判断力思考(6)

■ハドソン川の奇跡

 状況判断はスポーツ、とくに団体スポーツで良く用いられます。スポーツ選手や監督などは常に状況判断と隣り合わせています。

 スポーツは狩猟や種族間の戦いなどの歴史から始まり、古代から軍事訓練の一環としてスポーツが取り入れられたことからも戦争や戦闘との類似性が多々あります。だからスポーツ選手同様に戦場指揮官も状況判断を必要とする職業と言えますが、現在ではあまり馴染みがないののでピントきません。

 高度な状況判断を必要とする職業ということであれば、筆者が真っ先に思い起こすのはパイロットです。坂井優基『機長の判断力』(2009年5月)では、機長のやるべき判断力についてさまざまな見識が提示されています。その中で、2009年1月のチェスリー・サレンバーガー機長が行った「ハドソン川の奇跡」について書かれています。これは2016年に映画化されたので筆者も観覧しました。

 坂井氏の著書は「ハドソン川の奇跡」が起きた4か月後に書かれたので、同事件が本書の刊行の流れを決定づけたとは思いますが、坂井氏も常々、サレンバーガー機長と同じような思考力や判断力などの修練を積んでいたのでしょう。だからこそ、事件後のまもない時期に同著の刊行が可能になったのだと思います。

 以下、同著から「ハドソン川の奇跡」の状況と坂井氏のコメントを抜粋します。

ハドソン川の奇跡 映画  に対する画像結果

 「2009年1月15日、ニューヨークのラガーディア空港を飛び立ったUSエアウェイズの旅客機1549便が両方のエンジンに鳥を吸い込みました。……エンジンの中心部に吸い込まれた鳥がエンジンの内部を壊し、その結果、両方のエンジンとも推力をなくしてしまいました。チェスリー・サレンバーガー機長は、両方のエンジンが故障したことを知ると、直ちにハドソン川に降りることを決意して実行しました。それによって乗客・乗員155名全員の命が助かりました。この事故では機長の決断と行動が大勢の人の命を救いました。どれ一つを間違えても大事故になった可能性があります。……まず何が一番素晴らしかったのかというと、離陸した元の空港に戻ろうとしなかったことです。機体も乗客も両方無事に着陸させたいというのは、パイロットにとって本能のようなものです。川に降りると決断した時点で、機体の無事は切り捨てなければなりません。もし、このときに機長が離陸した空港に戻ろうとしていたら、途中で墜落して、乗客・乗員の命が助からなかったのみならず、燃料をたくさん積んだジェット機が地上に激突して、地上にいるたくさんの人も犠牲になったに違いありません。また、機長は着水場所にイーストリバーではなくハドソン川を選びました。……イーストリバーにはたくさんの橋がかかっており、もしイーストリバーを選んでいたら、橋に激突した可能性があります。さらに操縦方法の問題もあります。……着水時の速度も問題です。……これだけの判断をしながら機長は飛行機を止める場所までも選んでました。このようなケースの際は、船が近くにたくさんいる場所に止めることが素早く救助してもらう鉄則です。今回はまさにフェリーがたくさんいるフェリー乗り場のそばに着水させています。……機長は全員の脱出を確認してから機内を二度見て回り、一番最後に自分が脱出しました。……これからどんなことが言えるのでしょうか。一番重要なのはよく準備した者だけが生き残るということです。グライダーの操縦を練習し、心理学の勉強をし、NSTB(National Transportation Safety Board、国家運輸安全委員会)のセミナーに参加し、日ごろから様々な状況を考えて、頭の中でシュミレーションしていたからこそできた技ではないかと思います。もう一つ重要なのは、切り捨てるという決断も必要ということです。もし飛行機もの乗客も両方救いたいと思えば、結果的に全てを失っていたはずです。……」

 この記事は、「優れた状況判断は平素からの地道な修練の賜物である」ことを如実に物語っています。状況判断は咄嗟の総合的な判断であるのでセンスという側面で見られがちですが、機長は常日頃から、身体を鍛え、グライダーのライセンスを取得したり、起こり得る危機を想定し、危機が現実となった時に何を判断すべきかをイメージトレー二ングしていたのです。すなわち、スキルを磨いていたのです。

 ここに、状況判断力あるいはセンスというもののを実体を筆者は思い知る気がします。

次回はある消防士のお話をしたいと思います。

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