判断力思考(2)

今回は判断や状況判断について考えてみます。

■判断とは何か

「判断」は「物事の真偽などを見極めて決めること」という意味です。判断の代わりに「決断」や「断定」などの類語もよく使われます。

「判断する」を「決断する」に置き換えてもそれほどの意味の違いはありませんが、「判断を仰ぐ」はあっても「決断を仰ぐ」はあまり耳にしません。というのは、判断は上司などに仰ぐことができても、決断は自ら行うものだからです。

「判断」と「決断」のいずれも、「どちらが善いか悪いかなどを見定めて決める」という意味があります。長じて「判断力」とは、過去の経験から体得した自分の中でのある基準と照らし合わせて、物事の正誤や善悪などを決めたり、複数の選択肢の中から1つを選んだりする能力のことです。他方、「決断力」とは、判断した事項を一つの有力な材料として、自己の意思決定を行うことです。そして、決断を下した後には必ず行動が伴うのが判断力との相違点だといえるでしょう。

判断力は物事を冷静に分析する分析力が必要となりますが、「決断力」の方は、決断をする人の意志力や責任感がより重要となります。すなわち、判断が思考作用であるとすれば、決断は精神作用であると言えるかもしれません。

順序的には、判断→決断であって、決断→判断はあり得ません(判断→決断の繰り返しはある)。判断は「どちらの選択肢が良いのか見極める」段階、決断の段階では「良い方の選択肢を実行に移す」段階ということになります。新しいことに挑戦する時には、過去の経験が役に立たないときがありますが、その場合には「判断力」ではなく「決断力」が必要となります。

■状況判断は軍事用語

最近は、よく「状況判断」という言葉を耳にします。特にスポーツの世界では状況判断は定着しています。

野球でノーアウト、ランナー三塁の場面です。野手が内野ゴロを捕獲し、バックホームするか、それとも一塁に送球するか、瞬時の判断が必要となります。このような場合、野手は三塁ランナーの位置、打者の打球の速さ、打者の走力などの状況を総合的に考査して、瞬発的に判断を下すことになります。このような判断が優れている者を、「彼は状況判断力がある」などと言います。

ただし、この言葉はもともとは軍事用語です。

昭和初期に制定された公開教範『作戦要務令』では、状況判断について次のように規定されています。

「指揮官はその指揮を適切にならしむるために、たえず状況を判断しあるを要す。状況判断は任務を基礎とし、我が軍の状態・敵情・地形・気象等、各種の資料を較量し、積極的に我が任務を達成すべき方策を定むべきものとす。敵情特に其の企図は多くの場合不明なるべしと雖も、既得の敵情のほか、国民性・編制・装備・戦法・指揮官の性格等、其の特性及び当時における作戦能力等に鑑み、敵として為し得べき行動、特に我が方策に重大なる影響を及ぼすべき行動を攻究推定せば、我が方策の遂行に大なる過誤なきを得べし。」(八条)

 『作戦要務令』の源流である明治期の教範『野外要務令』では「情況判断」という言葉が登場します。また大正期の教範『陣中要務令』では、「情況を判断するに方(あた)りては特に先入主とならざること必要にして……」などの規定が登場しています。

 わが国の陸軍教範はドイツ教範を基に作成されていますので、当時のプロシア軍の戦場での戦いから、状況判断の重要性が認識されたと言えます。

■自衛隊用語として用いられている状況判断

 今日の自衛隊用語としてとしても「情況判断」は良く使用されます。とくに戦術教育の場面で多く用いられたように思い起こします。

 筆者は若手幹部時代、来る日も来るも戦術教育(図上戦術)を受けました。地図上に仮想(想定)の敵と我が部隊(軍隊)を配置し、仮想敵の状況、彼我が交戦する地域の地形や気象などの空間的・時間的な環境が付与され、これに基づき、敵が能力的に取りうる可能行動を列挙し、それを敵の意図と兼ね合わせて敵が採用するであろう可能行動の種類や採用公算の順位などを考えます。次に敵の可能行動(複数)に応じた我の行動方針をいくつか列挙して、敵の可能行動と組み合わせて、最良の行動方針を案出します。

 この際、指揮官の立場に立ってまず「状況判断」を実施することが図上戦術のスタートでした。状況判断とは「我が任務を達成するため」に最良の行動方針を決定するために行いますが、これだけでは部隊の統率はできません。

 統率は統御と指揮からなりますが、統率は組織にやる気を起こさせる心理工作です。指揮は統御によって湧き立てたエネルギーを総合して、組織の目標に適時適切に集中する技術です。この指揮は、「(1)状況判断 (2)決心 (3)命令 (4)監督の四手順をふんで行うと、忙しいときでも、手落ちなく、スムーズに実行できる」と、著名な兵法家にして経営者であった故・大橋武夫氏は述べています。(大橋『統率学入門』)

 また大橋氏は「状況判断とは「今、私はどうするのが一番よいか?」と継続的に何時も考えていることで、これによって決心の資料を提供するものであり、決心と違うところは実行をともわないことである。」と述べています。

 このように旧軍や自衛隊では状況判断と決心が一体的に用いられていますが、政治やビジネスの一般社会でも判断と決断は一体的に行うものだと考えます。ただし、判断は幕僚、スタッフなども行いますが、決断は責任が取れる指揮官、経営者あるいは個人が行うことが原則です。

 

 

 次回は情勢判断について考えてみます。

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