判断力思考(4)

■状況判断の重要性の高まり

今日、ICT技術の目まぐるしい進化によって、昔なら一年くらいかかった技術革新が数か月で達成されるようになりました。そのスピードの早さを「ドッグイヤー(dog year)」と言います。「成長の早い犬の1年は人間の7年に相当する」ということから、情報産業の変化の早さを喩えたメタファです。

ドッグイヤーでは、これまで成功したビジネスモデルが応用できないとよく言われています。従来のオーソドックスな方法は、すでに成功した企業をモデルに研究し、それを追い越すように戦略の目的や目標を立て、それに適合する戦術を考察するというものでした。

しかし、現代社会では消費者や市場の変化に対応できない企業は次々と淘汰され、想定もしない新規参入業者が続々と登場しています。今現在、好調な企業が本当に成功していると言えるのか、その成功は一過性のものではないのか、などの疑問が常に存在しています。

また、消費者はインターネット情報などに敏感に反応し、どんどんと自ら意思決定し、それを次々と変更します。アンケートのような旧態依然の市場や消費者に関する調査や分析では、今今のニーズに対応できる「生きた情報(生情報)」が入手できなくなっているというのです。

だから、戦略を立てようにも立てられないし、戦略を立てても市場ニーズなどの変化に追随できなくなってすぐに戦略を変更しなければならないといいます。そのため、企業はどんどん戦術を繰り出し、その反響により生情報を入手し、戦術を修正する、または新戦術を考えることが重要なのだと言う声をよく耳にします。

ただし、こうした議論をもって「戦略よりも戦術の重要性が高まった」という短絡的解釈は誤りです。戦略は「何をなすべきか」であり、戦術が「いかになすべきか」という本質的な相違からすれば、戦略→戦術の流れは〝普遍の原理〟です。目的や方向性のない戦術はあり得ません。

要するに、戦略を膠着化させない、戦略と戦術の一体化を強化することが重要な課題になっているのです。「戦略に対する戦術の適合性を判断する、戦術の実行可能性を見極める、躊躇せずに戦術を実行に移す、戦術の戦略への影響性を考察して戦略の修正を図る」、このように戦略と戦術を同時一体的に律していくことが、ますます重要になってきているわけです。

現代社会は「VUCA(プーカ)時代」とも呼称されます。これは、テクノロジーの進化によって、社会やビジネスでの取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況にあることを指す造語です。予測が困難な要因として以下の4つの特性をあげ、頭文字を取って作られました。V:Volatility(変動性)、U:Uncertainty(不確実性)、C:Complexity(複雑性)、A:Ambiguity(曖昧性

このような社会において求められるビジネスパーソンに求められるスキルには①仮説思考力、②自己変革力、③ネットワーク構築力、④テクノロジーの理解と情報収集力、⑤学び続ける力などが必要とされています。

また、思考法では業務改善の手法である「PDCA(①計画、②実行、③評価、④改善)」に代わり「OODA(ウーダ)ループ」が注目されています。これは、「①観察する(Observe)」「②状況を理解する(Orient)」「③決める(Decide)」「④動く(Act)」の頭文字をとった造語です。

VUCA時代では、物事はなかなか計画どおりにことは進まないので、現場サイドが市場や顧客などの外部環境をよく観察し、「生データ」を収集して状況を理解して、具体的な行動を決断し、即時に実行に移せ、ということを強調しています。

「OODAループ」も「VUCA」も元々は軍事用語です。だから、「OODAループ」では、同じく軍事用語である状況判断の重要性を強調していることは納得がいきます。そもそも軍事作戦では、事前の作戦計画は重要ではありますが、個々の戦闘においては状況に応じて臨機応変に判断し、実行に移すことが鉄則なのです。ある意味、軍事作戦においては、「OODAループ」は相当以前から当たり前であったのです。

ところで、状況判断には多かれ少なかれ、情報収集が不可欠です。観察も情報収取の一形態です。しかしながら、クラウゼビッツが言うように、戦場では正しい情報は常に得られません。この点は、「ドッグイヤー」のビジネス社会でも同様なのではないでしょうか?

では、その場合にはどうすれば良いのでしょうか?旧軍の『統帥参考』では、情報の収集は必ずしも常に所望の効果は期待できないので、状況により、任務に基づき躊躇なく主導的行動を取るよう強調しています。この点も「OODAループ」の思考法との類似を感じます。

また、軍事作戦では「威力偵察」という方法があります。これは情報収集の手段の一つですが、どうしても敵方の位置や勢力がわからない場合に、疑わしい場所に制圧射撃などを加えて、敵の反応をみる方法です。これは「ドッグイヤー」で推奨される、戦術をどんどん繰り出して、消費者や市場の動向を知るやり方と類似しています。

このような類似点から、筆者は予測困難な「VUVA」、あるいは変化が激しい「ドッグイヤー」では、軍事領域でのさまざまなノウハウが活用できると考えています。そのノウハウの一つが状況判断や威力偵察なのです。この点、方法論や留意点などは今後述べたいと考えます。

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