■英国のブレクジッド問題
英国は2016年6月23日の国民投票でEU離脱を選択しました。その後約4年半の歳月を経て2020年1月31日にEUを離脱しました。マーストリヒト条約によって英国は1990年代から欧州連合(EU)に深く関わってきました。しかし、英国が欧州統合に参画することについては長い間、賛否両論があり様々な意見が対立していました。
英国が通貨と市場を欧州諸国と共通・共有することの利点については疑問が呈されていました。EUはヨーロッパ全体の経済的平等、差別の撤廃、民主主義と人権尊重の価値共有という崇高な理想に基づき、域内の国境なくし、移動の自由と国家間の連帯の強化をもたらしたとされます。このことに対し、スウェーデンのノーベルアカデミーは加盟国の平和と繁栄の挑戦を讃え、2010年にEUにノーベル平和賞を授与しました。
しかしながら、英国では移民排斥主義者や分離主義者が増え、米国同様にナショナリズムが高まっていました。なぜならば、米国と同じく英国にも強い独立心と、長い自治の歴史があったからです。EUの離脱を支持するポピュリストの声は残留を支持する声と同じくらい強まってきました。
高等教育を受けた都市部住民は右派による外国人排斥運動を拒否し、大半は残留派支持に傾いていました。移民と共存する環境に慣れていたうえ、高技能を持つ外国人労働者に頼る職場で働いていたからです。一方、低所得者や地方在住者、ブルーカラー労働者は離脱派を支持していました。
■ブレッグジットを推進したグループ
残留派は自由と人権を保持するための共通の法律と規則をもつ超国家的な枠組みを容認しましたが、そうすることで国家の自決権はある程度犠牲にせざるを得ませんでした。
一方の離脱派はEUから完全に離れるべきだとするキャンペーンを張り、英国は自らルールを選択し、大量の移民に対し国境を封鎖し、財源は英国人のための国民保健サービス(NHS)に回すことを主張します。
SCLは離脱派へ関与することにします。それは政治的な信条よりも金儲けが狙いであったとされています。残留派は勝利を確信していたので、お金のかかるコンサルタントを必要としませんでした。だから、SCLは離脱派を引き付けることを狙ったのです。
離脱派に「リーブEU」と「ボート・リーブ」(共に2015年に設立)という2つのグループがありました。これらのグループは2016年4月13日までに公認団体の指定を受けるために競争していました。
■リーブEUがSCLを利用
リーブEUは移民問題に焦点を絞り、人種差別的なメッセージや極右思想を前面に出して大衆の怒りを創出する戦術を取っていました。「リーブEU」の代表は保険ブローカーであるとともに保守的な運動への莫大な資金提供者でもあるアロン・バンクス氏です。バンクスは著名な保守派党員でしたが、離党して英国独立党(UKIP)に加わっていました。
バンクス氏が加わるUKIPの党首、ナイジェル・ファラージ氏は米国人のスティーブ・バノン氏が友人関係にありました。ファラージ氏はEUを内部から解体することだけを目的に議員を務めていると言われている伝説的な欧州議会議員です。
バノン氏がバンクスとファラージの二人を億万長者のロバート・マーサー氏に引き合わせ、リーブEUはCA社のクライアントになりました。こうして膨大な資金と後ろ盾を得たCA社はアルゴリズムとマイクロターゲッティングによるリーブEUへの技術協力するにようになりました。同時にCA側では、もう一人の告発者ブリタニ―・カイザー氏がE Uの責任者になりました。
■AIQを利用したボート・リーブ
ボート・リーブは主に保守党支持者で構成されていました。ボート・リーブの旗振り役は、保守党ホープで元ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏とマイケル・ゴーブ氏です。最終的に公認を得たのはボートリーブの方です。そして、2016年にEU離脱国民投票に向けて、イギリス独立党のロビイストから依頼され、ボート・リーブのプレグジッド戦略を託されたのが政治戦略家ドミニク・カミングス氏です。カミング氏は2013年以降は、強硬なブレグジッド推進派として名が知られるようになりました。
国民投票まで数週間以内となって、ボート・リーブは公的資金をほとんど使い切っていました。追加資金の受け入れは認められていないし、他の運動団体との連携も認められていなかったのです。しかしカミングス氏はどうしても追加資金を確保したいと思い抜け道を考えました。それが、カナダのCA社の関連のAI Qの利用です。
AIQは、2013年にSCLのカナダ事務所として設立され、それが会社となった小さな企業です。アングリゲートI Q(AIQ)といいます。AIQ はSCL(のちCA)の一部です。AIQは特定の有権者をターゲットにしてエンゲージメントを高めたり怒りをつけたりするのは得意としていました。
カミングスは当初、CA社を獲得しようとしたものの、一足早く、リーブEUに先手を打たれてしまったので、そこで抜け道を使い、外国に拠点を置き誰も社名を聞いたことがないようなCA子会社の1つAI Qを利用したのです。社名は違ってもCAの全データを処理していたしCA社と同じ機能を備えていたとされます。
カミングス氏がターゲットの多くは普通投票所へ足を運ばない有権者です。この有権者を説得して投票所へ向かわせることができれば、世論調査で残留派が有利との予想が出ていても、逆転できます。
カミングス氏はデータアナリストの協力で高度なアルゴリズムを使い、有権者であるが投票したことのない「存在しないはずの300万人」を得票のターゲットに絞り込み、ソーシャルメディアを通じて離脱を訴えるキャンペーンを行いました。
2019年7月24日、ボリス・ジョンソン首相は、EU離脱に向けてカミングスを自身の上級顧問に任命しました。政権内の人事に関与するなど強権を振るったが、風当たりも強く批判を受けるようになり、2020年11月、ジョンソン首相の上級顧問を年内をもって辞任することが発表されました。