を取っていては米軍が主導権を握るので長期戦は回避できない。よって、自主積極的に米空母群への打撃を行い、米国海軍および米国民の戦争士気を喪失させる」といった意図(構想)を持っていました。

しかしながら、南雲はミッドウェー基地への攻撃(第一次攻撃、米空母の誘出作戦)した後も)、米空母群への攻撃に備えるのではなく、ミッドウェー基地に対する第二次攻撃を決心します。つまり、第一次攻撃後も米軍の空爆が止まないという状況に接し、一方で「ミッドウェー攻略中に米空母が出現してくることはあるまい」との希望的判断に依拠して、海軍航空機の装備を米空母の艦艇攻撃用(米空母機動部隊用)から地上攻撃用(ミッドウェー基地用)に切り替えたのです。

ところが、その時、日本海軍の索敵機から「敵ラシキモノ10隻ミユ」との情報が入ります。南雲は「空母を含む米艦隊が近くに存在することが確実だ」と判断し、ミッドウェーに対する第二次攻撃を取りやめ、再び航空機の装備を地上攻撃用から艦艇攻撃用に転換する決心をしました。

さらには帰還する第一攻撃隊を空母に着艦・収容することを、米機動部隊への攻撃よりも優先したため、逆に米軍機による先制爆撃を受けて、日本海軍は4隻の空母を含む主要艦艇を失ったのです。

南雲は上級指揮官である山本の構想を十分に理解していなかったのです。山本の構想は、南雲自身が行動を起こすための目的に相当します。つまり、南雲は山本の構想、すなわち南雲自身の目的を確立していなかったために、それを具体的な目標にブレイクダウンできなかったのです。ここにミッドウェー作戦の〝失敗の本質〟があります。

目的が未確立であったため、米空母が予想以上に早くミッドウェー海域に出現したらどうするかという対策もなく、情報収集の態勢、企図の秘匿や欺瞞の措置は不十分であり、現場での南雲の命令は二転三転してしまったのです。

(つづく)

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