判断力思考(5)

■経営はセンスかスキルか

ビジネスの世界では「スキル」か「センス」か、という議論があります。インテリジェンスでも同様の議論がありますが、ここでは「アート」か「サイエンス」かという喩えが良く用いられます。スキルはサイエンス、センスはアートに相当します。

論理的思考法や技法(メソッド)はスキルで、創造的思考法や直観はセンスと言えます。また、スキルは分解して数値化・具体化できます。例えば、学力はスキルなので算数、国語、社会などに分類して、TOEICで何点といったように数値化できます。しかし、服装センスや人間性などは数値化・具体化できません。大衆を魅了したり、異性にモテたりするのは総合的なセンスがあるというほかありません。

このような両者の違いから、スキルは後天的であって養成が可能とされています。企業などがKPI(重要業績評価指標)などを用いて、社員の能力を分解・評価し、各々の指標を定めて人材育成を行おうとしていますが、これはスキルの養成です。一方、センスは先天的なもの、総合的なもので、確立された養成方法はないし、センスを教えることは難しいと一般的に言われています。

経営者には一般的にスキルよりもセンスが重要であるとされます。一方、担当者にはスキルを求めるのが一般的です。そして、皮肉にも養成が困難であるセンスをいかに養成するかが今日の課題でもあります。

インテリジェンスの世界でも、インテリジェンスを作成する情報分析官にはスキルが必要となります。一方、インテリジェントを使用する政治家や軍事指揮官は大所高所に立ってさまざまなインテリジェンスを総合判断することが必要です。すなわちセンスが求められることになります。

ただし、「情報分析官にセンスが不用である」と言うことではありません。戦略は「why」や「what」を追求し、戦術は「how to」を追求すると言いましたが、戦略に携わる情報分析官は、「敵が右から来るか、左から来るか?」といった明確な情報要求は与えられません。多くの場合、政策決定者が何を考えているか、今何を明らかにすべきか、そのためには何処からどのような情報を収集すれば良いか、を自分で考えます。つまり、これといっ定石はなく、自らの先天的あるいは経験によって培われたセンスが必要なのです。なお、上級の情報分析官になるほど、複雑な物事の総合的な判断力が求められるため、センスが必要になります。

■状況判断はスキルかセンス

 状況判断において「スキルかセンスか?」は難問です。情報が完全に不足した状況での瞬間的な意思決定を求められる場面では、スキルは活用できないのでセンスと言うことになります。一方、時間の余裕が多少あって、ある程度の情報があれば、誤情報を排除して、先入観を回避して、客観的なインテリジェンスを作成し、より正確な判断を行うことが重要となります。

 限られた時間内に、彼我が置かれている状況を整理して、網羅的に全般態勢を把握して、我の有利な行動を決断しなければなりません。これら一連の行動を迅速かつ効率的に行うには一定の手順が必要になってきます。

 そのため、作戦戦闘においては、情報分析や状況判断の手続きがマニュアル化されています。作戦情報を担当する個々の情報要員は、演習や訓練などを通してマニュアルに基づいて情報を処理、分析するスキルを繰り返し繰り返し磨きます。

 作戦戦場では、個々の情報員から上がってきたインテリジェンス報告を情報幕僚は総合的に判断して一つのプロダクト(情報見積)を作成します。これを作戦幕僚が作成した作戦見積などと照合し、総合幕僚(幕僚長)が総合判断し、指揮官に総合でな見積を提示し、指揮官が総合的に決心を行います。だんだんと上位に移るにしたがってスキルからセンスへと比重が移っていきます。これは国家情勢判断においても同様です。

■情報センスとは何か

「服装センスがある」、「音楽的センスがある」などセンスは日常的ですが、前述のように分解しずらく、数値化・具体化できないものです。つまり、形式知ではなく暗黙知であり、捉えどころがありません。

 敢えて、情報センスという言葉に限ってみれば、それは、一片の兆候から物事の裏面にあるものを見抜く推理力、物事の変化を捉える観察力(感知力)、物事の本質を捉える洞察力などが重要だと考えます。

 太平洋戦争中、陸軍情報参謀の堀栄三中佐は、米国の民間放送を聞き、過去の株式市場の傍受記録を分析し、上陸作戦の前には製薬会社や食料品メーカーの株が必ず高騰することに目をつけて、見事に米軍のフィリピン上陸時期を的中させました。

 1960年代のキューバ危機では、キューバにサッカー場の建設を確認する偵察衛星の一枚の画像が、ソ連のミサイル持ち込みを解明する決定打となりました。当時のキューバではサッカーをする者はいなかったから、「これは何か変だ、ひょっとするとソ連が・・・・」と推理力を働かしたのでしょう。

 物事のちょっとした変化を捉える観察力(感知力)も重要です。冷戦時、元陸幕情報部長の飯山陸将が、チェコの「プラハの春」の時代、在ソ連防衛駐在官としてモスクワに勤務していた時、モスクワ市街を横断する鉄道を見下ろせる喫茶店にいつも出かけ、友人たちとの談笑を装い、貨物列車の通過状況を観測したそうです。

 ある夜、その時間帯に異常に長い貨物列車が西方に向かって延々と通過しましたが、すべての貨車には大きいホロで覆われた戦車が載っていました。 飯山陸将は直ちに大使館に帰り、東京の外務省に「ソ連がチェコを軍事占領する公算が高い」との至急電を打電しました。外務省は驚きましたが、数日後にその分析は的中したということです。

 洞察力とは性質や原因、もの事の軽重の判断など、物事の本質は見抜くことです。それが、しばしば未来予測に結びつくので先見洞察力という言葉もあります。百戦錬磨の武道家、宮本武蔵はものの見方に二つあり、一つは「見の目」で眼前にあるものを現象としてみる目だと言っています。もう一つは「観の目」で、現象の裏側にある本質、すなわち相手の心を見る目だと言っています。武蔵が生涯に一敗もしなかったのは、「観の目」によって相手の意図を洞察していたからでしょう。

 状況判断にはスキルに加えてセンスも重要になります。しかし、情報センスという面に限っても、元々の先天的なものに加えて、長い間の修練が必要であることは間違いありません。しかし、全員が最初から経営者や指揮官にはなれないのであり、下積み時代でスキルを磨き、それをセンスに結び付けることが重要だと考えます。ただし、スキルの修練だけではセンスは磨けないでの、センスは磨くにはどうするかはやはり重要な課題であると言えます。

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