判断力思考(7)

■消防士に要求される冷静な判断力

前回は優れた状況判断を必要とする職業としてパイロットを例に挙げましたが、消防士も高度な状況判断を要することは異論を俟ちません。消防士に向いている資質や性格、適正などをネットで調べますと、ハードな体力、正義感、使命感などのほかに冷静な状況判断力という表示が目立ちます。

消防士の仕事は、危険な場所や状況の中で、一刻を争う生命の救出に携わるのですから、迅速かつ適切な判断が求められることは当然です。正義心だけで、自らの命も顧みず、無鉄砲に火の中に飛び込んでいこうとすることは決して勇気ある行動とは言えません。現場を混乱させるだけで、チームに迷惑をかけることになります。だから、周囲の状況をみながら冷静に判断する力が必要なのです。

ゲーリー・クライン『決断の法則』では、さまざまな状況判断の必要とされる事例を扱っています。その中で、次のような消防士の話がでてきます。

ある消防士のチームが火災現場に駆けつけ、火元とおぼしき台所で消火作業を始めました。ところが放水を初めてすぐに消防隊長は自分でも分からないままに「早く逃げるんだ」と叫んでいました。ちょうど全員が退去した直後、間一髪で床が焼け落ちたのです。実は、火元は一階の台所ではなく、消防士たちが立っていた床の真下の地下室でした。もし隊長が叫ばなければ、チーム全員は地下の火の渦に巻き込まれたのです。

では、隊長はどうしてこのような咄嗟の状況判断ができたのでしょうか。隊長も自分でもわかりませんでした。ただ、彼は「火勢がさほど強くないのに耳がひどく熱く感じる」と述べて、いつもとは異なる何かの異変を感じたようです。隊長言いました。「危険の第六感」がしたと。でも、「何がおかしい」とは感じたが自分でもどうしてあのように叫んだのかもわからないと言いました。

■ 直観はマニュアル化できる

実は、隊長の頭の中では高速度で「パターン認識」が行われていたのです。つまり、「この程度放水すれば火はこの程度になる」、「この程度の広さでの火災なら、発生する熱はこの程度になる」というようなことが、過去の経験から蓄積された情報として呼び起こされ、それが瞬時の答え、すなわち判断を導き出しました。

これを直観というのでしょう。しかし、直観とはなんでしょうか?

「専門性と経験に裏打ちされた直感なのか?」それとも「感情的な直感なのか?」「なぜ自分はこう感じたのか?」など、「なぜなぜ思考」を用いてどんどん「問い」を掘り下げていくと、直観の「言語化」がなされます。多くの直観を言語化することは不可能ではありません。

長嶋監督は天才肌です。選手時代、なぜ自分があの場面で打てたのかの説明は得意ではなかったようです。監督になってからも、「なぜあの場面であんな判断をしたのか」の説明に窮するところがありました。人々は監督の判断を「カンピュータ」と言って、褒めたり揶揄したりしていました。一方の落合監督は、自分がなぜ打ってたのか、打てたのかを言葉で論理的に説明できました。落合監督は試合前にはボールとバットの当たる角度の調整だけに集中したという逸話があります。

「おばあちゃんの知恵袋」は現代も役に立ちます。これも、物理的、化学的に説明できるようですが、。おばあちゃんは、孫になぜそうなるかの説明はできません。もし仮に、言葉でなぜを解説できたら、その知恵はより広く、迅速に伝わることでしょう。

つまり、状況判断で重要なセンスや直観というのは、先天的要素もあるかもしれませんが、実は努力して蓄積された経験なのだと、私は思います。人は誰しも、直前の情報や周囲の特別な状況に影響され、いつも冷静的な判断ができるとは限りません。

そのため、経験という暗黙知を形式知に置き換える、つまりマニュアル化や手順化しておく必要があるし、それは多くの場合可能なのです。、マニュアル化によって効率的に状況判断力を強化することができると考えます。またチーム全体の状況判断力を強化することもマニュアル化の利点ではないでしょうか。

次回は状況判断のマニュアル化について考察します。

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